個人戦一回戦SSその1


「きよみちゃんっ! あの……」

少女はうつむきがちに目を伏せ、頬を紅潮させる。
年齢に比して色を感じさせるその仕草は、妖艶ですらあった。
彼女は瞳をうるませ、言葉を絞り出す。

「……るんぬと、気持ちいいこと、しましょう……?」


曲々月子はスカートを自らまくりあげた。
少女の秘部には、容赦なき象牙の塔がそびえ立っていた。

「え?」

振り向いた九頭原きよみは、全身から蛸足のような触手を生やしていた。





『 The End of NeverEndingStory 』





1.曲々月子の艶めかしい夜


「夢の戦い」を前に、月子は自室で思いを巡らせていた。
期待に胸が躍る。楽しみで仕方ない。
戦い、とは言うものの、彼女には戦闘の意志も能力もないのだが。

こことは違うどこかへ行ける。ここには居ない誰かに会える。
きっと、友達になれる。
それは月子にとって、それだけで「夢のある」話だった。
広がる世界。新しい友達。想像するだけで顔がほころぶ。

対戦相手の名前は、九頭原きよみ、というらしい。
きよみちゃん。名前から察するに女の子だろう。
どんな子だろうか。

歳は? きっと月子よりは年上だろう。
仲良くなれるかな。可愛い子だといいな。
……杏ちゃんくらい、可愛いといいな。

あと重要なのは、声だ。
杏は、耳をくすぐるようなとても良い声をあげた。
こう、扇情的で、蠱惑的で……年上なら、もう少し大人っぽい感じでもいい。

孤島というロケーションも悪くない。
周りには誰もいないだろう。遮るもののない自然の中、衆目の監視もなく、
好きなように、ふたりっきりで。あの図書室のように――

月子の手が知らず知らずのうちに象牙の塔へ伸びる。
熱を持った吐息が漏れる。

杏の嬌声が思い出される。そして、肌と肌が触れるぬくもり。
誰もいない部屋で、一人で過ごしてきた月子にとってそれは、
とても鮮烈で、暖かくて、たまらない嬉しさと愛しさに溢れた記憶。

もっともっと味わいたい。あの感覚を、快感をもっと。

美しい指先が自らのエルフェンバインをなぞる。
ぞくり、と身体が震える。汗が少女の薄墨色の髪を、真っ白な肌を濡らす。
指が塔の頂点に近づく。月子の感情も頂点に近づく。
そして、少女の意識はここではないどこかへ飛び立ち――

そのまま、月子は夢の世界へと転移した。

気が付くと砂浜に横たわっていた。
自宅のベッドにいたはずなのに。





★春は新たな旅立ちの季節、そして鰆の美味しい季節

「はあー、春休みは短いわー。もう新学期よ。さて今年のクラスは……」
「2-B(三年連続三回目)」
「甲子園みたいに言うな……ってまた私たち進級できなかったの!?」
「野比のび太や江戸川コナンが進級するかね君ィ」
「あーもう、また一年アンタと一緒なのね……」



★俺、この打席でホームラン打ったら結婚するんだ

「さあ、その身に受けるがよい……この私の必殺魔球『死球』!」
「退場になるよ」
「この技をもって私は『死神』と恐れられ、チームに入れて貰えなくなったのだ……」
「そりゃあな」





2.友情のあかし


月子は狼狽した。
彼女の格好は今、薄手のワンピース一枚。しかも下着は身に着けていない。
スカートは腹部まで捲り上げられ、象牙の塔はまるだしで、荒い吐息とともに横たわる。

鼓動はまだ波打っていた。自身のエルフェンバインをいじくりながら
息を荒げている姿そのままに、異世界へ呼び出されていた。

そして目の前に、対戦相手の顔があった。

「………………あっ」

月子は慌てて取り繕うように起き上がり、砂浜に座り込んだ。汗がひとすじ垂れる。
しかしその間に、目と鼻の先にしゃがみこんでいたセーラー服姿の少女は
ざざざざざ、と音を立てて、真後ろへスライド移動していった。

ひ……引いてる!

「ま、待って!」

思わず声をあげた。
こんなはずじゃなかった。こんなはずじゃなかった。
自分が何をしに来たのか思い出す。月子は、ここへ、友達を作りにきたのだ。

「きよみちゃん、ですよね? るんぬ、です! ……わかりますか!?」

必死で声をかけた。対戦相手の名前は事前に開示される。
目の前の「きよみちゃん」にも、月子の名は通じているはずだ。

「あの、るんぬ、るんぬは……! きよみちゃん、と、お友達に……」

どこまで伝わったのかはわからない。
ただ、ここできよみは、ピタリと止まった。

月子は少し安堵した。きよみは波打ち際を背に、すっと立ち上がった。
遠く、波の音がする。
はじめて月子は、きよみの全身を視界に収めた。

はっと息をのむ。「きよみちゃん」は想像以上に、明確に美人だった。

白い砂浜、澄んだ海。透き通るような青い空。
そこに立つ、セーラー服の少女。日常と非日常が交錯したような、「特別」な景色。
逆光の中に立つ彼女の体型はすらりと美しく、頭の両端で結ばれた栗色のツインテールが
太陽を反射してきらめきながら、風に流れる。

見たこともない世界。見たこともない綺麗なひと。
夢にまで見た、夢の光景。

「だから……」

月子はなんだか、たまらない気持ちになった。
鼓動が別の意味で高鳴るのを彼女は自覚した。

不意にきよみは顔をそむけ、海を見た。
そっぽを向かれたような気がして、月子はつい大声を出してしまう。

「きよみちゃんっ! あの……」

彼女は言う事にした。一番言いたかった事を、伝えなければ。
月子はここへ何をしに来たか。友達とする事といえば、何か。
それは決まっている。月子の中では決定的に決まっている。

「……るんぬと、気持ちいいこと、しましょう……?」

セックスである。

現実世界で一番の友達を相手に「した」事も、それであった。
お互いのすべてをさらけ出して、最もあたたかい心と体の交流をする。
友達というからには、それくらいの仲になりたい。月子はそう思った。

スカートを、自らまくりあげる。
少女の秘部には、容赦なき象牙の塔がそびえ立っていた。

「え?」

振り向いた九頭原きよみは、全身から蛸足のような触手を生やしていた。

――いま、凄惨なる戦いの幕が開いた。





★五分休みって今考えると短すぎると思う

「次の授業なんだっけ」
「脳科学」
「ゲッ」
「今日は何人生き残るかな~」
「帰る」



★香川県民に怒られろ

「そばばばばばば」
「ちょっと何やってんの」
「うどん作ってる」
「小麦粉かよそれ」





3.女騎士カトリイヌの屈辱


戦いは熾烈を極めた。剣は折れ、鎧は砕け、既に体力も限界が近い。
胸元も太股も露出し、血液が滴る。痛みに顔をしかめる。汗が止まらない。
正直、身体は震えている。それでもカトリイヌは力尽きるわけにはいかない。

正面、右方、そして背後。三方から敵が迫った。
盾は七度前の攻防で奪われた。防ぐ術はない。全力で身をかわす。
決して彼女に油断はなかった。だが退避した先、その足元には
敵の待ち伏せがあった。落ち度はない。相手が上手だった。そのまま足をとられる。

「く…………っ!」

左脚を巻き取られ、宙釣りにされた。屈辱的な格好だ。
身をよじり、彼女を捕らえた「敵」を折れた剣の柄で殴ろうとした。
だが途端に腕を取られ、肘を極められる。
彼女は耐え切れず剣を取り落とした。あまりにも無力。

「う……あ……」

もはや女騎士は完全に制圧されていた。抗う力は残っていなかった。
恐怖が彼女の心を塗りつぶしてゆく。

「い……いやあぁ!」
「ひっ……ああっ」

周囲からも悲鳴が上がる。魔力の尽きたウィッチと、治癒の追いつかぬシスター。
前線が破られた今、彼女らを守る事ももはや叶わぬ。
聖騎士団を襲った蛸足のごとき触手の群れは、勝ち誇るようにうねった。

カトリイヌは涙を流し祈るしかなかった。自分たちはどうなっても構わない。
ただ、信仰の対象でもある、彼女らの主人。
その少女が、どうか無事であれと――。





曲々月子の「エルフェンバイン」は、自身の秘部に象牙の塔を備わらせる能力である。
それは相手に未曽有の快感を与える必殺の性具であると同時に、
ある「世界」の中心でもある。

その世界の住人たちは、月子の身に危険が迫ったとき、その全てが団結して守護を行う。
そう。今まさに「世界」は危機の渦中にあったのだ!

「ひゃあぁ、ぅあっ、ぁんっ……」

舌足らずに、幼く、かん高い声で鳴く曲々月子。

「Oh……yes……! yes! yes! come on!!」

そして、月子に貫かれながら力強い喘ぎ声をあげる九頭原きよみ。
月子より年上だけあって、流石に大人っぽい。

きよみを貫くエルフェンバインの周辺には、ミニチュアの聖騎士団(なぜか全員女性)が
出現し、主人を守るべく全力で抗った。しかし既に、自在なる蛸足触手の前に屈服。
邪魔な取り巻きを排除したおぞましき触手は、ついにその主人を手にかけた。

月子はきよみを貫いたまま四肢を拘束された。さらに細い胴体を吸盤つきの触手が
這いまわり、薄手のワンピースの内側を、未成熟な肉体を侵食してゆく。
快楽の海に引きずり込んで溺れさせる、まさに深海の脅威。

「ぁ、ぅぁっ、ぁあっ!? ぁ……!」

幼い肢体をねじ伏せるように、とめどなく快感が押し寄せる。
熱に浮かされるような朦朧とした意識の中で、月子は呑まれてしまわないよう耐えた。

昔、誰かが言った。「入」という字は、人と人が支えあってできていると。
一方的にされるがままの友情なんていやだ、と月子は思った。
お互いに入れたり出したりしてこその、友達ではないのか!

「んぁっ、ぁうっ、ぁあっ……あんっ!」
「Yes……yes yes……Ahhh……! Oh yeah!!」

身体じゅうをまさぐられながら、月子は腰だけで攻めに転じた。
その姿はさながら、聖剣を手に化物に挑む勇者のごとし。
年端もいかぬ幼い主人が見せた心意気に、カトリイヌ達も奮い立たずにはいられなかった。

おお見よ、女騎士が、ウィッチが、シスターが、誇り高き聖騎士団らが、
自らを拘束する蛸足に口づけ、指を這わせ、頬ずりする。
するとあれほど強靭だった触手から徐々に力が抜け、快楽に痺れるように震え出した。

月子はフィニッシュとばかりに、必殺の聖剣を突き込む。
びくんと、きよみの身体が大きく跳ねる。

「Ahhhhhhhh!! yes! yesyesyes!! Oh   My   God  !!!」

エルフェンバイン。聖なる象牙の塔。その一番目の効果。
《これに貫かれた者は、雲にも届くほどの愛の悦びを月子と分かち合い、身を震わせることとなる》。

九頭原きよみは全身から発光し、煙を噴き出してドシュウ、と真昼の空に打ちあがった。
雲にも届くほどの高さである。
そして空中で大の字になって一回転し、

「YEAAAAAAAAAAAAAAAAAAS!!」

BOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOMB…………!

爆発した。

女騎士たちは月子のまわりを囲んで主人の栄誉をたたえる。
さらに歓声の中、鼓笛隊が登場し、花火と共に勝利のファンファーレが鳴り響いた。祝福あれ!





★英語で言うときっとslip sleep

「うう……古文の先生、催眠音波の使い手かよ……きっつ」
「うつらうつら」
「あっきよみが転寝してる」
「あーうつらうつら。マジうつらうつらですわー」
「寝てるの?」
「うつら、ってどういう意味なんでしょうねホンマ?」
「いいから寝ろよ」



★英語で言うとたぶんstill wait

「私は皇すらら」「私は皇すらら」「私は九頭原きよみ」「私は九頭原きよみ」
「うん」
「私は皇すらら」「私は皇すらら」「私は皇すらら」「私は九頭原きよみ」
「劣勢だ」
「私は皇すらら」「私は皇すらら」「私は皇すらら」「私はクズらぎすよみ」
「あっギリギリで耐えてやがる」





4.決着


「……やるじゃねえか」
「そちらこそ……、です」

遠く夕日が水平線に吸い込まれ、鮮烈な赤が海面に溶け出してゆく。
二人の少女は西日を照り返すオレンジ色の砂浜に五体を投げ出していた。
拳よりもデリケートな乙女の秘部を交わし合った月子ときよみは
互いの顔を見て、目を細め笑い合う。

「へっ……まったく、完敗だぜ」

きよみは言い捨てた。すその破けた学ランが潮風で揺れる。
戦った相手と健闘を称えあうには、古めかしいバンカラ・スタイルが相応しい。
一風変わったピロートークである。学帽のつばが、きよみの目元に影を作って表情を隠した。

月子は満ち足りた笑顔で瞳をうるませていた。
とてもスッキリして、でもまだどこか、ふわふわしているような夢心地。
よかった。本当に、よかった。だから、

「……いいえ」

月子は、きよみの敗北宣言を否定した。

「るんぬ、の、負けにさせてください」

九頭原きよみがどんな人間なのか、月子は多くを知らない。
思えば自己紹介すらしていない。言語としての情報は皆無に等しい。
でも、言葉を交換しなくても、わかる事はある。

セックスは生殖行為であるが、それだけではない。
快楽をもたらす娯楽であり、肉体を躍動させるスポーツであり、
そして、互いの身体で会話するコミュニケーションでもある。

将棋を指しただけで相手の性格がわかる事がある、という。
つまりはそういうことだ。

九頭原きよみは月子に与えられる快楽に、ただ身を任せようとはしなかった。
破天荒な能力を惜しみなく使い、その全てで相手を悦ばせようとしていた。
それが、月子にはたまらなく嬉しかった。互いの全力をぶつけあう時間は最高に楽しかった。

「……なんだって?」
「るんぬは、降参します……だって、」

月子はきよみの顔越しに、沈みゆく夕日を見た。
空の上部は既に暗くなりつつあり、気の早い星たちがまたたき始めている。
一切の物音はなく、昼も夜も変わらない波の音が、絶え間なく耳を癒し続けてくれる。

どれも、狭い部屋の中には無かったものだ。

「るんぬ、もう見たかった夢……見れましたから」

今一度、月子はきよみを正面から見つめた。
彼女の目元は影でわからない。しかし口元が優しげに微笑んだのが、見えた。
月子も幸福をいっぱいに詰めた笑顔で応えた。

「そうか」
「はい」

「……ありがとう」

今までと、少し違う声色だった。きよみの服装は本来のセーラー服に戻っていた。
どこにもおかしな所のない、ただの女子高生がそこにいた。
学帽が消え、きよみの目尻にわずかな涙が浮かんでいた事を、月子は知った。

「どうしても見たい、夢があったんだ」

月子はきよみの方へ寝返りを一回転、至近距離まで転がった。
そして、相手を抱きしめた。

「……るんぬの事、覚えていてくださいね」

敗者は夢の記憶を失ってしまう。

「るんぬ、また、きよみちゃんと……したい……です」

だが、勝者が覚えていれば、きっと。

身体が色彩を失い、意識がゆらぎ始めたのを月子は自覚した。
夢が終わろうとしている。きよみは何も言わず月子の頭を撫でた。

「きっと、いつか――」

月子は涙ながらに微笑み、しかし、言い終わる前にその身体が完全に消失した。
きよみは相手がいなくなったのを確認し、寂し気な目をさまよわせながら、

「……ごめん」

と、小さく呟いた。



――夢の戦い、戦闘終了。
――勝者、九頭原きよみ。







5.九頭原きよみの瑞夢


★ねーねー、マグロの花言葉って知ってる? え? 魚って花言葉ないの?

「お帰りなさいませお嬢様」
「……なんでアンタ、うちにいんのよ」
「お風呂になさいますか。食事になさいますか。それともわ、た、し?」
「それシチュエーションちがくね」
「お嬢様は本日もお美しい。なのでこの植物をささげましょう」
「なにこれ」
「アングレカムという花です。花言葉は『いつまでもあなたと一緒』」
「ちょっと待てお前ここに住み着く気か」



★ねーねー、ネコの花言葉って知ってる? え? 獣って花言葉ないの?

「探偵がネコだったら素晴らしいと思わんかね」
「そういう小説あった気がする」
「ネコ=可愛い。探偵=頼れる。つまりここから導き出される方程式は……?」
「何だよ」
「ネコ+探偵=すごい」
「まあすごいわな」
「どのくらいすごいかというと、死んでも八回くらいは生き返る」
「どっから出てきた数字なんだ」



★ごめん許して

「♪プオォ~~~プオォォ~~~~ イヨォーッポン」
「うわっ何。えっ、神楽ってやつ?」
「私の能力は何でもできますので」
「うん」
「書いてる人が知らなくても出来なきゃいけないんですわ」
「せめてググれよ」
「まったく無茶振りも甚だしい。めそめそ」
「かわいそうに。よしよし」



★先生! なんか体調悪いんで二度と学校こなくてもいいですか!

「うーゴホゴホ」
「アンタでも病気する事なんかあんのね」
「正直、いつ死んでもおかしくない」
「冗談やめてよ」
「もう無理かと。予選ではネタかぶったと思ったし、
 むこうはオチが衝撃的だったから『マジか』ってなった」
「オイほんとやめろ」



★怖いのが苦手だからゾンビをデコッて回る系女子

「いや~『スプラッタデコイ少女☆鈴木さん』今週も最高だな~」
「何そのマンガ」
「ヒロインが毎回グッチョグチョに解体されるシーンが見どころさ」
「ゲェッなんじゃそれ」
「でも次の回ではだいたい元通りなんだよ。わかる、わかるわ~~」
「あ、そこ共感ポイントなんだ」



★頑張れ地球、頑張れ地球 俺は限界だ

■▼■▼■▼■▼■
「めそめそ」
よーお嬢ちゃん。何泣いてんだ?
「思ったよかキャラ数が多くてしんどくなってきた」
まあなぁ、でも締め切りもあるんだろ?
あんま長くなりすぎないようにスパッとナントカしようや
「……リフレクト」
ウグッ、確かに刺さるわ。まあ頑張れよ、じゃあな!
■▲■▲■▲■▲■



★聖属性と光属性の違いを誰かわかりやすく教えてください

「アナルパッケージホールド!」
「うわっ何よきよみ、その覆面」
「アナルパッケージホールド!」
「ちょっ、尻を狙うな、尻を! ギャー! ここってバンドの人の枠じゃないの!?
 何で変な覆面に奪われてるのよ!!」



★ルパンダイブしたら超絶強くなりそうな能力だよね

「くっ、このマッスルスライム(ムキムキの身体の頭部だけがスライムになっている存在。
 軟体生物の特徴をいまいち活かしきれていない)、強い……!」
「ちょ、ちょっと何とかしてよ」
「こうなったら本気を出すしか……! うおお! ガバッ」
「何でいきなりセーラー服から脱いだ!?」
「あっしまった頭がつかえた! 美津子はん引っぱって引っぱって!」
「何で私、路上で友達を剥いてるんだろ……」



★春は新たな旅立ちの季節、そして牛肉は春夏秋冬いつでもおいしい

「はあー、春休みは短いわー。もう新学期よ。さて今年のクラスは……」
「2-B(四年連続四回目)」
「甲子園みたいに言うな……ってまた私たち進級できなかったの!?」
「野原しんのすけや磯野カツオが進級するかね君ィ」
「あーもう、また一年アンタと一緒なのね……」

「……そうウンザリしないでくれたまえよ。友達だろ?」
「まったく、仕方ないわね」

九頭原きよみは笑った。そう一緒。ずっと、一緒だ。
これが彼女の望んだ夢。彼女の選んだ日々。

終端を迎える事のない、閉じた円環のようなNeverEndingStory(はてしないものがたり)

ギャグマンガにも様々な最終回がある。
メインキャラの卒業とともに終わってしまうパターン。
これまでの日々全てが夢だったり、妄想だったパターン。
そんな最終回を読むたびに、言い知れぬ寂しさを覚えてきた。

夢のような日々が続いたって、いいじゃないか。

このまま一生を夢の中で過ごすことに、きよみは何の躊躇いも疑問も持ってはいなかった。
思い通りにならない現実と、思い通りになる夢の中。
価値があるのはどちらだろうか?

「さあ、今日は何をして遊ぼう」

彼女は笑いかけた。







6.曲々月子の悪夢


それは悪夢と呼ぶにはあまりにも平凡な日々だった。
少なくとも最初はそう思っていた。

朝起きて、ご飯を食べる。母は夜勤明けで寝ている。自分で用意する。
学校へ行く。授業を受ける。給食を食べる。午後の授業が終わる。
帰宅する。母は既に出勤していた。ご飯を食べる。本を読む。寝る。
そしてまた朝起きて、ご飯を食べる――。

それを繰り返す。

特別、何が起きるでもない。ただただ、それだけを繰り返す。それだけを。
他の事は一切ない。何ひとつ、無い。ほんの些細な事すらも。
漫然と過ごしていると二日や三日は簡単に過ぎていった。
だから、違和感に気づいたのは一週間ほどが経ってからだった。

一言も、声を発していない。

母とはすれ違い続け、学校には友達が一人もいなかった。杏も、いない。
ここは夢の中だ。すべてが現実の現身にはならない。

教室には先生がいて生徒がいて、月子もいるのに、ひとつも会話ができなかった。
クラスメイトに話しかけてみても、気づいてすらもらえない。
授業で指されたり、発言を求められる事すら、ない。

図書室にも行ってみたが、何も変わりはしなかった。
元々、杏くらいしかいなかった部屋だ。そしてこの世界には、彼女もいない。

無機質な生活は続いていった。一切の変化は許されなかった。
わざと遅刻してみたり、いつもと違う道で学校に行ってみたり、帰宅を遅らせたり、
行動を変えられる範囲で変えてみたりはした。それでも、人と関わる事ができない。

一か月が過ぎるころにはもう、どうにかなってしまいそうだった。
首を絞められているわけでもないのに、息苦しい。
街から酸素が消えてしまったかのようだった。

そんな中、本を読む時間が増えていった。本はこの世界にもあった。
無人の図書室からは、何冊でも好きなだけ借りてくることができた。
人と言葉を交わすことは叶わない。言葉は、もはや本の中にしかない。
紙に書かれた文字だけを光として、月子は生き続けた。

そして、四月が訪れた。そこに月子は最後の望みを託していた。
クラス替え。新たな環境への変化。そんな事に期待して新しいクラスの発表を、見た。
そして絶望した。

四年三組 曲々月子

学年が、上がっていない。クラスのメンバーも、一人たりとも変化がなかった。
誰とも話す事が、できない。もしかして、これからも? ずっと?
人と関わる事ができないというのは、他人から見て月子など存在しないのと同じではないのか。

ただただ漫然と、無機質な生活が続いていくという地獄は徐々に月子を蝕んでいった。
やがて図書室の本もすべて読み終える頃、いよいよ月子は外に出る気すらしなくなった。
窓の外から聞こえる会話が恨めしく感じ、カーテンを閉めた。
暗い部屋で月子はふさぎこんだ。救いは存在しなかった。







7.メッセージ


一方その頃、現実世界では。

「グーグー! グーグー!」

燃える家屋。砕ける道路。鳴りやまぬ悲鳴と怒号。

「グーグー! 私は寝ています! 眠っています! グーグー!」

瓦礫の山に変えられてゆく街の中を進軍する、総勢五百人の九頭原きよみの群れ。
彼女らは一様に巨大な鼻ちょうちんをぶら下げ、信じがたい寝言を声高に主張しながら
駅前を練り歩く。そう、眠っているのだ。きよみの意識は夢の中にあるのだから。
なんという寝相の悪さだ!

「じゃ、寝てるけど一発芸やりまーす」
「ワーワー」「ヒュー」「88888888888888888」

一人のきよみが宣言し、残りのきよみが囃し立てた。
彼女らの周りの景色には、白抜きの文字が右から左へ、次々と流れていった。
そして宣言したきよみは地面にチョップを振り下ろす。
ポコンと軽い音がした、と思った次の瞬間、地球がまっぷたつに割れた。

数秒後には異常気象が始まっていた。
空の向こうから現れた真っ黒な雲が雨と雷と暴風をもたらし、
五百人の九頭原きよみのスカートが全部めくれてものすごい勢いでサービスした。
人々は恐怖した。

「あっコピペ間違えた」

突然、すみっこの方でパソコンをいじり、この様子を配信していたきよみが呟いた。
マウスでドラッグした範囲の宇宙がコピーされ、第二の銀河系が誕生していた。
いま、空には二つの太陽があった。地表が加速度的に干からびて、荒野と化してゆく。

いつまでこんな事を続けるのだろうか。
それは、きっと、ギャグが成立するまで。
つまり、突っ込みが入るその時まで。

きよみ達は再び群れをなして歩き出した。どこへ向けるでもないボケをばら撒きながら。
街中を練り歩き、やがて、引き寄せられるようにある建物の前にまでたどり着いた。

無意識なので、ついつい来てしまった。もうここに、あの子はいないのに。
眠っていたってこの道を間違えたりはしない。何度も訪れたマンションだから。四階へ上がる。
指先を鍵に変えて解錠し、中に入る。よくこうやって侵入しては怒られたものだった。

中には、誰もいなかった。この家の両親も忙しい時期であろう事は想像がつく。
リビングはいつもより散らかっていた。乱雑に置かれた各種書類や香典に混じって、
その手紙は置かれていた。女の子らしいキャラクターものの便箋、その表面には、手書きで

『きよみへ』

と、書かれていた。

「…………!?」

思わず走り寄って手に取った。手を使うのももどかしく、ツインテールで封を破る。
中に入っていた手紙を開くと、そこには紛れもない遠藤美津子本人の字で、
親友へのメッセージが綴られていた。



『きよみへ

ホントはこんな手紙、渡さずに済めば一番いいんだけど。
もしあなたがこの手紙を読んでるんだとすれば……その時は、ごめん。

きっと、あなたは落ち込んでくれてると思う。
いつも陽気なフリして、でも、私とばっかり仲良くして。人見知りで寂しがりなんだよね。
初対面の人に自分から話かけたりとか、できないんでしょ?

だから、私に何かあった時には、これだけは伝えとこうと思って。
杞憂ならいいんだけど。もしあなたが、いなくなった私にこだわって、いつまでも
クヨクヨしてるんだとしたら、言ってあげたい事があるの。
その時、私は目の前で言ってあげられないから、ここに書いとくね。

……真面目か!

あのね、アンタね、ギャグ漫画大好きとか言ってるわりに、バカ正直すぎんのよ。
泣きのシーンにページ使ってる場合? あんな凄い力があるのにさ。
次のページでは全部元通り。それが、きよみでしょ?

だから、私の事は、ちょっと悲しんでくれたらもういいから、忘れて、前に進んでね。
きっと他にも、きよみが笑わせてあげられる人が、世の中にはいるはずだよ。
だって私は、きよみと居て、とっても楽しかったから。

だから、これを読み終わったら、本当にさよならしよう。約束ね。
今までありがとう。楽しかったよ! バイバイ!

遠藤美津子』



ぽとりと、きよみは手紙を取り落とした。目から涙のしずくが滴る。
第二の銀河系はかき消え、太陽はひとつ減り、地球は球体に戻り、街に平和が訪れた。
そして能力の効果を失った九頭原きよみはその場に倒れ、スースーと眠りだした。

『きっと他にも、きよみが笑わせてあげられる人が、世の中にはいるはずだよ』

夢の中のきよみは、不意に遠い空を見つめた。ある少女のことが頭に浮かんだ。
ふと、夢の戦いのルールが思い出される。

勝者には冷めぬ瑞夢を。
敗者には――。







8.終わらない夢の終わり


陽の差さない部屋の隅で、月子は膝を抱えてうずくまっていた。
もはや指先ひとつ動かす気力はなかった。このまま、指先から順に身体が腐り落ち、
何も考えないままに消えてしまえたらどれほど楽だろう。
そんな事を考えるまでに思考は濁っていた。ただ……

後悔は、していなかった。

きよみちゃん。きよみちゃんは、どうしているだろう。良い夢を見られただろうか。
この夢から覚めるとき、彼女の事は忘れなくてはいけないけれど。
「戦い」の場で、あの砂浜で、最高の夢を見せてくれた彼女のために、この悪夢を
選択したことは、間違いなく自分の意思だ。だから構わないはずだ。ああ、でも。

後悔はなくても、目の前の世界が、つらい。
自らの選択とはいえ、この現状に耐えるには、いくらなんでも月子は幼すぎた。
真っ暗で、何もなくて、見慣れたこの部屋が監獄の独房にしか思えなくて。
頭を抱えて、両手の指をこわばらせる。自分の意識が、精神がここにあること自体が恨めしい。
意識があるせいで、苦しみを感じなくてはならないから。

この悪夢が終われば、戻れるのだろうか。せめて元の世界へ。杏のいる学校へ。
そして、きよみちゃん。彼女は、会いに来てくれるだろうか。
降参して消える間際に伝えた言葉は、届いただろうか。また初対面みたいに、なってしまうけど。

それでも良ければ、また、会いたいです。そして、したい……です。
待ってます。るんぬは、いつまでも。きよみちゃんが迎えに来てくれるのを。だから――



その時、目の前の景色が、くしゃりと歪んだ。



「ちわーーーーーーーっす。曲々さんのお宅はこちらで合ってますかねーーーー」

空間を引き裂いて、その向こう側……虹色にうごめく狭間から、ぴょこりと無表情な顔が覗いた。
ぱっちりとした目鼻立ち。栗色の美しいツインテール。
あまりの事に月子は呆然とし、しばらく反応できなかった。
ただ、彼女は、幸いにも、その顔をまだ忘れてはいなかった。

「きよみ…………ちゃん?」
「ヘイ」
「きよみちゃん! きよみちゃんだ!」

月子は涙を流し、目の前の相手の名を連呼した。
きよみは頭にかぶったキャップに挟み込んでいた伝票を取り出し、わざとらしく記載を確認する。

「えー、曲々月子、在庫ひとつ確保っすわー。いやーまだ残っててよかった」
「きよみちゃん! きよみちゃん!」

月子はきよみに抱き着いた。きよみはそのまま、月子の小さい体を小脇に抱え込んだ。

「じゃあ商品のほう、店頭に並べますねー」

二人は虹色の裂け目に入ってゆく。
はてしない筈の夢を抜け出して。







「きよみちゃんっ! あの……」

少女はうつむきがちに目を伏せ、頬を紅潮させる。
年齢に比して色を感じさせるその仕草は、妖艶ですらあった。
彼女は瞳をうるませ、言葉を絞り出す。

「……るんぬと、気持ちいいこと、しましょう……?」


曲々月子はスカートを自らまくりあげた。
少女の秘部には、容赦なき象牙の塔がそびえ立っていた。

「え?」

振り向いた九頭原きよみは、全身から蛸足のような触手を生やしていた。

「ええで。Yes. 学校終わったらな」
「うんっ」

きよみはすんなりと答え、月子はその手をとった。

あたらしい夢の日々が始まる。
最終更新:2016年03月01日 20:22