SRPG Battle Royale - カルマルート -(現在修復中)
夢の残滓
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夢の残滓 ◆LKgHrWJock
「ガキ、何をしている!」
「……レンツェン、そんなに急がなくていいよ」
「……レンツェン、そんなに急がなくていいよ」
胸の奥を漂っていたもやが凝固し、形を得る。
レンツェンハイマーは確信した。やはりチキの様子がおかしい。
さっきまでのチキならば、「ガキじゃなくてチキだもん!」と勢いよく返すはず。
なのに、この冷静さ。幼い顔立ちにはあまりにも不相応な落ち着きぶりだった。
レンツェンハイマーは確信した。やはりチキの様子がおかしい。
さっきまでのチキならば、「ガキじゃなくてチキだもん!」と勢いよく返すはず。
なのに、この冷静さ。幼い顔立ちにはあまりにも不相応な落ち着きぶりだった。
これも彼女の身に流れる竜族の血ゆえのものなのだろうか。
それとも先ほどの惨死体、肉片と化した人間を見てショックを受けたためだろうか。
気がかりだった。だが、確かめている暇はない。
チキはああ言っていたが、レンツェンには急がねばならない理由があった。
それとも先ほどの惨死体、肉片と化した人間を見てショックを受けたためだろうか。
気がかりだった。だが、確かめている暇はない。
チキはああ言っていたが、レンツェンには急がねばならない理由があった。
「あの黒騎士の気が変わらぬうちに、この村を出ねばならん」
「レンツェンはさっきの人が怖いの?」
「ば、馬鹿な! この俺が何故、怖気づかねばならんのだ!」
「だってレンツェン、逃げたがってるもの」
「……気付いていないのならば、言ってやる。
あの黒騎士に狙われているのはチキ、貴様なのだぞ!」
「レンツェンはさっきの人が怖いの?」
「ば、馬鹿な! この俺が何故、怖気づかねばならんのだ!」
「だってレンツェン、逃げたがってるもの」
「……気付いていないのならば、言ってやる。
あの黒騎士に狙われているのはチキ、貴様なのだぞ!」
レンツェンは、語気鋭く言い放つ。だが、チキは動じない。
大きな瞳はまったく揺れず、ただ唇の端だけが、ほんのわずか釣り上がった。
大きな瞳はまったく揺れず、ただ唇の端だけが、ほんのわずか釣り上がった。
「さっきの人は、チキを殺したりしないよ」
「まったく、貴様はどこまで平和ボケすれば気が済むのだ。
あの黒騎士はな、貴様をガン見していたのだぞ!
兜で顔を隠していたがあの態度は間違いない、貴様を目で追っていた」
「そうだったの……?」
「まったく、貴様はどこまで平和ボケすれば気が済むのだ。
あの黒騎士はな、貴様をガン見していたのだぞ!
兜で顔を隠していたがあの態度は間違いない、貴様を目で追っていた」
「そうだったの……?」
チキの表情に光が差した。口元に浮かぶ淡い笑みが、顔全体に広がっていく。
だが、少女の笑顔に希望はなかった。
そこに浮かぶ愉悦は暗く、幼い顔には不釣合い。
そうでありながら、新しい玩具を見つけ出した子供特有の残虐性を宿していた。
だが、少女の笑顔に希望はなかった。
そこに浮かぶ愉悦は暗く、幼い顔には不釣合い。
そうでありながら、新しい玩具を見つけ出した子供特有の残虐性を宿していた。
――何故、こんな顔をする? 一体何が起きているのだ……?
ただ事とは思えんが、しかし……。
ただ事とは思えんが、しかし……。
不意に、先ほどの黒騎士の言葉が甦る――『貴公。その娘、ただの娘か?』
あの時、レンツェンは、チキに流れる竜族の血に勘付かれたのだと思った。
しかし、彼の言葉には、別の解釈が存在することに思い至る。
あの黒騎士は、チキに生じたこの変化に気付いていたのではないだろうか。
チキの様子は明らかにおかしい。表情、言葉、すべてが違和感に満ちている。
その身に流れる血について何も知らない者の目にも、『ただの娘』とは映らないだろう。
あの時、レンツェンは、チキに流れる竜族の血に勘付かれたのだと思った。
しかし、彼の言葉には、別の解釈が存在することに思い至る。
あの黒騎士は、チキに生じたこの変化に気付いていたのではないだろうか。
チキの様子は明らかにおかしい。表情、言葉、すべてが違和感に満ちている。
その身に流れる血について何も知らない者の目にも、『ただの娘』とは映らないだろう。
ならば引き返し、あの黒騎士に確認するか。
いや、それは出来ない。確かに、味方に引き入れれば心強いだろう。
だが、あの男は何を考えているのか分からない。しかも、周囲にあるのは複数の死体。
自ら仕掛けたのか、降りかかった火の粉を払っただけなのかは知りようもないが、
彼が凶暴な人物であることは確かだと言えた。しかも人の話を聞かない。
そのような者のもとにチキを連れて行けば、どうなるか。
いや、それは出来ない。確かに、味方に引き入れれば心強いだろう。
だが、あの男は何を考えているのか分からない。しかも、周囲にあるのは複数の死体。
自ら仕掛けたのか、降りかかった火の粉を払っただけなのかは知りようもないが、
彼が凶暴な人物であることは確かだと言えた。しかも人の話を聞かない。
そのような者のもとにチキを連れて行けば、どうなるか。
黒騎士はチキを殺さない、これは確かだろう。
だが、自分はどうなる? 自分の死後に、チキはどうなる?
それを考えると、引き返そうなどとは思えなかった。
だが、自分はどうなる? 自分の死後に、チキはどうなる?
それを考えると、引き返そうなどとは思えなかった。
――やはりこいつは俺が守るしかない。
そう思ったとき、一陣の風がふたりの間を吹き抜けた。
聞こえたのは誰かの悲鳴か、民家の扉の軋む音か、それとももっと別のものか、
或いはただの風の音か、それはレンツェンには分からない。
鼓膜の震えに弾かれるように彼はチキを担ぎ上げ、手近な民家に転がり込んだ。
聞こえたのは誰かの悲鳴か、民家の扉の軋む音か、それとももっと別のものか、
或いはただの風の音か、それはレンツェンには分からない。
鼓膜の震えに弾かれるように彼はチキを担ぎ上げ、手近な民家に転がり込んだ。
…………
……
……
この男は話にならぬ――魔王ガーネフは冷ややかに断じた。
異国の貴公子レンツェンハイマーは、臆病な小物だった。
些細な――少なくとも魔王ガーネフにとっては“些細な”――物音に過剰反応し、
民家に逃げ込んでは震えている。そのくせ態度は横柄かつ尊大で、
魔王の現在の依り代である神竜族の幼い姫を己の所有物のように扱う始末。
かといって、身の程をわきまえぬただの愚か者なのかといえばそうでもなく、
傲岸不遜に振舞いながら、その一方では常にチキの顔色を窺っている有様だった。
些細な――少なくとも魔王ガーネフにとっては“些細な”――物音に過剰反応し、
民家に逃げ込んでは震えている。そのくせ態度は横柄かつ尊大で、
魔王の現在の依り代である神竜族の幼い姫を己の所有物のように扱う始末。
かといって、身の程をわきまえぬただの愚か者なのかといえばそうでもなく、
傲岸不遜に振舞いながら、その一方では常にチキの顔色を窺っている有様だった。
つまり、自分自身とチキ個人、彼の心はこのふたつに束縛されているのである。
彼の臆病さの根底にあるものは、これらに対する強い執着なのだろう。
彼の臆病さの根底にあるものは、これらに対する強い執着なのだろう。
もしもそれが己に対するもののみならば、チキの口を借りればどうにでもなる。
<闇のオーブ>の瘴気と魔王の言葉をもってすれば、
卑小な臆病者を破滅の使途に仕立て上げることなど容易いはずだった。
だが、彼の執心がチキにも向いている以上、彼女の言葉は猛毒でしかない。
そして魔王ガーネフには、レンツェンハイマーを生かさねばならない事情があった。
<闇のオーブ>の瘴気と魔王の言葉をもってすれば、
卑小な臆病者を破滅の使途に仕立て上げることなど容易いはずだった。
だが、彼の執心がチキにも向いている以上、彼女の言葉は猛毒でしかない。
そして魔王ガーネフには、レンツェンハイマーを生かさねばならない事情があった。
いかに魔王といえど、今のガーネフはただの残留思念に過ぎない。
復活の可能性を有してはいても、その実態は亡霊、あるいは死者の思い出。
今を生きる人の心に多少の影響を及ぼせるだけで、自らの意思では何ひとつ成せない。
水や風に曝されて岩石が塵と化すように、無数の虚像に浸食されて本質すらも失っていく。
それが残留思念、今のガーネフは肥大化した夢の残滓に過ぎなかった。
復活の可能性を有してはいても、その実態は亡霊、あるいは死者の思い出。
今を生きる人の心に多少の影響を及ぼせるだけで、自らの意思では何ひとつ成せない。
水や風に曝されて岩石が塵と化すように、無数の虚像に浸食されて本質すらも失っていく。
それが残留思念、今のガーネフは肥大化した夢の残滓に過ぎなかった。
ただひとつだけ異なるのは、この思念を<闇のオーブ>が増幅し続けるということ。
残留思念は怨念となり、怨霊となり、いずれは実体を、そして肉体を得ることになる。
それが復活。<闇のオーブ>がある限り、魔王ガーネフは何度でも甦る。
残留思念は怨念となり、怨霊となり、いずれは実体を、そして肉体を得ることになる。
それが復活。<闇のオーブ>がある限り、魔王ガーネフは何度でも甦る。
だが、それは今すぐではない。そして復活を遂げたとき、この島に生存者がいなければ――
レイムやヴォルマルフは、この宝玉の正体を既に知っている様子だった。
ガーネフの付け入る隙となる“人間的な愚かしさ”は、彼らには期待出来ない。
それどころか、彼らは決して<闇のオーブ>を野放しになどしないだろう。
たとえガーネフとしての肉体を取り戻しても、そのとき、この島に誰もいなければ、
ガーネフなど存在しないも同然、封印されたも同然なのだ。
レイムやヴォルマルフは、この宝玉の正体を既に知っている様子だった。
ガーネフの付け入る隙となる“人間的な愚かしさ”は、彼らには期待出来ない。
それどころか、彼らは決して<闇のオーブ>を野放しになどしないだろう。
たとえガーネフとしての肉体を取り戻しても、そのとき、この島に誰もいなければ、
ガーネフなど存在しないも同然、封印されたも同然なのだ。
だから、オーブによる復活を待たず、チキの意識を乗っ取った。
だが、それとて完全ではない。今はこうしてチキを己の依り代としているものの、
それは相手が自我の未発達な子供であり、そして過去の関わりゆえに出来たこと。
だが、それとて完全ではない。今はこうしてチキを己の依り代としているものの、
それは相手が自我の未発達な子供であり、そして過去の関わりゆえに出来たこと。
数年前、ガーネフはチキを捕えて洗脳を施し、己の手駒として利用した。
その体験が、チキの精神をガーネフの意識に同調しやすいものへと変えた。
意識の表層ではガーネフの言葉に嫌悪を覚え、激しく拒絶していても、
その深層では共鳴せざるを得ないのだ。
何故なら、魔王ガーネフはチキにとって、ある意味唯一の理解者なのだから。
その体験が、チキの精神をガーネフの意識に同調しやすいものへと変えた。
意識の表層ではガーネフの言葉に嫌悪を覚え、激しく拒絶していても、
その深層では共鳴せざるを得ないのだ。
何故なら、魔王ガーネフはチキにとって、ある意味唯一の理解者なのだから。
……ガーネフはかつて、大賢者ガトーのもっとも優秀な弟子として知られていた。
大賢者ガトー、すなわち竜石を捨てた神竜族の長老、神竜王の娘チキの指導者。
数千年の寿命を有する竜族の中に蓄積した知識を、ガーネフは的確に吸収していた。
竜族に待ち受ける滅びのさだめも、<封印の盾>の役割も、そしてチキの運命も、
彼はすべて知っていた。人格的な欠陥ゆえに師と袂を分かったガーネフだったが、
その冷酷さゆえに、誰ひとりとして触れることのなかったチキの恐怖を的確に抉った。
だからこそ洗脳を成しえたのだ。そして、だからこそ魔王はチキの“理解者”となった。
大賢者ガトー、すなわち竜石を捨てた神竜族の長老、神竜王の娘チキの指導者。
数千年の寿命を有する竜族の中に蓄積した知識を、ガーネフは的確に吸収していた。
竜族に待ち受ける滅びのさだめも、<封印の盾>の役割も、そしてチキの運命も、
彼はすべて知っていた。人格的な欠陥ゆえに師と袂を分かったガーネフだったが、
その冷酷さゆえに、誰ひとりとして触れることのなかったチキの恐怖を的確に抉った。
だからこそ洗脳を成しえたのだ。そして、だからこそ魔王はチキの“理解者”となった。
ゆえに、チキはガーネフを拒絶出来ない。
魔王の言葉を受け入れる素地が、心の根幹に存在しているのだ。
魔王の言葉を受け入れる素地が、心の根幹に存在しているのだ。
だから、他の参加者ならこうはならない。
たとえ相手が子供であっても、自我を有したまま負の感情に支配されていく。
『ガーネフの意識』の入り込む余地は、そこにはない。
たとえ相手が子供であっても、自我を有したまま負の感情に支配されていく。
『ガーネフの意識』の入り込む余地は、そこにはない。
そしてこのチキにしても、精神状態が大きく揺らげば自我を取り戻す可能性がある。
そうなれば、ガーネフの意識はたちどころに排除されてしまうだろう。
実際、過去の洗脳においても、バヌトゥによる何の魔力も有さない言葉だけで
いとも容易く精神的拘束が解けてしまったという事実がある。
そうなれば、ガーネフの意識はたちどころに排除されてしまうだろう。
実際、過去の洗脳においても、バヌトゥによる何の魔力も有さない言葉だけで
いとも容易く精神的拘束が解けてしまったという事実がある。
ガーネフの足場は、これほどまでに危ういものであった。
神竜王の器を我が物として利用し続けるためには、
チキの精神状態を現状のままに保たねばならなかった。
チキは「レンツェンといっしょ」であることを望んでいる。
ならば、この男は生かさねばならぬ――それがガーネフの結論だった。
神竜王の器を我が物として利用し続けるためには、
チキの精神状態を現状のままに保たねばならなかった。
チキは「レンツェンといっしょ」であることを望んでいる。
ならば、この男は生かさねばならぬ――それがガーネフの結論だった。
面倒ではなかった。手間ではなかった。ガーネフに『時』の概念はない。
時間を惜しむのは死に追い立てられる者のみ、既に死んだ者には関係ない。
それに、この意識はいずれ、神竜王の娘と完全に同化するだろう。
そうなれば、『チキ』の人格が目覚めることは二度とない。
チキとガーネフの境界は消え、ふたつの人格の分離はおろか区別すらもつかなくなる。
時間を惜しむのは死に追い立てられる者のみ、既に死んだ者には関係ない。
それに、この意識はいずれ、神竜王の娘と完全に同化するだろう。
そうなれば、『チキ』の人格が目覚めることは二度とない。
チキとガーネフの境界は消え、ふたつの人格の分離はおろか区別すらもつかなくなる。
手に入るのは、数千年の寿命を持つ肉体と、竜族を統べる神竜王の力。
人類であろうと世界であろうと、支配も滅亡も意のままになる。
人類であろうと世界であろうと、支配も滅亡も意のままになる。
<闇のオーブ>に取り込まれ、死を超越した存在となっても、
やはりそれは肥大化した夢の残滓に過ぎなかった。
闇の宝玉は、特定の感情を際限なく増幅する装置以上でも以下でもなく、
オーブによって成される復活は、極端に歪められた虚像の生成でしかない。
肉体があっても、自我があっても、意思があっても、やはりそれは夢の残滓。
魔王と呼ばれた男の実像、その人生は、闇に呑まれて深淵に消え、己の手すらも届かない。
やはりそれは肥大化した夢の残滓に過ぎなかった。
闇の宝玉は、特定の感情を際限なく増幅する装置以上でも以下でもなく、
オーブによって成される復活は、極端に歪められた虚像の生成でしかない。
肉体があっても、自我があっても、意思があっても、やはりそれは夢の残滓。
魔王と呼ばれた男の実像、その人生は、闇に呑まれて深淵に消え、己の手すらも届かない。
だがこの器、神竜王の娘の肉体さえ手に入れば、
<闇のオーブ>に利用され、使役されるだけの存在ではなくなる。
この男、レンツェンハイマーはそれまで生かしておく、ただそれだけの話だ。
チキの意識と完全に同化を果たすまで、さほどの時は要さない。
神竜族の王女として生きるこのあと数千年の時の中では、ほんの一瞬にも満たないだろう。
<闇のオーブ>に利用され、使役されるだけの存在ではなくなる。
この男、レンツェンハイマーはそれまで生かしておく、ただそれだけの話だ。
チキの意識と完全に同化を果たすまで、さほどの時は要さない。
神竜族の王女として生きるこのあと数千年の時の中では、ほんの一瞬にも満たないだろう。
雨戸の隙間から差し込む月明かりが、やけに白く眩しかった。
殺人者を警戒し、レンツェンはランタンすら灯していない。
人間ならば視野の利かない、闇をぶちまけたような暗い室内。
それでもガーネフには、レンツェンが部屋の隅でうずくまっているのが分かる。
彼が震えていることも、内心の怯えも、ガーネフには手に取るように分かる。
殺人者を警戒し、レンツェンはランタンすら灯していない。
人間ならば視野の利かない、闇をぶちまけたような暗い室内。
それでもガーネフには、レンツェンが部屋の隅でうずくまっているのが分かる。
彼が震えていることも、内心の怯えも、ガーネフには手に取るように分かる。
魔王に“視える”のは、それだけではない。
魔法具の発する波動を幾つも、ガーネフは感じ取っている。
東の方角、村の外れに、<闇のオーブ>と似通った波動を発するものがある。
昼間からずっと、動いていない。恐らくは、打ち捨てられたままなのだろう。
ガーネフはチキの口を借り、うずくまるレンツェンに声をかける。
魔法具の発する波動を幾つも、ガーネフは感じ取っている。
東の方角、村の外れに、<闇のオーブ>と似通った波動を発するものがある。
昼間からずっと、動いていない。恐らくは、打ち捨てられたままなのだろう。
ガーネフはチキの口を借り、うずくまるレンツェンに声をかける。
「……レンツェン、そろそろ行かなきゃ」
「い、いや、待て……、まだ危険が去っておらん!」
「大丈夫だよ、レンツェン。チキが守ってあげる」
「ふざけるな! この俺が何故、ガキなどに守られねばならんのだ!」
「い、いや、待て……、まだ危険が去っておらん!」
「大丈夫だよ、レンツェン。チキが守ってあげる」
「ふざけるな! この俺が何故、ガキなどに守られねばならんのだ!」
震えていたはずのレンツェンが、勢いよく立ち上がる。
その態度に、ガーネフは思う――
この臆病者もいずれ、<闇のオーブ>に取り込まれるだろう。
彼には『素質』がある。かの宝玉が増幅する部類の感情を人よりも多く抱えている。
だから、宝玉と似通った波動を放つ、打ち捨てられた魔槍を持たせれば、
話にならぬこの男も、少しは使い物になるやも知れぬ。
この臆病者もいずれ、<闇のオーブ>に取り込まれるだろう。
彼には『素質』がある。かの宝玉が増幅する部類の感情を人よりも多く抱えている。
だから、宝玉と似通った波動を放つ、打ち捨てられた魔槍を持たせれば、
話にならぬこの男も、少しは使い物になるやも知れぬ。
この男は劣等感が強い。かつての自分に似ているのかも知れない。
大賢者ガトーに師事していた頃の自分。自分より明らかに能力の劣る、
しかし何故か他人に好かれる兄弟弟子のミロアを憎んでいた頃の自分に。
大賢者ガトーに師事していた頃の自分。自分より明らかに能力の劣る、
しかし何故か他人に好かれる兄弟弟子のミロアを憎んでいた頃の自分に。
もっとも、当時の記憶など、遠い昔に見た夢の中の出来事も同然。
今となっては、思い出すことすら出来ないのだが。
今となっては、思い出すことすら出来ないのだが。
◇ ◆ ◇
自分の体が、自分の言葉が、自分のものではなくなってしまった。
自分自身の手足なのに、意に反して勝手に動く。
自分自身の声なのに、その言葉は他人のもの。
ガーネフに乗っ取られた自分の様子を、チキの人格は認識する。
自分自身の手足なのに、意に反して勝手に動く。
自分自身の声なのに、その言葉は他人のもの。
ガーネフに乗っ取られた自分の様子を、チキの人格は認識する。
彼女の意識は眠ってなどいなかった。
体から断ち切られたまま、自分のしていることをすべて、正確に理解していたのだった。
だが、出来ることは何もない。薄い氷の向こうの景色をただ眺めているかのよう。
体から断ち切られたまま、自分のしていることをすべて、正確に理解していたのだった。
だが、出来ることは何もない。薄い氷の向こうの景色をただ眺めているかのよう。
……怖いけど賢くて物知りなガトー様も、
すぐにどこかに行っちゃうチェイニーおにいちゃんも、
とってもあったかいバヌトゥおじいちゃまも、
強くて優しいマルスおにいちゃんも、……それから、
変なとこがいっぱいあるけど頑張り屋のレンツェンも、みんな好き。
すぐにどこかに行っちゃうチェイニーおにいちゃんも、
とってもあったかいバヌトゥおじいちゃまも、
強くて優しいマルスおにいちゃんも、……それから、
変なとこがいっぱいあるけど頑張り屋のレンツェンも、みんな好き。
チキは、みんなのことが大好き。だからみんなといっしょにいたい。
でもガーネフは嫌い、大嫌い。
みんなに意地悪ばっかりするし、マルスおにいちゃんも怒ってた。
それに、チキにだって、意地悪なことをいっぱい言った。
だからガーネフは大嫌い。物知りなのに、ガトー様のところでいっぱいお勉強したのに、
チキのことだっていっぱい知ってるのに、意地悪ばかり言って嫌なことをさせるから。
だからガーネフなんて嫌い。いっしょになんかいたくない。どっかいっちゃえ。大嫌い。
みんなに意地悪ばっかりするし、マルスおにいちゃんも怒ってた。
それに、チキにだって、意地悪なことをいっぱい言った。
だからガーネフは大嫌い。物知りなのに、ガトー様のところでいっぱいお勉強したのに、
チキのことだっていっぱい知ってるのに、意地悪ばかり言って嫌なことをさせるから。
だからガーネフなんて嫌い。いっしょになんかいたくない。どっかいっちゃえ。大嫌い。
ホントに大嫌い。大嫌い、なんだけど――
ガーネフの意識がすぐ近くに、自分の中にいるのが分かる。
嫌だ。気持ち悪い。でも、何故かとても安心する。嫌いなのに。嫌なのに。
嫌なこと、怖いこと、悲しいこと、それらを隠さなくてもいいような気がして、
嫌がらなくても怖がらなくても悲しまなくてもいいような気がして、そう、
たとえ人間を殺し尽しても決してひとりにはならない気がして、心の奥底が安らぐのだ。
嫌だ。気持ち悪い。でも、何故かとても安心する。嫌いなのに。嫌なのに。
嫌なこと、怖いこと、悲しいこと、それらを隠さなくてもいいような気がして、
嫌がらなくても怖がらなくても悲しまなくてもいいような気がして、そう、
たとえ人間を殺し尽しても決してひとりにはならない気がして、心の奥底が安らぐのだ。
だからチキはガーネフに逆らえない。ガーネフを受け入れざるを得ない。
ガーネフに操られるままに、チキはレンツェンを先導する。
草原の向こうに橋が見える。冷たく張りつめた水辺の空気が風に乗って流れ込む。
しかし、チキの足は橋には向かわない。何もない草むらを迷いのない足取りで進む。
やがてチキは立ち止まり、暗い足元を指差した。
草原の向こうに橋が見える。冷たく張りつめた水辺の空気が風に乗って流れ込む。
しかし、チキの足は橋には向かわない。何もない草むらを迷いのない足取りで進む。
やがてチキは立ち止まり、暗い足元を指差した。
「レンツェン、見て。こんなのが落ちてる」
横たわっていたのは黒い槍。穂先の両側には三日月状の刃がある。
とても嫌な感じがした。近付きたくないような、手を触れてはならないような。
けれどもガーネフは、この槍をレンツェンに取らせようとしている。
とても嫌な感じがした。近付きたくないような、手を触れてはならないような。
けれどもガーネフは、この槍をレンツェンに取らせようとしている。
――ダメだよ、レンツェン! 拾ったりしちゃダメ!
こんなの拾ったら、いっしょにいられなくなっちゃう!
こんなの拾ったら、いっしょにいられなくなっちゃう!
チキは心の中で叫んだ。
しかし口から漏れ出たのは、まったく別の言葉だった。
しかし口から漏れ出たのは、まったく別の言葉だった。
「レンツェン、武器、欲しがってたでしょ?」
「ああ、だが……、貴様はこの槍がここにあることを知っていたのだな。何故だ?」
「だってチキは神竜族の王女だもの。遠くからでも、こういうのを見つけられるの」
「そういうものなのか……?」
「ああ、だが……、貴様はこの槍がここにあることを知っていたのだな。何故だ?」
「だってチキは神竜族の王女だもの。遠くからでも、こういうのを見つけられるの」
「そういうものなのか……?」
レンツェンは怪訝そうに首をひねりながらも、槍を拾うべく身を屈める。
やめて! チキは叫ぼうとした。しかし声がまったく出ない。
唇から漏れるのは、静かで穏かな呼吸のみ。
レンツェンを止めなければならないのに、言葉はおろか声ひとつ出せない。
やめて! チキは叫ぼうとした。しかし声がまったく出ない。
唇から漏れるのは、静かで穏かな呼吸のみ。
レンツェンを止めなければならないのに、言葉はおろか声ひとつ出せない。
レンツェンは両手で槍に触れる。とても重そうな槍だった。
レンツェンの細い腕には似合わない。ほら、やっぱりこれは良くない。
こんな槍を持ってたら、レンツェンは動けなくなっちゃう。転んで怪我しちゃうかも。
だからレンツェン、こんなものは拾わないで。重いだけじゃない。この槍、すごく嫌な感じがする。
きっと、ガーネフはレンツェンに意地悪しようとしてるんだ。だからここに連れて来たの。
こんなものを拾ったら、レンツェンとチキはいっしょにいられなくなる。そんなの嫌。
だからそれには触らないで。レンツェンはチキといっしょにみんなのところに帰るんだから!
レンツェンの細い腕には似合わない。ほら、やっぱりこれは良くない。
こんな槍を持ってたら、レンツェンは動けなくなっちゃう。転んで怪我しちゃうかも。
だからレンツェン、こんなものは拾わないで。重いだけじゃない。この槍、すごく嫌な感じがする。
きっと、ガーネフはレンツェンに意地悪しようとしてるんだ。だからここに連れて来たの。
こんなものを拾ったら、レンツェンとチキはいっしょにいられなくなる。そんなの嫌。
だからそれには触らないで。レンツェンはチキといっしょにみんなのところに帰るんだから!
「……おい、ガキ」
レンツェンが顔を上げ、チキを見る。
「この槍は重すぎるではないか。俺は太守なのだぞ。力仕事など――」
レンツェンの言葉が不意に途切れ、細い両目が見開かれた。
チキは怪訝に思った。どうしてレンツェンはこんな悲しそうな顔をするのだろう。
レンツェンは無言でチキの顔を眺めていたが、やがてゆっくりと口を開いた。
チキは怪訝に思った。どうしてレンツェンはこんな悲しそうな顔をするのだろう。
レンツェンは無言でチキの顔を眺めていたが、やがてゆっくりと口を開いた。
「チキ……、何故、泣いている?」
「え……」
「え……」
それは魔王ガーネフにとってすら想定外の言葉だったのか。
言われて初めて、チキは自分が涙を流していることに気付いた。
言われて初めて、チキは自分が涙を流していることに気付いた。
レンツェンはチキから目を逸らし、再び槍に手を伸ばす。
あれほど重そうに見えた槍を彼は片手で易々と拾い、こともなげに立ち上がった。
脳裏でガーネフが哄笑する。チキの意思を、その良心を嘲笑する。
あれほど重そうに見えた槍を彼は片手で易々と拾い、こともなげに立ち上がった。
脳裏でガーネフが哄笑する。チキの意思を、その良心を嘲笑する。
……その槍の名は、イービルスピア。
悲しみや絶望を増幅し、力へと換える暗黒の槍。
悲しみや絶望を増幅し、力へと換える暗黒の槍。
レンツェンは、この魔槍の力を引き出していた。
彼にそれを成させたのは、ガーネフではなくチキだった。
彼女の涙、ガーネフへの抵抗、レンツェンへの友愛、
それらがレンツェンに槍を取らせ、破滅の力を彼に与えた。
勝ち誇るように、哀れむように、チキの脳裏でガーネフが嗤う。
人間の良心を嘲る魔王の思念を、チキはただ感じていることしか出来なかった。
彼にそれを成させたのは、ガーネフではなくチキだった。
彼女の涙、ガーネフへの抵抗、レンツェンへの友愛、
それらがレンツェンに槍を取らせ、破滅の力を彼に与えた。
勝ち誇るように、哀れむように、チキの脳裏でガーネフが嗤う。
人間の良心を嘲る魔王の思念を、チキはただ感じていることしか出来なかった。
【C-4/草原/深夜】
【レンツェンハイマー@ティアリングサーガ】
[状態]:疲労(小)、やすらぐかほり、顔面に赤い腫れ
[装備]:イービルスピア@TO、エルメスの靴@FFT
[道具]:支給品一式(一食分消費)、
ゴールドスタッフ@ディスガイア(破損、長さが3分の2程度)
[思考]0:チキを連れてラゼリアに帰還する。手段は問わない
1:マルスの首輪、封印の盾の入手
2:チキの様子がおかしいが、漆黒の騎士には頼りたくない
3:封印の盾完成まで、マルスの死は可能な限りチキには伏せる
4:オグマなど、(都合のいい)仲間を集める
5:あの少年(ヴァイス)は極刑
[備考]:ヴェガっぽいやつには絶対近寄らない(ヴェガっぽいのが既に死んでる事に気づいてません)。
[状態]:疲労(小)、やすらぐかほり、顔面に赤い腫れ
[装備]:イービルスピア@TO、エルメスの靴@FFT
[道具]:支給品一式(一食分消費)、
ゴールドスタッフ@ディスガイア(破損、長さが3分の2程度)
[思考]0:チキを連れてラゼリアに帰還する。手段は問わない
1:マルスの首輪、封印の盾の入手
2:チキの様子がおかしいが、漆黒の騎士には頼りたくない
3:封印の盾完成まで、マルスの死は可能な限りチキには伏せる
4:オグマなど、(都合のいい)仲間を集める
5:あの少年(ヴァイス)は極刑
[備考]:ヴェガっぽいやつには絶対近寄らない(ヴェガっぽいのが既に死んでる事に気づいてません)。
【チキ@ファイアーエムブレム紋章の謎】
[状態]:失血による軽い貧血(シャンタージュの力により回復は早い)
[装備]:地竜石@紋章の謎、シャンタージュ@FFT(一瓶すべて使用済み。瓶は破損)
[道具]:支給品一式(一食分消費)、肉切り用のナイフ(1本)、闇のオーブ@紋章の謎
[思考]1:チキの意識と融合し、その身を手に入れる(ガーネフ)
2:それまでレンツェンは生かしておく(ガーネフ)
3:漆黒の騎士に興味(ガーネフ)
4:ガーネフなんて大嫌い…(チキ)
[備考]:闇のオーブに宿るガーネフの意思に支配されていますが、
チキの人格は自分のしていることや周囲で起きていることを認識しています。
[状態]:失血による軽い貧血(シャンタージュの力により回復は早い)
[装備]:地竜石@紋章の謎、シャンタージュ@FFT(一瓶すべて使用済み。瓶は破損)
[道具]:支給品一式(一食分消費)、肉切り用のナイフ(1本)、闇のオーブ@紋章の謎
[思考]1:チキの意識と融合し、その身を手に入れる(ガーネフ)
2:それまでレンツェンは生かしておく(ガーネフ)
3:漆黒の騎士に興味(ガーネフ)
4:ガーネフなんて大嫌い…(チキ)
[備考]:闇のオーブに宿るガーネフの意思に支配されていますが、
チキの人格は自分のしていることや周囲で起きていることを認識しています。
| 121 擦れる羽根 | 投下順 | 123 Box of Sentiment |
| 121 擦れる羽根 | 時系列順 | |
| 120 保護者Lの献身 | チキ | |
| 120 保護者Lの献身 | レンツェンハイマー |