Ⅰ.
――――、
目を覚ますと、俺は裏庭にいた。
ちょうど木の下、芝生に大の字で寝ていた。昼寝でもしてしまったらしい。
しかしなんだって俺は裏庭なんぞにいるんだ?
授業の後の記憶がすっぽり抜けている。記憶喪失とやらかね。
立ち上がる気もせずただ重力を投げ出す。
快い風が吹いて、芝生の青い匂いを運んでくる。
ざわ、と、木々が葉を揺らす音。
癒し系な音だ。
悪くないね。
実に澄み切った空と同調するかのような気持ちだ。心に淀んだものなどひとかけらもない。全て出し切ってしまったみたいだ。頭に何も残ってない。
出来ることならずっとこうしていたかったのだが、しかしや現実は厳しい。
聞き慣れすぎた、奴の大声が嫌でも耳にズカズカと侵入してきた。
「キョーン?ちょっと、どこにいるのよ。」
答える気にならず視界を閉じる。どうせ来てくださいと頼まれなくてもあっちからやってくるだろうさ。
「あっ。」
発見、でかい声でそう知らせてくれた。
芝を踏む音が徐々に近づいてくる。怖くないぜ。
「ちょっと」
怒りを含んだ声に瞼を持ち上げる。
当然、ハルヒがいた。
腰に両手を当て、お叱りポーズ。このアングルからだとスカートの中が…いや、それは置いといてだな。
「こんなとこにいたのね……さんざ探したわよ。なのにあんたったら呑気に寝てんだから、腹だたしいったらないわねっ!」
なぜだろうか、ハルヒの怒声すらも耳に心地よい。この青空をお前も眺めてみるがいい。心が浄化されるぞ。
「なに言ってんの?」
今度は呆れ混じりに、ハルヒは片眉を大げさに下げて見せる。そしてなにか言おうとして、口を半開きにしてまた閉めた。
なんなんだ。
もじょもじょとした感情に支配されたような表情であったが、やがて諦めがついたのかヤケクソが如く俺の横にごろんと寝転ぶ。
「…、ふぅん」
まんざらでもないような顔をしていた。
「悪くないわ」
だろう。ところで今は何時だ。
「…、。ったく…みくるちゃんが心配してたわよ?」
「朝比奈さんが?なぜだ」
朝比奈さんという単語で俺はのそりと起きる。あの方が絡むとなると嫌でも起きたくなるさ。
ハルヒが(多分)呆れと怒りとで勢いよく上体を起こす。目は三角形だった。
「全くとことん変になっちゃったみたいね?!あんたが神様だのなんだのって大騒ぎしていなくなるから心配してたんでしょーがっっ!!」
ハルヒが叫んだお陰で葉っぱが何枚か抜け落ちたようだ。
俺はというと、ハルヒの発言にただただポカンとしてハルヒの上下する肩を見ているだけだった。
「お、おいハルヒ?なんで俺がそんな電波な発言して消失しなければならない!教えてくれ!」
「知らないわよそんなの!あたしが聞きたいくらいだわっ。」
それから俺とハルヒはまるで噛み合わない会話をギャーギャーと繰り返し、お互い喋りつかれた頃毒にも薬にもならない言い合いは終結した。
ふたり、大の字で寝転ぶ。
やっぱり風が心地よい。
「…ま、」
暫くだんまりを決め込んでいたハルヒが口を開く。
「元に戻ったんなら、まあいいわ」
そうだな。
こんなことをしている場合じゃない、朝比奈さんに心配をかけたままでは死ぬことも許されん…。
さて。
また妙なことが、俺の預かり知らぬところで起きているらしい。
…やれやれ。
最終更新:2007年03月16日 13:26