目を覚ますと、水車はまず、カーテンを開く。朝の光を体いっぱいに浴びて、伸びをする。
寝るときは下着だけだから、腰まである長い髪がお尻をくすぐる。

「んんーっ!ふぅ。」

私に必要なルーティンワークの1つだ。雨の日や曇りの日は、できなくて少し寂しいけれど。

「胸、また大きくなってる…やっぱり、まだ私でも成長するんだなあ。」

もうとっくに成長は止まったものと思ってたけど、"こっち"は成長しているみたいだ。
とは言っても、そんな大きいわけじゃない。
CかD。でも、これくらいが丁度いい。と思う。多分。

いつもと同じ日。今日もまた、いつものように、私の周りにいる"ニューヨーク・オーシャン"はきらきらと光り、朝の光を喜んでいる。
その様子が眩しくて、私は少し目を細める。最近は、前ほどではなくなったけど。
でも、やっぱり私はこの"オーシャン"が好きなんだと思う。

私はまた、ぼふん、とベッドに座り、目を瞑って"オーシャン"に口付けをする。

今はこれだけで満足できる。
私にはもうこの子より大事なものがあるから。

「おはよう、オーシャン。」

"オーシャン"に微笑みかける。私はべつに、この子のことが嫌いになったわけじゃない。

「おトイレは困るけどね…。」

悩みの種をつぶやいて、私は少し、頬を掻いた。
でも、仕方ないものは仕方ない。"ニューヨーク・オーシャン"を手に入れたとき、そんなリスクすらも愛おしく思ったものだ。
今では、マジックミラーの窓で中が隠された、こんなお家でしか"オーシャン"と遊べない、臆病者になってしまったけど。

「よしっ!」

洗面所で、顔を洗う。前は"オーシャン"に洗ってもらってたけど、さすがに今はそんな子供じみた真似しない。

そして、眠気覚ましに、勢いよく頬を叩く。あとに影響するといけないから、跡がつかない強さで。

「今日も1日、頑張るぞっ!」

そう言うと、水車は、"ニューヨーク・オーシャン"を解除した。

すると、人が変わったかのように、すぅ…と、水車の纏う空気が変わっていく。冷たく、冷たく変わっていく。

これも、ルーティンワークだ。"オーシャン"がいない時、水車は芸能人の顔になる。

今日は特に、笑ってもいられない理由があった。

「さってと……"無色の夢"か。とりあえず、マネージャーに電話しねぇと。」

最新型のスマートフォンを出す。

「俺は....負けるべきなんだろうな。"オーシャン"の為にも。俺自身のためにも。」

相手はいつもワンコールで出る。

「もしもし、戸川っす。えっと、とりあえず今日の予定、オールキャンセルでお願いします。ええ。で、ちょっと特番やって欲しいんすけど。はい。」

洗面台には、まだ"オーシャン"の残滓が残っていた。
最終更新:2016年04月02日 07:38