(注:このSSは幕間>>15 >>17 >>19を引用している節があります)
生きとし生けるもの、地上にある物はやがて滅び消える
手の平の上に残ったわずかな希望も誰かに奪われて来た
それでも最後まで私が絶対に守り、手離さないと決めたのは皆との思い出だった。
柿霜蛇ノ目はポータルへ向かう。
対戦相手が決まった時から自分の取る行動は既に決まっていた。
【ダンゲロスSS裏CINDERELLA 3回戦】
〈戦場:イギリスの廃工場〉
山本勘助は常用のペンギンスーツを脱ぎ、部屋の隅に放り捨てた。単純にこの装備は邪魔だ。一定の確率で敵をメロメロ死させる効果がある上にDEFの基礎値を大幅上昇させるレア装備だが、視界が悪い。
圧倒的なスピードで一方的な制圧を行う今回の敵、柿霜蛇ノ目とは相性が悪い。
太陽帝国のシャマシェムとかいうやつに身体を乗っ取られたおかげか、神田蜜柑に擦り込まれた放射性物質の汚染は解けている。
彼の明瞭な頭脳は何秒か先の敵の行動を明確に再生している。
隣の隣の部屋に入り索敵、そのまま能力で作り出した蛇を二手に分けて索敵、やがてこの部屋に蛇が入って来た後、勘助の姿を確認し、術者自身もこの部屋に入ってくる……
「ん? 奴は基本的に索敵を蛇に全て任して、力量を測った後に本人が潰しにくるような奴じゃなかったか? 何故俺の天才的な脳はこのようなシュミレートを……」
スターン!!!
既に蛇はこの部屋にいた。そしてたった今、この戦いで倒すことになっている張本人、柿霜蛇ノ目が姿を現したのだ。
山本勘助は刀を抜き、構えた。
「おいおい何を狙ってるのか分からないが、俺のVRゲーム機のためにはくたばってもらうぜ? 攻込警備保障のお嬢さん」
その言葉に目の前の女はたじろいだように見えた。
「えッ!? あなたは友情とかを示しておけば戦わないで済むような平和なプロレスラーでは無かったのですか?」
「は?」
「いやだって前回結局冷蔵庫さんとの戦いでは血を流していなかったので平和な方なのかと」
「一回戦を見なかったのか?」
「監督だか長官だかいう人に脅迫されて無理矢理戦わされていたって話を希望崎学園のスレッドで見て……」
何てこった! 『監督』が俺を騙していただと!? そんな訳は無い、俺とあいつはソウルでつながるブラザーなのだから!!
勘助は刀をしまうと手探りで携帯を取り出し、片手で「待った」のジェスチャーを蛇ノ目に向けたまま『監督』に電話した。
「『監督』!! 俺はVRゲーム機を手に入れられるんだよな!? 答えろ『監督』答えてくれ!!」
何故上級軍師の勘助がわざわざ電話で噂の真偽を確かめたか、それは勘助自身、『監督』に他の男の影が付きまとっている気がしていたからだ。
prrr prrrr……ガチャ
「あへぇ どうしたのかんすけ? いきがあらいよ?」
電話の向こうから聞こえるのは雌の声で話す『監督』!! もはや半信半疑は完全な疑に変わる。
「何でだ『監督』!? 俺というブラザーがありながら、どこの馬の骨とも分からない野郎と…… それとVRゲーム機を買ってくれるというのは嘘だったのか!? 答えろ『監督』!!!」
「いやあ きみさぁ、あへぇ まだいっしょうもしてないじゃん? かくとくきん0じゃん? あへぇ むしろなんでいまのいままでかってもらえるとおもってたの? あへぇ ばかなの? あへえ そこいいのぉ!! 」
それきりスピーカーから人間としての言葉は伝わって来なかった。聞こえてくるのは獣のような雄叫びと嬌声のみ。
勘助は携帯に仕込んであった『監督』爆破装置を働かせた。
これも彼の天才的な頭脳が『監督』の裏切りというまさかの事態を予測し、感情に任せた爆破を行えるように準備を済ませていたのだった。
後のことは考えていないが天才軍師ならなんとかなるだろう。
「済まんな、用事が済んだ」
勘助は携帯を畳み、懐にしまった。
「それで何の用だ。まさか話し合いで勝ちを譲れとでも言いに来たのか?悪いがそれならお断りだ。俺はVRで遊ぶ資金を貯めるんだ」
再び刀に手をかけ、耳から触手を伸ばす。一回戦の映像を見ればこの触手の脅威は分かりきっているだろう。
「いいえ、そうではありません。むしろ今回は負けてもいいのです。天才軍師のあなたの能力を見込んでお願いがあります」
その場の感情のままに上司を爆破した天才軍師は興味を持って続きを促した。刀と触手はまだ戦闘形態を取ったままだ。
女は言った。
「これから私は転校生になろうと思います。いやなれるか分かりませんけど。その時にとりあえず自分のことを生贄に、実際に転校生を召喚して、転校生になるコツを聞いてみようと思うんですよ。
それであなたには契約の際に不備が無いかとか、口が固かった時に話術で説き伏せるとかして欲しいと、そういう訳なんです」
どうして転校生になろうとしているのか、自分を生贄にするとはどういうことか、成功の見込みはあるのか、その辺が気になるが、勘助にはまず確認することがある。
「報酬は?」
「作戦が成功した場合、この試合での勝ちを譲り、これまでの獲得金額から半分、800万円も譲渡しましょう」
「ヒャッホウやる! 俺やるよ!」
契約成立、二人はさらにこれからの計画を立てることにしたが、天才である勘助はある事に気が付いた。
「俺らが今話し合ってることって『希望崎学園』の皆が聞いてるんじゃね?」
「流石にこれ程小声で話していれば聞き取れないんじゃ……」
「だとしてもこんなに話し合って戦わないでいたら八百長疑われて最悪賞金が無しになるかも……そしたらVRゲーム機の資金が足りなくなってしまう!!」
「では簡単に闘いながら話し合いましょう!」
ーーー
勘助は刀を抜き、上段から振り下ろす。更に微妙に遅れて何十本という触手がその後を続く。
機械がごちゃごちゃと散らばり、動きづらい工場の生産室に追い詰められ、機動力を武器にする蛇ノ目はかなり不利!
しかし蛇ノ目は回避ではなく攻撃を選んだ。杖による突き、突き、突き! 更に背後、勘助の死角に回り込んだ縄蛇が襲いかかる。
勘助は攻撃を中断し、防御に回るしか無い。
杖の突きは刀の円形の軌道に比べてずっと速く、一撃一撃が急所を狙っている。しかし完全に杖を警戒し、それを刀で受け止めて防御しようとすれば、動きの止まった腕を縄蛇に縛られる。
よって勘助は動き回って防御と回避を同時に行わなくてはいけない。
触手に神経を集中させれば蛇ノ目は後ろへ下がりながら杖を投げるようにして突きを放ち、直後に袖の中の縄蛇に杖を噛ませて引き戻す。
いつの間にか蛇ノ目の有利!
勘助の刀の射程は見切られ、既に蛇ノ目はその外から攻撃を繰り出している。触手はすぐに払われるので使いどころが無い。
「その程度ですか? 天才軍師も大したことないですねッ!」
杖の突きが勘助の脇腹を掠った。しかし勘助は未だ動きを止めない。
杖の一撃が勘助の肩に当たる。魔人の戦闘中の一撃、脱臼は必至か?
杖の突きが勘助の腹に……
パスン
何か軽い音がした後に、蛇ノ目が膝から崩れ落ちた。
下腹部から赤いヌルヌルとした液体が滴っている。
おお勘助の左手を見よ! 彼の手には今、小型のピストルが一丁握られていた。
「ふふふ気付いていなかったようだな、俺を追い詰めた時からお前の脚は回避の動作を段々と減らしていった。刀の射程外に出た後は回避用のフェイントも一切失われていた、慢心だな。
だが俺はこの大体4m程の射程である程度の威力を示す武器を持っていた。こいつは千勢屋って所の商品で最高の携帯性と魔人殺しの威力、反動の少なさを実現した逸品さ。
俺はノーコンだからお前がギリギリの距離で動きを止めるのを待っていた。ふふふ」
長い説明セリフを終え、勘助は対戦相手を見下ろした。
だが既に柿霜蛇ノ目は影形も無い。地面には引きずったような赤い線が残っていた。
「鬼ごっこかふふふ。楽しいぞふふふ」
勘助は血の跡をゆっくりと追った。
途中で落ちていた紙を拾う。『希望崎学園』の仕掛けたカメラに映らないような角度で内容を読む。
天才なので紙に書いてある全ての内容を1秒で読み終わり、すぐにそれを折りたたんで破いた。
短い時間、黙考する様子を見せた後に彼は携帯電話を開いた。
ーーー
柿霜蛇ノ目は工場内の工場長室に隠れていた。
腹に受けた傷?あれは自ら腹に仕込まれた蛇に服と肉を噛ませて作った傷であって銃声も空砲だ。
もちろん杖での攻撃も寸止めであり勘助にダメージは無い。
蛇ノ目と勘助はあの戦闘の中でも会話を交わしていた。
勘助は天才軍師の読心術で蛇ノ目の心中を読み取り、服の中に隠した紐蛇へ小声の腹話術で返事をしていた。
天才なだけではなく悪戯の絶えないお茶目な性格を併せ持ち、万民に愛される軍師の勘助は途中途中にセクハラも混じえていた返事をしていたが、その内容をここに書くと気持ち悪いと言われるので書くのは止めておこう。
作戦は決まった。まずは勘助が携帯電話で転校生を呼び出さなくてはいけない。
適当に情報を頂いた後、蛇ノ目の身体の一部をこの世界に残して、それ以外を生贄として持ち帰ってもらう。
その後『希望崎学園』の治療班に蛇ノ目を残された身体の一部から再生してもらう。
無理とか言われたらどんな怪我も治すという話しだったと勘助がゴネて無理矢理治療させる。
それでも治療が無理なら協力者の勘助に『希望崎学園』との金銭交渉を行って、その金をVRゲーム機に使ってもらう。
これはもしものことなのであまり気にしなくていい。
蛇ノ目は勘助が転校生を呼んでくるのを待った。
工場長室のドアが思い切り開かれ、勘助が飛び込んで来た。
その背後にはなんと『監督』と呼ばれていた男! なぜか全裸だ!
勘助め! 一回戦のように味方を呼んだというのか!? ということは最初の電話は嘘だったのか!? どうなんだ勘助!!
「かんすけぇ!よくもばくはしてくれたね!!もうすこしでしんでたよ!!」
どうやら『監督』は先ほど自分を爆破した勘助に怒っているようだ。
裏切ってなかったみたい! 疑ってゴメン勘助!!
「クソ…… 何故生きている!? そして何故ここにいる!! 『監督』!!」
「なんでってきみがよんだんだよ? てんこうせいになったぼくをね!」
何だって?『監督』が転校生に!? いつの間に奴はそんなものになったというんだ!!
「ふふふおしえてあげよう、ぼくはもともと『部下、若しくは社外の相手としか愛を交わせない』のうりょくをもったまじんだったんだけど、さっきじょうしにおそわれてね?
ふくをやぶかれてもうこれまでかってなったところでじょうしのぶかたちへのがばれてくびになったんだ。
それでおもったの、ぼくののうりょくがじょうしのうんめいをねじまげてむりやりしゃがいのにんげんにしたんだとね!
じょうしはもともと『部下相手へのセクハラを絶対成功させる』のうりょくをもったまじんだったけど、さいしゅうてきにぼくののうりょくがかったってことだよね。
それでぼくはかみにあいされてるっておもって、じぶんがすごくつよいそんざいなきがしはじめたのね。
それでもとじょうしをぎゃくにおそってたらけいたいでんわがきたの、かんすけから。そんできゅうにけいたいがばくはつしたんだよ。
それよりさきにてんこうせいになったぼくにはきかなかったけど。」
「くっ、平仮名ばかりで物凄く読みづらい、もとい聞き取りづらいですが、転校生になる条件は分かりました。
自分は神に愛されている、凄く強い存在だって思い込むことが大事なんですね!!」
蛇ノ目は立ち上がり、腰から力が抜けて歩けない勘助を助け起こした。
「やばいぞ…… 噂によれば転校生の攻撃力は∞、防御力も∞。俺達の勝てる相手じゃない」
天才軍師勘助の知性も今、無敵の相手の前に縮こまっていた。
「いやもう必要な情報は手に入ったんで帰ってもらえますか? ほら私の身体を生贄に持って帰って下さいどうぞ」
蛇ノ目は勘助と『監督』の間に立ち塞がったが、『監督』はそれを聞く様子もなく彼女の身体を掴み、背後に軽く放り投げた。一応攻撃判定では無かったらしく、工場の壁にぶつかって止まる程度の威力だ。
「いけにえとかどうでもいいよ……ぼくはぼくのことをうらぎったかんすけがゆるせないんだ……
かんすけをころしてかえればきょうはそれでいいんだよ……」
「ひええ〜!! 『監督』ヘルプミー! あれは悪戯ですから、ね?」
「ゆるされないよ?」
「ひええ〜〜!!」
と、次の瞬間、勘助の耳から触手が伸び、『監督』の全裸の肉体に触れた。
「ふふふ攻撃力も防御力も通じない俺の兵法! 『監督』のスピードは前と変わっていないようだな! さあ死ね!」
怯えていたのは演技! 流石だ天才軍師勘助!! 油断した転校生に攻撃を当てるなんて凄い策士!!!
『監督』の肉体が急速的に水分を吸収し、ブクブクの肉塊に変わっていく。
「かんすけ"え"え" まただま"したね"え"え"え"!"!"
ゆ"る"ざん"!"!"!"
死"ね"!"」
肉塊が全力で勘助へ迫りよる!
なんたる生命力、ちょっとやそっとの塩分不足でどうにかなる相手では無い。
触手を握られる。このまま引っ張られれば0距離で向き合うことになる。
取り敢えず掴まれた触手は刀で自切する。しかし工場長室に逃げ場はもう無い!
勘助危うし!
「ふふふまだ俺には武器があるふふふ」
勘助は懐から先程使った銃に今度こそ弾丸を込めて、ブクブクに膨れて緩慢な上司に狙いを合わせた。
「死ね!ふふふ」
柔らかそうに見えた肉の塊は硬い音を立てて弾丸を弾いた。
そうだった!! 防御力も∞だと自分で言っていたのを忘れたか勘助!!
焦っているのか勘助!! ヘイヘイ勘助!! ビビってんのかヘイヘイ!!
ドゴオッ!!
重い音がした。
『監督』が後ろを振り返ると、そこには思い切り杖を叩きつける柿霜蛇ノ目がいた。
「おいおい、だから普通の攻撃は効かないって……俺は天才だから忘れてないけど凡人はついさっきの会話も忘れちゃうのね」
おい勘助さっきお前も忘れてただろ!というより今のはもしかして助けて貰ったのか? 感謝しといた方がいいんじゃないか勘助?
『監督』は振り向いた首を元の方向、勘助の方向に戻した。蛇ノ目には興味無し、態度が物語っている。
一歩、二歩、三歩、『監督』は勘助に近づく。
四歩、五歩、六歩、勘助は『監督』に触手を伸ばすが、息や動きの風圧で引き千切られ、もう届きそうに無い。
七歩、八歩、九歩、蛇ノ目は背後から『監督』の身体に何度も何度も攻撃を浴びせかける。それでもやはり一切効いている様子は無い。
十歩、『監督』の腕が勘助にもう届く範囲だ。
「がんずげえ"え"え"え"え"え"!"!"!"!"」
「ウヒャアあああ!!! ゴメンなさーい!!! 申し訳ありませんでしたーーーー!!!」
『監督』の動きは緩慢だが、勘助の背後は壁、前方は膨張して巨大化した『監督』の身体で塞がれている。
退路は無し。
かつてはもう少し人間らしかった上司が腕を振りかぶる。避けられない!!
「転校生ってつまり自分が最強の能力を持っていると思い込めるれば良いんですよね…?」
「柿霜、お前まだ居たのか。もう良いから逃げろ! こいつの狙いは俺だ! 火に油を注ぐようなことをするな!」
「いいえ、勝算は有ります」
蛇ノ目は目を閉じ、杖を投げ捨てると、上着を脱ぎ捨てた。そして袖をまくり、中に着ていたシャツのボタンも外す。
何をする気だ!
『監督』はそれを気にすることなくゆっくりと腕を振り下ろす。勘助の背後の壁に少しずつ穴を開け、残酷なギロチンとなったチョップが頭を狙っていた。
(万事休すか…… まあ後で治療してもらえるから良いけど)
勘助は結構冷静でポジティブだ。随分後ろ向きなポジティブだけど。
『きっぽちゃんからのお知らせです! 治療予算削減のため、治療対象となるケガや損傷は、対戦相手に付けられた物に限るというルールがたった今決められました』
「ってコラ! きっぽちゃんの馬鹿! ふざけんな俺の作戦が!」
勘助が騒いでいる間も近づいて来ている『監督』の攻撃…
これは天才軍師勘助もどうにもなりそうに無い。
ここまで混沌とした状況を裏CINDERELLAに持ち込んでくれたのはお前だ勘助、これまでありがとう。
ゆっくりお休み…
「!"!"!"?"?"?"」
『監督』の身体が崩れた!壁に穴だけを残しながら少しずつバランスを失っていく。
彼の身体をよく見て欲しい。後ろから彼を思い切り抱きしめる蛇ノ目の姿が見えるのが分かるだろうか。
「『超弦理論』、世界の最小単位を紐であるとする理論を無理矢理認識しました。この『監督』と呼ばれる男の身体も結局は紐の一次元の振動に過ぎない。それらの紐を蛇にして操れば、ほら!!」
『監督』と蛇ノ目の接触面から、彼の身体は崩壊し、やがて消滅した。
そうだ勘助は!?
彼は背後の壁の穴に怯えて飛び込んでいた、おい場外だぞそれ!
試合は終了、結果的に蛇ノ目が勝利したことになったが、賞金は後で勘助が受け取ることになった。
無敵の能力を得た蛇ノ目も転校生となり万々歳だ。
ーーー
転校生となった蛇ノ目はある村の護衛依頼を受ける。
そこには旧蝦夷の仲間に近い顔が多く見えた。平行世界だもの、同じような人間はいくらでもいるさ。
「私達を守ってくだされ」
首長が蛇ノ目に乞う。
「ええ、守ってみせます、今度こそ」
その顔はとても頼もしかった。