堀瀬 大我 プロローグ

街の中で怪獣が暴れていた。
高さ5mを優に超えているだろうその怪獣は、電柱を薙ぎ倒し、自動車を踏み潰しながら進んでいく。
ぬいぐるみを抱えて逃げる少女が転んでしまう。迫りくる怪獣。絶体絶命だ。
その時、怪獣の頭に榴弾が炸裂した。現れたのは、軍の戦車だ。
その数四台。戦車隊は怪獣に向けての一斉砲撃を開始。怪獣は爆炎に包まれる。



「夢を見たんです」
「へえ?」
昼休み、希望崎学園部室棟の一室。
大我は部長にしばらく部活に来れないかもしれないことを伝えたのだが、理由を聞かれ、ごまかしてもしつこく聞かれ、最終的に脅しや揺さ振りを掛けられ、渋々ながらこう切り出した。
「白とも透明ともつかないような空間で、これから戦いがあることを知らされるんです。信じてもらえないと思いますが…」
「知ってるよ無色の夢でしょ?勝ったら好きな夢見れて負けたら悪夢っていう」
信じるどころか知っていた。
「部長も見たことがあるんですか?」
夢の戦いについての情報が得られることを期待したのだが、そううまくはいかなかった。
「いや、俺は見てない。親父のとこのスタッフが何人か見たっていうのを聞いただけ」
「そうですか…」
「その戦いって、武器とか持ち込めるの?何か用意する?」
「持ち込めるみたいですが…大丈夫です。『いつもの』があれば事足ります」
余計な武器を持ち込んでは、敵に利用される可能性が高まる。
同意を得た人物に添い寝でもしてもらえば、連れてくることは可能だろうが、彼には他人を巻き込むつもりはなかった。
「そう?…それにしても、好きな夢ねえ…俺には現実の肉体を長時間無防備にしてまで見たい夢はないかなあ…。大我、お前はどんな夢が見たい?」
「俺は…」
予鈴が鳴った。理由をごまかすのに大分時間を使ったらしい。こうもあっさり受け入れられるなら、もっと早く話していればよかったかと、大我は思った。
「まあいいや。明日…じゃねえか?また今度、実際に見た夢をゆっくり語ってもらおう」
そういって、部長は席を立ち、部室のドアに手をかける。そして、去り際にこう言い残した。
「間違っても、周りに気を遣って早起きしました、なんて言うんじゃないぞ?」



彼はその映画が好きだった。
特に、途中の10分程のシーンに、彼は心奪われた。
安っぽい模型に着ぐるみ、素人が作ったようなCGだったが、それでも少年だった彼の心を掴んで離さなかった。
あの映画の世界に入りたいと、彼は願った。
そして彼は、それを叶えるチャンスを得た。
己の夢のために、彼は戦う。
最終更新:2016年03月29日 22:07