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一方通行:警備員を倒すことを優先する

一方通行 / 8:21:33 / 第七学区


サブマシンガンの掃射を受け、粉々の木屑と化したドアを踏み拉きながら、一方通行(アクセラレータ)は笑う。

 現在、一方通行は、その最強と呼べる能力に制限を受けている。
 依然頭蓋に負った損傷により、言語・演算能力の大半を失った彼は、
 首に装着した電極の補助がなければ、日常生活を送ることすら出来ない。
 能力を行使できるのも、電極のバッテリーが保つ時間、約三十分間のみ。

 しかし。
 それでも尚、余りある程の絶対的な力を以て。
 『一方通行』は、学園都市全ての超能力の頂点に、君臨する。

一方通行「いいぜェ、手前ェらを裏から糸引いてるドマヌケ野郎が何考えてンのかは知らねえが……
       このオレに喧嘩ふっかけようってンなら、遠慮無く、叩き潰して踏み潰して捻り潰してやンよ」

 白髪の悪魔(アクセラレータ)は、笑う。


        終了条件2:第七学区内の『警備員(アンチスキル)』の殲滅

一方通行は、軽く床を蹴った。
 それだけで、フローリングの床は爆ぜるように砕け、一方通行の身体は高速で警備員達へ接近する。

黄泉川「!!!」

一方通行「動きが遅ェんだよ牛女!」

 黄泉川が防御の構えも攻撃の姿勢も取る間もなく、一方通行の右手が、黄泉川の身体に触れた。

一方通行「お仲間諸共、吹っ飛ンじまいなァ!」

 細かい演算などせず、ただ単純に、黄泉川の身体を警備員達へと弾き飛ばす。
 黄泉川の身体各所の関節が僅かに軋みを上げたが、そこは鍛えられた警備員の身体、ほぼ無傷と言っても良いだろう。

 猛スピードで飛来する大人一人の身体。
 しかも女性とは言え、黄泉川は大柄な部類である。
 その直撃を受けて、警備員の集団は大きくたじろいだ。

一方通行「……!?」

 同時に、一方通行は違和感を感じた。
 それは、触れた黄泉川の身体から伝わってきた、ベクトルの解析情報。

一方通行(血……じゃねェだと? 何だァ、このワケのわかンねェ『赤い水』は?)

 屍人の身体に流れる『赤い水』に、一方通行は気が付いた。
 血液ではない、謎の赤い液体。
 学園都市随一の頭脳を持つ一方通行にすら、解析不能の液体。

 内容成分も、その性質も、全てがブラックボックス。
 まるで、初めから、この世に存在しなかったモノのように。

一方通行(オイオイオイオイ、これが仮にコイツラを操るための薬物かナニかだとして、
       それがまるっきり血液と『入れ替わってる』ってのはどういうコトだァ!?
       何でコイツラ、こんな状態で生きてられンだよ!?)

 屍人の身体を流れる赤い水の呪い。
 そのことを、今の彼が知る由も無かった。

 疑問は尽きない。
 だがそれ以前に、現実問題として解決しなければならないのは、現在の状況だ。

一方通行「チッ、めンどくせェ! 一旦こっから逃げンぞ、打ち止め(ラストオーダー)!」

打ち止め「うん、任せたよ! ってミサカはミサカは惜しげも無く身体を預けてみる」

 赤い涙を流した警備員達が、体勢を立て直す。
 それらに背を向けて、一方通行は部屋の奥にいる打ち止めの元へと跳んだ。
 一足で打ち止めの身体をふん掴み、もう一足で部屋の奥壁を破り、マンションの外へと身体を躍らせる。

打ち止め「ぼわっふ!? ってミサカはミサカは舌を噛みそうになってるよ!
       もっと優しく運んでほしいってミサカはミサカはー!」

一方通行「黙ってろクソガキ!」

 背後からは追い立てるように、警備員の銃撃が一方通行を襲う。
 しかし、銃弾は全て『停止』され、一方通行にも打ち止めにも、何のダメージも無い。

 ベクトル操作の設定を器用に変更し、打ち止めには能力による危害を加えず、しかしあらゆる衝撃・ダメージはカットする。
 これもまた、一方通行の高度な演算能力がなせる業だ。

 マンション外のコンクリート路面へと、無事着地する一方通行。
 着地の衝撃は全て『反射』したため、一方通行と打ち止めの身体には衝撃は一切及ばない。
 それら全てのダメージを受けた路面が、見るも無残に砕けてしまっただけだ。

一方通行「さァて、どうするか……あの警備員共が操られてるだけってンなら、アイツラと戦っても意味はねェ」

 一方通行は、学園都市の頂点。学園都市の裏の顔を、闇の中を、イヤというほど見てきた。
 だからこそ、『表』の人間が、光の中の人々が、利用され、傷付けられることが、許せない。
 それが例え他人の手であろうとも、自分の手であろうとも。

打ち止め「うーん……芳川なら、何か知ってるかもしれないね、ってミサカはミサカは思いついた事をそのまま口に出してみる」

一方通行「あァ?」

 芳川桔梗。
 一方通行の数少ない知り合いの一人であり、曲がりなりにも優秀な科学者である。
 彼女なら、或いは何かを知っているのかもしれない。

 そして恐らく、芳川なら、打ち止めを護ってくれる。
 護衛というには頼りないが、それでも彼女も所謂『裏』に通じる人間だ。
 安全に隠れる事が出来る場所くらいは持っているだろう。

一方通行「……仕方ねェ、芳川の研究所は、確か第二学区だったなァ」

 そう言って、一方通行は、首の電極のスイッチを切り替えようとした。

 限られたバッテリーを節約するための行動だったが、しかしそれはこの瞬間において、油断以外の何物でもない。

 マンションの外への逃亡が成功した瞬間からの、僅かな時間における、思考の空白。
 もっとよく周りを見渡せば、『おかしくなっている』のが、あの警備員達だけではないと気付いた筈だった。
 この第七学区全体が、既に一方通行達の『敵』となっていることに、気付いた筈だ。


 何かが、弾けるような音。



 それが銃声だと、一方通行が気付いたのは、

 打ち止めの右肩に、小さな穴が開いたのが見えた瞬間だった。

 そして、血が噴き出す。
 まるで、噴水のようだった。

打ち止め「……ぁ、れ?」

一方通行「―――――」

 更にもう一刹那かけて、ようやく、一方通行は思考能力を取り戻した。


一方通行「何やってくれたんだテメェェァァァァァァ!!!!!!」


 逆算。打ち止めの肩に撃ちこまれた銃弾の位置、角度。銃声の方向。殺気の位置。
 全てを頭の中に放り込み、狙撃者の位置を割り出す。

 能力。打ち止めの傷に手を触れ、ベクトルを操作する。
 血液の流れを正常化、出血停止。生体電流の操作、自己回復の促進。

打ち止め「……ぁ、ぅ」

一方通行「黙ってろ! 喋るんじゃねェ!」

 一方通行はその全能力を使い、演算する。
 狙撃手の位置を画定し、周囲の気流を解析し、打ち止めを治療する。

 一方通行の脳内に、膨大な量の計算式が組み上がっていく。
 『妹逹(シスターズ)』の能力を借りて行われるその演算は、既に常人が理解可能な範疇を大きく逸脱していた。

 それを嘲笑うように、更なる『敵』が、続々と現れた。
 数を数えるのも躊躇われる、大勢の警備員。全員が、顔を赤く染めている。
 その中には、先の黄泉川逹も混じっている。
 無線か、或いは他の方法か、仲間を呼び寄せたのだろう。
一方通行「ウゼェンだよザコ共がよオオオォォォ!!
     蟲みてェにワラワラ寄って来てンじゃねエエェェェェ!!」

 一方通行の叫びも空しく、警備員逹の銃弾が、今度は一方通行目掛け、容赦なく襲いかかる。

一方通行「オオオオオオオオオォォォォ!!」

 最早、『停止』だけでは終わらせはしない。
 一方通行は、脳内の演算を続けたままで、それらの銃弾を全て『反射』する。
 正確に、確実に、銃から放たれた銃弾を、銃に向けて、反射する。
 警備員逹が持つ銃器は、自身が放った銃弾によって次々と破砕されていく。
 時折、流れ弾が警備員の身体に当たることもあったが、元々が『制圧捕獲用』の警備員の銃器、死ぬことはないだろう。

 そしてその間に、一方通行は全ての演算を、完了した。

一方通行「他人をテメェの食い物にしてるようなヤツは――――」

 赤い瞳で、見えない『敵』を睨む。
 警備員ではなく、狙撃手でもなく、その向こう側にいるだろう、『敵』を。

一方通行「――――トコトンぶちのめすって決めてンだよオオオォォッ!!」

 嵐が、吹き荒れた。

 ベクトル操作によって生み出された気流が、およそ300メートル離れた場所にいた狙撃手の警備員へと牙を剥く。

 木々を薙ぎ倒し、アスファルトのタイルを剥ぎ取り、嵐風は猛る。
 その威力の前に、たかだか警備員用の銃器などでどうすることが出来る筈もなく、狙撃手は呆気なく吹き飛ばされていった。

 だが。

一方通行「ゥゥウウウウオオオオオオォォァァァァァ――――!!!」

 一方通行は、止まらなかった。
 狙撃手の撃破を確認した後も、その制御を緩めようとしない。

 嵐は、より強く、より大きくなる。
 しかし一方通行は、より正確に、より慎重に、その手綱を握る。

一方通行「テメェの好き勝手にさせてやるワケ、ねェだろうがアアアアアァァッ!!」

 その嵐は、残る警備員逹へと襲いかかった。

 壊し切れていない銃器を放り上げ、動きを縛り、呼吸を奪う。

 警備員は、訓練を受けた戦闘のプロである。
 しかし、能力者ではない。
 銃器を無効化され、動作を封じられれば、いとも簡単に陥落する。

 やがて、風が止んだとき、その場に立っていたのは、一方通行と、彼に抱えられた打ち止めのみだった。
 一方通行は、何度か周囲を確認し、ようやく電極のスイッチを切り替える。

 警備員逹は、全員昏倒している。死んではいない、筈だ。
 これなら暫くは起き上がれないだろう、と一方通行は舌打ちしつつ考える。

一方通行(フザケやがって……っ!)

 怒りは収まらない。
 打ち止めを傷付けたことも、他人を操ってそう仕向けたことも、己の油断で打ち止めが傷付いたことも。
 全てが、怒りの対象だった。

 その様子を見ていた打ち止めが、ここで初めて声を上げた。

打ち止め「……とりあえず、ミサカは大丈夫だよ、ってミサカはミサカは胸を叩いイタタタ!?」

一方通行「ばッ!? 何してやがるアホガキ!」

 大丈夫だと伝えたかったのか、勢いよく自分の薄い胸板を叩いてみせた打ち止めだったが、それが肩まで響いたらしい。
 おもむろに肩を抑えて涙目になっていた。

 治癒力を促進したとはいえ、所詮は応急措置。
 傷口は簡単に開いてしまうし、痛みもほとんど引いていない筈だ。

一方通行(……コイツを連れて歩くことは、出来ねェ。
     芳川に会いに行く前に、あのカエルヅラのトコロに行ってみるか……)

 カエル顔の医者。
 『冥土帰し(ヘヴンキャンセラー)』という、荒唐無稽な異名を冠する、凄腕の外科医である。
 腕は確かで、底の知れない部分がある、不思議な医者だ。

 それでも、一方通行は彼に対し、信頼に近い感情を抱いていた。
 患者がいれば、必ず救ってみせる。それが、『冥土帰し』の不文律。
 それを、一方通行は信じている。本人は否定するだろうが、それは信頼と言って良い。


 一方通行は、打ち止めを抱えたまま、よろよろと歩き出した。
 まずは、杖の代わりを、探さなければ。


        終了条件2達成(ミッションコンプリート)
最終更新:2010年11月07日 04:13
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