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山本 勘助プロローグ

疾きこと風の如く
徐かなること林の如く
侵掠すること火の如く
動かざること山の如し

四方を山々に囲まれた甲斐国であるが、駅直結のモデルルームがついにオープンした。
その名も『ローレルペンタゴン風林火山J』
最大の売り文句は何と言っても駅直結45分、始発駅の街であることだろう。
ショッピングモールから徒歩1分。北向き中心で思う存分武田城を眺めることが出来る。
しかも駐車場は100台もあった。
現地案内会開催中です。
これは即入居だ。

現地案内会会場に、怪しげな男が一人。
ふらふらとした風体で、髪は総髪、泥塗れの山師だ。腰に刀を帯び、右眼を閉じ、右脚を擦りながら歩いている。右耳からは半透明の触手が生えているではないか。
この男、名を山本勘助という。幼い頃患った疱瘡の為にこの見た目になったと本人は主張しているが、所詮は怪しげな山師である。

40歳になる現在迄、士官を求めながらも各武将から断られてきた。その見た目も一因だ。
だが、ミツは受け入れてくれた。
ミツが身籠ったと聞き、勘助は身を固めようと決心したのだ。士官を諦めても良いと考えた。そこで新居の下見に来た訳である。

「おお、勘助ではないか。」

声をかけてきたのは山師仲間の青木大膳である。全身から剣気を放つ油断ならない男だ。彼もまた勘助と同じく武将への士官を志す者だ。だが如何せん、隠そうともしない傲岸不遜な態度から、勘助とは別の理由で未だ誰にも雇われない。中途半端に実力を持つのが更に厄介だ。しかも本人はそのことに気付いていない。

「実は俺結婚するんだ。」

勘助はいきなりカミングアウトした。ここで読者の皆さんは戦国時代にカミングアウトなどという言葉が存在することに驚くだろうが、真実は所詮こんなものである。

「マジか。最悪かも。超ウザいし。」

青木大膳はロン毛のファミチキみたいな頭のクズだ。マジで知能までダサダサかも。
大膳はいきなり勘助を殴ってきた。

「死ねオラァ」

どうしよう。大膳はヤバイ奴だったのだ☆
勘助はマジで殺されるかも。

「俺は魔人に覚醒したから超マジで魔人になりたてだからマジで自分の力を抑えられないんだよ。俺のマジで超魔人の力で死ね。」

青木大膳は魔人能力に覚醒したのだ。その能力は人呼んで『お酒をのむことBARの如し』というらしい。こう見えて青木大膳はカクテルをシェイクするのが、超得意だ。青木大膳の作る死のカクテルを飲んだ人間は、知らず知らずの内に数日後再び青木大膳の元を訪れるのだ。
そう、勘助はマジでいつの間にか、毎晩寝ている間にジントニックを口の中に注ぎ込まれていたのだ。

「法律的には、魔人能力に目覚めたての犯罪は、初回特典みたいに、許されるんだぜ。つまり、人を殺しても良いんだぜ。」

でも、青木大膳は再犯四回目だった。マジでつまらない男かも。
青木大膳は、人を殺してしまった罪悪感に耐え切れず、犯行を行う毎に、記憶を消しているのだ。そのため、何度も初犯と勘違いして、知り合いを撲殺しようとするのである。
クズかも☆死んでも誰も悲しんだりしないし。
この悪夢のような能力から逃れる方法はただ一つ。
大膳を説得するか、殺すかだ☆
勘助はマジで殺されるかも。
だって勘助は優しい性格だから。いくら死んで良いやつとは言え、殺せば角が立つのは知ってるもん。
軍師ゆえの知略って奴?

その後、勘助は人気のない場所に移動して青木大膳を説得することに成功した。かつて青木大膳だった肉塊を後に山本勘助はどこへ行く。

山本勘助が向かった先、それはミツのいる村だった。
ミツとは甲斐の山中で偶然にも知り合った仲だ。それが縁でなんと妊娠してしまった。
気立てが良い田舎娘である。勘助は気立てという言葉の意味を理解してないが、多分褒め言葉なので積極的に使っていきたい。

勘助が村に到着すると、まず最初に会ったのは平蔵だった。

「おお、平蔵ではないか。どうした。」

平蔵は村人Aである。ミツの幼馴染で、当初は勘助を受け入れなかった。
平蔵は涙を流していた。俳優の佐藤隆太みたいな顔で悔しそうに涙を流していた。
村の男は滅多に涙を流さない。勘助は軍師特有の知略で空気を読み、同時に嫌な予感がした。

「ミツが信虎様にサイボーグにされちまっただぁ」

一瞬、勘助は言葉の意味を理解できなかった。
馬鹿な。そんなこと嘘に決まってる。
武田信玄の父、武田信虎。親子の不仲からくる乱暴狼藉の話は枚挙に暇がない。
だがまさか、無関係の村人であるミツをサイボーグにしちまうなんて。
武田家のメカ帝国め。

「マジで最悪。許せないかも。」

勘助は凄まじい怒りの感情に目覚めた。

「平蔵…アタシは今から一人で焼き討ちに行くみたいな?止めないで!」

「俺もマジで行くから。」

これは平蔵なりの優しさって奴?そういうの求めてないんだよね。

その後、勘助は平蔵を説得することに成功した。平蔵を後に勘介はどこへ行く。

勘助が向かった先、それは武田城だった。
山梨県立ペンギンパーク博物館、別名武田城。
館内のレストランで焼肉をしている一団がいた。
彼こそは液体化したペンギンみたいな見た目の男、武田晴信(武田信玄のクローン)と板垣信方である。
武田信玄がペンギン部隊を率いてセイウチを撃退した伝説に因むこの博物館は、合成麻薬やメタンフェタミン、シーチキンや馬鈴薯などの豊富な焼肉を楽しめる。

「殿、父上の蛮行はもはや目に余りますぞ。」

メカ武将、板垣信方である。股間に備え付けのテレビが接続されており、その画面からは魔人英雄伝ワタルマンの再放送が流れている。

晴信は父、信虎とは「お前はもっとカニクリームコロッケのようにしろ」と言われて以来、口を聞いていない。

「板垣、ワシは同人誌というものを描いてみたのじゃ。」

「ははぁ。これは…なんとも面白きものですなあ。」

「貴様の意見など聞いておらぬわっ!」

「お屋形様〜っ!」

その時、壁が爆発した。館内のペンギン達が労働基準に不満を持ち、ストライキを始めたのだ。そのストライキは凄惨を極めた。ありとあらゆる物体が破壊され、武田晴信は討ち死にし、板垣信方は逃亡し、山本勘助が巻き込まれて死に、ペンギン達は国家簒奪をした。戦国の世とはこういうものである。

ヤングなペンギン達がいる。まあ年齢で言えば三十代というとこか。彼らはヤングなので新幹線でアイフォーンを充電する。充電しすぎて新幹線が止まってしまった程だ。まあ若気のいたりやな。これも思い出や。

彼らの行き先は上越妙高駅だ。そこは限りなく長野に近い新潟であった。実際作者も長らく長野だと思っていたほどだ。これが上越妙高駅の真実である。
さて、この恐るべき真実には続きがあった。上越妙高駅に到着したペンギン達が向かったのは駅長室だった。ドアには『立入禁止』と書かれた看板が掛けられている。ペンギンは気にも留めず、すり足で中に入っていく。

そこは駅長室ではなかった。壁一面を埋め尽くす大量のモニター、そこには炎上する山梨県立ペンギンパーク博物館が写っている。モニターの向かい側には黒漆塗りのデスク。タバコを咥えた男が座っている。
ペンギンと男が対面した。ペンギンは男に話しかけた。

「今回の事業は大失敗だぞ『監督』。」

『監督』と呼ばれた男。七三分けに紺ネクタイ、土気色のスーツ姿を着た白髪頭だ。どこかリーダーシップを感じさせるその風貌には笑みが貼りついていた。
『監督』はペンギンを見ると立ち上がり、口を開いた。

「タケダネットお墨付きの事業がストライキで頓挫するとはな。まさかそんなこと思ってもみなかった、ハハッ。土壇場で君を派遣しておいてよかった。歴史再現都市『甲斐国』はどうだった?新潟と変わらん混沌ぶりだろう。」

甲斐国は甲斐国では無かった。
より正確に言えば、安全に管理された養殖物の甲斐国だ。

「…」

ペンギンは押し黙っていた。

「わけを聞きたいか?今回の山本勘助は性格が良く無かった。いくら成長途上とはいえ行動に慎みが無ければ戦場では生き残れない。だから試しに職員を突っついてストライキを起こしてみたら、見事に巻き込まれ死んでしまった。
何かを育てるというのは時間が経つほど途中で死なれると損失が面倒だ。我々に取っても、スポンサーに取っても、タケダネットに取ってもな。」

ペンギンは怪訝な目で『監督』を見た。

「聞いても良いか『監督』?山梨県立ペンギンパーク博物館。ありゃなんだ?山梨県にペンギンなんているわけないだろ。」

「スポンサーの意向って奴さ。ペンギンって言葉の語源を知ってるか?」

「何だって?」

「ペンギンさ。アレは元々北半球のイギリスを中心に生息する別の生物の名前だったんだぜ。日本名でオオウミガラスという。だが我々の知るのは南半球のペンギンだけだ。絶滅したからな。
この二つは全く異なる生物でありながら"空を飛べない"という同一の進化を経て酷似した姿を得るに至った。歴史再現都市『甲斐国』はさらながらタケダネットにとってのペンギンだ。イデオロギーの収斂進化だ。だが、いかな事業といえど金がなくては立ち行かない。だからタケダネットは事業を民営化させスポンサーの意向を組むことで事業を存続させている。」

歴史再現都市『甲斐国』。
長野県の土地を、大きさハリウッド分丸々買い取って作られたその'計画都市"はタケダネットによる支援を受けながら管理されたシナリオの元、200年前の歴史を再現する為だけに運営されている。大河都市。
だが当初の意志は運営資金獲得の為の民営化によって歪んだ。ローレルペンタゴン風林火山J、山梨県立ペンギンパーク博物館、館内レストラン、すべてはスポンサーのコマーシャルに過ぎない。
ペンギンは嘆息すると、着ぐるみを脱いだ。中から出てきたのは左目が隻眼の男だ。その左耳からはなんと触手が生えているではないか。

「それで俺が次の『山本勘助』か…」

「君は次までのつなぎだ。私の知る限り、耳から触手の生えた魔人能力者は君しかいない。ストのお陰でスムーズに次の任務に移行できる。今から君が『山本勘助』だ。」

伝説の傭兵である『山本勘助』はタバコに火をつけ、一冊の本の表紙を眺める。武田家歴史書、甲陽軍鑑である。

「歴史は再現されなくてはならないのか。」

「例え山本勘助という人物が実在しなかろうと、むしろスポンサーの意志を体現するにはうってつけだ。古今東西、商人達にとって都市建設は金のなる木さ。次の事業が再開するには何週間か時間がかかるだろう。そこでこんなのを見つけた。」

『監督』はリモコンのボタンを押した。すると壁一面のモニターに映る画面が切り替わり、二人の人間が戦う姿が映し出された。
『山本勘介』は始めて笑った。『監督』もまたより一層の笑みを浮かべた。

「武闘会だとよ。『監督』特権だ。たまにはこういうのも良いだろうっ?」

なんという職権乱用であろうか。だが、二人は無邪気に笑う幼児そのものである。

「この事業はタケダネットの意向でありながら世界支配の規模から見れば極々小規模な一事業に過ぎない。まあ気楽にやってくれ。」

「『監督』…いや、長官。一つだけ条件がある。」

「分かってる。任務完了後は君の望む隠居生活をバックアップしよう。『甲斐国』でな。」

「いや…欲しいものがある…」

『山本勘介』はモニターを眺めた。戦い。充足。だが…今それ以上に欲しいものは…

「…最新VRゲーム機だ。賞金は購入費用に充てたい。」

『監督』は声を上げて笑った。

「ハッ!良いねぇ。」

そのキャンペーンは
DANGERUS
最終更新:2016年06月30日 00:36