出題:5スレ目>>705
>>712
「ほら、早く!」
はるか前方から急かす声。
しかし、そうは言われても手で自転車を転がしながらでは走る速度も限られている。
ガチャガチャとペダルが不細工な音を鳴らしていたが、
声の主とは一向に距離が縮まる気配がなかった。
自転車に乗ってしまおうかとも一瞬思ったが、即座にその考えを打ち消した。
以前試してみた事があるのだが、時間が余計にかかる上に翌日酷い筋肉痛に見舞われた。
時間も体力も考えたことすら無駄、という訳だ。
だから走るしかないのだが――坂の上から二度目のチャイムが聞こえてきた。
「……ああもう、置いてくよ!?」
このままだと遅刻する、というか、既に遅刻がほぼ確定していた。
朝から担任の小言を聞かなければならないと思うと憂鬱になった。
無言で手を振り、前を行く影に先に行けと促した。
それを見て迷う――
「じゃっ!」
――様子を微塵も見せず、先ほどまでとは比べ物にならない速度で走り、置き去りにされた。
薄情者と思わなくもないが、さっきまではペースを一応合わせていてくれたので良しとしよう。
……そう考えなければ、やっていられないし。
いっそ、その場に自転車を置いていけば良いのだが、それはしない。
何故なら、僕は大好きだからだ。
この長い坂を下る時に吹き付ける風。
学校を置き去りにし、前を歩く生徒を全て追い抜いていく爽快感。
そして、その時にほんの少しだけ後方で楽しそうにはしゃぐあいつの事が。
おわり
>>721
特定の坂が、自分にとってただの道ではないような、そう、意味がある存在のようにに思われることがある。
坂が少ない場所で育ったからに相違ない。ある坂は里程標であると同時に、ある程度の試練のようなものでもあった。
人生には三つの坂があるという。下り坂、まさか、三つ目は何だったが忘れたが、比喩的な人生の坂も、
実際の坂と同じような風に思われることがあるのではないか。誰もが通るその坂を、自分もまた汗を滴らせて登るのだ。
人毎に形は異なれどその坂は、単なる一つの期間に過ぎぬにも関わらず、里程標のようなものとして、なにやら記憶に留まっている。
死ぬまで坂を登りたい。汗の玉を散らしつつ……。
最終更新:2010年02月13日 17:36