第9試合SSその2 陽の死んだ日

 江ノ島に美術館などない。
 今からこの島は消滅するッ!

 午後5時、夕日が海を照らす。東海道を下って来たのは一台の戦闘ヘリだ。運転席には金髪の青年、銃座には金髪の幼女が座っている。

 ロリー太&小梅は江ノ島へ観光にやってきた。
 早くも戦いが始まろうとしている!
 二人は戦いのルールに不満はなかったが、昼過ぎから現実での戦いを挑みたいと思い始めた。これは人間が生まれながらに罪を背負っていることを考えればなんらおかしいことではない。それにこれはこれで夢の戦いらしいとは言えまいか。
 かくしてカインはアベルの羊を奪いにやってきた。

「無駄な労力じゃない?ゆるキャラは東京タワーで討ち取られたニュースが流れてたよ?」

「いや、奴は生きてる筈だぜ。手負いの獣は必ず江ノ島に戻る。そこを仕留めよう。」

「もうお兄ちゃんったら!思考のブレーキが壊れてるんだから!」

 小梅は嘆息した後、地上に餞別の花束を投下した。
 そんな江ノ島では内乱が勃発していた。殺しの楽しさを覚えた原住民がそこかしこで暴れまわり、生きているのは狂人だけだ。それもこれも謎のショートスリーパーと戦車が軽率に殺し合った為である。
 ふと地上を見下ろすとサイボーグ奉行がロケランをこちらに構えていた。

「ヘイお兄ちゃんんんんん!RPG!RPG!」

「慌てるでないわ小梅!ブラックホークダウン!ブラックホークダァーウン!」

 ミサイルの激突した戦闘ヘリは黒煙を上げながら地面に墜落した。

「この奉行所はアイディード将軍のものだ!」

 ロリー太王子は江ノ島がソマリア並に危険だと悟った。
 だがこんな時こそ救いの神は現れるものだ。
 ヘリの残骸から這い出たロリー太王子の前には二人の人間がいた!

 それは人間ですらなかった。
 妖精ちゃんとヤンキーの幼女だった。

「無事ゲロスか、少年。」

 妖精ちゃんが手を差し伸べた。ロリー太王子はその声に聞き覚えがあった。無職の夢の中で。
 妖精ちゃんとは金髪に紫綬を纏い、長身痩躯、中東系の顔立ちで十字架を背負った大妖精だ。彼の名はダンゲロスくん。デュラン大佐に敗北した彼が趣味ではなく強くなる為に女装しようとするのは極めて当然だ。(趣味ではない。)
 マイナスイオンとの触れ合いで何度でも復活する彼はロリー太王子&小梅とは同じタイプの能力と言える。

 一方、ヤンキーの幼女は女子高生のブレザーを着て金髪ロングヘアに空気椅子をしながら両手を突き出しているので間違いなく幼女だ。
 小梅とロリー太王子にはこの男の幼女の正体が何となく分かった。

「お前が…アイディード将軍か。」

「お兄ちゃんッ!?」

 ロリー太王子は頭の打ち所が悪かったのだ。ヤンキーの幼女が幼女将軍アイディードだと思えば全ての辻褄が合う。
 すると驚くべきことにアイディード将軍は話し始めた。

「話し合いで…解決したかったんや。」

「マジでッ!?」

「ちょ聞いてや。
 俺は幽くんやろ?ほら、渾名。
 ほんで身内に竜ちゃん5人おってな。昔な、誰が本物か決着つけよいう話なってん。」

 竜ちゃん。それはヤンキーにそういう名前の奴がやたら多いという話なのだが、ロリー太王子はソマリア内乱のことを暗に示しているのだと一人合点した。

「それでな、桃鉄の一番強い奴が竜ちゃんいうことなってん。まあ結局…そいつはキングボンビーになったけどな。」

「そんな、どうして妖精ちゃんが戦いの場に!?」

 小梅は理解を諦めて妖精ちゃんの方に話を振った。

「俺たちと同じ夢を見ないかというわけゲロスよ。」

 三人は直感で理解した。対戦者達は互いに惹かれ合い江ノ島に集ったのだと。

「良いだろう。」

 ロリー太王子はダンゲロスくんの差し伸べた手を取ると、一人頷いた。

 皆で協力する。ありえない事が起こった。同じ趣味を持つ変態だったのだ。三人の化物が意気投合してしまった。
 女装は道徳。世界を救う。全人類はこの事実に感動すべきではないか。

「それで?三人で協力して何をするんだ。言っておくが俺は幼女の好みには煩いぜ。」

「コラァ」

(まあ、先ずはこの江ノ島の惨状をなんとかしないとな。)

 そんな事を考えてたロリー太王子の顔面を、いきなり幼女将軍アイディードは殴った。邪魔だからだ。
 破綻者に論理は通用しない。
 元々が研ぎ澄まされた殺意を暴走させた危険人物達だ。
 憎しみではない。相手を認めているからこそ、一度全力でぶつかる!!
 たとえ、どんな結果になろうとも!
 ぶっ殺す!!
 惨たらしく死ね!!
 これは対戦相手の事を認めているからなんだ!!血と臓物を振り撒けよ!!湯気の上で開封したカップラーメンのスープの素みたいにグチャグチャのベトベトになりやがれ!
 人間が本当に生み出せる芸術が殺し合いくらいなのは江ノ島の現状を考えれば火を見るよりも明らかだ!

「グボァッ!…フッ、そうだな。俺も心の何処かにわだかまりが有ったんだ。『夢の戦い』を避けて、俺たちの結束はあり得ないよなぁー!」

「互いを尊重するからこそ真の殺意が沸くのゲロスうううう」

「えっ?あっおおオオオオオオオ!!」

 ロリー太王子&小梅!!!

 妖精ちゃん!!!

 アイディード将軍!!!

 日本よ、これが美術館だ!!!
 平成の桃園の誓いとも言える究極の友情の深め合いが命を賭けて始まりました。彼らは互いの覚悟を認め合うからこそ、防御など不要としゼロ距離での肉弾戦をします。

「勝った奴が兄貴だっ!小梅の祝福を受けるお兄ちゃんだ!」

 そんな事を考えているのはロリー太王子だけなのだが、三人は三つ巴の体制になった。ロリー太王子の傍らには小梅が立つ。
 間合い無しの殴り合い。決着は一瞬だろう。

「ダラァーッ!」

 ロリー太王子の右ストレートが空を切る!妖精ちゃんは既に数メートル上に跳躍している。
 妖精ちゃんの蹴り!それは空気椅子をしながら両手を突き出すアイディード将軍の顔面を狙っている!
 瞬間、アイディード将軍が消える。アイディード将軍の全身、全体重がロリー太王子の右拳の上に乗っていた。テレポートしたとしか思えない!

 将軍の頭上には妖精ちゃん!不可避の落下は連鎖する!
 落下…否、落下しない!?アイディード将軍と妖精ちゃんが宙に浮いている。
 小梅ウインドだ!小梅の足元から発生する強風が彼のスカートを翻し、恥じらう!その姿を見たロリー太王子は興奮!

「お前達の位置からは…小梅のパンツは見えないだろう?」

「ほだら俺のパンツを喰らえやー!」

「パンチ…ゲロスううううッラァ!」

 興奮で強化した王子の蹴りが妖精ちゃんの顔面に命中!
 アイディード将軍が消える。彼はロリー太王子の顔面に押し付けるように空気椅子をしながら両手を突き出していた。テレポートしたとしか思えない!臭い!王子が気絶!
 そして、妖精ちゃんは最後の力でマイナスイオンを収束させパンチラを放つ!アイディード将軍の顔面に命中!目が腐る!
 マイナスイオンと小梅ウインド、そしてテレポートがぶつかり合い…三者は相討ち!気絶した!




 意識から江ノ島が消滅する。
 江ノ島に美術館などない。
 それは中国地方、岡山県、倉敷美観地区、
 大原美術館だ。

 倉敷と言えば旧幕府直轄領として有名であり、現代でも当時の面影を見ることが出来る。
 中二病の奴が一度は戦ってみたい場所ランキングトップ12にも入ると言われるアイビースクエアも倉敷にある。
 そして街の中央に流れる川の傍らに美術館がある。

 実業家、大原孫三郎が設立した大原美術館は近現代の美術品を中心に蒐集、展示している。

 大原美術館、別館。件の絵画は今はそこに展示されている。
 熊谷守一『陽の死んだ日』

 三人が転送されたのはその絵画の前だった。
 見る者の目を惹きつけて離さないその絵はフォービズムとも取れる荒々しい作風であり、一見すると抽象画のようにも見える。
 だが画面左端に描かれた蝋燭を見た瞬間、次第に何が描かれているのか分かる。
 絵の作者の長男、幼き熊谷陽の死に顔を。

 まあそんな事とは関係なく、三人は飛び起きると、現実での戦いの続きを開始した!
 小梅がいない。ロリー太王子はまずそのことに気が付いた。
 次に気が付いたのは、夢の報酬の事である。

 三者は互いの右拳を突き出すと、一撃で対戦相手の頭部を粉砕するパンチを放った。
 妖精ちゃんはマイナスイオンの力で身体強化、ロリー太王子は小梅の姿を思い出し興奮することで身体強化、アイディード将軍は同じ場所に無限にテレポートし続けることで理論上無限の加速を得た拳を叩き込んだ。

 爆ぜる肉体。アイディード将軍の拳は妖精ちゃんの顔面を打ち砕き、妖精ちゃんの拳はロリー太王子の顔面を粉砕した。
 ロリー太王子の拳は、アイディード将軍に届かなかった。

 勝てない。
 この戦いに勝って"しまう"と、対戦相手は悪夢を見て"しまう"。
 それはマズイ。何故なら、ロリー太王子は永遠に報酬の夢を見るつもりだから。
 悪夢はいつか覚めない保証はない。だが、報酬の瑞夢が覚めない保証は"ある"。

 それはマズイ。だって、対戦相手は現実世界の自分の傍らに居るのだから!
 自分が寝首を掻かれて死んだらどうなる?それでも夢を見られると言うのか?無理だ!
 一瞬の逡巡が勝負を決した。ロリー太王子の拳がアイディード将軍に届く前に、妖精ちゃんの拳が王子を死に至らしめた!

 勝者、アイディード将軍!勝因、運!

 それでも戦いは終わらない。既に絶命している妖精ちゃんは尚ビームを放つ。将軍の心臓が粉砕する。アイディード将軍は気迫だけで空気椅子をしたまま上空に飛び上がると、妖精ちゃんにタックルをする。
 ロリー太王子は死にながらソレを眺めていた。

 ああ、この絵は『陽の死んだ日』と言うのか。そう思った。




 暗い夜道を一人歩くロリコンの男、勇者ロリコン。かつてロリー太王子と呼ばれたおっさんの成れの果て。彼はピンク色のモヒカンヘアにクロノトリガーの主人公みたいな格好をし、やたら上手いオカリナを吹きながら太陽にほえろの主題歌みたいな曲を演奏していた。タピオカタピオカ。

 道を歩いていると、泣いているヤンキーの幼女がいた。

「これ、どうしてこんなところに居るんだい。」

「それはね…お前さんを食べるためだよ!」

 ヤンキーの幼女の服が弾け飛ぶと、そこにはソマリア人がいた。

「ヒイイィィ!オカマァァァァ!」

 突然ソマリア人のオカマに襲われた勇者ロリコンは命からがら逃げ出すと、道端に設置された幼女屋台に逃げ込んだ。

「聞いとくれよ大将、今そこにオカマが居てさあ。」

「ヘェ?それはこんな顔だったゲロスウゥゥゥ!」

 幼女屋台の大将、妖精ちゃんが突然全裸になるとそこにはユダヤ人が!

「ヒイイィィ!オカマァァァァ!」

 突然ユダヤ人のオカマに襲われた勇者ロリコンは命からがら逃げ出すと、自宅に逃げ込み事の次第を女房の小梅に話した。

「聞いとくれよ女房、今そこにオカマが居てさあ。」

「ヘェ?それはこんな顔だったでゴワスゥゥゥゥ!」

 恐怖のあまり、勇者ロリコンは絶命していたそうな。




 崩壊した江ノ島には三人のオカマがいた。傍らにはロリコンが地に伏せている。

「此度の聖杯戦争は女装のクラスとして現界せしめし我らの勝利となりましたな。」

 ダンゲロスくんが言った。

「恐怖というものには鮮度があります。いずれこの男が目覚めし時には真の恐怖を味わわせて上げましょう。」

 小梅が言った。

「何が何だか分からないが、俺はあんたに着いて行く。」

 牛沢幽也は言った。

「いい景色ね。マイナスイオンを感じるわ。」

 サイボーグ奉行の髪が風に揺れた。

「あぁ?ん!いい景色だわ?!」

 圧倒的なエロスがそこにあった。興奮した四名は思わずマイナスイオンにしゃぶりつく。

「風が、風が気持ちいいのぁー。」

 マイナスイオンはまさにププッピドゥといった感じである。

「もう我慢の限界でごわすー!」

 突如野太いオッサンの声で叫ぶマイナスイオン。風の勢いがさらに増し、ハゲのオッサンとなる!!そう、マイナスイオンはセクシーさで周囲を魅了してから全裸になって正体を現しショックを与える事に快感を見出す真の変態だった!

「アアアアアア」

 この事実に四名は絶望の悲鳴を挙げながら口から目から血を噴出し絶命!江ノ島は崩壊!
 マイナスイオン梅子はやっぱり強い。そう思うサブイネンだった。
最終更新:2016年04月30日 09:43