あなたは建物の屋上の手すりにもたれ掛かって風に当たっていた
少しでも気分が晴れれば…そう思っては来たが全くと言っていいほど気分は晴れなかった
今日は散々な戦果だった。しかし散々な戦果は今日だけではない。ここ最近連続で…だ
最初の頃は優秀な戦果をあげていたあなた
だが今となっては後期のハウンドにさえ後れをとる始末
こんなはずじゃ…何度思っただろう
後何度己の無力さを感じれば良いのだろう…
あなたは手を握りしめ、うなだれていた
「ここにいたんですか?」
あなたは不意に後ろから聞こえた声に振り向く
そこには一人の女性が立っていた
あなたはその女性を知っている
エミリア・カートライト
ミッション中あなたたちハウンドをサポートしてくれるオペレーターだ
「聞きましたよ…またあまり良い戦果じゃなかったみたいですね…」
彼女はあなたを心配している風だった
しかし自虐的になっていたあなたは彼女も自分を嘲笑いにきたのだと思い、彼女にそうするように促した
あなたはそうされることに慣れてしまっていたのだ
「ち、違います!私はそんなつもりじゃ…」
じゃあなぜ…あなたはそう強い口調で彼女を問いつめた
分かっていた。自分が八つ当たりをしているのだとも…彼女に当たったところでどうにもならないことも…
「それは…その…」
彼女は動揺していた。当たり前だ。こんな事言われるなんて思ってもみなかったのだから
あなたは彼女にお詫びの言葉を言いこの場を去ることにした
これ以上この場にいたら何を言ってしまうか分からない。これ以上彼女の純粋な気持ちを踏みにじるわけにはいかないと思ったからだ
「ま、待ってください!」
あなたは彼女の言葉に足を止め視線を移す
彼女も止めたは良いがなにを言えばいいか分からないといった表情だった。けどこのまま終わらせてはならない…そう思って呼び止めたのだろう
「あなたがそこまで思い詰めていたとは思ってませんでした…すいません」
彼女はあなたに無礼だった事を詫びた。しかしすぐに表情を強めた
「けど!思い悩んだってしょうがないじゃないですか!」
彼女の強い口調に驚くあなた。彼女はミッション中でもそれなりに感情を表す方なのだが、それでもここまで表すことはない
それ故驚きを隠せなかった
「あなたにとっては結果が全てなんですか!戦果が良ければどんな無茶な事をしても構わないんですか!」
あなたは戸惑う。目に涙を浮かべながら話す彼女に圧倒されたからだ
「実戦なんですよ!死と隣り合わせの戦場なんですよ!訓練通りにいかないに決まってるじゃないですか!」
確かにそうだ。訓練と実戦は違う
自分たちが相手にしている鋼鉄虫。それらと狩るか狩られるかの戦いをしているのだ
一歩間違えれば即死に繋がる戦いを
あなたも目の前で無惨に散っていった命を見てきた
「私は皆さんのように戦場に立つ勇気はありません…ですからこんな事言う権利は無いでしょう…けど言わせてください…」
あなたは息を凝らした
「今はただスランプに陥ってるだけなんですよ…戦果が出なくたって良いじゃないですか…」
「あなたがいい戦果じゃなかった時に一人訓練に励んでいる事…私知ってます…アドミラル級のエネミーの殲滅後にも関わらず、戦果に納得いかなければ帰還後すぐに訓練に臨んでる事…私知ってます…」
ふと彼女を見ると彼女は目に浮かべていた涙を流していた。どうして彼女が泣いているのかあなたは分からなかった。しかし一つだけは理解できた
彼女は自分のために泣いてくれているのだ…と
「こんなに頑張ってる人が戦果があがらないなんて…スランプ以外何があるって言うんですか…それに…それに…私…怖いんです…」
彼女は涙を拭いながら続ける
「いつしか…あなたが無茶な突撃をして死んじゃうんじゃないかって…今のあなたを見てると…そんな考えが考えたくなくても頭をよぎるんです…」
あなたは思い返す…確かに自分はここ最近戦果を気にするあまり無謀な突撃が増えた
今はまだ他のハウンドがついて来れるレベルだがいつしか誰も付いてこなくなるような戦い方だ
一人になればなぶり殺しにあうのは時間の問題だろう
「私…嫌です…今こうやって話してる人が死んじゃうなんて…いつしか世界から鋼鉄虫がいなくなって…世界が平和になったって…人がいっぱい死んじゃったら…意味ないですよ…」
泣いている彼女を見てあなたはいたたまれない気持ちになった
「前日まで明るく話してた人が…次の日にはいなくなってた…こんなの…戦場では日常茶飯事だって…だから割り切れって…ホダカさんは言ってるけど…私…割り切れません…嫌なものは嫌なんです…」
ホダカが彼女に言ったことはもっともだろう
戦場に出ればその時着ている物が死に装束なることなど容易に予想できる
最初の内はあなたも辛かったが徐々に慣れてしまっていた。感覚が麻痺してきたのだろう
だが人間が本来持っているべき感覚は彼女の方が正しい。散華した者の事を思い悲しむ彼女が…本当の意味で人間なのだ
「お願いです…もう無茶な事はしないと…約束してください…。嫌な事あったり、愚痴りたいことがあれば…聞きますから…力になりますから…だから…だから…」
彼女の気持ちが痛いほどあなたに伝わってくる。そして考えた…いつから世界平和のためではなくより良い戦果をあげる事だけ考え戦場に出ていたのかを…自分が何のために戦っているのかを…
「…ひっく…うぅ…」
彼女はそれ以上何も言わなかった。否…言えなくなるほど泣きじゃくっているから言えないのだ
するとあなたの心に一つの感情が芽生える。いつの頃からか忘れてしまった感情。それがあなたに命令する。今彼女を慰められるのは…彼女を不安から解き放てるのは自分だけだと
彼女の頬に手をのばすあなた
そして優しい口調で彼女を慰めた
「えへへ…あなたからそんな言葉を聞くなんて思ってもみませんでした…」
あなたは苦笑いする。自分でも割に合わない事を言ったと思ったからだ。だが泣き止み、微笑む彼女を見てそんな事どうでも良いと感じた
「そう言ってくださるなら…もう大丈夫ですよね…?もう無茶な事はしませんよね?」
彼女は笑顔でそうあなたに問い掛けた
それにあなたはNOを言う気などさらさらない。あなたは首を縦に振る
「えへへ…良かった…」
彼女はあなたから少し離れると片手をあなたに差し出した。その手は小指だけが立っていた
彼女の行為がよく分からないあなたはなんの真似か問いただした
「これですか?昔ある国で約束を交わす際にやってたおまじないみたいなものです♪『指切り』って言うんですよ♪ほらあなたも同じ様に出してください♪」
彼女に言われるがままあなたは手を出し小指を立てた
「えっと…こういう風に指を絡ませて…指切りげ~んまん♪嘘ついた~ら針千本の~ます♪指切った♪」
彼女はルンルン気分で歌を歌いながら手を縦に振った。そして歌い終わると指を離した
「はい、約束しましたよ♪絶対守ってくださいね♪」
彼女の明るい表情に自然と顔が綻ぶあなた
「それじゃ私は戻りますね♪これ以上長居したらホダカさんに何言われるか分かりませんから」
恐らく仕事をほったらかしにして来たのだろう。彼女は苦笑いしながらあなたに一礼をして去っていった。そんな彼女にあなたは聞こえるか分からないほどの声で
「ありがとう」
とだけ言った
先程とは打って変わり気分は驚くほど晴れている。もう悩む必要はない
あなたは次のミッションまで体を休めるため部屋に戻ることにした
彼女と約束を交わした日よりあなたは驚くほど戦果が良くなった
かといって無茶な突撃をしているわけではない。仲間との連携を意識し歩調を合わせて行動して得た戦果だ
今ではあなたを信頼しあなたの指示に従って動く者もいるくらいだ
「あっ、お疲れ様です。今日も大活躍でしたね♪」
ミッションから帰還したあなたに彼女は声を掛けた
「私の言った通りでしたね♪ただのスランプだったんですよ♪」
ウキウキ気分で話す彼女
「けどそれだけじゃない気がするんですよね~、いったい何なんでしょう…?」
疑問を投げかけてきた彼女にあなたは笑顔で小指を立てた
「あ…えへへ…」
照れ顔になる彼女
「ほ、他の人には言ってませんよね?」
あなたはいたずらな笑みを浮かべ彼女を茶化す
「も、もう~。誰にも言わないでくださいよ~!」
ちょっと怒り気味で言ったがすぐにはにかんだ笑顔になり
「でも…良かったです。約束を守ってくれて…」
彼女の言葉にあなたもやや赤くなった
「では…失礼しますね…次も期待してますよ♪」
彼女は一礼し去っていった
もうあなたは迷わない。世界を…いや、彼女の笑顔を守るために戦うのだ。戦果などもう気にしない
そして…彼女が本当の意味で笑える日を一日でも早く作るのだと…彼女と交わした約束は絶対に守ると…あなたは彼女の笑顔に固く誓った
最終更新:2012年03月31日 11:33