リプレイ風じゃないちゃんとしたサブイネンプロローグSS


「オカンー!起きろやー!ゴハン冷めるでー」
「今行く~」

羽の生えたコタツがフワフワと浮いて食卓まで迫ってくるのを見て
サブイネンはため息をついた。

「オカン、とうとうコタツと一体化したんか」
「ふふふー、天使ぱわー」

サブイネンの養母須藤四葉は天使である。比喩的な意味じゃなく羽とか輪っかとかあるし
おまけに両性具有だ。サブイネンが子供の頃は天使の力で空を飛び触れた物を塩化したりして
梅田避難ビルの住民を守って来た。その活躍と見た目により地元民から神のように崇められ
現在は毎日届くお供えを食べてグータラ過ごす毎日を送っている。

「でもさオカン、コタツを背負って飛ぶのって逆に辛くあらへん?」
「コタツの持つ空を飛ぼうとする因子を加速させたから自動で浮くようになったの。楽ちん!」
「さよか」

四葉の魔人能力は視界に入った人及び物の状態を加速させるというモノだ。
寝付かない子供を眠らせるという平和的な使い方から人や建物を数秒で崩壊させるという
恐ろしい使い方まで可能なマルチで凶悪な能力だ。でも、今は主にこんな使い方をしている。

「っっっと、もうこんな時間や!仕事行ってくるわ!ゴハン食べたら食器は流しに置いといてな」
「うん、いってらー」

コタツに飛ぼうとする力なんてあったのか気になったが、時間が無いのでツッコミは
帰って来てからする事にした。今日はサブイネンが所属するバンドのライブが行われる日、
遅刻なんてしたらエライ事になる。

「おう、またせたなリーダー!サブイネン只今到着や」
「遅いでサブイネン!もうギリギリや」

到着して早々、ゴスロリ衣装を着たメインボーカルのツマランナーが声を荒げる。
サブイネンは時計を確認する。リハーサルまで後1時間以上あった。

「ツマランナー何怒っとるねん?ワイいつもこの時間に来るで」
「タイバンの時間がギリギリやねん!」
「またまた~冗談が過ぎるでリーダー」
「本当だよ」

着替えを終えたカミマクリン(キーボード担当)がツマランナーの言葉を肯定する。

「タイバンの申し込みがあったんだよ。珍しいよね」
「カミマクリンが言うんならマジなんやな」
「何でワイの言葉は信じずにカミマクリンの言葉で信じるねん!リ-ダーショーック!」

バンド同士が演奏順や出演料の配分を巡って決闘する事をタイバンと呼ぶ。
サブイネンはアマチュア時代からタイバンで勝ち続けオモロナイトファイブを
軌道に乗せてきた。だが、今やサブイネンは魔人格闘界でも無敗のファイター、
最強の魔人は誰とアルタ前で聞いたら半分ぐらいがドラマー兼魔人格闘家のサブイネンと答えるぐらいに
強さが浸透してしまい、怖いもの知らずのバンドマン達ですら最近はタイバンを挑まなくなっていた。

「やってやるでマンボ。お前を倒してコミックバンド界のナンバーワンになってやるでマンボ」

タイバンを挑んできた共演者、ひな壇ノボルは威勢よく吠えるが、目が戦いに向かうそれではない。

(なんや、ただのワイのファンか)

相対した瞬間、ノボルの放つオーラが有名人のサイン欲しいガキのそれと気づくサブイネン。

「お、俺の魔人能力『マンボDEマンボウ』はマラカスの先端きゃ、から無尽蔵にマンボウを生み出す。
綿棒じゃなくてマンボウは何も考えて無いからお前の先読みは通じないマンボ!」
(セリフ噛むな。つーか能力説明すんなや。せめてもうちょい勝つ気みせんかいな)
「ウオオー!マンボマンボマンボボボボー!!」

マラカスから飛び出すマンボウ達はノボルの言う通り無尽蔵にして無軌道!
真っ直ぐサブイネンに襲い掛かるものもいれば、逆走するものも、
近くにいた他のマンボウと交尾するものもいる。

「確かに読めんけど・・・隙間だらけやないかーい!」
「傍を通る時はマンボウに触れない様に気を付けるでマンボ!マンボウ達は寄生虫だらけマンボ」
「何から何までありがたいわアホォ!!」

全く統制のとれていないマンボウの隙間を通り、能力を新設に説明するノボルを射程距離に捕えた。

「タイバンを・・・なんやと思っとんねんお前は」

勝負の場を汚されたサブイネンは激おこ。

「サブイネンさんと試合出来るチャンスでマンボ!」

ノボルは堂々と本音をぶっちゃける。一般人ならともかく同業者がコレではいけない。

「倒す気で来いゆうとんじゃボケェ!」
「お、俺なんかで勝てるとでも!?距離を詰められてマンボウも使えないし絶対無理マンボ」
「うん、無理や。取りあえず歯ぁくいしばらんかい!」
「うわああああでマンボ!」

ノボルがヤケクソで放つマラカスストレートを絡めとりそのまま一本背負い。

チリーン!

ダウンしたノボルの後頭部に即座にサッカーボールキック。

ゴーン!

跳ね上がった頭を後ろから両腕で包み込み一気に絞め落す。

シャーン・・・

錫杖の音が会場に響き渡ると共にノボルの意識は失われた。
ライブ本番直前に意識を取り戻したノボルは後に語る。

「あの人に投げられてから絞め落されるまであっという間だったでマンボ。
あんな継ぎ目の無いコンボ、相当の先読みもそうだけど、血尿流すレベルの
反復練習が必要なはずマンボ。やっぱサブイネンさんぱねえマンボ」

打撃に加え格闘家になりマスターした投げ・関節・絞め。
あらゆる格闘技術を相手の隙に合わせ最適のタイミングでぶち込んでいく継ぎ目の無い連続攻撃。
これが25歳になったサブイネンの実力である。
滅亡の連続で無法地帯になった梅田を守り続けた男の今である。

「サブイネン、ダメージは無いかいな?」
「心配すなやリーダー。練習量に不安のあった投げから絞めへのコンボの良いテストになったわ」

先程の戦いでサブイネンにダメージは無かった。
だが、この戦いが思わぬアクシデントを呼ぶ事になる。
今回のタイバンで賭けたのは演奏順。見事にトリを飾る権利を得たサブイネンは・・・。

「おいサブイネン!本番やぞ!!何をフラフラしとんねん!」
「あー・・・、うん。きょうやったわじかん・・・いそがしくてわすれてたわ・・・」
「サブイネーン!お前アレなんか!?もしかして流行りの睡眠病とかいうアレなんか?」
「しんぱいすんなすぐおわらせてもどるから・・・ごびょうぐらいね・・・る」

大スターのサブイネンは格闘、バンド、オカンの世話でスケジュールパンパンだったので
無色の夢が指定した日時をナチュラルに忘れてしまっていた。
ライブ中にふらつき倒れるサブイネンの映像は即座にニュースになり、
彼がこの後起き上がるか否かに関わらず大ニュースになるだろう。

「サブー!お前何しとんねーん!!」

(予選を突破したら)本編に続く
最終更新:2016年02月22日 21:26