茂木デュ一郎プロローグその3


ある昼の茂木デュ一郎

 希望崎学園科学棟の三階を広く占める茂木のラボ。そこで茂木は一人、満面の笑みで大声を出す。
「アハ! アハ! アハ! アハ!」
 発声練習ならぬアハsay練習である。本来、ブレイクスルーの瞬間にアハ!と叫ぶべきなのだが、アハ体験漬けの茂木は逆に、アハ!と叫ぶだけで快感を得られる。モギロフのアハだ。
「アーーーーハーーーーー!」
 茂木が拳を強く握る。脳内薬物オーバードーズアハ体験する茂木、自らの拳を、砕けんばかりに力強く握る。拳が真っ赤になる。万力が込められる。
「クオリアが、クオリアが溜まってきたーー!!!!」
 拳が赤から紫に鬱血。
 高くあげた拳を大きく振りーー自身のこめかみを強く打つ。一切ためらいのない殴打。一瞬、首がヤバい角度まで曲がり、茂木は空中で三回転半し、扉にぶち当たり、廊下の堅いコンクリート床に後頭部をぶつけた。
「経験則の痛み! 痛みはどこからきているのか! 痛みは本当にあるのか! オレは! 今! 痛みを感じていない! 過去の自分!」
 ガンガンガンと頭を床に、土下座の動きでぶつける。周囲には人がないが、もし通り過ぎるものがあれば、絶対に目を合わせず駆け足で去るだろう。茂木の額は割れ、骨まで見えている。骨が割れている。
「人でありながら! 痛みを感じない! 人の再定義! 再定義を欲す! 哲学ゾンビ! オレは哲学ゾンビ! ゾンビ! 不死身!」
 茂木は立ち上がり、廊下の塀をつかんでジャンプ、ためらいなくダイブ!
「アハァアアア!!アアアァァーー…」
 ボギャ。
最終更新:2016年01月25日 19:40