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Mad Nugget 第9話 - (2010/08/05 (木) 14:25:32) のソース

<p><span style="font-size:small;"><a href="http://www26.atwiki.jp/sousaku-mite/">Top</a>&gt;<a title="ガンダム総合スレ (3d)" href="http://www26.atwiki.jp/sousaku-mite/pages/119.html">ガンダム総合スレ</a></span></p>
<h2> 「Mad Nugget」 第九話</h2>
<p>ヴァンダルジアから遅れる事、数時間……。緊急討伐隊のペリカンが火星を通り抜けた。<br />
 パノラマの窓に手を当て、巨大な赤い星を物珍し気に見詰めるリリル・ルラ・ラ・ロロ少尉。<br />
 その横からセイバー・クロス中尉が声を掛ける。</p>
<p>「火星を見るのは初めてか?」</p>
<p> 振り向いたリリルは、暫しの沈黙後、素直に答えた。</p>
<p>「はい。……クロス中尉、済みませんでした」<br />
「何を謝る?」</p>
<p> 突然、視線を伏せて謝ったリリルに、セイバーは困惑する。リリルは遠慮気味に声を発した。</p>
<p>「私のガンダムの修理を優先させて戴いて……」</p>
<p> ペリカンに乗艦している整備士の人数は限られている。セイバーはΖⅡⅩの修理を応急程度で済ませ、大破した<br />
ガンダムヒマワリの修理を急がせた。</p>
<p>「気にするな。今度から君は、俺の部下として働いて貰う事になるんだ。何は無くとも、機体が使えないと話にならない」</p>
<p> 責める様な言い方を避け、優しく言ったセイバーだったが、“部下として”の件でリリルが微かに反抗的な目付きに<br />
なったのを見逃さなかった。</p>
<p> 戦場での経験豊富なセイバーに指揮を執らせようと言う、ミッハ・バージ大佐の判断は正しい。<br />
 彼はリリルが撃墜された事を口実に、セイバーの階級を一時的に上げてリーダーに任命し、リリルが彼の命令に<br />
従わざるを得なくした。<br />
 リリルも任務失敗後に何らかのペナルティを受ける事は承知していたのだが、他人の思惑通りになっている事が<br />
気に入らなかった。ニュータイプであるが故に、尚更。</p>
<p> 彼女の態度に、セイバーは穏やかな口調で念を押す。</p>
<p>「俺への個人的な感情がどうだろうと、別に構わない。ただ、命令には従ってくれ」</p>
<p> 内心を見透かした様な彼の言葉に、リリルは反感を強めて口を閉ざした。</p>
<p> 気不味い沈黙にセイバーが溜息を吐いた時、背後から彼に声を掛ける者がいた。</p>
<p>「そこに御座すは撃墜王殿じゃありませんか! この様な所で油を売っていて宜しいのですかなぁ? 機体の整備なり<br />
 何なり、やるべき事は幾らでもあるでしょうに……」</p>
<p> 振り向いたセイバーとリリルに、嫌味な笑みを向けるスイーパーの男性2人。共に黒いパイロットスーツに身を<br />
包んでいる。セイバーに声を掛けたのは、気取った態度のズー・カンバーノ。慇懃無礼な振る舞いに、リリルは顔に<br />
表れる不快を隠さなかった。</p>
<p>「名ばかり撃墜王に、素人の子供。土星の魔王を仕留め損なうのも当然だ」</p>
<p> 続いて、冷たく見下す様に言い放ったのは、ブラド・ウェッジ。<br />
 如何にも柄の悪い2人に、どう対応したものか……。セイバーとリリルが困っていると、別の男性の声が聞こえた。</p>
<p>「お前等、出撃前に何をしている?」</p>
<p> ブラドとズーの背後から歩み寄って来た男女。先程の声の主は男性の方、名はジェント・ルーク。赤いスカーフで<br />
口元を覆っている隣の女性は、ミノ・カレン。共に黒いパイロットスーツを着ている。</p>
<p> ミノ、ジェント、ブラド、ズー。彼等は“ゴートヘッズ”と呼ばれる4人1組のスイーパー。<br />
 ジェントの言う通り、ゴートヘッズは今からギルバートを追って出撃するのだが、緊張感は欠片も無い。その余裕には<br />
裏がある。スイーパー組織の所属で、場慣れしている事もあるが、何を隠そう、逃亡中のハロルドとダグラスを捕らえた<br />
スイーパーと言うのは、彼等ゴートヘッズの事なのだ。</p>
<p> ジェントは呆れ顔で、ミノは無言で、諫める様にブラドとズーを見詰める。2人は、ミノとジェントに向かって戯ける様に<br />
肩を竦めて見せ、立ち去った。<br />
 ブラドとズーの背を見送った後、ジェントはセイバーに向き直る。</p>
<p>「悪かったな。同じ獲物を狙う以上、どうも対抗意識が表に出る様で」<br />
「ああ、気にしちゃいない」</p>
<p> 意図的なのか判らないが、セイバーに謝ったジェントは、愛想笑いで応えた彼を無視する様に踵を返した。<br />
 残ったミノは、無表情でリリルの肩に軽く手を置き、一瞬だけ意味不明な笑顔を見せた後、撓やかな所作で悠々と<br />
ジェント等の後を追う。<br />
 リリルは馬鹿にされたと思い込み、すっかり御冠。セイバーは苦笑いするしか無かった。</p>
<p> ペリカンから出撃する、4機のガンダム。<br />
 目立つトリコロールに青い鎧、右肩に大型カノンを担いでいる機体は、ハイパーウェポンガンダム。<br />
 骨十字を背負い、巨大なブラスターを携えている機体は、ソードボーンガンダム。<br />
 赤いエイの様な外観の機体は、ガンダムエピオンⅣのMA形態。<br />
 そして、両腕部にブレードを畳み込んでいる白黒の機体は、フーマガンダム。<br />
 ゴートヘッズのガンダムは全機、横一文字線が入った片眼鏡の様なセンサーゴーグルを、左目に装着している。<br />
それが山羊の目に見えるので、“山羊頭”。<br />
 ゴートヘッズは2度目の魔王討伐に乗り出す。その結果や如何に……!</p>
<p> パノラマからスイーパーを見送るリリルは、未だ御機嫌斜めの様子で、セイバーに訊ねた。</p>
<p>「何故、言い返さなかったのですか?」<br />
「事実だからだ。口先だけなら何とでも言える。言い負かすのではなく、成果を見せ付けなければ」</p>
<p> リリルは得心出来ず、尚も問い掛ける。</p>
<p>「成果も何も、先を越されては……」<br />
「結構じゃないか。奴等が土星の魔王を仕留めれば、任務完了だ。張り合う事は無い」</p>
<p> 全く動じないセイバーに、脹れて黙り込むリリル。それを見たセイバーは彼女に苦言を呈する。</p>
<p>「リリル・ルラ・ラ・ロロ、少尉を名乗るならば、自身が軍属である事を忘れるな。心配せずとも、好機は巡って来る」</p>
<p> 最後の一言は、傍には単なる慰めに聞こえるだろう。しかし、リリルはセイバーの言葉から、確信めいた物を感じ<br />
取った。彼は軍人としての心得を説きながら、心内では間違い無く、“そう”なると思っている。<br />
 それが果たして何に由来する自信なのか、リリルには理解出来なかったが、根拠の無い予測とは違う様に思われた。</p>
<p> 火星を発ち、アステロイドベルトに向かっていたヴァンダルジアは、後方から迫る3機のMSを捉えた。ブリッジの<br />
モニターに映し出される、ハイパーウェポンガンダム、ソードボーンガンダム、ガンダムエピオンⅣ。見覚えのある<br />
機体に、ハロルドとダグラスは驚いた表情を見せる。<br />
 複数のMSによる追撃に周囲が動揺する中、ハロルドは不敵に笑い、ローマンに声を掛けた。</p>
<p>「奴等か……こんな所でリベンジの機会が訪れるとは! ローマン特別監査官、早く出撃命令を!」<br />
「良かろう。今回は……」<br />
「ダグ、出るぞ! あの時は消耗した状態だったが、今度は違う。目に物見せてくれる!」<br />
「ハロルド・ウェザー、人の話は最後まで聞け!」</p>
<p> 言い終えるのを待たずに駆け出したハロルドに、声の調子を上げるローマン。ハロルドは面倒そうに振り返る。</p>
<p>「未だ何か?」<br />
「相手は腕利きのスイーパーグループだ。クーラー少佐と共に……」</p>
<p> 怒りを落ち着け、努めて冷静に命令し様としたローマンだったが……。</p>
<p>「無用。黙って見ていろ」</p>
<p> ハロルドは無碍に断った。建前上の上官とは言え、その命令を無視出来るのは、ハロルドが自身を聖戦団の<br />
一員と認めていないからに他ならない。ローマンの部下になった覚えは無いので、気に食わない命令には従わないと<br />
決めているのだ。</p>
<p> ハロルドとローマンの遣り取りを見ていたクーラーは、横から冷やかす。</p>
<p>「おや、良いのかい? 危なくなっても助けてやらないよ」<br />
「結構だ! 女は引っ込んでろっての!」<br />
「何っ!? おい、待て!!」</p>
<p> ハロルドは生意気に応えると、逃げる様にブリッジを出て、格納庫へ走った。彼の背を睨み、怒りを溜め込んで<br />
腕を組むクーラー。ダグラスは申し訳無さそうにローマンとクーラーに謝った。</p>
<p>「済みません。しかし、俺も同意見なんです。万一の時は、お願いします」</p>
<p> そしてハロルドの後を追って駆け出す。開いた口が塞がらない、ローマンとクーラー。<br />
 ヴァンダルジアのクルーは皆、呆れ果てた様子の2人を見て、くすくすと声を殺して笑った。<br />
 第1突撃隊に属する者には、見慣れた風景である。</p>
<p> ローマンは隣のヴォルトラッツェル艦長を睨んだ。</p>
<p>「何が可笑しい?」<br />
「いえ、思い出し笑いです。済みません」</p>
<p> ヴォルトラッツェルは何とか笑いを収めて答えたが、にやけた顔は戻らなかった。<br />
 クーラーと揃って、渋い顔で腕を組むローマンが、より可笑しい。ブリッジの不謹慎な雰囲気は暫らく続いた。</p>
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