風祝が、氷の妖精が、悪魔の館の門番が。立ち位置も性格も何もかもが違う三人が、一つの存在に対してまるで見当違いな物語を進めている頃。運び屋は地底を全力疾走していた。いわゆるリアル鬼ごっこである。追い掛けるのがマジもんの鬼的な意味で。太陽の届かない地底で数十日ほど走りまわって飛び回り、命からがらようやく見えてきたのは地上への道。
そんないつも通りの感じで、運び屋は今日もまた楽園を飛び回るのであった。
○会話ができるのと成立するのとは別 -STAGE 1- 霊烏路 空
「殴り合いを続けながら地上を目指して早一月。いい加減陽の光が恋しい……で、此処は何処だ。何か無駄に暑い所に出たな……」
「異物発見! 排除開始!!」
「わざわざ排除されなくても、こっちから出ていくところなんだけど」
「え?」
「どっちかっていうと一刻も早くこっから立ち去りたいくらい」
「つまり逃げてる?」
「そうそう、だから通してくれるとありがたい」
「大変だ! 逃げられる前に排除しなきゃ!!」
「………………何だその理論!?」
「核の力を思い知れ!!」
「核ぅ!?」
BGM : 霊知の太陽信仰
「核なんてもんまで…………よく考えたらデスティニーの動力も核だっけ…………まあいいや、とにかく地上に出よう。仕事仕事っと」
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○職人気質を刺激された -STAGE 2- アリス・マーガトロイド
「――という事があったのよ」
「いやどういう事があったんだよ。とりあえずハイ、素材。文字通り命がけで地下から取って来たやつな」
「あらありがとう。そういう訳で人形の巨大化を速く完成させたいのよ」
「あー、そう」
「協力してもらえるかしら」
「その両手いっぱいの工具を仕舞え。話はそれからだ」
「どうして? 工具がなければ分解できないじゃない」
「意志の疎通って、大切だと思うんだよな」
BGM : the Grimoire of Alice
「分解は勘弁してくれ、愛想は悪いがこれでも俺の相棒なんだ」
「じゃあ今度解析させて頂戴ね」
「……暇があったらな」
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○問答無用 -STAGE 3- 武士仮面
「騒がしいと思ったら河童達の出し物かあ……気にならない訳じゃあないけど、行く理由別に無いからなあ」
「おや、久しいな運命の少年。よもや君の方からアプローチを受けるとは」
「してねえよ」
「何、問題は無い。君のような存在を私の武士道は何時でもウェルカムだ!!」
「よし。倒すか」
BGM : MASURAO
「疲れた……ああもう、余計な体力使わせやがって」
「相変わらずいい腕だ。それでこそ屈服のさせがいがあるというもの……時に少年」
「顔面地面に埋もれてるのによく喋れるなアンタ」
「暇があるのならば向こうへ行ってみるといい。余興が見れる」
「はあ?」
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○嗚呼全人類の夢よ -STAGE FINAL- 東風谷 早苗
「余興って、やっぱアレか。非想天則……だったっけ。下手したらデスティニーより大きいんじゃないか? ていうかあれ、ガンダムだろ。絶対デザインに刹那噛んでるだろ」
「あれ、シン君じゃないですか。非想天則見に来たんですか?」
「あ、早苗さんだ。いや通りがかっただけですが」
「…………………………」
「……あの、何ですか?」
「…………………………」
「あの、ちょ、何、目が怖」
「…………………………」
「さ、さなえさーん?」
「巨大ロボを要求します」
「……すいません意味がわかりません」
「そういえば身近に居ました! 巨大ロボの申し子が!! 普段の何でもありっぷりから考えて、そのメカはきっと巨大化機構も備えている筈!!」
「いやだからいきなり何を」
「夢をあきらめない!!」
「会話してくださいよ!!」
BGM : アンノウンX ~ Unfound Adventure
「…………刹那、00もデスティニーも、やろうとすればMSに戻せること、早苗さんには黙ってろよ」
「何故だ?」
「いいから、あの様子だとばれたらどう考えても面倒な事になるから」
「……了解した」
「二人して何の話してるんですかー?」
「「いや別に何も」」
物語が彼を嫌うのか。彼が物語に参加する事を拒むのか。
彼が正規の物語に、その本筋に関わる事は無いだろう。今までも、そしてこれからも。
ただ外れた者たちの行きつくこの世界は、彼にとって紛れもなく楽園だったから。
そこら辺はどうでもよく、今日もまた、日々は騒がしく過ぎてゆく。
※同時上映予定だった『リアル鬼ごっこ地底篇 ~萃香も居るよ~』はバイオレンス表現の過多や諸々の事情も含め、放映中止となりました。ご了承下さい。
最終更新:2009年12月20日 23:16