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一回戦第一試合その2


限りなく長野に近い新潟、上越妙高駅上空500mを軍用ヘリが飛んでいた。
これこそは歴史再現都市『甲斐国』運営チームからの参戦者、山本勘助を搭載した作戦司令ヘリである。

「いいか、今回の任務は対外的なコマーシャルだ。君が『山本勘助』であることは何も変わらん。だがそれ以外なら何でもやっていい。好きにしろ。」

ヘリ後部座席に座る山本勘助に話しかけるのは『監督』。かつて伝説の部隊を率いて各地の戦場を『山本勘助』と転々とした英雄である。声が渋い。

「わかってるよ『監督』。有望な奴がいれば勧誘すれば良いんだろ?それくらい言われなくてもわかってるって。」

山本勘助はペンギンコスチュームを見に纏いながら笑った。彼らは歴戦の戦友として心が通じ合っているのだ。
『監督』もまた破顔した。

「言われなくても仕事が出来るようになったじゃないか?ええっ?この戦闘司令ヘリは君の持つアイフォーンを通じて連絡が取れるようになっている。文明の利器って奴だな。ハハッ」

その時、山本勘助の腕時計が20時59分を示した。

「じゃあ、行ってくるよ『監督』。」

「あぁ、上手くやれよ。」

瞬間、後部座席にポータルが出現した。ペンギンスーツを纏った山本勘助はポータルの真下へと落ちて行く…

山本勘助が移動した先、それは2km離れたスクラップ置き場だった。
慌てず周囲を確認する山本勘助。遠く前方に先程まで乗っていたヘリの機影が見える。

(やれやれ、近所じゃないか。きっぽちゃんも随分と人が悪…い…)

山本勘助は内心毒づいた。ペンギンの脚が踏んでいるのは死体。"先代"山本勘助の死体である。そう、ここは歴史再現都市『甲斐国』の墓場。大量消費され弄ばれた資本達の最終処分先。
賢明な読者諸君ならもうわかるよね。ここは"新"潟県"ス"クラップ置き場の"敷"地内。略して『コミケ』である!!!
あちこちで立ち上がる煙!絶対に吸ってはいけない!
そう!これは戦争だ!気を引き締めろ!賢明な読者諸君のボケが!死ぬぞ!死ね!死ね!死体だらけだ!賢明な読者諸君め!

「賢明な読者諸君めぇぇ…!」

山本勘助とて人間だ!いきなりこんな罪深い光景を見せられて動揺しないわけがない。それは伝説の部隊に所属していた山岳傭兵とて同じだ。
『コミケ』にはつい先日まで生命活動していた旧『甲斐国』の残滓達がそこかしこに転がっている。山本勘助の足元にある山本勘助の死体しかり!向こうの瓦礫の山の頂上で窒息死している武田晴信しかり!
粛清されたペンギン労働者達しかり!全身にウルトラマンのソフビを刺されて死んでいる板垣信方然り!
ここにいる生存者は『山本勘助』だけだ!ダメだ!自分が何者なのかわからないなりそうだ。自分の定義は揺らいではならない!『山本勘助』はなんか過去の部隊全滅のトラウマとかを思い出す。それはよく分かんないけど動悸とか息遣いとかを荒くさせ、暗いのとか凄い怖かった。『山本勘助』は孤独な傭兵なのだ。あんま良く分からんけど。想像力豊かな賢明な読者諸君は脳内補完とか出来るんではないでしょうか。賢明な読者諸君め。妄想の世界に逃げ込みやがって!賢明な読者諸君め!

だが、この場に生存者はもう一人いた。既に山本勘助の背後に迫っているゾォォーーッ!?わからないのかァァァーッ?ホラー!
それは最早人間ですら無かった。そいつは宇宙一厄介な賢明な読者。あるいは腐女子、又の名を新人類。その姿はテクノダンスをしながら低ラップ音をだして迫り来る四つん這いの化け物だった。

「ココココココ」

この賢明な読者こそが山本勘助の対戦相手、神田蜜柑である!その奇怪な低ラップ音に流石に気付いたのか、山本勘助は振り返る!

「何奴ッ!」

振り返り様、山本勘助は抜刀し一閃!だが誰もいない!?馬鹿な!つい先程までそこには神田蜜柑とかいう新人類がいた筈だ!
もうわかるよね。神田蜜柑は山本勘助が振り返るよりも速く、チーター並の速度で前方に回り込んだんだ。それは何でだと思う?分からないのかボケが!答えはいきなり刃物とか持ち出されたら誰でも避けるからに決まってるだろ!社会常識が無いのか読者諸君は!

だが、賢明な読者諸君の中でも、比較的社会常識のある神田蜜柑は刃物が危ないことなどお見通しだ。それくらい赤子でも分かるぞ。それすら理解できない一部の読者諸君は赤子以下か。一生ラップ聴いてろボケが。ここはスラム街かよ。

「オィィィィイィ!馬鹿か貴様は!振り向き様に刀抜く奴があるかボケェェェ!」

神田蜜柑は叫ぶ!この時!山本勘助は自らの必殺の剣撃があっさりと回避された事実を悟るとともに、自らの前方に立つ四つん這いの女の存在に漸く気付いた!勝負開始だ!
さて、刃物が危険だという極々当たり前の事実に行き当たった所で山本勘助は先程から自身の中で研ぎ澄まされる、よく分からない感覚の正体にも気付きつつあった。
それはスクラップ置き場の彼方此方に点在する、違法薬物だ。山梨県立ペンギンパーク博物館のレストランのメニューは焼肉なのだが、その中身は合成麻薬やメタンフェタミン(覚せい剤のこと)、シーチキンや馬鈴薯などの通常では認められない危険なドラッグだった。それらが廃棄され行き着く先が『コミケ』だ。つまり、山本勘助はこれからラリりながら戦わなければならないという圧倒的不利な状況に既に陥っていたのだ。
ホラー映画名物!ドラッグを吸って落ち着く奴!知的だ!

「ぐぅッ!これは違法薬物か…!ここにいてはマズイ!」

だがこの状況…?敵方である神田蜜柑は何とも無いのか?いや…この神田蜜柑とかいう女、さっきからやけに恍惚とした表情になってないか?

「夏彦兄さん!」

ラリっていた!神田蜜柑もまたラリっていた!だが、違法薬物摂取による幻覚作用はむしろこの女にとってプラスの効果なのだ!
『シュガードープ』!脳内妄想によって身体能力を増幅する能力!
自身の能力と違法薬物のブーストの相互作用によって神田蜜柑は無自覚のうちにパワーアップ!戦う前から神田蜜柑は手のつけられない超パワーの持ち主と化していた!

「おぼぼぼぼぼかかかかかこれはヤバゆすなぁwwww妄想が止まりませんぞwwww妄想がw夏彦兄さんwwww」

夏彦兄さん!その暗黒たる未知の領域の言語は違法薬物で弱った山本勘助の心を完全にへし折った!

「なっ…!夏彦兄さんだってェェェ!夏彦兄さんはヤバイですよ!小太りの!着流し姿で!指ぬきグローブの…夏彦兄さんだってェェェ!勝てないィィィ!」

勘違い!山本勘助が想像したのは別の夏彦兄さんだ!だが、このままでは戦う前に負けると判断した山本勘助は一刻も速くこの場から離れるべく千鳥足で移動!所詮はジャンキーか!

「逃げなければ…この場から離れなければ…!」

転び、惑い、泣き喚きながら神田蜜柑から距離を取る山本勘助。彼は最新のVRゲームをしながら悠々自適な生活を送りたいだけであって、キモい腐女子と命がけの麻薬バトルをしたいわけでは無い!誰だってそうだ!山本勘助だってそうだ!
伝説の傭兵…?山岳猟兵…?エリートォ…?兵法だとぉ…?
そんなもの!人間の積み上げた業の前ではクソだ!その辺に転がるスクラップ以下の価値だ!覚えとけ!無力!山本勘助は腐女子から逃げることしか出来ないのか!

「テメェ….どこ行きやがる…!」

ァァァ〜!逃げることすら出来ない!神田蜜柑は山本勘助が距離を取りつつ逃げ惑っていることに気づいてしまった!

「アタイはぁ…!幻覚に浸っている暇はねぇぇ!恩赦!政界からのバックアップによる恩赦を得る!そして自由の身となって…それから趣味の世界で生きるのさァァァ!お前を倒してなァァァ!」

なんという腐女子の精神力か!彼女は山本勘助とは違う!本物の戦闘者だ!古強者だ!初志の目的を忘れることなく…麻薬の幻覚を打ち破った!全ては政界からのバックアップを受け恩赦を得る為に!具体性が一切存在しないプランだが、麻薬バトルは精神力の強い方が勝つ!賢明な読者諸君は彼女の強い精神力に感動すべきでは無いか。

「アタイは!」

腐女子は跳躍!凄まじい敏捷性だ!野生のチーターなどゆうに超えているだろう!山本勘助が逃げ切れる道理はない!

「ァァァー!」

捕まり、地面に抑え込まれる山本勘助!無様だ!この時、上空のヘリにいる『監督』は漸く異変に気付いた!鳴り響くアイフォーン!充電不足であと10パーセントしかない!クソが!

「アタイはお前を倒す!」

強い決断力!その強さはどっから湧いてくるんだ!腐女子はペンギンの首根っこを引っ掴む!この構えは腐女子必殺の構え!『首折り』だ!

「ダメだッ!アイフォーンがペンギンスーツの内側にあって通話することが出来ナィィィィ!助けてくれ!『監督』! いや長官!俺に力を貸してくれェェェ!」

情けなや軍師殿!よもや他人頼みとな!
だが現実は非情である!神田蜜柑は山本勘助の発言に一瞬表情を硬直させると…ペンギンスーツの首を逆さ十字に持ち上げ力を込める…

…捥げたァァァーッ!ペンギンの首が捥げ…いやッこれはッ!

「こいつはッ!着ぐるみ!」

そう!麻薬で認識能力が低下していた神田蜜柑はペンギンスーツを着た山本勘助が本物のペンギンであると勘違いしていたのだ!だが気化した麻薬が充満し、命がけの戦いを強いられるこの状況で誰が彼女の判断ミスを責められよう!神田蜜柑は悪くない!
悪いのは…オオウミガラスを乱獲し絶滅させながらもよく似た姿の現代のペンギンを南極から連れてきて奴隷労役させている人類が悪い!賢明な読者諸君め!賢明なる読者諸君め!
ともかく!捥げたペンギンスーツの中から出てきたのはアイフォーンだ!アイフォーンだぁー!?

「アイフォーンがスーツの中で引っかかって通話出来ないの…なら…お前に通話してもらう事にしたよ…お嬢さん…」

アイフォーンを掴んでいるのは…触手!馬鹿な!何故触手で攻撃しなかった!それにはきっと深い訳があるのでしょう。

『どうした!?何があった!』

このスピーカー音声は『監督』からの通話だ!山本勘助はペンギンスーツの首が捥げる瞬間!即座に首を引っ込め、触手を操りアイフォーンを操作したのである。

「あぁ『監督』いや長官!やっと繋がった…愛してるぜ!」

アメリカンジョーク!だがこの発言は腐女子には異なるベクトルから衝撃を与え、甚大なダメージを与えた…!

「"愛してる"だとぉ〜!この神田蜜柑の前でッ!男性が男性に対して愛の告白などッ!それが意味するところワッ!」

『…成る程な。そうだ!我々は深い信頼関係で結ばれている。そうだろう?『山本勘助』くん!』

「あぁ、『監督』いや長官!!」

「ホァァァーッ!ホァァァーッ!」

腐女子は発狂!無理もない!

「フヌヌヌ…ヤバイですぞォ…貴様!まさか男の子が好きなのか!」

「ああ!大好きだぜ!」

「ハァァァーッ!」

腐女子の肉体に過剰なエネルギーが蓄積されてゆく!男の子同士の恋愛という妄想を与え続けることは肉体に過剰な負荷をかけることとなる!パワーアップと諸刃の剣だ!

だが何故!?山本勘助はどのタイミングで神田蜜柑が腐女子であり…その攻略法を見出したのか!?
それは初めからだった!ポータル移動直後から麻薬を摂取していた山本勘助は…自らの主観以外にも"第三者視点"で"超感覚的に"物事を"俯瞰"していたのだ!これを略して『コミケ』だ!これでもう一つの『コミケ』だ!『コミケ』が二つ揃った!
"第三者視点"を得ていた山本勘助は…麻薬による重度のトラウマ再発と精神汚染を受けながらも神の視点から物事を見定めていた!全ては最初からヒントが散りばめられていた…!

「こんな馬鹿な質問をする事になるとはだけれど…どうしてアタイが腐女子だと分かった!?」

「賢明な読者諸君め…!賢明な読者諸君(腐女子のこと)も読むだろう?BL本?」

「成る程な。アタイはとんでもねぇ最新刊を見逃していたようだぜ…」

神田蜜柑は四つん這いで項垂れる!ここで山本勘助に絶好のチャンス到来!触手を突き刺し塩分を吸い尽くし殺すのだ!
だが、山本勘助はそれをしなかった。彼も人を選ぶ。キモい腐女子の塩分を吸うと体調に影響すると考えていたのだ。健康志向!知的だ!
山本勘助は神田蜜柑に優しく手を伸ばす…

「どうする…?このまま俺と『監督』いや長官のイチャイチャ音声を聞き続けて肉体がパワーアップに絶えられなくなって爆発するか…?そういう能力だろ多分お前は…?違うか?我慢比べが好きか?
それとも…我々と一緒に来ないか?」

「!? どういう…ことだ…?あと私の名前は神田蜜柑…」

『神田蜜柑…と言うのかね?君は。えっと…まあ…強そうだし我々と来ないかね…?』

「いやそうじゃない『監督』いや長官…人間、強さなんて虚しいだけさ。このスクラップのようにな。大事なのは心さ。彼女は我々にそれを示してくれたぞ『監督』いや長官。
『神田蜜柑』…!お前は"恩赦"と言ったな!つまり、お前は追われる身なんじゃないか!?」

名推理!山本勘助は日常会話は常人並みにはやれば出来る子なのだ!むしろ戦闘中ですらベラベラ会話できるコミュ力の奴らがおかしい!

「そうだ…!確かに!」

『そうか…!なら我々は『甲斐国』で君を匿うことができる。良いかね、神田蜜柑君。恩赦を得たところで、君は現実社会の適合性はゼロだ!社会不適合者だ!だが我々なら君が自由に活動できる場を提供出来る!』

勧誘!山本勘助は神田蜜柑の本質を見抜き、その強さと弱点を見抜き、あまつさえ仲間に引き込もうと言うのだ!これぞ真の風林火山!ラブ&ピースだ!

「断るッッッ!」

「えっ」

神田蜜柑が山本勘助に飛びついたのはその時だった。

「悪いな…お前ら二人を見てると…心が張り裂けそうだ!一緒には居られねぇ!所詮、アタイに行き場所なんてねーのさ!」

『馬鹿な!交渉は失敗だ!殺せー!この女を惨殺しろー!』

弾ける暴力!爆ぜる臓物!神田蜜柑の圧倒的飛びつきによって山本勘助の下半身は既に消し飛んでいた!だがそれは神田蜜柑に取っても同レベルの衝撃が与えられた事を意味する!

「ギャァァァァァア!」

叫ぶ山本勘助!

「ギャァァァァァア!」

叫ぶ神田蜜柑!殴り合いの暴力だ!喧嘩だ!だが、圧倒的男の子同士の恋愛を見せつけられた神田蜜柑のパワーは山本勘助を遥かに凌駕している!

「嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ!」

トラウマ再発!山本勘助は狂乱状態!こいつは下半身が無くて平気なのか!
触手が飛び交う!神田蜜柑の左こめかみに触手が突き刺さり…反対側の首から貫通した!

「ゲェェーッ!」

絶叫する神田蜜柑!飛び出た触手は彼女の腰椎をねじ砕きながら…腰に突き刺さった!

人類史上最初の発明は…殺人と死体だぁー!

「俺は悪くない俺は悪くない俺は悪くない俺は悪くない俺は悪くない俺は悪くない俺は悪くない俺は悪くない俺は悪くない俺は悪くない俺は悪くない俺は悪くない俺は悪くない俺は悪くない俺は悪くない俺は悪くない俺は悪くない!」

「止めて…いや…止めて…」

凄まじい力で山本勘助の首を絞める神田蜜柑!その体は塩分を吸われ、みるみるうちにブヨブヨの肉塊へと変じてゆく!これで本当にキモい腐女子の爆誕だ!

一方、神田蜜柑の塩分を体液ごと吸っている山本勘助は既に首をへし折られ顔面が蒼白になりながらもドラッグによる覚醒状態の為未だ死ねなかった。そして能力ではないと偽りつつも、それはコマーシャルの為の嘘であり、山本勘助の触手は魔人能力!ひとたび吸い上げれば死ぬまで離さないぞ!
吸い上げた"分"は消し飛んだ山本勘助の下半身からみるみる流れ出ている!

「駄目…ぅぁ…」

あっという間の出来事だ!ブヨブヨの肉塊の出来上がりだ!山本勘助は男の子同士の恋愛を見せつけられたことで無限にパワーアップし続ける神田蜜柑のエネルギーすらも触手で吸い上げていたのだ。だから死にたくても死ねなかったのだ!神田蜜柑が絶命したことで山本勘助もこれでやっと死ねるぞ!

「俺は…悪く…ない…止めて…」

10分後、苦しみ抜いた後に山本勘助は死亡した。賢明な読者諸君め。
勝った!第一回戦完!完全勝利!やはり山本勘助は強かった。

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最終更新:2016年07月04日 00:07