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F-1-040 - (2010/07/24 (土) 03:46:49) のソース

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*「魔導機関士〈ウィザードリィ・エンジニア〉は語る」

40 :0/10:2008/12/13(土) 22:38:52 ID:yLz7vrcz

仮想科学風味なファンタジーっぽいの投下します。 
某スレの設定にインスパイアされて書いたもの。 
以下の文中〈〉内は直前部分のフリガナとして読んでください。


41 :1/10:2008/12/13(土) 22:40:00 ID:yLz7vrcz

 こんにちは、みなさん。 
 僕の仕事は、魔導機関〈ウィザードリィ・エンジン〉の整備。今日はみなさんにその 
魔導機関の説明をしようと思います。ヘルメットはきちんと被って、お話はよく聞いて 
くださいね。設備には勝手に触らないこと。はい、先生も、今日はよろしくお願いしま 
す。ええと、僕もこういう仕事は初めてなので、どうかお手柔らかに……。 
 え、もっとくだけた口調で? はあ……わかりました、それでは……。 
 ……こほん。 


 ええと、魔導機関の説明をする前に、みんなはジェット・エンジンというものを知っ 
ているかな。そう、昔の飛行機が積んでたやつだね。あれは乱暴にまとめてしまえば、 
エンジンの外から空気を取り込んで、それを燃焼させることで得られる排気ガス、その 
反動を利用して推力を得るものなんだ。魔導機関もそれと似たようなもの……というの 
は、やっぱり乱暴かな? 
 そこで、魔導機関の場合、空気にあたるものは、魔素〈マナ〉ということになる。 
 いまや世界の大気の中をただよっている非活性魔素は、それ自体は反元素としての性 
質を顕わさずに存在している。もちろん、体内に多量に取り込んでしまえば、元素で出 
来た人間の身体にとても悪い影響をなすことはきみたちも知っての通り。魔導術〈ウィ 
ザードリィ〉とはつまり、ある種の混沌状物体……要は元素と反元素の性質を併せ持っ 
た物体を制御することで、その周囲の魔素を制導〈ウィザード〉する技術だ。その混沌 
状物体の代表が、銀分子と魔素の混合物質である魔銀〈ミスリル〉で、その純粋な結晶 
〈クリスタル〉というわけさ。 
 話が難しくなってきた? ウーン、要するに、魔法使いが魔法を使うには、魔力を持 
った杖が必要だろう? その杖にはめこまれているのが結晶。おとぎ話の絵本かなにか 
で見たことないかな? うん、そう、あんなやつだ。 
 魔導機関はどこへいったって? ああ、そうそう、その話だ。魔導機関は、その魔導 
技術を応用した機関〈エンジン〉なのさ。 


 あっ、そうだ、一つ大事なことを忘れていたな。魔銀は元素と反元素の混合物質って 
いうことはさっき説明したけれど、どうしてそんなものがこの世界に存在できると思う 
? うん、そもそもからして、反元素である魔素が存在できること自体、おかしいんじ 
ゃないかって思うよね。あれはね、この世界に本来存在する物質ってのは、すべて元素 
の属性と魔素の属性を併せ持ってるんだよ。ほら、月を思い浮かべてくれるかな。あれ 
は、一方の顔だけこっちに向けてるけど、見えないだけで向こう側の顔もあるだろう?  
あれと同じさ。物質ってのは、僕たちが見ることのできる元素の面と、見ることのでき 
ない純情報的な側面である魔素の面を併せもってるのさ。この世界における魔素っての 
は、その状態が逆転してしまった物質なわけだ。なんでそうなったかってのは、そりゃ、 
歴史の先生に聞きなさい。でも、大崩壊〈グレートコラプス〉って言葉くらいは聞いた 
ことあるだろう? 
 いい加減、話が逸れてきたな。こほん。 
 で、魔銀だ。魔素は根源情報的に異なる元素とは分子結合しないはずなんだけど、魔 
銀はそれを魔導術的な方法で実現したシロモノなんだ。ある特殊な魔導操作を行うこと 
で、魔素を一時的に元素の状態へ変換することができる。その状態で、銀との化学合成 
を行って、そののちに含有された元素状態の魔素を再び魔素の状態に戻したのが魔銀っ 
てわけだ。もちろん、その状態はとても不安定になる。その制御のために必要なのが、 
そう、人間さまってわけだよ。しかもきみたちみたいな若い子だ。 
 魔銀は、専門的にいえば情報的に混沌な状態にある。一方、人間、特に若い人間は、 
情報的に非常に安定している。まだひとつの存在として、情報力学的なエントロピーが 
放散していない状態にあるんだ。だから、魔銀の混沌状態を中和して、情報的に安定し 
た状態にすることができる……。 
 要は、ってずいぶん言ってるけれども、要はきみたちの生命エネルギーみたいなもの 
で、魔銀の持つ魔力的な力を相殺してるんだって思えばいい。三原色を混ぜれば白にな 
るように、人間と魔銀が揃えば魔力的に安定になるのさ。 


 ……そう、今度こそ、いよいよ魔導機関の話。ああもう、ずいぶん回り道になったな。 
魔導術〈ウィザードリィ〉の説明といっしょにしちゃおうか。魔導術ってのは、魔素〈 
マナ〉を制導〈ウィザード〉する技術ってのは言ったね。どうするかって言うと、魔銀 
を微妙に不安定な状態にすることで、周囲の魔素に影響を与えるんだ。これによって、 
元素における化学反応みたいな現象が起こって、いろいろなことに応用できる。でも、 
その魔銀を制御するのは誰だと思う? そう、人間なんだよ。人間がいなければ、魔銀 
をヘタに不安定状態にしようものなら、途端に連鎖反応が起こって…… 
 ドカン!……さ。 
 ははは、驚かないでくれよ。でも、これは本当の話だ。この大大陸〈パンゲア〉が生 
まれた原因、そしてこの世界に魔素が蔓延した原因である大崩壊は、その連鎖魔素反応 
のせいだと言われている。もちろん、その頃には魔銀なんて無かったから、何か別の理 
由だとは言われてるけれどね。錬金術師〈アルケミスト〉? はは、あれは、それこそ 
おとぎ話だよ。ま、本当にいるなら、魔導科学上の諸問題にぜひとも答えてもらいたい 
ものだけどね。 
 ともかく、今は制御方法もわかって、安全に魔素エネルギーを利用することができる 
ようになった。でもね、その中心にいるのはやっぱり人間なのさ。魔銀の制御は、今は 
機械式でやってるけれど、そのうちコンピュータ制御が……え、コンピュータが何かっ 
て? ウーン、物理あたりの先生に聞いてみなよ。ええと、そう、それはともかく、魔 
銀の制御自体はおおむね自動で出来る。要は熱エネルギーを発生させればいいんだから、 
複雑な制御は不要なのさ。あれだ、魔導兵とかいうのはね、空を飛んだり弾を撃たなき 
ゃいけないから、詠唱〈スペリング〉やら何やら、面倒なことをしなきゃいけないけれ 
どね。魔導機関はだいたいのとこ、自動でなんとかなる。でも。 
 でも、それでもやっぱり、人間が必要なんだ……。機関がエネルギーを生産し続けて 
いる間は、ずっとね。 
 さて、ご託はこんなものかな。ずいぶん長くなってしまったけどね。何事も実際に見 
てみるのがいちばんだろう。 
 みんな、ついてきてくれ。案内するよ、魔導機関へ。 


 ……さあ、着いた。ごらん。これが、魔導機関〈ウィザードリィ・エンジン〉……こ 
の閉鎖都市〈シティ〉のエネルギーのほぼ全てを担っているエンジンさ。 
 ……魔素〈マナ〉濃度計チェック、オーライ。おーい、管理室、隔壁とハッチを開け 
てくれ! 隔壁は第四まで、セキュリティレベルはレッド! ああ、オーケー、対魔導 
防壁作動確認した、やってくれ! 
 よし、みんな、見ていてくれ……。 
 …………。 
 ……ああ……そうだ。 
 これが魔導機関の中身さ。見えるかい、あれが。 
 そう、あそこにいるのは、きみたちと同じ人間さ。 
 きみたちと同じ閉鎖都市で生まれ、その情報的安定性が高いゆえに選抜された子供だ。 
年齢は……そう、それもきみたちと同じくらいだろう。彼女は生まれたときからここに 
いる。生まれたときから、この魔導機関の中にいるのさ、エネルギーを産み出すために 
……。 
 彼女はほとんどの時間は眠っている。人間の自由意思というのは、情報的には不確定 
要素だからね。彼女は夢も見ない深い眠りで、一日のほとんどを過ごす。そして、閉鎖 
都市が眠るころ……真夜中の三十分だけ、つかのま、目覚める。きみたちがベッドで寝 
ているころ。あるいは、試験のために必死に机に向かっているころかな。彼女には家も 
学校も試験も無い。その代わりに、この生活がある。 
 彼女の周りにあるのが、そう、結晶〈クリスタル〉だ。大きいだろう。普通の人じゃ、 
あの中に入っただけで一瞬で死んでしまう。難しく言えば、エントロピーの放散によっ 
て物体が固有情報を保てなくなり、分子結合が崩壊してしまうんだ。あの子はそんな中 
で眠っている。大丈夫、ここには魔素は届かないよ。あれ自体の魔導平衡で魔素の流れ 
を抑えて、平衡が崩壊したら結晶自体が物理的に破壊されるしくみになっているからね。 
もちろん、あの子にとっても魔銀〈ミスリル〉や魔素は有害な物質だ。彼女は人より少 
し丈夫なだけでね。魔銀の制御を間違えば、あの子もただでは済まない。だから僕みた 
いな機関士〈エンジニア〉がいるんだ。 
 ああ……怖いだろうね。きっと。少なくとも僕はそうだろうと思う。 
 でも、彼女はああしてここに居るんだ。自分の意思で。 


 あの子は小さいときにここに連れてこられて、まだ自分で何も決められないうちに機 
関の中に放り込まれた。あの頃は、生活のためのエネルギーを得るためならどんな酷い 
ことも許された時代だ。けど、今は違う。そう望めば、こんな生活をやめて、普通の生 
活を送ることだってできたんだよ。そういう権利が認められてる。でもね、彼女はいま、 
望んであそこにいるんだ。なぜだと思う? 
 ……この閉鎖都市を、守るためさ。 
 この魔導機関が無ければ、閉鎖都市は三日と持たずに崩壊してしまう。電力は止まっ 
て、空調やその他の機械設備も止まる。きみたちは知らないかもしれないけど、電気の 
無い都市ってのは真っ暗で、とても寒いんだよ。そして閉鎖都市の外は、普通の人間が 
生きていくことのできない、人を蝕む魔素の渦巻く世界だ。魔導機関があればこそ、閉 
鎖都市は存在できて……そして、きみたちや、きみたちの家族や友達は、生きていられ 
るんだ。 
 そのために、彼女は生きている。きみたちを守るために。 
 彼女は自分の意思でものごとを決められるようになった後も、そうすることを選んだ。 
彼女が辞めたら、別の誰かが機関の中に入ることになる。そうなることを、彼女は拒ん 
だのさ。赤ちゃんの頃から、親とも他の子とも離れ離れで大きくなる子供は、自分だけ 
でいい、って言ってね。 
 ……彼女は夜、目が覚めたとき、何をすると思う? 
 街を見るのさ。きみたちの眠る街を。自分が守っている街をね。 
 そこでは、子供や大人、男の人や女の人、親や子……そういった人が暮らしている。 
そういった人を守ってるんだって思うことで、また眠り続ける生活もやっていくことが 
できる。そうだよ、決まっているじゃないか、辛いに決まっているんだよ……そんな生 
活が辛くないはずがないじゃないか。想像してごらん。一日に三十分だけ、それも真夜 
中に起きて、それ以外はずっと眠り続ける日々。出会う人間といえば、僕たちみたいな 
むさくるしい機関士や、研究部〈ラボ〉のインテリ連中ばっかり。同じ年代の子なんて 
ここにはいないし、お父さんやお母さんさえ自由に会えない。好きなこともいやなこと 
もほとんどできないし、いい夢も悪い夢も見られない。彼女はその人生の四十八分の四 
十七までを暗い眠りの中で過ごしている。笑うことも、泣くことも、怒ることも許され 
ない眠りの中で。 


 でも、彼女はそうしているんだ。自らの意思で。 
 立派だと思うよ、僕は……。 
 彼女の親御さんも、きっとそう思っているはずだ。ご両親はね、毎日必ず、二人でこ 
こにいらっしゃるんだ。あの子がいいって言っても、真夜中の二時半に、必ずだよ。き 
れいな服や飾り物をね、たった三十分しか会えない娘のために買ってくるんだ。帰ると 
きは寂しそうだけれどね、それでもやっぱり、誇らしげなんだよ。ああいう子が、自分 
たちの子供なんだって。 
 きみたちは、どう思う? 
 ……うん。わからないかもしれないね。今はそれでいい。でも……。 
 でも、これだけは覚えておいてほしい。 
 きみたちがこの世界で生きていられるのは、この子のおかげだってことを。これは誇 
張でもなんでもなくて、その通りなんだよ。軍隊が無くなっても、法律が無くなっても、 
国家が無くなりすらしても……。それでも人は、まがりなりにも生きていけるだろう。 
けれど、この魔導機関の炎が消えたら、人は生きてはいけない。閉鎖都市に生きる人も、 
こっそり電気を貰って都市の外で生きている人もね。人が人としてそのままで生きてい 
くには、今の世界は少し荒れすぎているんだ、悲しいことだけれど……。 
 ……それでね、だから、ひとつだけお願いがある。夜眠る前に、ほんの少しの間だけ 
でいいから思いだしてほしいんだ、この子のことを……。 
 誰だって、ひとりぼっちじゃ寂しいだろう? 夜、ひとりで街を眺めるだけじゃ、彼 
女だってやっぱり寂しいと思う。だから、せめて……彼女のことを忘れないでほしい。 
きみたちの記憶の中に、その存在を留めておいてほしいんだ。そして、できることなら 
こう願ってほしい……ありがとう、おやすみ、って。眠る前に、ただひとこと。それだ 
けでいい。せめて彼女の眠りが、少しでも暖かなものになるように……。 
 これだけ、ひとつだけなんて言って、たくさん言っちゃったけれど……やっぱり、そ 
れくらいしてあげるべきだと思うんだ、僕は。もらってばかりじゃ、悪いからね。お返 
しをしてあげないと。せめて、これくらいは……。 
 …………。 
 ……長くなってしまったね。そろそろ、戻ろうか。 
 え? ああ、そうか……。ありがとう、そうだね、今お礼を言ってもらえれば、きっ 
とこの子にも聞こえているはずだよ。 
 ああ……ありがとう。ありがとう、本当に。僕にはこんなことしか言えないけれど… 
…。 
 ……ありがとう。 


 ……そうだね。魔導兵の人は、二十歳を過ぎたあたりで、魔導〈ウィザードリィ〉能 
力が低下するから、魔導兵としては退役することになる。かく言う僕も退役軍人なのさ。 
これでも空軍のエースだったんだよ。そうは見えない? はは、彼女にもそう言われた 
ことがあるよ。この顔の傷がなければ、軍人さんには見えないってね。これは敵にやら 
れたんじゃなくてね、自分で落っこちちゃって……痛かったよ。格好悪いだろう?…… 
おかげで戦争からはおさらばできたわけだけどね。 
 でもね、魔導機関〈ウィザードリィ・エンジン〉の核〈コア〉となった人は、そうは 
いかないんだ。一定以上の魔素〈マナ〉を体内に取り込んでしまうと、逆に魔素の無い 
世界で生きる方が危険になってしまう。だいたい、七、八歳くらいまでが社会復帰でき 
る限界だと言われている。……そう、あの子はもう、十二になる。あの子が日に三十分 
しか外に出られないのは、そういう理由もあるんだ。魔導能力が限界に達すれば、あと 
は、もう……。 
 でも、あの子はそれを含めて決めたんだ。まだ八つの時だよ。その頃、きみたちはど 
うしてたかな……そうだね、幼年学校に入るくらいか。そういうときに、街のみんなを 
守るために犠牲になるかどうかって選択をしたのさ、あの子は……。 
 彼女のご両親はね、ここにきて、やっぱり泣いてしまうこともあるんだよ。立派だけ 
れど、それは小さな子には、あまりに辛くて重い選択だったはずだ。誰かのために犠牲 
になるだなんて、子供がしなくちゃいけない決断じゃないはずなのに。自分たちは、そ 
んな酷いことを子供に押しつけてしまったんじゃないかって……あの子がいないところ 
で、泣いているんだ。 
 でもね、違う、そうじゃない。犠牲じゃないんだ。 
 そう、あの子が言っていた。 
 あの子は、自分の意思で生きている。みんなのために。あの子はあの子の人生を生き 
ているんだ。きみたちと、僕と、同じように……。そう言っていたんだ。微笑みながら。 
自己犠牲だけじゃ、生きていけないって。自分はこの生き方に満足してるって。生まれ 
変わってもまた同じ自分になりたいって、誇らしげな、けれどどこかさびしそうな顔で 
……。 
 どうかな、きみたちは。満足して生きているかい? 
 どうかな、ああ、僕は……。いや、満足は、してないだろうな……。もし生まれ変わ 
れることを許されるのなら、僕は……。 
 …………。 
 ……やっぱり、あの子は立派だよ。僕なんかよりずっと。 


 …………。 
 はは、少し湿っぽい話だったかな……。場所柄かもしれないね。 
 まあ、だからね、あの子のために電気を節約してあげようとか、そういうことは考え 
ないでいい。あの子はどうしたって、その時まではあの場所で暮らさなければいけない 
んだ。今の状態で発電量はいっぱいだから、どっちにしろこれ以上苦労をかけられるこ 
とはない。需要が増えても、あとは都市の方で調節するしかないんだ。きみたちがどれ 
だけ電気を使おうとしても、これ以上、彼女が無理をすることは無いってこと。きみた 
ちの方に何かしわよせがくることはあるかもしれないけどね、そう、停電とか。 
 ああ、そうだ、ときどき停電か何かあっても、彼女の顔に免じて許してほしいね、は 
は。ああいうのはたいがい、機械的な故障だから、彼女のせいじゃ決してないんだけど 
ね。彼女はほんと、がんばってるよ。まじめで、しっかりもので、ほんとうにいい子な 
んだよ。笑うとえくぼが可愛くってね……っと、いやいや、これは関係ないな。 
 ……うん、彼女はがんばってる、そうだよ。 
 だから、きみたちも、きみたちの人生を、がんばって生きなさい。 
 世界は今、こんなだけれども、いつか人間は、誰も犠牲にしなくてもいいような世界、 
そんな世界に変えていくことができると思う。この世に魔法があるとすれば、それはき 
っと、人の英知と勇気なんだ……受け売りだけどね。でも、それこそが、きみたちこそ 
が、誰も信じられないようなすばらしい未来をつくってゆく……魔法のような未来を。 
 そんな未来を、信じてるから、あの子も、……。 
 …………。 
 ……さあ、もう外だ。 


 こほん。 
 今日はおとなしくついてきてくれてありがとう。先生役は本業じゃないけれど、これ 
ならなってもいいかなって思ったよ。少なくとも軍人稼業よりは楽しかった! はは、 
まあ、機関士〈エンジニア〉よりも、ひょっとしたらね。 
 じゃあ、これ、記念にね。もちろん模造品だけど、結晶〈クリスタル〉のキーホルダ 
ー。人数分はあるので、先生、あとで配ってください。いちおう念のため、この結晶じ 
ゃ魔導術〈ウィザードリィ〉は使えないからね! まあ、僕の説明をちゃんと聞いてい 
た人なら、大丈夫だろうけれど。ははは。 
 うん? あ、そちらからも……。ええ、僕が代表ですからね。ありがたく頂きます。 
 ああ、どうもありがとう。でも、ウーン、花束なんて貰っても、僕の職場じゃ飾ると 
ころなんて……。嬉しくないわけじゃないんだけど、こんなきれいな花、もったいない 
なあ……。 
 ……ああ、そうか、そうだね。 
 飾っておこう、彼女のところに。うん、話しておいてあげるよ。今日、きみのもとを 
訪ねた人たちのことを。この花束をくれた人たちのことを。きみのことを知って、きみ 
にありがとうって言ってくれる人たちのことを。 
 きみはひとりじゃない。きみといっしょに生きている人がいる、ってね。 
 もちろん、僕もそのひとりさ!……ありがとう、みんな。 


以上です。支援ありがとうございました。


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