春の相模湾にきらめく江ノ島の夜景、その中で最もまばゆい光はダンゲロス高校のグラウンドの隅から放たれていた。ネオンでもLEDでもないその輝きは、眩しく、そして情熱的に燃え盛るダンゲロス神社であった。
「やっぱりキャンプファイアーは木造建築に限るよね」
「楽しいふくいー」
「写メとっちゃおう☆」
ダンゲロス神社の回りには三人の少女的な生徒がいるだけである。一人はこのキャンプファイアーを企画したダンゲロス高校一年の夙川さくら。楽しいことと美味しいことには人一倍こだわりのある幸せハンター。そして、もう一人もダンゲロス高校一年の鯖江あわら。福井県が好き。それから、女子高生の格好をした中年男性、エルフォート・デュラン・めぐ子であった。
「なんかさっきから変な音がするふくいー」
「きっとマシュマロが焼けた音だよ」
「ちがうよ、もっとこう、内に秘められた邪悪なる意思が久遠の呪縛から今まさに解き放たれようとしている感じふくいー」
「なにそれ怖いかも☆」
あわらの予感は的中した。地鳴りと共に大地が割れ、地中からは大量の切り干し大根が溢れだした。そして、切り干し大根に混じって飛び出したのは十字架に張り付けにされた中東系の男であった。
「あれは県立お惣菜センターのゆるキャラのMHS-2444-WX、通称ダンゲロスくんじゃ」
「知っているんですか、ダンゲロス爺」
偶然その場に居合わせたのは浮浪者のダンゲロス爺であった。ダンゲロス爺はダンゲロス高校とかには関係ないどっかの浮浪者だ。
「封印を解いてくれてありがとうゲロス。これから僕の復讐ショーを見せてあげるゲロス」
とダンゲロスくんはスペイン語で言うと十字架に張りつけにされたまま高速で校舎の方へ飛び去った。
「暴れん坊ジェネラルの再放送が始まるし帰ろうか」
「帰るふくいー」
江ノ島の上空、ダンゲロスくんは何かを探しているかのように旋回を繰り返していたが、ダンゲロス高校の一室から漏れ出す灯りを見つけると急降下を始めた。今更だがダンゲロスくんが空を飛べるのは空気中のマイナスイオンを操って気流を生み出しているからなのだ。
そこは、ダンゲロス高校のならず者が集まる賭博場だった。騒がしかった賭場もダンゲロスくんの乱入っで一気に静まりかえってしまう。
「なんだてめぇコラ、不法侵入かよ」
ダンゲロス高校の不良グループリーダーのイエモンである。
「わが校に侵入とは、これは問題だなぁ」
ダンゲロス高校の生徒会長のアヤタカである。
「夜の海を孤独だと思うのは、君が孤独だという証明さ」
涙とテキーラのヨハンである。
「ぼくはダンゲロス高校のゆるキャラ、ダンゲロスくんゲロス。今日はみんなに死を届けにきたゲロス」
「なにぃゆるキャラだとぉ、そんな俺達とキャラが被ってるヤツはお役所が許しても俺達が許さないんだよぉ」
と言いいながらイエモンは銃を抜いたが、空中浮遊しながら突進してきたダンゲロスくんにはねられて死んだ。「不味いぞ、あいつは生粋のゆるキャラだから倫理観とかもゆるゆるなんだ。もうなにもかもお仕舞いだ、みんな惨たらしく殺されるぞ」
ダンゲロス爺は自身の運命に絶望してショック死した。その時、爆発が起きた。ダンゲロス爺が死んだことで学校の自爆システムが起動したのだ。「もう無理、逃げ切れん。散るならば焔の華と成り消える」
生徒会長は切腹して爆発して、ヨハンも
「メキシコの名も無き酒の香りを忘れたくはない」
と言い残して次の街へ旅立った。
翌朝、奇跡的に焼け残った南側の校舎で授業は再開された。だが、それはダンゲロスくんによる学校支配の始まりでもあった。ダンゲロスくんは死んだ生徒会長に代わって生徒に重税を課し、厳しい校則を制定した。しかし、校則そのものに意味は無く、ただダンゲロス高校の生徒を苦しめることが目的である。
当然だが、これに反発する者達も現れたが、見せしめのためにゆるキャラ特有の惨たらしい処刑をした。こうしてダンゲロスくんは学校の実力者を次々と処刑していった。
しかし、教育委員会はそんな状況を黙って見てはいなかった。十時間にも及ぶ無意味な会議の末にアメリカ軍の要請を決定したのだ。そして、アメリカ軍が到着するまでの三分の間に教育委員会はダンゲロスくんによって皆殺しにされてしまった。このダンゲロスくんの異様な戦闘力の高さは、ダンゲロスくんが体内のマイナスイオンを調整しているからなのは有名な話である。
江ノ島には五十両のシャーマン戦車が駆けつけていた。アメリカ軍による圧倒的物量による制圧作戦という訳だ。五十の砲門は一斉に火を噴き、ダンゲロス高校を跡形もなく吹き飛ばした。
「やったか」
立ち込める煙の中から飛び出したのは一筋の光であった。光は戦車をかすめると爆発して数両を吹き飛ばした。さて、なにがどうなっているのか無意味な解説をすると、ダンゲロスくんはマイナスイオンを集中させてシールドとして使い、集中させたマイナスイオンを一挙にビームとして放出したという訳だ。つまりマイナスイオンがあれば年金問題以外はだいたい解決できるだろう。
さて、生き残ったアメリカ軍は戦車で奉行所に突っ込んだ。
「ヘイブギョオオオ、SOS!SOS!」
すると奉行所から出てきたのは全身を兵器に改造したサイボーグ奉行であった。
「問題ない、ダンゲロスにはダンゲロスをぶつけるまで。すでに奴が動いておるわ」
海を泳ぎ、江ノ島に上陸したのはダンゲロス高校に潜入していた女子高生風のそれはエルフォート・デュラン大佐であった。エルフォート・デュラン大佐は超能力を駆使した痴漢専門の捜査官であり、趣味ではなくおとり捜査として女装をしていたのだ。(趣味ではない)ちなみに彼は神奈川県警の所属だが、その貫禄ある風貌から大佐と呼ばれている。
そんな変態とゆるキャラが遭遇してしまった。
「お前ダンゲロスの臭いがしないゲロス」
「君はなぜダンゲロス高校をそんなに憎むのかね」
「それはねぇ、僕がダンゲロスで命を落とした者達の怨念から生まれ、ダンゲロス高校の者達にずっと封印されてきたからゲロスぅぅぅ。これは僕の世界への復讐ゲロス」
感情が高ぶりビームを出すダンゲロスくん。一方の大佐も抜刀して刀からビームを出した。そして、ビームつばぜり合いによって互いの実力と年収を察した。
「ここで戦えば鎌倉を巻き込んでしまうだろう」
「いいよ、場所を変えるゲロス」
二人は電車で東京に行った。
食事をすませた二人はお台場にいた。二人だけの真夜中の決闘である。
「やっと互角に戦える相手ゲロス」
「おやおや、少し計算が甘くないですかな」
大佐は不適な笑みと共に光を身に纏い、キツネの耳と九尾のしっぽを生やした。大佐の刀には大妖怪である九尾の狐が封印されており、九尾の狐と同化することでパワーアップできるのだ。
ダンゲロスくんが殺意を感じた頃には大佐は懐に入っており、ダンゲロスくんは蹴り飛ばされて不治テレビの社屋にめり込んでいた。
「いてぇぇぇ、お前は一番惨たらしく殺してやる」
ダンゲロスくんは怒りに任せてビームを吐いた。だが大佐はビームを刀で切り進み、さらにもう一蹴り。その威力はすさまじくダンゲロスくんは六本木ヒルズに突っ込み、三本くらい切り倒してしまった。さすがにこれはマイナスイオンでガードしても痛いものだ。
「くそぉなんなんだよお前、柔道黒帯かよぉ」
ビームが効かないと解ればマイナスイオンを身に纏い身体を極限まで強化する作戦に変更した。フルパワー最高速の戦いは六本木の街を壊滅させた。もはや普通のサラリーマンには目視出来ないレベルの戦いだ。だが戦局は終始大佐が優勢でダンゲロスくんは大佐に羽交い絞めにされて上空につれていかれた。
「やめろ、何をしやがる」
「これでお仕舞いだ」
大佐は突然反転して急降下、途中でダンゲロスくんを発射してしまった。
「まさかオマエ」
ダンゲロスくんを待ち受けていたのは東京スカイツリー、東京人の見栄の塊だ。ダンゲロスくんはスカイツリーの先端に突き刺さり、出血多量で意識を失った。
それは無色透明の世界だった。これは夢を見ている。それだけは理解出来た。そこでダンゲロスくんは願った。ダンゲロス高校の生徒にさらなる苦しみを。終わらない戦いを。欲望の果ての破滅を。それから年金問題の解決を。
ダンゲロスくんの怨念は電波塔である東京スカイツリーから世界中へ発信され、いろいろ頑張って世界を何往復もした。やがてこの電波を受け取り、多くの者達が戦い始めるだろう。夢の戦いの始まりだ。だが、当のダンゲロスくんはそのことを知らない。
大佐もさすがにダンゲロスくんは死んだと思って家で暴れん坊ジェネラルの録画を見ることにした。だがダンゲロスくんはまだ死んではいない。まだ突き刺さっていた。
「よくわからない、でも夢の戦いで勝てばアイツに勝つ方法を知ることが出来る気がするゲロス」