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二回戦第一試合その2


【前回までのダンゲロスSS裏CINDERELLA あらすじ】

タケダネットによって支配された世界に変革を目論む太陽帝国のソルジャー、アポロムは
運命の子、雷堂影美を襲撃するも、突如現れた冷蔵庫によって撃退される!
そして始まった武闘会! 脳内の四兄弟『四季彦さん』達のカップル妄想によって己の身体能力を増幅する腐女子、神田蜜柑は
賞金で最新VRゲーム機の購入を狙う軍師山本 勘助の触手攻撃によって塩分を吸い取られるも、土壇場の妄想力で
放射性廃棄物を投げつけることで辛くも一回戦勝利した!

そして敗れた山本勘助は……。

「くっ、我が兵法が敗れるとは……」

タケダネットの治療によって、体は元通りになったものの、放射性廃棄物による汚染によって、未だ脳に深刻な衝撃が残ったままの山本勘助。

「だが次の戦いに向けて策を練り直さねばならぬ……」

彼に与えられた使命は歴史上に存在した触手を操る軍師、『山本勘介』を再現すること。
有望な人材を甲斐国に勧誘すること。
そして彼自身の目的は最新VRゲーム機の購入である。

初戦に敗れたとはいえその使命と目的への想いはいささかも変わりは無い。
神田蜜柑は有望な人材であったし、賞金はこれから買って得れば良い。

山本勘助は何とか気を取り直して、タケダネットから知らされた二回戦の対戦相手の名前を見る。

「『冷蔵庫』だと……」

稀代の軍師、山本勘助……の名を継ぐ者を演じる人間として勘助はこの大会に現れる可能性のある魔人のリストは既に調べ上げていた。
14代目武田信玄を名乗る者、KGBの凄腕潜入捜査官、元世界政府の傭兵でもあった体育教師、地下格闘コロシアム 『天の磐戸』 のチャンピオン、ガンバトラー……。
表の世界に名の知れたものからから裏の世界の実力者まで、あらゆる予想をその頭の中に組み込んでいたが、
「冷蔵庫」などどいう名前はそのリストには無かった。
いや、そもそも一回戦から神田蜜柑からしておかしい。何故腐女子がこの武闘会にエントリーしていたのか。
確かに最近タケダネットによって指名手配リストに加わっていたが……。

「それはこの私が答えてやろう」

「なっ……」

刹那――。勘助の背後に突如として巨大な影が現れた。
それは巨大な球体だった。
否――ただの球体ではない。
並みの人間の顔より一回り大きい巨大な輝く球体に人間の目と口が付いていた。
それはまさに太陽が顔になった生物であった。
宙に浮かんだ太陽の口から言葉が発せられた。

「我が名はシャマシェム……。偉大なる、太陽帝国の智将也」

「太陽帝国、だと……?」

山本勘助の膨大な知識の中にも太陽帝国などどいう名前は無い。
かつて太陽の沈まない帝国を名乗った国はあったが、産業革命によって大きく力を伸ばした大英帝国によって滅ぼされている。

「山本勘助よ、この星の歴史上、もっとも偉大な軍師の一人よ」

勘助は咄嗟に耳から触手を伸ばし、応戦態勢に入る!
だが、シャマシェムは意に介さず、言葉を続けた。

「お前に歴史の真実を教えてやろう」

勘助の目の前のシャマシェムの輝きが、はるかに力を増した。


*****************************************



ドドドドドーーーーーーー


四方を囲む巨大な水流。
幾重にも積み重ねられたウォーターフォールが地下付加へと打ちぬけていく。
TVでナイアガラの滝やビクトリアフォールズの光景に心を奪われた人は多くとも、生涯でこのような光景を眺める人は滅多にいないだろう。
ここは海底都市。
歴史に置き忘れられた伝説の大陸アトランティス。すっかり荒れ果て、水と珊瑚しか目ぼしいものがなくなっていたその土地を、
しかし弱小大名であった徳川が三百年間せっせと開拓し、ミラクルピースと呼ばれる表の歴史から一切隔絶された太平の世を作り出したことは、賢明な読者諸君ならご存知の事と思う。

アトランティスはタケダネットが支配するこの世界において俗に「鎖国体制」と呼ばれる永世中立が許された世界でも珍しい土地であったが、
しかしどこの世界でも血生臭い争いを求める輩はいるもので、この海底格闘闘技場はそうした連中の渇望を満たすべく、
徳川が四年に一度の御前試合、いわゆる天下一武闘会を開催するための「秘密格闘技場」であった。

だが今宵、この闘技場に行われるは天下一武道会でも徳川によって選抜された剣士や格闘家でもない。

「左~~~~、赤コォォォォナァァァ~~~冷蔵庫ォォォ~~~!!」

徳川のアナウンサー、井伊直弼が高らかにマイクを持って入場者宣言を行う!
ワアアアアアアーーーーー!! と観客席から巨大な歓声が上がる!

「とおっ!」

宣言通り左コーナーから、冷蔵庫がダッシュで現れ、コーナーポストの上を蹴って飛び越え、堂々とリング状に着地する!
なお懸命な読者諸君は既にご存知だろうが、この冷蔵庫とはリングネームでも何でもない! 正真正銘、諸君らの知る冷蔵庫に手足の生えた意志持つ冷蔵庫である!

「みんな、今日は僕の応援よろしく!」

冷蔵庫が高らかに手をふって観客に応える。
観客は皆熱狂している! 冷蔵庫がどんな戦いを見せるのか、口々に囃し立てている!
三百年の太平と鎖国体制によってやや平和ボケしたアトランティスの住人たちは、どうやら冷蔵庫をちょっと変わった外国人程度に思っているらしい。

「アイス、美味しいなー」

そんな冷蔵庫とアトランティス住人をやや冷ややかな目で見るは運命の子、雷堂影美!
冷蔵庫によって事前に観客席に運ばれていた彼女は、やはり冷蔵庫が取り出した秘蔵のアイスを食べながら試合を観戦していた。
ちなみにそのアイスの名前はハイパーカップ ブリテン・アーサー味。 一個一万円の超高級アイスだ!

「右~~~~、青コォォォォナァァァ~~~山本勘助ェェェ~~~!!」

そして右コーナーからゆっくりと現れるは、ペンギンのコスチューム!
歴史を名をその名を残す天才軍師だ!

「兵は詭道なり」

ゆっくりサイドロープをくぐったペンギン、山本勘助はボソボソとそう告げる。

(むっ、何か様子が……!?)

冷蔵庫は勘助のただならぬ気配に勘付き、様子をうかがう。
周囲の観客たちは「ペンギンだーー!」「冷蔵庫だーー!」「殺せー!」「潰しあえーー!」とアナウンサーにさっさとゴングを鳴らせと喚きたてる。
長い平和によって血に飢えた彼らには、リング状の闘技者の様子などまるでお構いなしとばかりだ!

「それは、試合を開始しましょう! スリ~~~、ツ~~~、ワァ~~~~ン!!」

冷蔵庫は一先ず拳を握り、ファイティング・ポーズを取る。
ペンギンはふらふらとした足取りのままである。

「ファイトォ~~~~!!」

井伊直弼が、高らかに宣言し、ゴングを鳴らす!
開始直後であった!

「先手必勝……ナリ」

突如、ペンギンの耳の部分が千切れ、中から触手が飛び出てくる!
無数の触手が冷蔵庫に纏わりつく!

オオオオーーー!! 観客たちのボルテージはいきなり最高潮!
雷堂影美は一個目アイスを食べ終え、まだ食べたりないと二個目のアイスに手を伸ばす!

「無駄だっ!」

だが、冷蔵庫は触手に身を包まれても平然としている!

「悪いが、冷蔵庫に塩分は無いぞ、山本 勘助よ」

そう、残念ながら冷蔵庫の構成物質に塩は無い!
いくら触手で塩分を吸おうとも無駄な事! 山本 勘助の能力は無機物が意志を持った存在には無効だったのだ!
というか、仮にも私が作ったキャラでありながら、塩分が無いとはどういうことだ! せめてその手足に塩分ぐらいは無かったのか!
世の中には塩がきっかけで婚約までした作家もいるんだぞ! 冷蔵庫に結婚する気は無いのか! かがみさん、あらためておめでとうございます!

「インフィニット・フリーザー!」

冷蔵庫は強引に扉を開いて、冷気を放出!
たちまち触手は凍り付き、冷蔵庫はそのまま全力で凝結した触手をパリンと粉砕して、振りほどいた。

例え塩分を吸う力がなくとも、触手に絡まれ続けることは不利である。
動きが封じられる、というだけではない。触手にはもう一つ恐るべき力、対象の性感帯を適格に刺激することで、絶頂へと導く能力があるのだ。
このまま放っておいては冷蔵庫のあられもない姿を賢明な読者諸君にさらさなければならない。
神田蜜柑程の妄想力たくましい人間ならともかく、それは多くの読者にとって望むところではないだろう。

「どうした、それで終わりか、山本勘助」

冷蔵庫は訝し気に山本勘助に問いかける。
心の中でやはり、これはおかしい。と告げていた。
冷蔵庫に塩分は無い。山本 勘助程の優れた軍師ならば、事前に難なくたどり着ける答えである。
勿論、対戦相手の冷蔵庫という名前が本物の冷蔵庫だということに思い至らなかった可能性もあるが、
その程度の事実に調べが付かぬ人間が勘助の名を告げるとは到底思えなかった。

「フ……ハッハッハッハッ」

その時! 耳から触手の生えたペンギンからズズっと黒炎のようなオーラが!!

「やはり、この器では……無理か。大人しく敗れておれば良かったものを、冷蔵庫よ」

ぺンギンはゆらゆらと宙に浮かび上がり、その瞳をギラリと輝かせた。
これには流石に会場もどよどよ……と戸惑いの空気に変わる。
雷堂影美はその時、新潟特産のアイス、もも太郎をガリガリとあわててかけ込み過ぎて、頭がキーンってなっていた。
皆も夏にかき氷タイプのアイスを食べる時は気を付けよう。

「貴様、太陽帝国の使者か!」
「その通り。名はシャマシェム。太陽帝国きっての智将」

ペンギンの背後に黒い太陽が浮かび上がる。

「何が目的だ! 僕を倒す事か!」
「然り。しかしそれは小目的に過ぎん。 我がこの人間と一体化し、ここに顕現している大目的は別にある」

ペンギンは手をパタパタとしながら、しかし一層邪悪なオーラを纏わせ、口をパクパクしながらその恐るべき目的を告げた。

「この男は真実の歴史に最も近いところにいた。 山本勘助。その稀代の転載軍師は実際に存在しかどうか、歴史上では議論になっている」

「それは僕も知っている」

「そしてそれは偽の歴史でも『真実』の歴史でも共通だ」

「何っ!! 『真実』の歴史だと!?」

「そうだ、我が太陽帝国の目的は『真実』の歴史の再現! 偽の歴史を生きるお前たちは疑問に思うことも無いだろうが、そもそも武田信玄が天下人になり、世界を支配する歴史など有り得ない!」

「何だと!?」

「それどころか、武士が支配する世は2000年代まで続くことは無い! 関ヶ原の戦いも武田信玄と織田信長によるものではなく、そもそも武田信玄の宿敵は織田信長ですらない!」

「嘘だっ!! そんなことが……私はただの冷蔵庫に過ぎないから感覚は薄いが……そんな事実をこの世界の人達が受け入れられるとは思えない!!?」

「『真実』だ。 些事ではあるが、天下人は本来は徳川であり、関ケ原以後、三百年日本の支配者となったというぞ? 偽りの世界の者どもよ!」

オー!オー!と観客席はいつのまにか熱気を取り戻している。
どうやらあまりに突飛な話に演出の一つと多くの者が受け取ったのだろう。 次に何が起こるのか、固唾を飲んで見守っている。
雷堂影美はまだ頭がキーンとしていて、うーんうーんってなってる。

「そして我が目を付けたのが、この男だ。 正確にはこの男が勤めていた『場所』だが……。中々真実の歴史に近い舞台を再現しておった。 どのように嗅ぎ付けたのかは分からぬが……」
「僕には分からない。『真実』とは、なんだ」
「ふっ、今その一端を見せてやろう。真実に近いこの男はいわばこの世界における一つの特異点。これに我が太陽帝国の力が加われば、真実の歴史への鍵を一つ引き寄せることができる!」

ペンギンの背後の太陽オーラが、頭頂部で巨大なリングとなって回転を始めた!

「現れよ! 『真実』よ!」

そしてそのリングから一つの人影がゆっくりと降り立つ――。



それは――。

それは、真下のペンギンの黒いオーラとは全く真逆な神々しい光を持っていた。
否――、それは別に光を発してはいない。外観はいたって普通の人間である。
サングラスをかけ、黒いスーツに身を包み、整った黒髪の中肉中背青年。
特徴的なのはその手に握ったマイク。これは現代におけるいたって普通の男性ボーカル歌手。

いや!!
普通ではない!!
何も光など発していなくても、誰も目にもその威風には神々しいオーラのようなものが見えるではないか!
なんだ、これは。神か。いや、神ではなく、紛れもなく人だ。だがこのただならぬ気配はーー。


「あれは――」

冷蔵庫が呟く。

「おおお……あのお姿は」

井伊直弼がその姿を拝む。

「オオーー、オオーー」

観客たちの眼が涙に濡れる。

そしてようやく頭痛から回復し、その姿を見た雷堂影美が、その名を告げるーー。


「上杉、謙信……」



*****************************************


越後の龍、と呼ばれた戦国武将がいた。
魔獣、蛮族、異界人、魔人、侍達による内乱が長く続いた魔境新潟――その当時は越後と呼ばれていた地を瞬く間にその手で統一した天才戦国武将。
彼の活躍は正しい歴史を知る読者諸君には今更解説の必要もない。
ただ、シャマシュの言葉を借りればこの偽りの世界における歴史では残念ながら正しい歴史において上杉謙信の最も有名な足跡の一つである五回にわたる川中島の合戦は行われていない。
真実の歴史と偽りの歴史のズレをここで説明しきることは時間の都合上難しいのだが……一つだけ間違いなく共通することがあった。

「ではまず一曲ほど、歌おうか」

上杉謙信がそのマイクを手に取る。

『暁月夜-DAY BREAKERS-』

上杉謙信の神の如き美声か闘技場中に響きわたる――。


オーーー


オーーーーーーーー


オオオーーーーー


ああ、どうしたことか。
観客も、井伊直弼も、シャマシュすらも、その歌声、そして謙信のパフォーマンスに膝をつく。目を奪われる。耳を支配される。

まさに現代に君臨した芸術の王者。

「くっ、こんな……僕が……」

無機物である冷蔵庫も例外ではない。
上杉謙信のライブの前には生命が宿らぬ存在であっても関係ない。八百万、全てが打ち震える。

「素晴らしい、素晴らしいぞっ……キャハハッ!!」

ペンギンが、シャマシェム感動に膝を付きながらもが狂ったように哄笑する。

「流石は上杉謙信――否――」

上杉謙信。
それは正しい歴史においても、偽りの歴史においても優れた戦国武将であると同時に、優れた感性を持ったアーティストでもあった。
彼の感性について私の筆力で語るのはおこがましいのだが、一つだけ述べることを許してもらうならば、特筆すべきはその常人を遥かに超越した五感である。

味覚―――数億円の超高級松坂級であろうとスーパーのカップ肉であろうと人舐めしただけで、その産地製造方法まで当てることができる。
嗅覚―――1000年もの以上のワインから、場末の酒蔵で乱雑に保管されたワインであっても香りだけで、やはり産地、ブドウの種別、今年の出来栄えまで鑑定することができる
聴覚―――時の将軍直属の音楽団から、小学生の音楽界の楽団であっても演奏された楽器の一つ一つの質や、奏者の経験年数まで適格に言い当てることができる
視覚―――千年に一度の傑作映画の監督であろうと、見た者すべてを狂気と幻影の渦に巻き込むクズ映画であっても、作者の演出意図、心情、かけた資金、年数までも見ただけで言い当てる


この優れた五感を持ちし上杉謙信は、その天から授けられた歌唱力、創作力、ライブパフォーマンスによって、当時の文化史を一辺させた。
その雷鳴を遠い西洋の地――当時は南蛮と呼ばれていた人々の目にも届き、上杉謙信を知った当時の異人達は彼を普通の人間とは思えず、以下の学名で読んだ。

God Absolute Chaos Kaleidoscoping Terribler
(神の 絶対性と 混沌さを合わせもった 万華鏡の如く煌びやかな 超常生命体)

すなわち「GACKT」と――。

ここでも、先人たちの畏怖の念に敬意を表し、以後上杉謙信を「GACKT」と呼ぶことにする――。


GACKTが一曲を歌い終えた。
あまりの感動に、未だ立ち上がることすら誰もできなかった。

「嬉しいな。この時代でも、芸術はまだ廃れていないか――」

「GACKT」が踊りを止めて、軽やかにマイクで会場の皆に告げる。

「さて、僕はこれからどうすれば、いいのかな。僕を読んだものよ」

ペンギンを一瞥し、GACKTが告げる。

「武田が、未だにこの世界を支配しております。彼奴らの世に鉄槌を――」

「武田か。相変わらず、己の欲望のままに動いているようだな」

GACKTが悲しげに表情を曇らせる。

「毘沙門天の名にかけて、どんな時代であろうと、武田の横暴を許すことはできない」

GACKTがリングの外に目を向ける。

「この世界の人達に罪は無い。けど武田に従うなら、許せないな」

「まずライブメンバーを集めて……」

「待て……待ってください。上杉謙信。いや、GACKT」

冷蔵庫がそのGACKTに必死に追いすがる。


「へえ、今の世界には変わった生物がいるな」

「確かにタケダの世は完璧ではないかもしれません。しかし今を生きる皆には大切な物。貴方は利用されているんだ。どうか大人しく帰ってはいただけでないか」

「悪いが、それはできないな。武田の横暴はどんな時代も見逃せない」

「そこを何とか」

「くどいな」

GACKTから巨大な威圧が放たれ、冷蔵庫を再び地面に膝を付く。

(だ……駄目だ……GACKTの力は強大過ぎる。百万体の冷蔵庫があっても、足止めすらできない)

冷蔵庫の脳裏(どこに脳があるんだろう)に絶望がよぎる。

(いや、考えろ……。力に頼るな。冷蔵庫として、人々を見守ってきたものの知識を活かせ……)

(山本勘助……あの伝説の軍師がその策略によってのGACKTと互角に戦った。その兵法の万分の一でも手繰り寄せれば……)

(GACKT……彼の弱点を……あった!!)

冷蔵庫は、彼の記憶からGACKT唯一の弱点を探り出しだ!

「だが、僕だけではあれは……むっ」

「受け取れい! 冷蔵庫!」

その時、ペンギンから山本勘助が飛び出し、冷蔵庫にあるものを投げつけた。

「き、貴様、何を……」

「シャマシェム……貴様は黙っておれい! 冷蔵庫、私も同じ答えにたどり着いたぞ!」

山本勘助はその時、触手によってこの闘技場からあるものを手繰り寄せ、冷蔵庫に渡した。
この会場は普段は武闘上ではあるが、場合によってはライブも行われる。「それ」があったのは僥倖だった。

「これは……これなら、いける!」

冷蔵庫は、山本勘助が投げつけたそれを身に着けた!!


「GACKT、これを見るんだ―――!!」

「むっ!?」

既に冷蔵庫を無視し、会場からでようとしていたGACKTは冷蔵庫の方を振り向く!
その時GACKTの目に映ったのは、白い煌びやかなゴシックロリータ衣装と、金髪のカツラを身に着けた冷蔵庫の姿だった!!


「そ、その姿は……まさか!!」

その時、GACKTの顔に始めて動揺が浮かんだ!!

「GACKT、僕も歌わせてもらうぞ!!」

冷蔵庫はマイクを手にし、高らかに歌い、踊り出す

『月下の夜想曲』

「何かに導かれ~~♪ 森の中を歩いていた僕は~~♪」

冷蔵庫は彼の前で練習してきた幾人もの人々の記憶を元にライブを行う。

「お、おお……」

「不思議にもただ引き寄せられるままに~~♪」

「や、やめろ、その歌と、姿を……」

かつて、上杉謙信、正確にはその当時は長尾景虎であったのだが、彼が家督を継ぐまで、上杉謙信、GACKTとしての活動を始める前の期間、あるビジュアルバンドチームを組んでいた。
そのバンドの名は魔璃巣・美是琉。
ビジュアルロックに革新をもたらしたこの伝説のバンドチームは、ニュータイプとして、伝説のその名を刻んだ。
だが――。

「きれいな夜だから~~♪ 悲しい夜だから~~」

冷蔵庫は持てる全ての力で魔璃巣・美是琉を再現する。
ロリータ衣装を身に包んだ冷蔵庫が乱舞する姿は見ようによって悪夢そのものであったが、魔璃巣・美是琉オーラが幻想的な雰囲気を醸し出し、それを押しとどめる。

「我が、記憶……!!」

当時のビジュアルシーンのTOPに君臨した魔璃巣・美是琉。
ところが、その絶頂期にGACKTが突如行方不明となる。
(正確には当時は長尾景虎だが)
そしてGACKTの疾走によって魔璃巣・美是琉の歴史も終焉を迎え、GACKTは再び現れた時、上杉謙信となっていた。
GACKTと魔璃巣・美是琉に何があったのか……。今でも喧々諤々の議論が繰り広げられているが、真相を知る者はいない。
だが――。

「寂しい夜だから~~♪ 最後の夜だから~~♪」

最後の夜、すなわち―――。


「ヨアケェェェェーーーーーーーーーーーー!!!」


GACKTは叫び、そして消滅した。

「お、終わった……」

ゴシック衣装をまとった冷蔵庫はがっくりと膝をついた。

GACKTには数多い異名があるが、その中でも最も有名なものの一つが「ヨアケ帝」である。
GACKTは魔璃巣・美是琉解散後、数々の楽曲を発表したが、その中には「ヨアケソング」呼ばれる種別の歌が数多く存在する。
城南大学、歴史学科名誉教授の藤違珪十郎氏によると、それは魔璃巣・美是琉という夜からGACKTが明けたことを示すのではという説が唱えられている。

「見事な兵法だったぞ、冷蔵庫」

彼の前に山本勘助が姿を現した。

「ありがとう、山本勘助」

「お前は、見事な兵法でGACKTを打ち破った。この戦い、お前の勝ちだ。私ではあれほど見事な魔璃巣・美是琉は歌えん。お前の軍略と冷蔵庫としての力の勝利じゃ」

「そうだね、僕はこれからも人々の役に立って見せる。それにしても太陽帝国、一体奴らは正しい歴史を再現して何を――」

大きな謎は残ったが、一先ず世界に安息のヨアケが訪れた。

冷蔵庫、勝利ーー。

了。
最終更新:2016年07月11日 00:03