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昨今の同人業界を賑わせているシューティングゲーム、『東方Project』シリーズを
題材とした版権(?)シナリオで、先日公開されたイベントファイルは、
本編公開に先駆けた体験版とのこと。
また、実に60名ものpixivの絵描き師から素材面で協力を得ているそうで、
グラフィック面においても大きな期待の持てるシナリオだ。
なお、筆者は『東方Project』(以下『東方』)に関しては殆ど知らないので、
『東方』の二次創作作品としてではなく、一本のシナリオとして見た上での
感想を記させて頂きます。『東方』ファンの皆様、スミマセン(汗)。
○あらすじ
幻想郷と呼ばれる世界。数々の「異変」に翻弄されつつも、人々は平和な日々を過ごしていたが、
突如、「異変」の記録者である稗田阿求(ひえだのあきゅう)が、謎の人物『ミスターX』によって
誘拐されてしまう。
事件を知った博麗神社の巫女、博麗霊夢(はくれいれいむ)は、ミスターXを追うべく、
友人達と共に立ち上がるのだが……!?
○ストーリー
ストーリーは、幻想郷というファンタジー世界を舞台としたコメディーで、
個性豊かなキャラクター達のやり取りが面白おかしく描かれており、
大筋では楽しく読み進めることが出来た。
また、新たなキャラクターが登場するたびに簡単な紹介が入ったり、
キャラクター同士の会話文などにも、ある程度『東方』を知らない受け手への
配慮が感じられる点は大変好印象である。
戦闘パート以外はメインウィンドウが閉じ、メッセージウィンドウのみで
物語が進行するのだが、会話文はそれなりによく考えられており、
また効果音の使い方もうまいので、劇中の状況の脳内補完もさほど難しくはないだろう。
ただ唯一の難点は、物語中盤の『妖怪の山』における誘拐犯一味の繰り広げるドタバタに関して、
会話文だけでは状況の把握が困難であり、誘拐被害者の稗田阿求が「本当に何なんでしょう、
この状況は……」とつぶやいていたが、それは筆者が訊きたいくらいだった。
ただしこの部分は、読み飛ばしても物語の理解に支障はないので、殊更に指摘すべき
問題点とも言えまい。
○戦闘
戦闘パートは初期配置の敵を全滅後、さらにもう一波の敵が出現、その後ボスが出現という流れで、
難易度は第一話としてちょうど良い、易しめのものだ。
特殊な点は、SRCで遊ぶのは初めて、というユーザー向けに操作説明が盛り込まれている点なのだが、
実はこれがやや曲者なのである。
既にSRCに慣れているプレイヤー向けには、解説をスキップできる選択肢も用意されているが、
問題は操作説明の方だ。登場人物たちが戦闘パートの各コマンドや、味方ユニットそれぞれの
特徴などを解説してくれるのだが、あまりにも一度に多くの事を喋るので、これでは初心者は
混乱してしまうのではないか?と心配になる。もう少し、段階を追って説明する工夫があっても
良かったものと思われるし、また説明そのものも、一部「俺は『スーパーロボット大戦』なんて
やったこと無いぞ!」という層には理解の難しそうな部分があり、全体的に見て、必ずしも
SRC初心者に優しい仕様とは言い難い(※1)。
シナリオのDLページにもSRC初心者向けの配慮が感じられ、そういった姿勢は決して
悪くは無いのだが、「どう説明すれば、受け手によりよく理解してもらえるか」をもう少し考える
余地があったのではなかろうか。
SRC本体に添付されているチュートリアルシナリオを参考に、改善を図るべきであろう。
○演出、その他
もっとも気になるのが演出面である。
「ストーリー」の項に書いた件も勿論なのだが、それ以外にもWaitが必要以上に長かったり、
変なタイミングで入っていたりするので、気になる受け手も多いだろう。
また、何と戦闘アニメが全く添付されておらず、キャラクターの攻撃時に流れるのは
effectデータによる効果音のみなのだが、各キャラクターとも特殊な技が多いために、
何が起こっているのか理解が難しい。
また、SRC公式サイトシナリオコーナー(以下「シナリオコーナー」)の紹介文には、
冒頭で述べたように、多くの絵描きから素材の提供を受けている旨が記されているのだが、
いざプレイしてみると、少なくとも現時点では、キャラクターのアイコン以外にそれらしい
要素は全く見受けられず、受け手をがっかりさせてしまう危険性が高いのではなかろうか。
勿論、体験版である本作に続く本命のシナリオでは大きく異なっている可能性もあるが、
少なくとも「体験版」である本作においても、その辺りのセールスポイントをある程度
アピールしておかなければ、受け手の関心を買う事は難しいだろう。
そう云った意味では、せっかく絵師の協力が得られる以上、ストーリーパートでも
人形劇を盛り込むなり、背景画像を表示するなりといった演出を考えても良かったはずで、
力を入れて制作しているシナリオというのであれば、メインウィンドウが閉じたままの
プロローグ・エピローグイベントというのは、あまりにも味気ないものであると言わざるを得ない。
なおBGMの方は、本作向けの書き下ろしという訳では無いようである。
○総評
本作品が如何なるスタンスで制作されたシナリオであるかによって、評価は分かれるところだ。
何も考えずにプレイするなれば、まずまず出来のよい初心者シナリオとして評価できる。
しかし、それまでSRCに関心の無かった層の取り込みを目指したシナリオであるとするなら、
やや不備が多い感は否めない。初心者向け解説シナリオというのは意外と難しく、
ある程度SRCに精通した状態で制作しなければ、初めてSRCに触れる受け手に、
必要十分な要素を簡潔に、かつ分かり易く説明するのは困難なのである。
また、上述した通り、シナリオコーナーの紹介文は、非常に演出面に力の入ったシナリオであることを
受け手に期待させるような内容だが、実際のところは「演出、その他」の項に記した通りだ。
筆者にもえらそうに言えたことではないが、他のシナリオ群をもっとよく研究し、その上で、
もう少し力を入れて制作されても良かったのではなかろうか。
それが、多くの描き下ろし素材提供者の方々に対する礼儀というものであろう。
とはいえ本作を遊んでみた限りでは、作者氏は少なくとも物語を創る事に関しては、
並以上のセンスを持っている印象を受けたので、シナリオ制作のスキルを上げていけば、
今後化ける可能性も十分にありうるだろう。ひとまず、本作の今後の展開に注目したいところである。
なお蛇足になるが、当シナリオにはクイックセーブやリスタートのセーブデータの他、
何故かSrc.GID、Src.cnt、さらにはSRC本体のヘルプファイルまでもが添付されており、
前二者はシナリオ制作初心者らしいミスだが、後三者に関してはおよそ作者氏の意図を測りかねる。
※1:例えば、本作は等身大シナリオであるにもかかわらず、「パイロット」という単語を用いて
説明してくる箇所があるのだが、これでは初心者には何の事か理解不能であろう。
また、ユニットの性能特性に関する説明では、「スーパーロボット」と「リアルロボット」の
概念を持ち出してくる。
最終更新:2010年05月02日 18:45