問いと問題提起の言語化
ここでは論文に必要な「問いと問題提起」の作り方を学びましょう。まず、論文にふさわしい「問い」とは何かを考え、テーマを絞る必要性を認識してください。(「問い」を発見・捻出する発想法については「テーマを決める発想法」も参照)
論文に必要な問いと主張
「論文って何?」では、論文の定義として、表紙・序論・本論・結論・参考文献一覧を、5つの構成要素として挙げました。この5つは、あくまで表記上の必須要素です。一方で、論文の価値を決める本質的なものは、もちろん中身であり、あなたなりの「問い」と、問いに対する「答え」が重要です。これらは「問題提起と主張」とも言い換えられます。戸田山(2002,p.37)
は次のように説明しています。
(1)論文には問いがある。
論文というのは、「なぜ・・・・・・なのか」、「われわれは・・・・・・すべきか」、「・・・・・・と・・・・・・の違いは何か」、などといった明確な問いを立て、それを解決することを目指す文章だ。
(2)論文には主張がある。
問いがあるということは、問いに対する答えがあるということだ。だから、論文を書くために大切なのは、自分の主張を自分の責任で引き受ける勇気、つまり、「何事かを言いきる勇気」だ。
では、ここで言う「問い」とは一体どんなものでしょうか。まずは、授業でよく出されるレポートの課題のタイプを考えてください。戸田山(2002)は、レポートの課題を以下の4つに分類しています。
報告型: 1)読んで報告する 2)調べて報告する
論証型: 3)論点・テーマが与えられる 4)論点・テーマを自ら設定する
「問い」という観点では報告型・論証型の2つに分けられます。報告型というのは、ある調べたい事象・現象についての現状やしくみ、原因、社会的影響などを整理して報告することが求められる課題です。「~の現状(しくみ)は何か」「~の原因とは何か」「~の影響は何か」などを典型的な問いとして、それらに丁寧に答えることが「主張」になります。
一方、論証型というのは、その事象・現象について、「そうした事実が本当にあるかどうか」「今までの議論で触れられていない課題はないか」などを検討し(=問題提起をし)、書き手が、賛否や解決策など、ひとつの立場を決める(=主張する)ことが求められる課題です。
それぞれについて、「問い」の具体例を見てみよう。但し、これらが全てのパターンというわけではありません。
問いの具体例
報告型の課題に合う「問い」の例 問いのパターン
ヒートアイランド現象とは何か。 →現象の定義は何か
少子化現象は、なぜ起こっているのか。 →原因は何か
ブログに人気があるわけは何か。 →理由は何か
年金問題は、なぜ話題になっているのか。→社会的影響は何か
SARSが感染するしくみ →しくみは何か
論証型の課題に合う「問い」の例 問いのパターン
ゆとり教育は学力低下を招いたか。 →事実があるかないか
イワシは将来、食べられなくなるか。 →将来の事実の可能性
結婚するなら見合いか恋愛か。 →Aであるか、Bであるか
出生前診断を法規制すべきかどうか。 →すべきかどうか
成人式は必要かどうか。 →必要かどうか
上では一般常識的な例を挙げましたが、実際には、皆さんの専門科目で、重要とされる文脈で「問い」を作り上げることが必要です。
レポートにふさわしい「問い」とは
以上の点をふまえ、レポートにふさわしい「問い」とは、一体どのようなものか考えてみましょう。
まず、当たり前ですが、
①「専門分野の知識・概念にかかわる」問いでなければならない。次に、
②社会的に意義がある必要がある。あまりにも個人的なテーマで読み手の興味を無視したものであってはいけない。
③その分野でなされてきた過去の議論を踏まえている。最後に、
④自分が立てた問いに対して、主張をする(=答えを言い切る)必要がある。
などの条件を満たさなければなりません。
逆に言うと、答えを導く可能性がある「問い」を設定し、表現することが求められるのであり、その答えを導けそうな資料が手元にある(または見つけられそうな)ことが前提となります。そして、見通しとして、提出の期限までに答えられそうもない「問い」ならば、設定した問いは大きすぎるので、テーマを修正する必要が出てきます。(これを「テーマを絞る」ということもあります。)
最終更新:2012年03月12日 23:51