出題:2スレ目>>280

>>287

『ネムイデス』

男「最近変なメールがよく来るんだよ。件名一切なし、本文に『ネムイデス』だけのメール」

女「返事とかした?」

男「するわけねぇだろ。気持ち悪いよ」

女「返すと、どうなるんだろうね」

男「……どういう事だ?」

女「ごめん、何でもない」

男「おっと、面会時間終わりか。んじゃ、また見舞いに来るわ。さっさと退院しろよ、ケーキ代がかさむ」

女「ふふ、いつもありがとう」


『ネムイデス』

男「またか。……返信、してみるかな? いざとなればアドレス変えればいいし」

『眠いなら寝ろ』

男「よし。何か返ってきたりしてな……っと電話だ。女のお母さんから……?」

男「はい。……いえいえ……え?! 女が?! すぐ行きます!」

男「なんでいきなり! 帰る時は元気だったろうが!」


男「はぁ、はぁ。女は……?」

母「ついさっき様態が急変して……もうすぐ退院できそうだって……今夜が山だって……」

男「大丈夫ですよ。あいつならきっと……」

男「メールか……やっべ、電源切ってなかった。ん? エラーメール?」

男「……さっき俺が返信したメールか。届かなかったんだな」

女「ん……あれ? 男君、まだ帰ってなかったの……?」

母「女?! 大丈夫なのね? 良かった、良かった……」

女「何、お母さん? え、何で?」

男「(偶然……だよな?)」

女「男君、どうしたの? 怖い顔して」

男「いや、なんでもない。安心して気が抜けたよ」

女「ごめんね、心配かけて。もう、『ネムクナイデス』」


>>289


最近オウムを飼い始めた。

/・フ ネムイデス
レ )

変な言葉ばかり覚えて困る。

/・フ ネムイデス
レ )

ちなみに今夜中の三時だ。

/・フ ネムイデス ネムイデス ネムイデス
レ )  ネムイデス ネムイデス ネムイデス

分かったからもう寝ろ!


>>290

/・フ レクイエム
レ )

/・フ トワニネムレ ネムイナラ
レ )


>>300

嫌いだ

 俺はロボットが嫌いだ。
ロボットは人を気遣うということを知らない。
道でロボットと一緒に歩いてるヤツらを見ると、なんかムカッとしてくる。
けれど俺はかつて――幼稚園の頃だろうか――ロボットを買ってもらったことがある。
それ以来、ロボットが苦手になった。
そう。あれ以来――


 その頃はまだ、ロボットは農耕用や工業用のものが多かった。
父がロボット産業に就いていて、その関係で俺の家に教育用のロボットが来た。
試験作のロボットと会うことですら、まだ日本では稀有な時代だった。
父さんはいつも出張ばかりで、俺に構ってやれないことを嘆いていた。その罪滅ぼしもあったのかもしれない。

「ろぼっとト申シマス」

初めての言葉は、とても堅かった。
そして名前もついておらず、品番すら登録されていなかったから、世間的に呼ばれている総称しか彼には記録されていなかった。
俺は彼にボロと名付けた。安直だと我ながら思う。
ボロはまだ幼い俺の遊び相手だった。教育用とは名ばかりで、実にマヌケなヤツだった。
なにもないところでつまづく。照れると頭をかく。
充電用のケーブルをふざけてコンセントに繋ぐと、「コラっ」といいながら追いかけてくる。
もちろんケーブルがピンと張ってボロはこけてしまう。
メガネをかけさせると辺り構わずどこにでも頭をぶつける。バナナの皮を踏むとすべる。
かゆいところに手が届かないといい、背中をかいてやると気持ちいいと笑う。


 彼はとてもマヌケで、そして――やっぱりロボットだった。

「ボロはなにも食べないの?」
ある日、幼い俺はそう訊いた。
「ハイ、ぼろハナニモ食ベマセン」
「なんで?」
「キカイダカラデス」
その頃の俺はどうかしていた。ボロが自分たちと異なるということに気づけていなかった。
「じゃ眠らないの?」
「ハイ、ぼろハ眠リマセン」
うらやましいなあ、と俺はため息と共につぶやいた。
「そういえばボロは作られてからすぐここに来たんだっけ?」
「ソウデスネ。作ラレテカラ、会社で点検シタアトスグニ来マシタ」
「そっか……じゃ山とか森とか海、知らないの?」
「ワタシガウマレタトコロハ山ノナカノ森ニアリマス。ダカラ海ハシリマセンネ」
納得してうなずきつつも、ふいに眠気に襲われてあくびをした。
「ホラ、モウ寝ル時間デスヨ」
そう優しくいいながら、布団をかけ直してくれる。
隣で自分のことを眺めるボロを感じながら、すやすやと寝入った

 ある日、目が覚めるとボロがいなかった。
母さんに聞いても答えない。父さんは――相変わらず会社だ。
しかし俺は父さんのケイタイに電話をかけた。わざわざ電話帳を調べた。
「どうしたんだ一体」
父さんは驚いていた。その驚きがなにに対してのものなのか、俺はすぐに察知した。
「ボロをどこに連れて行ったの」
なんのことだ、と父さんは返す。しかし俺はそれでも問い質す。ごまかせないと踏んだのか、父さんがいった。
「ボロはな、欠陥品なんだよ。あんなにファジーな機械はまだ人間の手では作れないはずなんだよ。
だからお前に危険が及ぶ前に回収した。それだけだよ」
信じられなかった。電話口ではまだなにかいっていたようだったが、俺は電話を切った。そして母さんのカバンを持って外へ出た。
父さんが昔やっていたのを思い出してまねし、タクシーを捕まえる。
バッグのなかから父さんの名前の入った名刺を出して、父さんの会社へ向かった。

会社に着くなり、受付で父さんの名前を叫ぶ。受付の女性が父さんを呼ぶ。父さんを待つ間、俺はそわそわしていた。
父さんが現れると、俺は「ボロに会わせて」といった。俺はもう必死で、父さんの言い訳を聞いていなかった。
それでもいくらか時間が経ったとき、ふいに受付の女性がつぶやいた。
「もう大丈夫ですよ」
父さんはその言葉を聞き、腕時計を見た。俺は父さんを詰問した。不承不承といったていで、父さんは答えた。
「ボロは今、会社の裏口から廃棄場へ連れて行かれた。私はただの時間稼ぎだよ」
本当のことをいうと父さんを殴ってやりたかった。けど時間が惜しくて、会社の外に出た。
タクシーをとろうとしたところで、父さんが俺を呼び止める。無視したが、父さんは俺の肩をつかんだ。俺はキッと父さんをにらんだ。
「父さんとボロ、どっちが好きだ」
めずらしく強い口調の父さんに疑問を感じたが俺ははっきりと「ボロに決まってる」といった。
父さんはうなずくと、俺をむりやり抱え込んだ。俺は暴れたが、父さんは殴られてもひっかかれてもやめようとはしなかった。
そして俺は父さんの車に押し込められた。
「お前がそこまでボロを好きだったとはな」
父さんは運転しながらつぶやいた。いつもとは違って、安全重視の運転ではなさそうだった。
「沽券にかかわる問題だからな。これ以上、父さんの株を下げたくない」
ははっ、と小さく笑う。ミラーに映ったその表情は、悲しそうだった。

それからしばらく経ち、広い森へと入っていく。その奥に、大きな工場があった。
「待っていなさい。どこへも行ってはいけないよ」
そういうと、父さんは車から降りて工場へ入っていった。
何分が過ぎただろう。俺は父さんを疑い、戸惑い、最後に信じてみようと決心した。
さらに時間が経って、父さんが現れた。走っている。その脇にボロを抱えている。
「父さん!」
俺は叫んだが、父さんの後ろには何人もの男たちが追いかけてきている。
ボロを車のなかに投げ込むと、父さんは車を自動操作に切り替えた。閉じたドアの向こうで男たちに抑えられつつ、父さんは笑った。

「ボロ!」
走る車のなかで、俺らは対面した。後部座席に寝転ぶボロは左足と右腕が欠けていた。
「オ父サンハ、ダイジョウブデショウカ……」
その口ぶりからするに、自分の状況がわかっているようだった。
自分が廃棄されることも、それを阻止しようとした父さんがどうなるかも。それでも連れて行かれるときに抵抗しなかったんだろう。
「どうして抵抗しなかったんだよ!」
ボロはためらいながら、小さくぼそりとつぶやく。
「ワタシハ、ミナサンノタメニナルタメニ生マレテキマシタ。ダカラ、ミナサンノ迷惑ニナルヨウナコトヲシテハイケマセン」
ソレニ、と続ける。
「ミナサンガワタシヲ不良品ダトイウノナラ、ソウイウコトナノデショウ。ソレヲ改良、廃棄スルノハ当然ノコトデス。逆ラウコトニ意味ハアリマセン」
「でも!」
叫ぶ俺の口をボロの手がふさぐ。冷たい。悔しくて涙がこぼれた。
しばらく俺は嗚咽を堪えようとして、ずっと失敗していた。そんな自分を情けなく感じていると、スッとボロの手が上がった。
俺の後ろの窓を指している。振り返った。
ゆっくりと車が速度を緩め、止まる。ボロを抱えて外に出る。
海――だった。
青く清んだ空に、見果てぬ水平線。寄せる波に、浜の砂が流されていく。
ボロを覗き込む。海をじっと見つめている。
「これが……海だよ」
砂浜に腰を下ろし、胸に抱くようにボロを座らせる。
「キレイ……デスネ」
感慨深げに――少なくとも俺にはそう聞こえた。
ボロは俺を見上げた。俺はそれを見つめ返す。
「――ネムイデス」
ボロは小さくつぶやいた。
そして、なにもしゃべらなくなった。動かなくなった。



 この出来事は警察沙汰になった。
騒ぎが大きくなったのは俺や父さんのせいだったが、会社は試験用とはいえロボットに不備があったとなっては都合が悪いとして、
早急にボロを回収しようとしたのだった。あくまでも所有権は父さんや俺たちに譲渡されていたのであって、
手順を踏まなかったのが悪かったということもある。
そして父さんはクビになった。ボロが処分されて、生活が少し苦しくなった。ぽっかりと、穴が開いたような気分だった
そういえば、父さんに車の行き先が海だったことを訊いてみたけれど、父さんは「あのときはとっさだったから、偶然だよ」といった。


 ということで、俺はロボットが嫌いだ。
ロボットは人を気遣うということを知らないと今でも思っている。
なぜって? そりゃそうだろ。だってさ、あんな人工的な砂浜を見てキレイだなんていえるか?
そうさ。俺もあまりに嘘臭くて……驚いてただけさ。その風景に見入ってたわけじゃない。
とにかく俺は嫌いなんだ。大事なものを失ってつらくなる俺の気持ちを、理解してくれないロボットなんてのはな。

fin.

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最終更新:2010年02月13日 17:22