御崎市 8:30
今日は快晴。今日特別なことははあれ以外にはとくに無し。
――あれさえなければ、本当に良い日だっただろう。
今日は、隣の部屋に引越ししてくる人が居る。
マンションなので、近所という概念は階層ごとになっている。
近年、ご近所という概念が薄まりつつある中だが、このマンションだけ、
ご近所という概念が濃い。
ご近所に新しい人物が来る。
それは、ご近所という概念が濃い人物にとっては、とても重要なことだ。
平井ゆかり(坂井悠二が呼ぶにはシャナ)と私が住む部屋は6階にあるのだが、
6階の住民は
「今日、トラックが来てたけど、きていた人イケメンだったよねー」
「赤色の眼をしてて、肌が白かったけど外人さんかな?」
「あら、もしかして気があったり?」
「やだなぁ、母さん」
――という会話をたまたま聞いた限り、興味津々といったところだろうか。
平井ゆかりは、事情は知らないのだが、あまり興味は無さそうな印象だ。
何故なら実質(憎たらしいことに)彼女の家は悠二の家になっているからだ。
私はというと――
外界宿(アウトロー)
そこで聞いた話では
「管理局の刺客が、御崎市に派遣された」
しかもダイレクトに
「炎髪灼眼の討ち手の監視に。」
監視なら、近くに拠点を押さえるもの。
なので私は予め、周辺の引越しについての情報について調べた。
管理局の刺客が来る時期に引越ししてくる家は一つだけ、
――平井ゆかりの家の隣のみ。
よりによって極端に近いところ。
フレイムヘイズ達にとっては(私にとってもだが)これはあまり良い顔できない状況だった。
フレイムヘイズ達は管理局という存在は知っている。
が、しかしフレイムヘイズから見たら「お節介焼きで、凄く凄く迷惑」な存在。
事実、フレイムヘイズと紅世の従の戦闘に介入、双方を『討滅』するという惨事になったケースは多い。
理由は管理局の独断での解決という姿勢からだ。
同じく独断での解決という姿勢を持っているフレイムヘイズ達は、
介入してくる管理局に反発、そのまま戦闘に移るという事が多い。
しかも、紅世の従と共闘したケースは一つも無いものの、フレイムヘイズと共闘したケースは
あまりにも少ない。
この事から、フレイムヘイズ達は管理局と距離をとるようになった。
最近になって、フレイムヘイズ達に協力的になった管理局だが、
昔の事を考えれば、信用しろというほうが無茶苦茶な話。
一部のフレイムヘイズはこれを信用したものの、
今の時点では信用してないほうが圧倒的多数という状況である。
私もそんな一人であった。
(だからこそ、迷惑な話であります)
警戒せねばならない、それが私の考えであった。
万が一、管理局が零時迷子に手を出す事があるならば
(その時は、討滅する)
封絶を張っても、対処する術(封絶内で動けるともいう)を知っている。
そういうのもあって、警戒する。
これが今のところ、一番良い対処方法だろうと私は判断した。
「ヴィルヘルミナ」
平井ゆかりは、確認という事で私に呼びかけた。
「分かってるであります」
「警戒」
今日は、挨拶という名目でどういう人物が調査をする。
それが今日やる事。
どんな人物が分からない、が。
嫌な人物でない事を祈るばかり。
(――いや、嫌ではない人物でも、警戒には変わりは無い)
例えどんな人物でも、裏を隠している(逆に裏をそのまま表に出す場合もあるが)
何よりこういう事については裏を隠している者が多い。
私は経験から、そう判断している。
そして、来た。
向こうから、黒い髪の毛、シャナのように燃えているわけではない、
でも赤い、血色の眼をした少年が。
―――
まったく、管理局は変わったな。
シンはエレベーターに乗りながらそう考えた。
以前なら、無理やりにでも零時迷子を拉致をしていたはずだ。
管理局は、人道を配慮に入れるようになった。
そうシンは思う。
荷物を一通り部屋に持ち込んだので、後は部屋で荷物の整理をするという作業がある。
(手荷物は持ってはいるが)
シンはその前に、対象の調査――炎髪灼眼の討ち手を確認する事にした。
今回は、監視という名目の『補助』。
管理局は、慎重な策を投じた。
慎重な策を投下した理由、それは機動六課の対処を期待したというのもあるが、
何より上層部の心変わりがあるのだろう。
心変わりした理由はいろいろある。
シンが機動六課に保護されてから以降の諸事だ。
だが、今はそれを思い出す時ではなかった。
それより上層部の心変わり、人道への配慮に感心するほうが先だった。
6階でエレベーターから降り、廊下に行き自分の部屋へ向かう最中。
――炎髪灼眼の討ち手らしき人物と、もう一人、知らない人が居た。
―――
「どうも」
「む、あなたは、ここに引っ越してきた者でありますか?」
「うーん、ま、そうだな」
来た。一応軽い挨拶程度の質問は済ませる。
この者が、管理局の刺客。
恐らく、炎髪灼眼の討ち手の確認だろう。だから、私たちから会わなくてもそのうち会う。
が、私たちも管理局の刺客を確認しなければならなかった。だから玄関の前で待機していたのだが。
炎髪灼眼の討ち手、平井ゆかりのように真っ黒な髪の毛、妙に寝癖がついている。
西洋の人間のように白い肌、そして
一瞬、燃えているのかと錯覚した、が違う。
これは、血の色だ。
血の色のような紅色の瞳。
その血のような色に少し不快感を出す。
(まるで血のような瞳であります)
(同意)
「私が、隣の605に住む、ヴィルヘルミナ・カルメル、平井ゆかりの給士であります」
「私が平井ゆかり、よろしく」
素っ気なく自己紹介をする。
平井ゆかりもある程度警戒をしているようだ。
「俺は飛鳥真、よろしく」
どこかそっけない、けど警戒はしてないような声だ。
飛鳥真というのは、おそらく偽名だろう。
だがそれはどうでもいい。
気に入らない。
何故か気に入らない。
妙に気に入らない。
一応気のせいだと片付けておく。
一応は。
「あー……隣同士、よろしくお願いします」
初対面だから敬語なのだろうが、何故か気に入らない。
本能からして気に入らない気がする。
何故か知らないが。
恐らく、管理局の刺客だからだろう。
そう自分で納得させる事にした。
―――
挨拶程度は終わった。
確認は済んだので、とりあえず家に入って一息つこう。
そうしようとした時だった。
「あ」
「あ」
「あ」
そういや足元に荷物置いてたの忘れていた。
ゲームのハードに、スバルから借りたゲームもあるから、こけるには十分の重量だ。
こっちの世界の任天○ばりに丈夫なゲームだから大丈夫だろうなと場違いにのほほんとした事を考える。
スローモーションで、こける。
前に傾いて、『押して』、『倒して』、落ちて――あれ?
『押して』?『倒して』?
ふにょん。
「あ……」
一瞬、何が起こったかわからなかった。
手には柔らかい何か。
向こうは何が起こったか気づいたのだろうか、顔を赤くして目じりに涙を溜めている、そして、
憤怒の表情に変わる。
シンは、何をしたか気づいた。
そう――
らき☆すけ
数秒後、ビンタされてノックダウン、そのまま気絶した。
最終更新:2009年05月30日 17:40