俺はプロローグの簡易版なんてヤワなことはしねえッ!するのはただの補完だ!予選落ちしそうなので後悔だけはしたくねえ!
(以下幕間SS)
不束者を取巻く人間関係①(交友関係)
友人等を中心に日常が展開する。
不束箍女…【似喰い/スネークイーター】
教師の松岡…高校教師。
トモエ…箍女の友人。
ユキ…箍女の友人。
(あらすじ)
不束箍女は神奈川県立ダンゲロス高校の一年生だ。ごく普通のお淑やかなお嬢様だったが、事故からビッチ(あばずれのこと)の肝臓を移植されて以来、ビッチに変化してしまった。
この物語では彼女の人間関係を中心に、変わったものと変わらないものを追っていく。
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不束箍女。
箍。タガと読む。
漢字が読みにくい為、友人からは様々な呼び方をされる。
中でも、基本的な呼び名はタガメッピだ。
これは最も多くの友人が使用し、また最も古くから使われている名でもある。彼女の名前を覚えるのに最適な呼び方と言える。
気に入った人は是非タガメッピしよう。
その他にもメガピッピやピッコロさんなどよくわからない呼び方をされることもある。人の呼称などというものは往々にしてよくわからないものである。
しかも初対面の人から何故か和田アキ子などとも呼ばれる。流石のタガメッピも和田アキ子扱いされるとキレる。
和田アキ子こと不束箍女は昼前の四限目、現代文の授業を受けて過ごしていた。
勉学に励む姿は見目麗しい姫君のようであり、妖艶な目線を放つ魔女のようでもある。
壁際の席で、窓枠に肘をついてツマらなさそうにしている姿は、悩める純情乙女にも見える。
実は全然勉学に励んでない、授業はマジで退屈だった。教師の話も半分くらい上の空だ。
こういう時はスマホの占いアプリをして暇をやり過ごす。
占いは好きで、特に恋占いに興味を示す。
大親友のトモエとユキも占いを信じるタイプで、これは十代の特定の女子特有の反応と言っても良いかもしれない。
今は星占いアプリ、星フォックス占いを起動している。
占いによると『A型のあなたは目の前にオシャレな男性が現れ「フォックス僕だよ~」と言いながら爆発するかも☆』だって。
タガメッピは、寝た。
事件はこの時起こった。
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飛翔するような浮遊感。天に昇る高揚感。
嗚呼、これは夢か現か。
ずっとこのままでいたい。
目の前に人の映像が流れる。
否、映像かと思ったそれは、確かな質感のある生きた人間である。
夢を見ているのか。
質感ある顔がこちらを向く。表情は茫乎として読み取ることは出来ない。
男女の区別も付かない。
人影の輪郭が明確になるに連れ、身体は縮んで行きーー
ーー筋骨逞しい黒人の姿となった。
「えっ」
「鳳凰龍聖拳ッ!」
黒人が叫ぶと、ワンボックスカーにトランスフォームした。夢とは混沌とした出来事が当たり前のように起こるものだ。
ワンボックスカーはこちらに激突した。
「ぎゃああーッ!!」
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「ちょっとタガメッピ、寝てたら教師の松岡に怒られちゃうよ。」
いつの間にか眠っていたようだ。タガメッピは目を覚ました。
起こしてくれたのは教師の松岡だった。松岡は本名を松岡ハピネスと言う。本当はアフリカーンス語教師だけどスワヒリ語話者の肝臓を移植されて以来、バイリンガルになってしまった。俗に言う天才という奴だ。
とはいえ先程はとても夢とは思えない不思議な感覚の体験だった。これは恋のトキメキにも似ていた。タガメッピの心はいつの間にか黒人のアプローチにゆり動いてたの?
タガメッピは思い込みの激しい性格だ。なので、現実のどこかに存在するトランスフォーマーさんが、タガメッピにお近づきになりたいが為、夢の中に現れたのではないかと疑念を抱いた。
全国から魔人の集うダンゲロス。他人の夢の中に現れる能力者がいてもおかしくはない。
「トランスフォーマーさん、ワタシと付き合いたくて殺そうとするのね。純情かも。」
でもさっきの夢では、いつまでたっても告白してくれなかったネ…サミシィョ…
ハラハラと涙を流した。
「タガメっピどっか調子悪いの?」
「そっか、わかった。私が、トランスフォーマーなんだ…」
突如タガメッピはすべての答えを得た。
「タガメっピ、マジ偉人なんだね。気分良くなるおまじないしてあげよっか?」
優しすぎかも。松岡ハピネスはキリンさんと一緒に修行してた時期があって、現地で色んな恋のおまじないを身につけたらしい。そのおまじないの精度は高く、女子生徒からは親しみを込めてアフリカマンと呼ばれている程だ。
「エボラッ」
松岡ハピネスは角笛でタガメッピを殴った。タガメッピは気絶した。
結局授業はほとんど居眠りした。
いろいろあったけどお腹がすいたので、カフェテリアへ向かう。お昼ご飯はいつも友達のトモエとユキと教師の松岡と一緒に食べる。
トモエはいつも手羽先を食し、ユキはミソカツ定食。教師の松岡はボルシチをよく食べてる。
そして、タガメッピはやはりダンゲロス定食が一番好みだ。めはり寿司が二つも入ってるからね。めはり寿司というのは紀伊半島南部の熊野地方を中心に広く食べられている高菜の葉に包まれたおにぎりであり、その中身は白米や酢飯、しょうゆ味、カツオ味など様々な種類が存在している。また、めはりという名の由来については、目を見張るほど大きく口を開けて食べるためや目を見張るほど美味しいなど諸説ある。
でも今日は皆でお蕎麦を壁に打ち付けていた。
「これお土産に持って帰るけん。」
「新そばぞ、うまかよ。」
「うわぁ~~おいしそぅ~~。」
そんな風に雑談をする姿は恋愛に敏感な女子高生のありふれた日常そのものだ。
タガメッピの友人、ユキとトモエは二人とも大親友。ユキはロングヘアの金髪がチャームポイント。タガメッピ以上に異性と遊ぶのが好きなアバズレだ。
反対に、トモエは快活な体育会系タイプだが大の男嫌いだ。これは過去に男子に裏切られた経験からくるトラウマらしい。
その男子、いい迷惑かも。
「そういやこの蕎麦粉はタクヤ君が挽いてくれたんだよ~。」
自慢するのはやはりユキだ。彼女の金髪は足元まで達している。これは男を一人惚れさせるたびに髪を1センチ伸ばすという信条に基づいており、タガメッピの目算ではユキの髪は160センチだ。
「それって新しい奴隷のこと?」
逆に生粋の男嫌いであるトモエは男を見るなり喧嘩をふっかけることもしょっちゅうであり、敗北した男子は奴隷として支配されてしまう。今では元彼も奴隷の一匹だ。
「おおおおおおお」
ユキの携帯が鳴った。
「その牛の鳴き声マジで着信音にピッタリかも。私も携帯に入れたいし~。」
トモエが羨ましがる。これがいつもの光景である。
「ウチの実家農家だから帰りに寄って帰るけえ。」
「マジで~。ありがてェ~。」
トモエは破顔した。
「ところでさ~アレ見た?超イケメンじゃない?」
教師の松岡がカフェテリアの片隅に座る男性客を指差す。アレとは、男性客のことである。筋骨逞しい男で、おでんを食べている。中々の美丈夫だ。江戸時代ならかなりモテるだろう。
「あぁー。マジでゴリラ並みの握力ありそうだよねー。」
「独り身で主食はカップラーメンって感じの人だよね~~。」
「おおおおおおお」
「あっ忘れてた。」
ユキは携帯に出ようとすると、美丈夫が近寄ってきた。
「君たち、ちょっと良いかな。私はヤンキーだ。この辺でたむろしている。」
なんと男性客はヤンキーさんだった。確かに言われてみれば荒事に相応しい荒々しい風貌をしている。
「ヤンキーとは縄張り内で好き勝手する不届きな輩を懲らしめたり、滞納者に罰を与える職業なんだ。君たちからみかじめ料を徴収したい。」
タガメッピ達はヤンキーに絡まれたのだ。見方を変えれば男子にナンパされてるということである。でも、男に貢ぐのなんて嫌。好きな物は自分の力で手に入れないと。
「もっしー?今カフェテリア的な?」
ユキはヤンキーを無視して電話に出ていた。これにはヤンキーも気分を害したようだった。
「よろしい、懲らしめないと。」
ヤンキーさんは嬉しそうにサーベルを抜いた。これってバトル展開ってやつ?
この時タガメッピはオバァちゃんの言葉を思い出していた。
戦わずして勝つ。それが不束の流儀である。平和主義者のタガメッピは機転と仕込みを巧みに利用し、戦闘行為に至る前に話し合いで決着をつける事を潔しとしていた。
「鳳凰流星拳ッッ!」
先手必勝。
これこそ一つの極致と言えよう。
問答無用こそが最強の話し合いだ。
鳳凰流星拳、簡単に言えば車(ワンボックスカー)の幻を身に纏い、邪魔者をぶっ飛ばす技だ。
タガメッピの『似喰い/スネークイーター』は自らの記憶を虚像(オブジェクト)化する。
今のは先程の夢で見たワンボックスカーを映像化したのである。
ヤンキーはぶっ飛ばされてカフェテリアの食器返却口に突っ込んだ。
「ちょっと、食器以外のモノは返却せんといてや。」
カフェテリアのおばちゃんに怒られちゃった
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「タガメッピって変わったよね。カッコ良くなった。」
帰り道、タガメッピ達四人は仲良く談笑していた。いつもの光景だ。
「特別な人でも出来たんじゃないの~?」
教師の松岡が詮索を入れてくる。
「そんなんじゃないよ~。ていうか松岡は仕事しなくて大丈夫なのかな。」
「あっヤバイ、校長に叱られる。」
「タガメッピ、小倉丸先輩とは仲直りできた?」
「タガメッピは計画を練ってるんだよね~~。」
「だからそんなんじゃないってば~。」
結局のところ親しい友人の中では誰もが普通の女の子なのだ。
(了)