「仕事」をしくじって、死体の後片付けもしないまま裏路地に隠れていたあの日。
深い絶望の底に堕ちてから丁度3年目のあの日。
空があまりにも蒼くて泣きそうになったあの日。
天使が空から降ってきた。
歯車
―――最初は本当に冗談抜きで、「あの世」に行けたんだと思って嬉しかったんだ。
空を見ていた。
生まれ変わったら空を自由に羽ばたける鳥になろうと思った。
そしたら、「何か」が空から落ちてきた。
「君は・・・誰?」
衝撃と「何か」の重みを感じながら、意識を手放そうとした時
遠くで綺麗な声が聞こえた。
あぁ・・・ここは「あの世」なんだな・・・。
少なくとも、自分に声をかける人間はこんなに綺麗な声じゃない。
ほとんど低い怒鳴り声しか聞いたことがない。
やっと死ねた・・・
今まで本当に大変だった。
「契約」がある限り、自由がなかった。
勝手に死なないよう監視され、毎日毎日人を殺していった。
もう嫌だった。
死んでしまいたかった
でもそれも今日で終わったんのだ・・・
「おい、聞いてるのか?」
遠くで再び綺麗な声がした。
少し苛立っているような・・・・
まぁ気にしないでおこう。
とにかく来世は鳥に生まれ変わろう。
僕が着々と「生まれ変わり」計画を練っていると
綺麗な声は余計に不機嫌そうになった。
「おい、さっさと起きろ。いつまで寝てるんだ。」
うるさいな・・・。
「あの世」は極楽浄土なんだから、少しくらい寝かせてくれたっていいじゃないか。
「お前、僕の言うことが聞けないのか?」
・・・・・・はい?
なんだ、今の王子様発言は。
天使か?神か?それとも何!!
「あの世」にも上下関係があるのか!?
少し絶望していると不意にリアルな感触が全身を駆け巡った。
衝動、ズキンとした痛み、そして・・・・何かがのしかかっている重さ
それらはあまりにも「リアル」だった。
・・・・・もしや生きてる!?
恐る恐る目を開けてみる。
出来れば今のはただの夢で
目を開けた先が本当に本当の「極楽浄土」であることを願いながら・・・
「やっと、起きたか。」
ぼんやりとした視界の中で
裏路地特有の薄暗さと、蒼すぎる空が見えた。
そして朦朧としながら視線を移すと、金髪の少年が仰向けに転がっている自分の上に乗っかっていた。
「お前が下にいて助かった。お前がいなかったら僕は怪我をしていたかもしれない・・・。礼を言う。」
さっきまで、ぼんやりとしか聞こえていなかった声が鮮明に、これが現実である事を誇示するかのように僕の耳に入っていく。
死ねなかった。
時間が経つにつれ、意識と感覚がどんどんはっきりしていく。
自分はまだ、この世界で行き続けなければならないのか・・・
鳥になるのはまだまだ先の事なのか。
思えば思うほどもうなにもかも嫌だった。
死ねなかった上、全身が痛い。
その上、少年の体重が自分に乗っているので余計に重い。
もう最悪だ
とにかく状況を整理すると、さっきの落下体はこの金髪だったらしい。
その上、未だに自分の上から退く気配もない。
しかも上から目線。
段々腹が立ってきた。
こいつ・・・・・!!!
罵詈雑言文句を言ってやろうと金髪の少年に向き直ったとき
小さく笑った美しい金髪の少年が今日の空と同じ色の瞳だったことに気が付いた。
―――あの日、空から天使が降ってきた。
最終更新:2009年06月03日 19:39