指紋押捺制度


[003/316] 15 - 衆 - 法務委員会 - 28号 昭和28年03月12日
大川委員 
 関連して。先ほど小畑委員からの御質問のお答えとして、偽造、変造がどの程度にあるかということが今当局ではつきりわからぬ、こういうことでありますが、本来指紋押捺制度を設けたのは、偽造、変造の事例がたいへん発生して、これを防止するためにということが前提になつておる。そうすると、この指紋押捺制度を設ける以前において、確実な偽造、変造の数というものが政府でわかつていなければならぬ、私はそう思う。そのいわゆる確定した分と、その後における偽造、変造の数はどうなつておるのか、この両面の御説明を私はいただきたいと思いますが、その点はただいまおわかりでございましようか。
鈴木(一)政府委員 大体の数がどのくらいであるかということでございますが、これは資料にいたしまして後ほど差上げたいと存じます。
大川委員 
 それから一体この指紋押捺制度を設けたという根本の目的は、外国人登録証明書の偽造、変造を防止するという表面上の理由以外に、犯罪の防止、捜査ということを主眼に置いておるのかどうかということをお伺いしておきたい。
鈴木(一)政府委員 
 ただいまのお尋ねにつきましては、入国監理局といたしましては、外国人登録証明書の偽造、変造を防ぐということを主にしております。
大川委員 
 偽造、変造を防止する技術的な方法として、ただいま政府委員の御説明になつたことは一応了承いたしますが、何がゆえに偽造、変造が行われるかという根本の問題について伺つておきたい。おそらく従前から日本に在留しておる外国人というのは、その数は決してふえないのがほんとうであります。従つて偽造、変造は徐々に減らなければならぬ。それが依然としてふえて来るということは、結局密入国者がふえておるということに帰着すると思うのであります。その密入国を防止するということについて政府はどういう対策を持つておられるか、これが私は根本問題かと考えるのでありますが、伺つておきたい。
鈴木(一)政府委員 
 ただいまの御質問はまことにその通りでございまして、出入国管理庁というものが二十五年の十月にできまして、初めは貧弱な機構で出発いたしましたが、順次定員もふやしていただき、予算もふえておりますが、いわゆる取締りの方の機構を整備いたしますと同時に、この密入国の防止に関係いたします役所といたしましては、海上保安庁、国警、自治警、そして最後には入国監理局という三段階と申しますか、三種類の役所がこれに当つておるわけでございますが、これらの緊密な連絡ということが一番大事でございまして、理想論を申しますれば、この役所が一つの目的に対しまして、一つの機能を営むような一本の機構になるということが一番必要なのでございます。これはわれわれ主張はして参つておりますが、遺憾ながら現在まで実現を見ておりません。従いましてこの三つの機関が互いに横の連絡をして協力をしておりますが、この協力の仕方につきましても、いういろいろくふうがあるので、その点につきましては、毎年幾分か協力の方面においても進歩をいたしておるわけでございます。ただ御承知のようにわが国が朝鮮半島と非常に近接な距離にあり、しかも日本の海岸線は非常に長い。そこへ夜陰に乗じまして、十トンあるいは五トンくらいの船でこつそり入つて来るので、なかなかこれを取押さえますことはむずかしいのでございます。たとえば対馬でございますが、対馬には海上保安庁の方の警備艇と申しますか、巡邏艇と申しますか、そういうものを倍くらいにふやしていただいた、そのために昨年は一昨年に比べまして、対馬に上つて来るという例が大分減つて来ておるわけでございます。そのようにわれわれの方の海上警備力をふやすということ。それからもう一つは陸上に上ります際に監視網を設けておるのでありますが、これもなかなかむずかしいのでございまして、海岸ですぐつかまえればまことに効果的でありますが、その点について非常に各府県でも苦心はしておられますが、これを急速に完備するということは困難な情勢にございます。上りましてからもぐり込むということにつきまして、これはわれわれの方が主になりまして、国警、自治警方面と連絡をとつてやつておりますが、いろいろの制度を設けまして、そういう人たちが入つて来たのがわかるような方法を研究し、またたとえばパトロールをいたしますとかいうようなことで、順次密入国を防ぐということを少しずつ成績を上げておる次第であります。
大川委員 
 最後に伺つておきますが、御承知の通り、最近日本人が李承晩ラインを侵したという場合におきましては、あるいは漁船を拿捕するとか、あるいは日本人を逮捕し、処罰するということについて、韓国の方では相当厳重に日本人に対する制裁を加えておるのであります。それと相対比いたしまして、韓国人が日本に上陸する、密入国をするというこのはつきりした事実に対して、日本が韓国人に対してなすその処罰とか対策というものが、たいへん手ぬるい、いわば日本人は韓国のために李承晩ラインという線で相当厳格に取締られておりながら、日本はどちらかといえば、韓国人がどんどん密入国して来ることについての取締りが手ぬるい、そういう感じがいたすのでありまして、それに対して李承晩ラインを侵した日本人に対する相手国の処罰、それに対して韓国人が日本に入国したときの処分というものについて、どういうお考えを持つておられるか、伺つておきたい。
鈴木(一)政府委員 
 韓国側で、日本人が向う側の法律を犯して入つた場合に、どういう処罰をされるかという点につきましては、私といたしましては十分詳しく存じておりませんが、朝鮮の方から日本に入つて参りました際には、これは出入国管理令違反ということによりまして、密入国者については、まず検察庁の方に身柄を渡しまして、検察庁において十分密入国であるかどうか、あるいはそのほかに密貿易というようなことの疑念があるかどうかというようなことの調べを経まして、出入国管理令違反ということで処罰をいたすわけであります。裁判所の決定した判決を得まして、その上で入国監理局の方に身柄を渡してもらう。われわれの方は司法処分が済みましたあとでございますから、単なる行政処置といたしまして、密入国者を必ず本国に送り帰すという法の精神から取扱つておるわけでございますが、この原則をあくまでも堅持しております。ただ密入国をして参りますいろいろな理由があるわけでありますが、その理由の特別な者につきましては、大臣の特別許可という制度がございますので、それにつきましてごくわずかなものが在留を許可されるということがあると思うのであります。原則はどこまでも密入国者は送り帰す。しかし入国監理局に所管が移りました際には、これは司法処分ではない、行政処置であるということで、大村収容所に収容しまして、現在では毎月一回船を出しておりますが、船に乗せて送り帰すということをいたしております。普通密入国者は単に船に乗つてやつて来るということでありますと、罰金であるとかあるいは一、二箇月の拘留であるとか、執行猶予というような程度の処置が行われておるわけであります。

22 - 衆 - 法務委員会 - 21号  昭和30年06月16日
古屋委員  なお進んでお尋ねいたしますのは、昨年のたしか第十九国会だと思いますが、外国人登録法第十四条に関する外国人の指紋押捺の点が改正をされて、しかもそれが本年度から実施されることになっておりますが、その実情はいかがでございましょうか。御説明願いたいと思います。
内田政府委員 
 この政令は先般発布されまして四月二十七日から実施いたしております。一部の外国人による反対運動というものは各地に少しずつ現われておりますが、幸いにも当初予期いたしましたような本格的と申しますか、執拗な反対運動というようなものはほとんど出ておりません。それで各都道府県からの報告によりますと、市町村の窓口におきましては、指紋押捺に際しましてもほとんど摩擦なく、若干人が押捺の目的の説明を求めた程度のことでございまして、大体きわめて鮮明なる指紋が押されて、もうこちらに届いておるものが千二百枚ございます。つまり少くとも現在までのところ、大体円滑に行われておると申し上げていいと思うのでございます。ことにその一つの副産物と申しますか、これは実は指紋押捺制度の、われわれとしてねらっておったことなのでございますが、従来のただの写真だけでございますと、これを簡単に他人に流用いたしまして、相当な値段で売買などされておったそうでございますが、写真を張りかえて他人が使い得るという状況にあったのですが、この制度になりましてからは、その登録証の再交付を要求いたします場合には、十指の指紋を押さなければならないといった関係で、登録証を非常に大事にするようになり、再交付を願い出る件数が平均に比べまして、著しく減少しておるという報告を受けております。

28 - 参 - 法務委員会 - 5号  昭和33年02月10日

大川光三君 
 ただいま議題となりました外国人登録法の一部を改正する法律案についてお伺いいたしますが、この提案の趣旨御説明によりますると、この規定に基く指紋押捺制度は、全般的に申せば、実質的にも形式的にも予期以上の成果をあげておるということでありますが、一体実質的、形式的にも予期以上の成果をあげたということは、具体的にどういうことであるか、まず伺いたいのであります。
政府委員(伊關佑二郎君) 
 実質的な効果と申しますと、登録法を制定いたしまして、指紋を押させますのは、一般的に見まして、外国人の犯罪の防止にも役に立ちますが、主としまして不法入国者、特に密入国者の防止とか、発見とかという点に主眼をおいておりまして、従来不法入国者が日本に入りまして、そして外国人は登録証明書を持っていなければなりませんので、ところが、密入国者はそれがもらえませんために、他人のものをもらいまして、そしてそれを写真を変えるとかというふうな方法でもって登録証明書の偽造をやっておりました。どうやってもらいますかと申しますと、正式に登録証明書を持っております人間が、これをなくしたといって新たにもらいます。そしてその古いやつを密入国者等に渡すというふうなことが多分に行われておったように思われるのであります。これを登録証明書の再交付と申しますが、その再交付の件数が非常に減って参っております。たとえば昭和二十七年度には一万七千八百再交付の申請がございました。二十八年に一万八千、二十九年も一万八千、三十年から指紋の押捺をやっておりますが、一万四千、三十一年にはこれが九千に減っておりますし、三十二年度には六千というふうに減って参っております。でございますので、この不法入国者が登録証明書を偽造してこれを持って歩いておるという件数が減ってきたのじゃないか、これが実質的な一番大きい効果じゃないか、こう考えております。
 形式的と申しますのは、非常に反対がございましたが、ほとんど大部分の者が押しております。押さない者が約二百名ぐらいおりましたが、これも病気等の理由で押しません。結局最終的には二十二名ぐらいしか押さない者はございません。この点を形式的にと申し上げております。
大川光三君 
 指紋押捺制度で密入国者の数が減少してくるということはわかりますが、実際その他の犯罪検挙にどれほど役立ったということは、数字上わからないのでしょうか。
政府委員(山口喜雄君) 
 犯罪検挙に役に立った事例があるかという御質問でございますが、外国人関係の犯罪を調べます際に、まずそういう登録をしておるかどうかということを質問いたします。登録しておらなければ、それが一つのやはり犯罪になるわけであります。さらに登録をしております場合に、その登録書を持っております者がその本人であるかどうかを確認する手段といたしましては、その指紋がありますことが一番間違いがない、そういう意味におきましては、他人の手帳を不正入手するというようなことを防止することはできます。要するに、本人であるということを確認する上におきまして、これは非常に効果は持っております。御質問のように、検挙する端緒になし得た事例があるかどうかというような点につきましては、ただいまちょっと資料を持ち合せませんのでお答えいたしかねますが、そういうようなことで、捜査上は非常に私どもといたしましては活用はいたしております。
大川光三君 
 ちょっとそれに関連してもう一つ伺いますが、指紋押捺を免除されているいわゆる六十日未満の在留者ですね、そういう中からは今まで犯罪者は出なかったのでありましょうか。
政府委員(山口喜雄君) 
 これはやはり何か犯罪を犯しまして問題になった者もあると思います。そういう者につきましては、いまだ登録前でありますれば実際上本人に聞き、あるいはその他のいろいろな方法で調査をいたしておる以外には、外国人であればパスポートを持っております者についてはそれによって調べる、ほかの方法によって調査をいたしていく以外にはないと思います。
大川光三君 
 そこで、今度の改正案というものは、結局指紋押捺制度を非常に緩和していくということになるのですが、それがために六十日未満でさえ犯罪者があり得る、あるいはあるということでございますれば、かように一年未満という長期の間ですね、現行法に比べては長期の間指紋を免除するということが、今後の不良外人の取締りとか、あるいは犯罪検挙の上に支障を来たさないかどうかということを伺いたい。
政府委員(山口喜雄君) 
 私どもの立場といたしますれば、これは指紋を押捺しないでよろしい期間がなるべく短かい方が警察の立場としてはよろしいことは申し上げるまでもないと思います。ただ、まあ今回のこの改正は、最近のいろいろな情勢にかんがみまして、ある程度緩和されようとしておられるのであります。私どもといたしましては、その改正に対して、そういうことでは警察として非常に困る、だから強くそういう改正には反対であるというようには考えておりません。この点につきましては、私どもといたしましても、この程度の改正につきましては、私どもの活動自体から申しますと若干の問題もあろうかと思いますが、まあしかしながら、この程度の改正でありますならば、指紋押捺制度を採用しました目的に対して著しい障害となるおそれもあるまい、こういうように考えておる次第でございます。
宮城タマヨ君 
 この制度の緩和されましたことは、この指紋制度の上から見まして、これは後退したというようにお思いになりませんか。どうでしょう。忌憚ないお気持を一つ。
政府委員(伊關佑二郎君) 
 まあ、指紋を押す人間が多い方がいいという点、今の警察の方の立場等から見ますと、後退ということも申せますけれども、また、これが障害を与えた面を除去するという面から見ますと、効果があるわけでございます。ただ、指紋押捺だけを考えますと、ある意味では後退というようなことになるかと存じますが、しかし、非常に評判の悪かった制度でもございますし、いろいろな積極的な効果もございますので、私は考えまして、政治的に考えれば一歩進歩するということでないかと思っております。
大川光三君 
 先ほど伺いましたうちで、一点質問漏れがあったのでありますが、昨日でしたか、大村収容所を釈放された韓国人が、間もなく犯罪を犯して、警察で自殺をしたという記事を新聞で見たのでございますが、それに関連して、昨年の十二月末に成立しました日韓抑留者相互釈放によって、国内釈放をされた韓国人に対しての登録関係は、一体どうなるのだろうかという疑問があるのです。
政府委員(伊關佑二郎君) 
 けさの新聞に出ておりました警察で自殺をしたという朝鮮人は、今度のこの日韓協定によって釈放された者ではございませんでして、その以前に釈放した者でございます。それから今回の協定によりまして釈放いたしました者につきましては、登録証明書を交付することにいたしております。これを持ちませんと、失業手帳をもらうとか、あるいは食糧の配給を受けるという点に不便がございますので、そういう点はないようにしてやろうという考えで、登録証明書を持たすことにいたしました。
辻武寿君 
 私から一つ、二つお願いします。先ほどの宮城さんのお答えに対するあれですが、必ずしも犯罪防止というものは、あまり重視していないような感じにとられたんだけれども、本来の指紋押捺制度の存在理由、目的はどういうふうになっておりますか。それをはっきりしてもらいたい。もう一つは、昭和三十年四月二十七日以前は、指紋制度はどんなふうになっていますか。
政府委員(伊關佑二郎君) 
 指紋押捺制度は、一般的に見まして、外国人の犯罪防止に役に立っておると思っておりますが、本来のこの指紋押捺制度をやっております一番主要の目的は、やはり不法入国者の防止、あるいはこれの発見という点にあるわけであります。それから昭和二十七年、講和発効とともにできましたが、三十年四月二十七日まではこの施行を延期いたしておりました。

最終更新:2013年11月21日 00:12