第8試合SSその2 投了SS

(前回までのあらすじ!)
 口舌院言論との戦闘を終えた、口舌院焚書。
 口舌院言論の相手に短歌を読ませるという奇策により、十億度の熱戦が口舌院焚書に襲いかかッタ!
 万事休す! もはや、ここまでか! と思われた口舌院焚書!
 しかし、口舌院焚書にとって、一億ドは二五二二年前に通り過ぎ去った温度でしかなかった。熱・光子を論理的に完全遮断する特性によって、危機挽回、見事、口舌院言論を退けのであった!

 しかし、事態は急転直下!
 無色の夢を見たものは、戦い合う運命にある。
 その噂を耳にした、口舌院焚書は、無色の夢の戦いに興味を持つ。

 口舌院言論に、自身の思惑をあてられた口舌院焚書。
 口舌院焚書は、口舌院言論に、無色の夢に潜り込んだ後のことを頼み、永遠に眠るとも知れない夢の中へと落ちていった。
 眠り姫は、無事、現実に帰ることができるのか。
 事態は、誰にも予測できない展開へと向かっていった。


ーーーーー

(閑話休題)


「mekakakakaka! 残念だったメカな!」
 突如、こだまする声。
 ガシャガシャガシャ!
 金属のぶつかり合う音が、狭い空間中に響き渡る。
《な、なんじゃこりゃ!》
 口舌院焚書は、思わず叫んだ。
 目の前には、おびただしい数の「宇宙空き瓶」がガッシャンガッシャンとひしめき合っている。 
《あれ、な、何で!?》
 想像だにしない光景に、口舌院焚書は、さんさんと輝く、自身の光を抑え、周囲を見渡す。
 そこは、間違いなく、今回の戦場となる下水処理場である。
 今回の戦場となる下水処理場は、都市からの廃水を処理して河川に排水可能な程度に浄化するための施設であり、 無数の水槽と、それを取り巻く様々な処理装置、張り巡らされたパイプラインによって構成される複雑で危険な空間である。
 しかも、敵の能力はまったくもって未知数。
 何が起こるか分からない。
 口舌院焚書も、想定できるかぎりの装備と心の準備をしてきたが、送り込まれた戦場で、宇宙空き瓶の群れに出くわすとは、思いもよらなかった。
「mekakakakakakakakakakakkaakakkakakak!」
《ああ! もう、うるさい!》
 口舌院焚書は、足元の空き瓶を蹴飛ばす。
「な! 何をするメカァーッ!」
 ガッシャンと音を立てて、宇宙空き瓶は砕け散る。
「横暴!」「暴力反対!」「俺も俺も」「qwertyuuiop!」
 口々に不平を言い出す宇宙空き瓶たち。
 ただでさえ、ビン同士のぶつかり合う音や、水音でうるさかったにもかかわらず、今は、宇宙空き瓶たちの声で、口舌院焚書の頭はおかしくなりそうだった。
《うるせえええええ!》
 ガシャン! 
 業を煮やした口舌院焚書は、かたっぱしから、空き瓶たちを手にかけていく。
 まるで、ドミノ倒しのように、口舌院焚書の周囲の空き瓶がガッシャンガッシャン崩れていく。
《あはははは、気持ちいい!》
 ストレス解消! 気が触れそうなレベルの騒音によって、自分を見失う口舌院焚書。
 逃げ惑う空き瓶たち。追いかける二次元美少女。
 しかし、下水処理場の狭い足場に、無数の宇宙空き瓶たちが逃げるために必要な十分なスペースはなく、あるものは、下水へと落下し、あるものは、目の前の相手を押し倒して進もうとする。そこは、空き瓶密度500%以上の地獄絵図とかしていた。
 口舌院焚書は惨憺たる光景を目の当たりにして思う。
 憐れ。
 たった、それだけのこと。
 口舌院焚書は、人間社会の心の闇をそこに重ねた。

 口舌院焚書が、自身の置かれた状況を理解し得ないまま、宇宙空き瓶を虐殺していく状況を一人ほくそ笑みながら見ているものがいた。
 可愛らしい容姿には不釣り合いなほどの、残酷な笑みを浮かべたその存在は、身長40cmぐらいの小人。金色の髪、銀色の翅。天使? 悪魔? そのどちらでもないまさにフェアリー。
 細かい説明など、必要ない。
 先ほど、ほくそ笑むといったが、真実は違った。
 怒り。キレる妖精さん。怒髪天。そのエネルギーは宙を切り裂き、背後の空間をもゴゴゴゴと歪ませる。
「ここまで、小馬鹿にされたのは初めてですよ」
 と、妖精さん。
『「助けてー許してーごめんなさ…ブぎゃっ!」』
『《うおああああああ! 弾けろぉお!》』
 宇宙空き瓶の泣き叫ぶ声と口舌院焚書の雄叫び。
 このどうにもならない試合の、終了タイミングを見失い、妖精さんは頭を抱えた。
 しかし、今更、口舌院焚書を止めることは誰にもできない。
 二五四三億度(※摂氏換算)までの熱、光子を論理的に完全遮断する特性を持つ、口舌院焚書を誰が止めることができるだろう。
 熱、光子と言えば、あらゆるエネルギーは、このい二つに変換されると言う。
 もはや、口舌院焚書、彼女は宇宙最強ではなかろうか。

「とりあえず、どうしましょうか」
 妖精さんは、頭を抱えた。

ーーーーーー

《あれ、ここは……》
 気づくと、口舌院焚書は光の中にいた。
 口舌院焚書は、先ほどまで、無色の夢を見ていたはず。いつの間に、戦闘空間に転送されたのだろう。
《クッ……》
 口舌院焚書は、鈍く走る痛みに頭を抱える。
 何か、とんでもない悪夢を見た気がするが、思い出したくない。なぜだか、空き瓶の姿が脳裏にちらつきそうになるのを、頭を振って打ち消す。
《ここはどこだ》
 口舌院焚書は、光を抑える。
《なっ……!》
 口舌院焚書は言葉を失う。 
 目の前には、粉々に砕け散った死体が、山のようにおびただしい数、埋め尽くしている。
《夢にしても、あまりに悪趣味だな》
 周囲を照らしてみると、そこは、確かに戦場となる下水処理場のようだった。
《この遺体は、対戦相手の仕業だろうか》
 情報収集も兼ねて、口舌院焚書は、目の前の遺体を手に取……ろうとして思いとどまる。
 口舌院焚書は、息を呑んだ。
《ははは、とんだ精神攻撃じゃん》
 口舌院焚書自身の遺体だった。自身と同じ容貌の遺体が、惨憺たる状態で横たわっている。
 夢にしてはあまりに血生臭く、妙に生々しい。しかし、夢と気づいてしまえば、飛び散っている内蔵さえも真っ赤な紙吹雪と変わらない。そう二次元美少女、口舌院焚書は思う。
 口舌院焚書は、怒りに燃える。
 こんな悪趣味なことをしかけてくる輩の面を拝んでやろうと意気込んでいた。

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《あれ、ここは……》
 気づくと、口舌院焚書Aは光の中にいた。
《まだ……夢の中だ……》
 そう答えたのは、汎銀河を支配する帝国の皇女。未来歌壇における最強歌人の一人。17歳。
紙色の髪と肌色の肌、燃える色の瞳を持つ絶世の美少女。「銀河の衣通姫」、「歌刑台を焼き尽くす魔女」などの異称でも知られる。 二次元美少女、口舌院焚書Bだった。
 口舌院焚書Aが、戦場となる下水処理場に送り込まれた時、目の前に輝く光の中にも、口舌院焚書Bがいた。
《……良いご趣味をお持ちのようね》
 口舌院焚書Aは口元を引きつらせた。
《それが、お前の能力ってわけね》
 一人で納得している口舌院焚書Aに対して、口舌院焚書Bは、うんざりと言った顔をしている。

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《あれ、ここは……》
 気づくと、口舌院焚書Aは光の中にいた。


最終更新:2016年04月28日 19:54