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後方へひょい、と機体を動かした。背中に担いだまま――保持アームに接続されたままの大型剣(アドヴァンスド-アロンダイト)へ電流が流されて、その刀身にビームの刃を発生させる。
がじょり、という音。”後ろ”に居た機体が前に出た。前に居た(シンの乗る)デスティニーが後ろに下がった。故に衝突は必然である。
後ろ(味方が居る筈)の方から突進するように前に出た(味方だった筈の)機体に、デスティニーの背中で迸る熱量が叩き込まれる。
繋がりっぱなしの通信から、掠れた呻き声の様な呟きが聞こえてくる。内容は、なんで、とかどうして、とかそんな疑問の声だった。
何の面白みもない種明かしをしてしまうと、シンがたまたま知っていただけである。
なんだったか。あいつを仕留めれば手柄がどうとか、口実になるとか、これでもう――
「偉くなりたいんだっけ」
背中の刃が後方の機体正面にめり込んだ状態のまま、何でもない風に機体をくるりと回転させる。熱刃が、本体の動きと連動する。
「良かったな。二階級特進だ」
――これでもう、戦わなくて済むとか、言ってたなあ
左腕の盾を翳した。撃破した機体(僚機)が爆発する飛び散った残骸が盾にぶつかってガンガンと音を立てた。
爆発が止むのを待たず、機体の周囲をビームが通り過ぎる、回避機動。周囲のデブリに身を隠していたと思しきMS達が姿を現し始める。1……5……14……27、増える、ぐんぐん増える。シンの推測でしかないが、”成功”していた場合も始末されていたんだろう。多分そのためのMS部隊(待ち伏せ)。
「……まあ、良かったな。アンタの戦争はここまでだ」
背中の接続アームが金属音と共に可動する。右腕でAアロンダイトを引き抜いた。左腕の銃(ケルベロス-42)の銃身が一段階展開する
いつも通り、何の変哲もない一対多。味方は居ない。唯一の僚機はさっきシンがぶった斬ってしまったし。その方がやりやすいから別にいい。
アラートがコクピットに鳴り響く。スロットルを一気に引き上げた、デスティニーの両目の位置にあるカメラアイが周囲の敵機を睨みつけながら光を放つ。特徴的な背中の翼が開きアギトを開く様に展開し、VLの閃光が勢いよく翼から噴き出した。
「”俺の”、は」
一斉に放たれる、一見隙間の無い様に見えるビームによる射撃の雨を掻い潜る。機体を掠めていくビーム、直撃は無い、この程度で直撃をもらう程度ならばとうの昔に落ちている。反撃と牽制を兼ねて左腕に接続された砲を撃った。何度も撃つ。当たれば僥倖、様はその射撃に気を取らせるだけでいい。デスティニーの放ったビームが掠った一機がバランスを崩した。背中から噴き出る光が一層大きく伸びた、急加速。瞬く間に距離が詰まる。右腕で力任せにAアロンダイトを”叩き付ける”。振り抜いた、というより通りすがりざまに当てた、と言った方が正しい。
VLの翼で本体ごと加速された攻性ビームシールドの刃によって、まるで跳ね飛ばされる様にMSが一機引き千切られた。爆発よりも速く、デスティニーはその脇を通り抜ける。光の翼を噴き出しながら、次の獲物を食い千切る為に上下左右に戦場を駈けずり回る。
駈けずり回る。
「――――何時、終わるのかな」
また一機、大型剣によって両断される。宇宙に爆炎の花が咲いた。最大出力で放出された左腕のハイランチャーで数機がまとめて融解した。
数の差が速度と火力で塗り替えられていく。敵機が一機、また一機と減っていく。中の人間ごと残骸に成り下がっていく。
そしてまた、誰もいなくなる。
少年以外、誰も。
――/日々、星空の下で/――
「こんちゃー、はこびやでース」
シン・アスカはふよふよ飛びながら、酷く間の抜けた声を吐きだした。そんなシンの背中で広がる赤と黒の翼からは輝く光が翼が噴き出ていて、気だるげな本体部分とは酷く対照的に派手だった。
「あれ、シン。久しぶり」
「あーどうも、お久しぶりです門番さん」
現在位置は赤一色という大変目によろしくない外見の紅魔館。その正面にある正門。そしてシンはその門の前で門番の職務を遂行中な紅美鈴に向かって、ふよふよ浮きながら軽く会釈した。
一応シンは紅魔館で勤務(コキ使われた)経験があるので、当然門番の美鈴とも面識はある。美鈴はここじゃ(何故か)珍しく話の通じる部類なので、暇な時には世間話もしていたりした。つっても暇な時間なんて滅多になかったが。
「っていう訳で、ご依頼のモノお届けにあがりましたー」
「はあ、どういう訳かわからないけども……届け物って笹?」
低空飛行を止めてシンは地上に降りる。そして担いでいたモノ――葉の生い茂る植物を美鈴に渡した。それは通称『笹』と呼ばれる植物である。
「何か咲夜さんに頼まれたんですよ。な訳で、迷いの竹林から適当なの見繕って引っこ抜いてきました」
「何で竹……ああ、そういえば今日って七夕だったわね」
「何かお嬢様が七夕やりたいって騒ぎ出したらしいですよ」
「ああハイハイそう言う事……」
それなりに怪訝気だった美鈴がその一言で完全に納得した表情になった。紅魔館での大抵の出来事は基本主の気紛れが絡んでいるのである。紅魔館での勤務経験がある者にはもはや常識である。
「じゃあ確かに届けたんで。咲夜さんとフランとパチュリーさんとお嬢様とこあによろしく言っといてください」
「って寄ってかないの? ていうか咲夜さんに頼まれたのなら直接渡せばいいんじゃ?」
用は済んだ、と言わんばかりに振り向いて立ち去ろうとしたシンを美鈴が呼びとめる。その問いかけに対し、シンは振り向いた後若干苦渋――というより呆れと疲れを微妙に混ぜ込んだ表情になって、
「いや、何か中入ると何だかんだ理由付けて働かされそうなんで。遠慮しときます」
「…………ああ、確かに」
///
「よーし、こんなもんでいいかー」
「おおいい感じじゃないか」
それなりに葉の生い茂る手頃なサイズの竹を部屋の隅にセットし終え、シンと魔理沙はやりとげたー、って感じで声を上げた。興奮冷めやらぬまま二人はきゃいきゃい騒ぎながら床に寝っ転がって、何処からか取り出した短冊に記入を始める。デスティニーもシンの頭の上でなにやら短冊にガリガリとやっていた。
「……あのね、貴方達」
寝っ転がった二人の後方から何やら苦渋に満ちた声がかかる。顔を手で覆って、まるで頭痛を堪えるかのようなポージングのアリスが椅子に座っていた。テーブルの上の紅茶はすっかり冷めてしまっている。
「何だアリス、どうかしたか」
「率直に言うわ。何してるのよ」
はてな顔で(寝っ転がったまま)振り向いたシンに向かって、アリスはすっぱりと言い放った。シンの方は身体を起こし、胡坐をかきつつアリスの方へ向き直る。
「何って……もしかして知らないのか? 今日は七夕って言って――」
「今日が七夕だって事も知ってるし、七夕には笹の葉の願を掛けた短冊を吊るすって行事があるのも知ってるわ。私が言いたいのは」
説明を始めようとしたシンの言葉を途中で遮り、まくしたてるようにそこまで言ってから、アリスは一旦言葉を区切る。
「何で私の家で貴方達が勝手にそれをやってるかって事よ」
それを聞いたシンは何だそんな事かーって感じの表情に。再度地面に寝っ転がって短冊に向き直った。
「まあ細かいこと気にするなよ、準備の手間省けたとでも思っとけって」
「そうそう、細かい事なんて気にしてたらきりがないぜ」
アリスの方を見もせず、短冊に向かってあっけらかんと良い放つシンと魔理沙。そんな二人の様子にアリスのこめかみ辺りでビシリと不穏な音がした。
当然二人は気付いていない。唯一察したデスティニーはアリスを見て、次にシンを見て――面白そうなので放置するという結論に至っていた。
「……というか。何で魔理沙まで居るのよ」
「いやーさっきそこでバッタリ会ったんだよ」
「んでシンが笹の葉あるっていうから、折角だし私も七夕をやろうと思ったんだが……」
「しかし魔理沙の家は散らかりすぎててスペース不足、表に飾るにしてもこれまた散らかりすぎてて見栄えが悪い」
「そうだアリスの家へ行こう。あそこなら片付いてるから問題なし。しかも茶も出る」
「――出て行ってくれるかしら」
それまでの呆れかえった表情から一転してニッコリと満面の笑みになったアリスが、ビシィ! と入口のドアを指さした。
「ていうか神社に行きなさいよ。そういうのはあそこでやればいいじゃない」
「神社はもう行った……まあ、本音言うとおすそ分け。ちょっと引っこ抜き過ぎてさ、竹。折角だからこういうの用意してなさそうな人に配ろうと思って」
既に短冊を吊るし始めながらシンは返答する。最初は紅魔館の分だけだったが、後から会った人についでと頼まれる頼まれる。それでそれなりの本数を引っこ抜く羽目になってので、ついでと余分にちょろまかしてきたのである。
シンの認識だとアリスはそういう行事をわざわざ手間かけてまでやりそうにない。それに神社みたいに人が集まる場所にわざわざ出向く性質でもない。なので適当に理由付けて多少強引かもしれないが押し掛けた訳だ。折角の行事なのだからやっといて損は無いだろうってのがシンの持論である。まあここに来てから出来た持論だが。
「へえ、そう。それで本音は?」
「神社行ったら鬼が居――げっほげっほ!!」
淀みない流れのせいで思わず本音を言い掛けて、シンは思いっきり咳き込んだ。
「お前……まだ萃香苦手だったのか……」
「だらだらと述べときながら要は逃げて来たのね、へえ……」
横の魔理沙から呆れた感じの視線を、そして後方のアリスからは突き刺さるような絶対零度の侮蔑の視線がシンに注がれる。シンは背中にじんわりと嫌な汗が滲み出るのを自覚する。
「いいえ違いますアリスさんに届けてない以上俺は神社に留まる訳にはいかないのです故にこれは逃亡では無く明日へ向けての進歩であり」
「…………………………」
シンが棒読みを始めると同時に、アリスの周囲にわらわらと人形が集まり出す。無論それぞれが鋭くとがって鈍く光る凶器を装備済みである。
「――はいごめんなさい。逃げてきました。謝りますからドールズウォーは止めて欲しいなあ!!」
「はあ……まったく、逃げ道にされる方の気にもなって欲しいものね」
「でも届けに来たのは本当なんだよ。案の定アリス何も用意して無かったしさ。折角だからやっといて損は無いだろ? こういう行事もさ」
短冊を二、三枚引っ掴んで立ち上がり、未だ椅子に座って騒ぎの渦中から離れているアリスの方へ。そして手の短冊を差し出した。
「何度も言うけど、折角だからやろうぜ。どうせもう巻き込まれてんだしさ、今更だろ? な?」
「…………はあ、しょうがないわね」
にへらーと笑うシンを見て、根負けしたのか。アリスは溜息を吐きつつも差し出された短冊を受け取って、椅子から立ち上がった。
///
「ガンダムガンダムガンダムガンダム……」
「刹那君、ガンダム短冊を量産するのは止めません……?」
「いやこれだけは譲れ無い」
「はあ、そうですか。まあもう慣れました。それにしても青に緑にオレンジに紫にピンクに、随分カラフルというか。あれ、何で緑だけ二枚あるんですか?」
「……兄弟だからだ」
「へ?」
「さなえー、ごはんまだー」
「おなかすいたーごはんーごはんー」
「はーい、ただいまー! ……もう直ぐご飯ですから、刹那君も飾り終わったら来てくださいね」
「了解した……どうした00ライザー……ああ、わかった。エクシアの分、そして他の皆の分も。飾るのは任せろ。これは……そうか、トレミーの分か。それにしても星空が綺麗だな、ここは。いや、俺の世界も綺麗だったのかもしれない。ただ俺が見ようとしなかっただけで……」
「いやはや。これは確かに素晴らしい。壮観、といったところか」
「ブ――ッ!! 武士仮面!? 貴様何時からそこに!?」
「あえて言わせてもらおう最初から居たと!! ……フフフ、武士道には土遁というものがあるのだよ青年」
「それは忍術だろう!!」
「細かな詮索は無用! さあ……んふふふぅ……せ、せいねぇんん……」
「お、俺に触るなッ、だ、ダブルオー……何ッ!?」
「君のガンダムの相手は私のスサノオが仕る――さあこれで身を守る術は無くなったな……観念するがいい……相も変わらぬその身持ちの堅さ、今日こそ私の粘液で溶かし尽くしてくれる……!」
「や、やめろおおおおおおおぉぉ!!!!!」
///
そういえば刹那はどうしてるかなあ、とか唐突に思いつつ、シンは願い事を書いた短冊を量産していく。まあ向こうは平穏なんだろうなとも思う。早苗さんは言うまでもなく常識人だし、神様コンビも普段はそこまで突拍子が無いって訳じゃない。
そう結論付けながらシンは何となく横を見やった。
「『弾』、『幕』、『は』、『パ』、『ワ』、『ー』……っと」
「――魔理沙。何かが違う。何かおかしい。なんで一枚一文字なんだよ」
「え? 何かこの方がよく効きそうじゃないか?」
「言いたい事はわかるけど……何だろうこのやりきれない気持ち」
「そもそもその文句はどういうカタチで成就するのよ……」
まあ魔理沙本人が良いんだからいいかー、とシンは自分を納得させて、自分の短冊へと向き直った。
一方、横のアリスは何を書いたものかとやや唸っている。一応アリスには自立人形の完成という目標があるが、それ一枚というのも何か味気無かった。故に彼女は隣をちらりと見やる。ちなみに魔理沙の方はさっきので当てにならないと判断済みである。必然的に残った方へ。
『鬼は外』
黒髪赤目の少年――つまりシン・アスカが喜々としてそう書かれた短冊を量産するを見て、アリスは顔を手で覆って深く深くふかーく溜息を吐いた。
「頭が痛い……」
「お、頭痛か? 魔法使い用の頭痛薬ならそこの棚の上から二番目の引き出しだぞ。あ、一個上の引き出しのは人間用だからな。間違って飲むなよ。また寝込む羽目になるぞ」
深刻気に呟いたアリスに思わず顔を向けながら、シンはすらすらと言葉を吐く。
前に居た時に家事をやりまくっていた所為か、人様の家ながら勝手を無駄に熟知しているのである。この理論で行くと紅魔館と永遠亭も当て嵌まる。が、この二つの建物は何かしら能力の類で”イジられる”ので把握しきるのは難しかったりする。
シンが人形遣いの家に居たのはそれなりに前の話だし、知らぬ間にアリスが模様替えなりしている可能性もある。ただ、部屋の様子から第三者の手が入っているか否か判別できる程度にはシンは重症だった。
「……あの時は薬の種類を間違えたから寝込んだんじゃないわよ」
「あれ、そうだっけ……ああそうだそうだ。寝込んだのは流行病が原因だったっけ」
否定の言葉にシンは記憶を掘り起こし、それに思い当たる。前に人間妖怪問わず異常にかかりまくる病気が流行った事があったのだ。ただ感染力が高いだけで症状は軽いタイプだったらしい。それに薬が作られてからは直ぐに収束したので大事には至らなかった。
「ああ、あったあった。私もかかったんだ……アレじみーにしんどくなるんだよな……」
「……とりあえず今後倒れる場所は選んでくれるとありがたい。久し振りに家訪ねたら、ゴミの山に埋もれて足だけ出てる知人を発見した俺の身にもなってくれ……」
魔理沙の呟き。脳裏に浮かぶのは本やら何やらゴミやらの雪崩が起きたと思しき室内。そしてその雪崩に呑まれて足だけ出して唸る白黒の魔法使い。足だけしか出てないのにスカートと前掛けのせいで白黒と解るのがなんともはや。
「おいおい無茶言うなよ。倒れる場所なんて選べるわけ無いだろ」
「まあ確かにそうだけどさ……せめて部屋はちゃんと片付けろよ。あれ発見が遅れてたら命にかかわるぞ、本当」
「まあ、善処するよ」
シンの言葉(忠告)を明らかに聞き流しつつ笹に短冊を吊るしだす魔理沙。その様子に思わず溜息を吐く。
もうこうなったら勝手に押しかけて徹底的に整理整頓してくれようかと心中でドス黒い清潔な欲望を抱きつつ、シンも量産した短冊を吊るし始めた。
「そういやあの病気ってさー」
「んー」
「何よ」
シンがぽつりと漏らした呟きに、短冊を吊るしている魔理沙とアリスが応える。
「魔理沙(人間)もかかって。アリス(魔法使い)もかかって、後妖怪とか妖精にもかかる類の病気らしいんだけどさ」
「うわ、そんなにえげつないモンだったのかあれ」
「症状が軽い分、尋常じゃない感染力ね……」
「何で俺はかからなかったんだろう……?」
「「あ」」
魔理沙とアリスが同時に声を上げた。
「……そういえばそうだな。でもまあお陰で助かったぜ。面倒見てもらった訳だしな」
「頼んでないのに、私や魔理沙の看病をしてたから確かに貴方にも伝染ってもおかしくない筈よね……頼んでないのに」
「……人形上手く扱えないくらいヘバってたくせに」
「何か言ったかしら」
「ハイハイ何にも言ってない何にも言ってない」
ちなみに魔理沙とアリスはかかったのがほとんど同時期だったので、シンがアリスの家で二人揃ってまとめて看病していたりする。そのせいでテンションの低い魔理沙としおらしいアリスとかいうレアいモノを目の当たりにし、思わず顔を引き攣らせた思い出もある。
アリスの方は当初頑なに拒んでいたが、あのまま放っておいたら人形の操作をミスりまくって家を破壊していただろうし。魔理沙の方は家が散らかりすぎて不衛生だったので、あのままじゃ良くなるもんも良くなるまいとシンの独断でアリスの家に搬送したのである。
そんな訳で二人まとめて病人の面倒を見て、また買い出しとかの際に知人の見舞いにも行っていた。それなのに結局シンにはかからなかった。不思議である。
「あの時はなあ……仕事が無いのは、まあ看病してたからいいとしても。知ってる人が軒並みダウンしてたから、話し相手もチルノ位しか居なかったしさあ」
「………………」
「………………」
「お陰でヒマでヒマで……おい何だその変な視線」
「いや、まあ……ああ、そう言う事かぁ……」
「ええ、そうね……なるほどね……」
「何、何なんだよアンタ達。言いたい事があるならハッキリ言おう!?」
何故か多量の納得と少量の憐れみを含んだ視線で二人からじいっと見つめられた。シンは思わずてたじろぎながらも反抗を試みる。けれど二人から納得のいく答えは無く、相も変わらず微妙な目で見つめ続けられるのみだった。
「だ、大体な! そもそもお前ら普段から不精だからいざ病気になるし、長引いたりするんだよ!! 魔理沙は散らかしっぱなしで家片付けないから不衛生だし!! アリスだっていざ研究に没頭し始めると何もかもおそろかにするし!! ちゃんと生活しないから病気に後れをとるんだー!!」
若干ヤケクソ気味になりつつシンはまくしたて、言い終わってぜーぜーと息を吐いていたりした。
「ああ、確かにそうかもな」
「そうね、そうかもね」
「え?」
「じゃあこれからその辺り改められるよう、折角だし願い事に追加しととするぜ」
「そうね。どうせなら叶いやすいように工夫もするべきね」
「え? え?」
何故か急ににこやかになった二人に思いっきり戸惑うシン。魔法使いと人形遣いはまず一枚短冊を吊るす。それから何故か一枚短冊を吊るさず、それぞれ手にしている。
流れが理解できずに戸惑うシンの右腕をがっしと魔理沙が掴む。
「――どうせなら、複数の場所につるした方が効果がありそうじゃないか?」
同じように、アリスがシンの左腕をがっしと掴んだ。
「――という訳で、”神社”の笹にもつるしに行きましょうか」
ザー
シンは顔から血の気が引く音を知覚する。口の端を引き攣らせて笑うシンと対照的に、二人とも酷く満面の笑みだった。
「あ、そうだ俺ミハエルからプリズムリバー楽団トリニティエディションの七夕限定ライブのチケット貰ってたんだ。行かなくっちゃ。という訳で離しっ」
「それにこういうイベントは大勢いた方が楽しいと思わないか?」
「奇遇ね魔理沙、私もそう思うわ。そうね具体的には飲んだくれの鬼とか居たらもっと盛り上がるんじゃないかしら」
「か、確信犯……!」
笑顔の二人に両脇をホールドされ、シンはずるずると出口へ向って現在進行形で引きずられる。全力でなら振り解けたかもしれないが、”今”のシンは女の子相手にそれが出来るほど非常では無かった。
そう言う訳でこの場で唯一シン側に居るであろう存在に、具体的には斜め上ら辺でぷかぷか浮いてる、愛機に視線という救援信号を送る。
へるぷ
諦めろん
「――お、お前それでも俺のガンダムかっ! あ、ちょま、本当止めて! 謝るから! 何が悪かったかわからないけど俺謝るからだから本当勘弁しぃゃああああ!!!!!!」
懇願虚しく、シンの身体は両側を二人に抱えられたままお空へゴー。完全に傍観者を決め込んだデスティニーは魔理沙の防止の端っこにしがみついている。風でたなびく帽子先端部の動きにシンクロして愉しげにぶらんぶらん揺れていた。
「たぁすけてえええええ――せっちゃあああああん!!!」
絹を裂くようなシンの悲鳴が、森の夜空に響き渡る。
///
――わーたーしーのー
『せっちゃんに何するのよこのド変態があああああ――――!!!!』
「ブシッドッ!」
「ね、ネーナ・トリニティ!?」
『大丈夫せっちゃーん!! よしよし怖かったね、でももう大丈夫だからね!!』
「さ、触るなッ! というか何故ここにお前が!?」
『それはねー、今日のライブにせっちゃんと早苗を誘いに来たの。そしたらこのド☆変態が私のせっちゃんを毒牙にかけようとしてるじゃない? だからネーナ我慢できずに殺っちゃったぁ』
「おのれェ……私の武士道を阻もうというのか……!」
『……アレ、何で生きてるのコイツ』
「ヒト課では無く悪魔に分類される女性に私の武士道をいや衆道を渡しはせん覚悟ォ――――!!」
『おーいネーナー、止めようぜあんなヤツ誘うの…………この仮面野郎テメエエエエェェ俺のネーナに何してやがるうゥゥゥ!!!! 行けよファングゥゥ!!!!』
「ブシッドッ!!」
「ミハエル・トリニティ……助けられた、か。済まない、礼を言おう。ネーナ・トリニティも」
『別にお前を助けた訳じゃね、』
『やだもうせっちゃんみずくさぁーい、ネーナ、って呼んでって言ってるのにぃー』
『ネーナから離れろこのヤロオォォォ!!!』
『ミハ兄うるさーい』
『何をしているお前達。もう直ぐライブの時間……む、エクシアのマイスターか』
「……ヨハン・トリニティ」
「後ろから不意打ちとは卑怯な真似を……だがまだだ……まだ終わらん…………」
『げえ!? 何で生きてるんだコイツよお!?』
『またぁー!? いい加減ウザーイ!!』
『何だこの怪しげな仮面の男は……』
「私を怪しげと笑うか。だが忘れるな! 君とてそのナリで半ズボンという奇異な格好であるという事を!!」
『――ミハエルゥゥ! ネーナアァァ!! ドッキングだァァ!! この変態野郎にハイメガを叩きこむぞオォォォ!!!!!』
『落ち着いてヨハン兄、キャラ違ってるよ!!』
『あの仮面野郎……兄貴唯一にして最大のブロックワードに触れやがった……!』
『私だって、私だって……好きでこんな格好をしている訳では……!!』
「刹那くーんご飯で……何か、ずいぶん増えてますね」
『あ、早苗やっほー☆』
「あネーナちゃん、今日はどうしたんですか?」
『おう、早苗じゃねーか。このガンダム野郎はともかくお前はどうだよ、今日俺達のライブが……』
「おやおや、いつもの変態に加えて今日は亡霊の三兄妹まで居るじゃないか。道理で騒がしい訳だよ」
「あーうー。何でもいいけどせっちゃんが戻ってこないからご飯が食べられなーいー」
「きりすてえええごめえぇぇん!!!」
『うぬおおあああああああ!!!!』
『あちゃー……ヨハン兄完全にプッツンしちゃってるよ……』
「これも世界の歪みか……」
『何だ何だ、俺たちゃ早苗に用があるんであってオバサンとガキはお呼びじゃね、』
SE:爆発音(大)
『ファングウゥアアァァァァ゛ァ゛ァ゛ァ゛!!!』
「ブシッドッ!!!」
『スローネエェェェェ!!!』
『…………そこでスケキヨってるヨハン兄と変態はまあいいとして。ミハ兄が何かもう影も形も何処にも見えないんだけど、逝っちゃったかなーコレ』
「これが……なれの果てだというのか…………」
「ああ、境内がしっちゃかめっちゃかに……掃除するの私なのに…………」
///
「――――とりあえず離してくれないか……いや逃げないから。もういいよ、腹括った。付き合うよ」
パッと離される二人の手。重力に引かれて落ちる身体。同時にすっ飛んできたのは通称『相棒を見捨てたフルメタルプラモデル野郎(デスティニー)』。赤い閃光を撒き散らしながらシンと衝突。背後で赤と黒で塗り分けられた翼が口を開く様に展開した。
「ったくもうー、何なんだよアンタ達は……」
自力で風を切って夜空を舞いあがり、魔理沙とアリスに追い縋りながら呟いた。当然の様に無視された。ちょっと泣きそうだった。
「――って、今日は光らないのか?」
箒に跨った魔理沙が気がついたようにその事を聞いてくる。実際シンの背後の翼からは少量の光がこぼれているだけだ。VLは展開していない。
そもそもVLが翼状の光を発生させるのはあくまで最大出力時だ。飛行するだけなら光の翼を出さなくても飛行できる事は出来る。とはいえシンは速く思いっきり飛ぶのが好きなので、常に出している訳だが。
不思議そうに首を捻る魔理沙、まずシンは上へ向けて指をさす。
「今日ばっかりは”邪魔”したくない。まあ邪魔できるとも思えないけど、余計な光害は無い方がいいだろ」
「お、そいつは殊勝な心がけじゃないか」
「貴方、言動に似合わずロマンチックなところあるわよね」
空に広がる星の河を指さして、シンは素っ気なく呟いた。魔理沙の方は思いのほか好意的な反応だった。普段から弾幕――というか魔法に星の類が多い事を考えるに、何かしら思い入れでもあるのかもしれない。理由は知らないが。
一方アリスの方は相変わらず蔑んだ感じだった、この冷たい扱いにもう慣れたってのが何か嫌である。
「ほっといてくれ。良いだろ別に。俺の居たとこじゃこういうの見れなかったんだよ」
「え?」
「…………」
「ま、見上げ様にも大地に立てない、横から見るには暇が無さ過ぎる、なんてトコだったから…………あー、詳しい説明は長くなるし面倒だからパス」
機動を制御、身体をひょいと回して空中であおむけに寝っ転がるような姿勢になる。視界の総てが暗い夜空と、そこに満遍なく散りばめられた星の輝きで埋め尽くされた。漏れるのは感嘆のため息だ。このまま自然に寝入るまで眺めながら飛んでいたいところだが、連れが居るのでそれはできそうにない。
魔理沙はシンの言っている事がわからないと言った表情で、アリスの方は言葉の意味をわかっているのかいないのか、何とも測りにくい表情をしていた。
「まあ私にはよくわからないが……なんにせよ、良かったじゃないか。こんなに満点の星空を見られるんだから」
魔理沙はどうやらシンの言葉を考えるのを放棄したらしい。まあシンにもその方がいい。さっきのはちょっと口が滑った愚痴みたいなものだし。
ともかく、にかっと笑いながらそんな風に言う魔理沙を見て、改めて思う。
「ああ、そうだな。その通りだ。此処に来れて、よかったって思うよ」
元居た世界について、思わない事が無い訳じゃない。ただそれはとても少ない。もしもの話だが、もう少し”昔”のシンだったらきっと気にかかる事がたくさんあって、どうにかして元の世界に戻ろうとしたのかもしれない。どう足掻いても戻れない、という現実にも、何とかして抗おうとしたのかもしれない。
けれど実際に流れた時はそれよりも後――もう気が掛かりなんてほとんど無くなっていた頃だ。見知った人達はもうみんな居ない。唯一の役目も無くなった。そんな時だったから。だからなのか、見知らぬ土地に流されての後悔や尚早はまるで無かった。むしろ緑のある光景や、正常な命の営みに感動した位だ。
そして結局シンはこの世界に居る事を選んだ。それから今日まで生きてきた。その選択が合ってるとか違ってるとか、そんな事はどうでもいい。
自己に正直に生きると決めた。その選択を逃避では無く、前進とするために。誤魔化しや嘘で塗り固めて騙し騙し生きてきたそれまでと違って、見知った人すべてに誇れるくらいに正々堂々生きていく。
そんな風にあれこれ考えながら、相変わらずシンはぼんやりと夜空を見上げる。ふと空を流れていく一条の光が目に入った。似合わないと思いつつも願をかけようとその流れ星を注視し、
――ファングウウウゥゥゥアアアアアー
「…………違う。いや違う流れ星違うあれミハエルウウゥゥなんでエェェェ!!??」
「あ、何処行くんだよ!!」
「……逃げるのなら覚悟はしなさいよ?」
「いやタイムちょっとタイム! 俺の盟友が何かヤバイ事になってるんだよ!! だからちょ待っ――ちくしょうもう弾幕張られウボア――――!!!!」
空に輝く星空に、流れ星二つ。
最終更新:2009年12月20日 23:14