「ふぅ、之でよし… ん?なんだ、文じゃないか、何か仕事の依頼にでもきたのか?」
「違う? 私に聞きたい話があるって? ふぅ~ん…… まぁいいや、とりあえず入れよ、幸い今日は店は休みだしな」
「それで、一体何の話なんだ? …その前に如何してこんなに片付いてるのかって? 別にいいだろ、片付けようが片付けまいが私の自由だぜ」
「……この間も思ったが御前案外しつこいよな、わかったよ、ただし、こっちからの要望も受けてもらうからな、対価交換って奴だ」
「私が片付け始めた理由は簡単だよ、新しい仕事を始めたからだ、その仕事の内容は何かって? 外界の品と幻想郷の品との交換の仲介役さ」
「とは言え私一人でやってる仕事じゃないけどな、紫やシンの力を借りて、アリスにも手伝ってもらってだからあくまで窓口代わりみたいなものだよ」
「中々繁盛してるぜ、とはいえ余り外界の品物が入ってくるのは好ましくないから海産物とか食物とか、幻想郷で手に入りにくいものを仕入れるくらいだけどな」
「ただ、希少な外界の品が入ってくる以上確りと護れる場所に保管する必要性もうまれる、折角入荷した物を勝手に持っていかれちゃ意味無いし、変に流通すると危ないし」
「そういう点ではこの魔法の森は有利だからな、森の瘴気のお陰で人間も妖怪も中々近寄らない、紫が言うには盗賊に管理させる事で盗まれなくするとか言ってたが… 嫌な奴だぜ」
「まぁ、そんなわけでこの霧雨魔法店は外界との取引所窓口にもなったわけだ、となればこっち側から送る品物は整理して保管しなきゃいけないからな、それでだよ」
「…何か聞きたいことが色々ありそうだな、まぁ、それ相応の対価を支払ってくれるならある程度は答えるぜ」
「それじゃあ一つ一つ答えていくか、先ず一つ目は… 最近幻想郷に海産物があるのはそれが原因なのかって? あぁ、此処最近のものならそうだな」
「私が窓口をする前はほら、山の上の神社だよ、あそこが海産物の出所さ、とは言え外界から直接仕入れて… ってわけじゃなかったようだけど」
「そう、なんでもこっちに引っ越してくる前に乾燥させたワカメとか干物とか、保存が長くできるものを蔵に多く詰めて持ってきたらしいぜ」
「流石は神社ごと引っ越せるだけの神様って事だよな、今でもかなり多くの乾燥させた物があるみたいだし、とは言え紫に流通させすぎるなとも言われたようだけどな」
「あぁ、紫にだよ、それは私が最近やってる海産物取引もそうだな、幻想郷では海産物は希少なものだし、それが無闇に入ってバランスを崩す切欠にはしたくないらしい」
「それじゃあどんな奴らに海産物が出回ってるのかって? そうだな… 萃香に、紫に… 人里では慧音と阿求位かな、妖怪の山なら天魔って天狗の親玉も交換にきてたな」
「あ~、そういえばこの間衣玖の奴も購入していったな、龍神様への御供え物と比那名居一族への献上物に相応しい希少価値だってさ」
「因みに海産物取引を行いたい場合は紫の許可が必要なのさ、だから私が窓口になったってわけだな、紫と親しい奴でまともに交渉できる奴なんて殆どいないだろ?」
「幽々子に会いたければ白玉楼に向かわなきゃいけないし、霊夢は神社を商売の場所にするのを嫌がるし、萃香に至っては何処彷徨ってるかわからないときたものだ」
「それでまぁ、ちょうど店も開いてる私に白羽の矢がたったって訳だ、ついでに近くに住んでるアリスにも手伝わせてるから楽に仕事ができるからな」
「そんな頻繁に外界のものを入れて結界に影響が無いのかって? だから紫が許可を判断してるんだろ?」
「それに外界に実際に買出しに出るのはシンだからな、なんか良く分からないけど、シンは博麗大結界に余り影響を与えず外界に出たり入ったりできるそうなんだ」
「何か紫が険しい顔して言ってたっけな…… いや、流石に聞き取れなかったぜ、ただまぁ、結界に影響を与えず移動できるからその分結界維持には影響が無いらしい」
「でもまぁ、海産物取引を開始した理由が理由だしな、余り公にはできないさ、ん? どんな理由かって? 単に紫が本マグロの刺身で酒を飲みたいからだったらしいぜ」
「まぁ、それだけなら紫お得意の神隠しをすればいいだけだったんだろうけど、何でも萃香が紫ばっかりのその状態に不満を持って喧嘩したらしくてな」
「酒のつまみで大喧嘩の果てって訳さ、ちょうどその位の時にシンが結界に影響を与えず行き来できるってわかったから、それで今の体制になったらしいぜ」
「それで、最初に言ってた私に聞きたい話って何だ? ん? シンについての話? どういう事だ?」
「……なるほどね、シンもついに幻想郷縁起に載ることになったって訳か、それで私にも話を聞きに…ね」
「といわれてもなぁ、私とシンが戦った回数なんてそれこそ指で数えれる量じゃないし、お前が聞きたがるような内容じゃないぜ?」
「いや、そんな驚くほどじゃないだろ、週に2~3回は弾幕ごっこしてれば普通にそれくらいいくさ」
「それじゃ取材にもならないって? そういわれてもなぁ…… わかったわかった、ザックリでいいなら話すよ」
「私がシンと直接会う事になった理由は文、御前の新聞さ、地霊殿の海産物の噂を聞いて直接真偽を確かめてやろうと思ってさ」
「まぁ最初のうちは散々だったぜ、空の騒動で邪魔してきたのはあくまでお遊びだったといわんばかりの弾幕で勇儀達に追い返されてたからな」
「それでまぁ… 偶々パルスィの奴がワカメを使った料理をしているのを発見してな、その情報をにとりに話してちょっと協力してもらったわけだ」
「ん? アリス達には話さなかったのかって? ん~…一応話したんだが食材で目の色変える奴等じゃないしな、にとりもオーバーテクノロジーが地中にあるって噂で結局動いたし」
「まぁ、にとりとの利害一致さ、私は海産物の噂の真偽を確かめたい、にとりは地中に眠るオーバーテクノロジーってのを見定めたい、だから地中に潜る必要があるってね」
「一人で無理なら二人でってわけさ、まぁ、にとりは以前みたいに地上からの通信だったけどな、そんなこんなで勇儀達を吹っ飛ばして奥に進んでたんだが」
「空を迎撃した後、見慣れない巨像があったんだ、今ではアレが地霊殿の新しい御神体だって知ってるけど始めて見た時は単にどでかい像にしか思えなかったな」
「まぁ、その御神体がにとりが求めていた奴だったって訳で何か借りれないかと近寄ろうとした時に、シンとであった訳さ」
「それでどうなったかって? 別に特別なことは無いさ、御神体を借りようとする私とそれを断るシンで弾幕ごっこだ」
「……まぁ、悔しいけど未だに私はシンのスペルカードを全て奪ったことが無いんだけどな、最高でもラストスペルか、その一歩前で撃墜されちゃうからな」
「シンはそんなに強いのかって?
いや、弾幕の力なら空やお燐の方が圧倒的に上だぜ、ただ、私との相性が致命的に悪いのさ、シンの持つ二種類のスペルカードとは」
「どんなカードかって? カードの宣言名は 運命『エクストリームブラスト』 と 『怒れる瞳』だったな」
「まぁ、エクストリームって方はあれだ、移動型弾幕さ、ただしシンは一切立ち止まらずに、一定間隔でばら撒き続けるんだ、その分弾幕の密度は決して濃くは無いんだけど……」
「…あれだよ、あの紅魔館の門番の飛び蹴りスペルみたいな物さ、残っている弾の回避をしようと迂闊に大きく動いたら何時の間にか包囲弾幕に早変わりって奴さ」
「私は素早く動くのは得意なんだけど霊夢みたいに細かい動きは苦手だからな、それで焦れて大きく動いたらピチューン ってわけさ」
「こっちもスペルカードで強引に突破したことはあるけどさ、それじゃあゲットはできないから今の所一度も破った事のないスペルカードになるんだ」
「それで、もっと厄介なのはシンのラストスペルの『怒れる瞳』だな、こっちは神奈子が使うマウンテン・オブ・フェイスに近い弾幕形式だな」
「中央に位置してただ只管に弾幕をばら撒くスタイル、決して恐ろしい訳じゃないんだけど… シンの耐久をある程度削ると急激に速度と密度が変わるんだよ」
「こう、最初は『怒り』を溜め続けて、そして臨界までたまった瞬間破裂しているみたいな感じさ、未だにあの急激な変化に追いつけないから勝てないんだよな」
「まぁ、今でこそラストスペルかその手前まで安定してきてるけど、流石に始めてであった時は見事にやられたよ、運命と言う名前がついた符に辿り着けないくらいだった」
「なんていうかさ、シンの弾幕は私達がやってきた物とはこう、感覚が違うんだよな、綺麗さじゃなくて確実さを取っているみたいな、男と女の違いってのもあるんだろうな」
「それで私の初戦は敗退で終わったわけだが、それで諦めるこの魔理沙様じゃない、当然の様に何度も何度もシンに勝負を挑んだぜ」
「まぁ、その後は深く語る必要も無いよな、この幻想郷で弾幕ごっこを繰り返しやっていれば自ずと友達になるもんだからな」
「私の勝率? スペルカードの全取得… と言う意味で言えば私はまだ勝った事はない、でも弾幕ごっこの勝敗だけでいえば之でも七割近くは勝ってるんだ」
「と言っても最近はシンも急激に力をつけてきてるから段々私の負けも増えてきてるけどな、私とシンで弾幕ごっこの切磋琢磨って奴さ」
「……まぁ、私から話せるシンとの戦いの話なんてこんなくらいだけど… もっと面白い話があるぜ、買わないか?」
「代金? そうだな… 私がさっき言った二種類の弾幕と、シンが隠し持っているって言うラストワードの弾幕写真、確りと写っている物を各5枚ずつの15枚でどうだ?」
「それだけの価値はあるかって? そうだな、阿求にとっては無いかも知れないが、お前にとっては十分あると思うぜ?」
「……商談成立みたいだな、確りシンの姿が入っているものを取ってくれよ? じゃないと証明にならないからな」
「それで、私のもう一つの話に関してだけど…… フランからシンについて話は聞いてるんだったっけか? なら話は早いな」
「まぁ、フランから話を聞いてたから知ってるだろうけど、霊夢の神社での宴会の帰りの事さ、その日は偶々アリスに少し用があってアリスの家に一緒に向かってたのさ」
「用事は何かって? たいした事じゃないよ、アリスがクッキーを家に焼いた物を置いているって言ってたからちょっとそれを貰おうとしただけ」
「それで、アリスの家の前まで着いたら驚きさ、ボロボロのシンがアリスの家の玄関前で倒れてたんだからな」
「後で話を聞いて解ったんだが、シンの奴、後先考えずにフランに薬を使った結果自分用の薬が残らなかったらしくてな、地霊殿まで帰れる体力が無かったそうなんだ」
「しかも人里まで飛ぶのも厳しかったらしく、私の家が近くにあるって話を思い出したらしくてな、それで一休みさせて貰おうとして探してたらしい」
「ん? 何で私の家が魔法の森にあるって知ってるのかって? いっただろ? 弾幕ごっこを繰り返す内に私とシンは友達になったって訳さ、後にとりもシンと仲良くなってたな」
「まぁ、にとりの場合はシンが河童の技術より先のものを良く知っているって事で興味を示したってのが大きいんだろうけどな… ん? 私はどうなのかって?」
「ん~… 秘密だぜ、まぁどうしても聞きたいって言うなら恋符『マスタースパーク』シリーズフルコースを全部突破してもらう事になるけど……」
「それはまたいつかでいいから話の続きを聞きたい? はいはい、それじゃあ話の続きをするぜ」
「んで、シンがアリスの家の前で倒れてたのは私の家とアリスの家を勘違いしたらしくてな、玄関先まで辿り着いた所で意識を失っていたって訳だ」
「…あの時のシンは酷くボロボロで血も流れていたからな、普通なら妖怪共が群がっていても可笑しくは無いんだけど、不幸中の幸いか、アリスの家だったから助かったのさ」
「あぁ、アリスの家だから、だ、アリスは家から出るときに防犯対策で人形達を玄関や窓に潜ませておいたり妖怪避けの結界を発動してたりするからな」
「それで、シンは気を失っていたけれど幸いな事に妖怪に食われたりはしなかったってわけだ、魔法の森に住む妖怪で私とアリスを敵に回す馬鹿は滅多にいないぜ」
「まぁ、それでどうなったかと言うと… アリスにシンを保護してもらったのさ、私には優先するべきことができちゃったからな」
「それは何かって? シンのバッジの修復さ、地霊殿の神とシンをつなぐフェイスバッジって言うのがボロボロになってたんだよ、フランの能力… なんだろうけどな」
「正直、アレは神奈子が自ら精錬したって言う話だったからな、外見を直してもどうにもならないだろうと思って神奈子に直接直してもらおうと思ったのさ」
「不幸中の幸いと言うか、シンの怪我は致命傷じゃなかったけど、あのバッジがないとシンは飛行もままならなくなるからな」
「それじゃあつまらない、折角楽しい友達が増えたんだ、でも私とアリスで直せるレベルじゃない、なら、神奈子達に直させて元通りにしちゃえばいいって訳だ」
「それにだ、その頃には既に外界取引の窓口をしてたからな、シンとは商売上の仲もあるし、シンが動けなくなると外界取引はかなり難しくなる」
「まぁ元々紫と萃香の痴話喧嘩から発展した物だから潰れても大した影響は出ないんだが、紫は何か別の考えあってこの取引体勢を整えたみたいだったからな」
「となるとやっぱりシンが動けなくなるってのは避けなきゃいけない、紫がいらん事する前に手早く解決した方が後々楽になるって事だ」
「それで、私が修復の為にバッジを持っていく間アリスにシンの世話を頼んだのさ、永琳にも話を通して傷薬とかを持ってきてもらったけどな」
「まぁ、私はバッジを返したら直ぐ帰るつもりだったんだけどな、神奈子達に頼まれて暫く神社に滞在する事になっちゃったのさ」
「何でも私のミニ八卦炉… 厳密にはそれに使ってる緋緋色金の力を利用したいって言われてな、かといって私にとってミニ八卦炉は生命線を握る重要なアイテムだ」
「典型的なイベントだな、勇者の剣を修復する為に三日三晩鍛冶士が剣を打ち続けるみたいな奴だ、実際に修復のために三日三晩かかったみたいだしな」
「そんなわけでアリスに約四日ほどシンを押し付ける形になって、直ったバッジを手に私がアリスの家に戻ってみると……フフフフフ」
「いや、ちょっと思い出したらな…… だってさ、想像してみろよ、あの人嫌いのアリスが、シンに自然な笑みを浮かべながらお茶会してるんだぜ?」
「しかも上海や蓬莱もシンの周りを嬉しそうに飛んでたしさ、惜しい事をしたぜ、ミニ八卦炉を預けてた間に少し戻ってれば面白い物を見れたかもしれないのにな」
「残念だけど詳しい内容は知らないよ、アリスに聞いても私じゃ答えてくれないしさ、で、だ、文、ちょっと面白い提案があるんだが……」
「実はな、アリスの奴、縫い包みを最近作ってるんだ、それもシンの… でもどうも上手く作れてないらしくてな…そこでだ」
「文、お前がその『縫い包み』を作る為に必要な写真を取る代わりにその三日間について質問してみるんだ、どうだ、面白い提案だろう?」
「上手く交渉できればそれでよし、失敗してもアリスの事だ、最初は意固地になっても暫くすれば再交渉をアッチからしてくるだろうさ」
「……乗り気みたいだな、そうそう文、提案者は私なんだからな、アリスから話を聞いたら確り教えてくれよ?」
「よ~し… まぁ話はこの辺だな… しかし、シンの奴は色んな奴らに好かれてるよな、私が知る範囲だけでもとんでもない連中ばかりだぜ」
「あははは、やっぱり文もそう思うよな、この幻想郷でも名立たる妖怪達が一人二人どころか五人十人の規模でシンに惚れてるみたいだからな」
「でもまぁ… 私には解る気もするぜ、シンのあの性格だと、逆にさとりや萃香達みたいな連中の方が惹かれるんだろうな」
「…ん? 如何してそう思ったのかって? ん~… まぁ、私の使う魔法が恋色だからってのもあるし、後は… シンの性質に良く似て、全く異なる奴を私はよ~く知ってるからな」
「そいつは誰かって? …霊夢だよ、霊夢とシンはある意味真逆の性質なのさ、ま、私一人の考えだから他の奴から見ると違うかも知れないけど」
「それはどういう性質かって? そうだな… 一言で言うなら… うん、これだな、『止まり木』だ」
「そう、烏天狗だったら意味はわかるだろ? 羽休めに鳥たちが止まったりする枝だよ、まぁ、シンや霊夢の場合は枝というより木そのものかもしれないけどな」
「ただ、霊夢とシンの止まり木は大きく意味が変わるんだ、というのも、霊夢の方は本当に純粋な止まり木なのさ、風雨に晒されたり日光を浴びすぎたり」
「でも、霊夢の止まり木は大きく、長いんだ、それこそ誰でも羽休めができるくらいにな、ただし、それ以上の事はできない、霊夢らしいといえばらしいけどな」
「誰にでも公平に休む場所を与えるけれど、誰にも特別何かを与えることはしない、羽を休める場所は羽を休める場所にしか過ぎないって事さ」
「でも、シンの止まり木の場合は大分変わるんだ、シンの止まり木は特別大きくも長くもない、ただし、その止まり木の近くには立派な枝葉と木の実が生えているのさ」
「シンの場合は、羽を休めに来た鳥を内包してしまうんだ、風雨から護り、飢えているのなら木の実を与えてその飢えから救おうとするんだ」
「しかもだ、その羽を休めに来た鳥が傷ついていたらその傷が治るまで休めるくらいの小さな穴も開いている、そんな、鳥からすれば至れり尽くせりの木がシンなんだ」
「ただし、その木は立派な木なんかじゃない、まだまだ成長途中の木でしかないのが、しかも成長を自分で阻害しているのが一番の難点なんだ」
「そう、シンという名の止まり木はな、羽休めに来た鳥を優先する余りに、自分の成長をまるで無視しちゃっているのさ」
「羽を休めに来る鳥が多くなれば多くなるほど、木の実を増やし、枝葉をより生やし、休みに来た鳥がさらに傷つくことがないように必死に護ろうとするんだ」
「ただ、そんなことしてれば肝心の木が成長する栄養が不足する、となると自然と枯れ細っていき、何れ朽ち果てて行く止まり木…… それがシンなのさ」
「でも一番本当に厄介なのはさ… その止まり木は、止まりに来る鳥が居ないと成長しないのさ、所謂共生タイプの木って奴だな」
「だからだ、シンの止まり木に止まる鳥たちは、その止まり木に何かを与えられる存在じゃないとダメなのさ、でなければ、何れ共倒れになるだけさ」
「…ま、さとり達はそれを良くわかってるから淑女同盟なんてのを作ったんだろうな… シンの心の木を大木へと育てあげる為に…」
「もっとも、シンが大木へと育った後に誰がその木に巣を作るかの水面下の争いはありそうだけどな、静かな女の戦いって奴だ、鮮やかな恋色じゃないけど楽しいじゃないか」
「さらに萃香やフラン辺りも怪しいし、この調子でシンを狙う奴が増えたら紫あたりが賭けでも始めそうだよな、そうなったら私も参戦してみるかな…… なんてね」
「さ~て、私の話は此処まで…… お、アリスじゃないか、どうしたんだ? おっ!! 完成したんだな!!
よ~し、それじゃあ私は今からシンとスケジュールの打ち合わせをしてくるぜ」
「家の鍵…は、アリスは知ってるよな、まだ緑茶が残ってるからそれを好きに飲んでいいぜ!! ただし、鍵締めと品の整理は頼んだ、じゃあいってくるぜ!!」
おまけ?
『魔理沙出発後 アリスと文の会話』
「まったく、魔理沙はいつもいつも自分勝手に…… あら? 私に聞きたい話がある? 一体何かしら?」
「……え? 八雲紫が何を考えて外界取引なんて始めたのか知らないかって?」
「…そうね、私の考える限りだと、多分、シンに鈴と楔をつけたいんでしょうね、えぇ、良くなる鈴と絶対の楔よ」
「シンの持つ力、厳密には地霊殿の神の力だけど、それはこの幻想郷でも上から数える方が楽なくらいに強大な力」
「しかもその根源は数多の妖怪達が外界からこの幻想郷への移住を余儀なくされた人間達の『科学技術』、それを遥かに凌駕したテクノロジーよ」
「まだシンが生身の人間で、あのサイズで力を振るうくらいならいざ暴走されても幻想郷の大事になる前にどうにか対処はできるでしょうね」
「ただ、シンが神に変貌したり、地霊殿にいる御神体が直接動いたら別よ、最悪、龍神様でもタダでは済まないほどに凶悪な力の可能性もあるわね」
「龍神様に万が一の事があればそれこそこの幻想郷はおしまいよ、管理者としてあの隙間妖怪はその最悪を避けなければならない」
「だから、シンを幻想郷の歯車の一部に取り込む事で『幻想郷の安定』の為の一部にしようと考えたんでしょうね、じゃあ何で外界との取引なのかって?」
「……ん~… もし、私が八雲紫の立場だったとすれば…そうね、シンにとって『幻想郷に帰る』事を当たり前の事にする為じゃないかしら」
「そう、幻想郷に帰ることをね、つまり、幻想郷の外の世界がシンの『帰る世界』ではなく、幻想郷を『帰る世界』にしてしまう事でシンが暴走する可能性を抑えるって事よ」
「それが楔で、鈴は魔理沙でしょうね、魔理沙を鈴にしたのはよく鳴り響いて周りの注意をひきつけてくれるからでしょう、魔理沙は良くも悪くも人脈は多いわ」
「つまり、シンにその魔理沙の人脈と触れさせる事で幻想郷の方がより『大切な』世界に摩り替える事でシンをこの世界の一部に取り込む事を容易にするつもりでしょうね」
「…まぁ、何を言ってもしょせんは推測ね、あの隙間妖怪の頭の中をシミュレートし尽すのは流石に無理よ、普段は呆けているけど、伊達に妖怪の賢者じゃない」
「之で話は終わり? だったらちょっと整理しなきゃいけないからかえって欲しいんだけど、え? まだ話がある…?」
「…な!? ま、魔理沙の奴…… 余計な事を…… あ~もう、わかった、わかったわよ、ただし新聞にしたら地獄の底まで追いかけて消すわよ?」
「……それでもいい、と、なら、話すわ、魔理沙がいなかったあの三日の間にあったことをね」
「…シンを私の家に引き入れた後、私が最初にしたのは家にあった傷薬をシンの傷口に塗りこむ事だったわ、幸い意識を失ってたから染みるタイプでも抵抗はなかったし」
「それで、後は適当に朝になってシンが起きたら簡単に説明だけして魔理沙の家のほうに移動してもらおうと思ったんだけど……」
「……あの日、魔理沙が呼んだ永琳がちょうど早朝に来てくれて良かったわ、じゃないと、あの事態に私は対処しきれてなかったでしょうから」
「…シンはね、目覚めた時に記憶喪失…いえ、精神退行を引き起こしてたのよ、それも5~6歳児くらいにまでね」
「永琳が言うには何らかの外部要因で精神に強い負荷がかかったかららしいわ、一時的なものだろうから投薬でどうにかなるかもしれないって」
「といっても、そんな症状なんて永琳も滅多に聞いた事がないようで、薬を調合するのに時間がかかるからって念の為の傷薬と精神安定剤だけ私に渡して帰っていったけどね」
「それでどうするかって事になったんだけど… ちょっと悪戯ついでに上海と蓬莱だけでシンの世話をちょっとさせてみたのよ」
「…してみたの間違いじゃないのか、ですって? 微妙に違うわね、確かに人形たちは私が操っているけど、大まかな命令を与えた後は人形たちが自由に反応するようにしているのよ」
「所謂セミオートね、とはいえ私が最も理想とするオートマタはまだまだ遠いし、それができるのも上海や蓬莱達みたいな特別に手塩をかけた子達くらいだけど… 話を戻すわよ」
「まぁ、何でそんな事をしたのかといわれると……
ちょっとした意趣返しよ、私からすればよく知らない相手を家にあげなきゃいけなくなった上に幼児退行までされてるのよ?」
「ちょっと驚かしたって罰は当たらないと思わない? まぁ、そういう理由で悪戯したんだけど…… 呆れたわよ」
「地霊殿に住んでるって聞いたからある程度常識はずれだとは思ったけどね、なんで幼児退行している状態でさも当然の様に空を飛んでいる上海達と遊んでいるのか……」
「えぇ、上海と蓬莱と一緒に遊んでたわ、何故かババ抜きをしてね、警戒なんてまるでしてないの、無邪気…というよりも、無垢ね、あの状態は」
「それで、その光景に少々呆れながらもちょっと私が直接脅しをかけたんだけど… えぇ、『ここは魔女の家で貴女は生贄にされるのよ』ってね」
「流石にこれには怯えるかと思ったら… 『お姉さんはそんな事しないよ、上海ちゃんと蓬莱ちゃんを僕が寂しくないようにつれてきてくれたんでしょ?』 よ?」
「…まぁ、永琳に言われた言葉を思い出して理由はわかったんだけどね、精神的に退行していてもそれまでに身に着けた常識とかはそのままの可能性があるって……」
「つまり、確かに精神は5歳児前後まで戻ってたんでしょうけど、妖怪たちを『恐れる存在じゃない』っていう印象が深く根付いてたんでしょうね」
「もう完敗よ、寧ろそこで意地を張ったら私の方が子供じゃない、子供ゆえの強さって物を思い知らされた気分だったわよ」
「まぁ、そんなこんなで幼児退行したシンと三日程過ごす事になったんだけど…… シンって、酷く寂しがりやなのよね」
「えぇ、寂しがりやよ、上海達が近くに居ないとソワソワして落ち着かない様子だったし、夜もなれない場所のせいか一人で眠れないって涙目になっていたし」
「…そりゃ、姿は変わらないわよ、でもね、何故かその姿が酷く似合っているのよね、こう、まるで兎みたいって言うか、みてると放っておけないっていうか……」
「記憶が戻ってからはそういう部分は余りみせようとしないけどね、かなりの寂しがりなのは間違いないわよ…… 私には、わかるのよ」
「まぁ、そんな子兎みたいな子と三日も過ごしてると… 情くらい沸くでしょ!? 悪かったわね!! どうせ母性本能とかは私のタイプじゃないわよ!!」
「ハァハァハァ…… ふぅ、まぁ、シンにはその三日間の記憶はないわよ、永琳が薬で直すときに言ってたから、ただ、私にはその記憶がある…って事よ」
「…恋愛感情、と言うつもりはないわ、でも否定する気もない、私の中でもまだ整理しきれてないものだからね、単なる母性感情からなのか、それとも異性としてなのか」
「……それをはっきり判断する為に魔理沙の手伝いを始めたのよ、そうすれば自ずとシンとの接点は増えるしね、そうすれば、判断材料も多く得られる」
「私の話は此処までよ、それじゃあ、私が貴女に要求するものは… 絶対の黙秘よ、万が一漏らしたら、この私の本気で焼き鳥にしてあげるから、覚悟しておきなさいよ?」