デビル メイ クライ 4 (Part1/2) ページ容量上限の都合で2分割されています。
要約 part35-570、part36-395
詳細なストーリー part35-562~569、part36-388~394 以降、2008/05/31~2009/4/3にWikiに直接投稿
悪魔でありながら魔から人間を護った魔剣士スパーダ。
彼を「神」として崇める「魔剣教団」の大祭の日、謎の男(プレイヤーには既知だが正体はスパーダの息子ダンテ)が現れ、演説中の教皇を殺害してしまう。
騎士団長クレドに命じられ、教団騎士ネロ(何故か右腕だけ悪魔パワー保有。でもみんなにはヒミツ)は男を追う。
道中何故か続々現れる巨大な悪魔を片端からブッ倒すものの片っ端から逃げられ(or新手が現れ)微妙に消化不良になりつつも先を急ぐが、途中教団員アグナスにより自ら召還した悪魔から人々を護ることで信仰を集めるという教団の自作自演救世主計画を明かされる。
更に教皇をはじめ教団員の大部分が帰天と称した悪魔との融合を果たしていたのだった。
隙を突かれてピンチになるネロだが、何故か不思議パワー(スパーダの血族なのらしい)で研究材料らしい謎の日本刀(ダンテの兄の形見閻魔刀)を腕に取り込みアグナスの魔の手から脱出。
その後教団本部でクレド(勿論悪魔と融合済)ともバトルになり、悪魔パワーで勝った所をクレドの妹で幼馴染のキリエに見られてしまう。(アグナスがネロを動揺させるために連れて来た)
キリエを人質に取られたネロは既に復活していた教皇に挑むが召還された神(という名のでかい石像。勿論こいつも悪魔)の中に「神」完全復活のための礎として閻魔刀(もともと魔界と人間界を分けるための封印の鍵だった)ごと捕らえられてしまう。
ネロを救おうとして返り討ちにあい、虫の息のクレド(妹を利用されたことに憤り裏切った)に頼まれたこともあり、これまでちょこちょこネロに絡んできてたダンテがネロとプレイアブルキャラをバトンタッチ。本格的に事態の収拾へ動き出す。
(つってもネロが逃がした巨大悪魔を片っ端から倒して召還の鍵になってた魔具に戻し、奴らが出てきた魔界の門(魔具が鍵?)を閉じる(壊す)だけ。あとアグナスもついでに倒した)
最大の門を開く鍵になってた閻魔刀を取り返したダンテがそれを「神」体内のネロにパス。
ネロは「神」体内で教皇をブチのめして先に捕らえられてたキリエと共に脱出。
ダンテとネロによって外と内からボコられてボロボロ状態の「神」を、ネロが灼熱ゴッドフィンガーでトドメ刺してエンド。
ダンテはネロに閻魔刀預けて帰った。ネロはキリエとチューしようとするのを悪魔に邪魔されエンドロールでボコりまくる。
裏エンド(エンドロールで規定時間キリエ護りきったら発生)
事務所に帰り雑誌読んでくつろいでるダンテの前で今回の依頼者であるレディと相棒のトリッシュが依頼料の事で険悪に。
辟易としている所で「合言葉」の電話がかかってきて、ダンテ(とトリッシュとレディ)は嬉々として新たな悪魔狩りに向かうのだった。
あちこちに散らばる瓦礫、前面が削り取られ、価値のないがらくたと化したスパーダ像……
廃墟同然になった聖堂を苦い顔で見回し、クレドが歩いていく。
教壇の紋章が刻まれた、彼女の身長ほどもある何かのケースを、
余程重いのだろう、うんうん言いつつ体全体を使い、キリエが一生懸命運んでいる。
歩み寄ってきたネロがその肩に手を置き、
「持ってきたのか」
荷物を受け取りながら優しく尋ねかけた。右手は肘まで捲り上げていたコートの袖を下ろし、目立たないようにしている。
「兄さんに頼まれたから……」
キリエのいらえにクレドはちらりと背後を見やるものの、結局振り返ることはせずに観察に専念している。
「助かるよ。これで仕事が楽になる」
左手一本でネロは勢い良くケースをひっくり返すと床に寝かせ、蓋を開いて何やらごそごそやりだした。
キリエは少しの間、それを見ていたが、ふと辺りを見渡し……何かを見つけたらしい、とある一角に向かって歩いていく。
床できらりと光るもの……踏み潰されるのをそのままに逃げざるを得なかった、あの青い小箱の中身だ。
眉をひそめて座り込み、両手に取ったそれが無傷のままだと気づいたキリエの頬にうれしげな笑みが浮かぶ。
珊瑚色の細長い石に絡んだ一対の金の羽、そしてその上にもう一対、広げた金の羽があしらわれたペンダントだ。
「フォルトゥナ城か……」
膝を突いて、ネロは「それ」を床に突き立てる。
「目撃者がいる」「殺人鬼が観光名所めぐりとはね」
応えたクレドに愉快そうに返し、グリップを捻って唸り声を上げさせた。
赤いグリップ、いばらの意匠が施された赤い増幅器。特別に強化されたネロだけの剣、「レッドクイーン」だ。
「真剣にやれ!」
掣肘する物がなくなって、当然クレドは怒鳴り声も荒々しくネロを叱りつけた。
しかし蛙の面に何とやら、ネロは剣を担いで得意げな目線を寄越すだけだったが、
「逃がすなよ」
クレドはそれを更に押さえつけるような低声で念を押す。
「分かってるさ」と、すくめたその肩に「無理をしないようにね」気遣わしげな声がかけられた。
「それが仕事なんだ」
やや厳しくした顔で振り返ったネロは、僅かな驚きと共に目を見張った。
はにかんで逸らし、でもその後にまっすぐ見上げてくるキリエの目。
その胸元には混乱の中に無くした筈だったあのペンダントが光っている。
それで彼の表情は和らいだが、すぐに取り繕うようにまじめくさった顔になり、
けれど幾分落とした声色で「非常事態だしな」と付け加えた。
それでも心配そうな様子のキリエの脇を、
「私は本部に戻る」
足早に通り過ぎながらそう言い置いたクレドの姿が出口へと消える前。
不気味な地鳴りが辺りに響き、思わず動きを止めた一同の上に、細かな砂が降ってきた。
「アレから悪魔が湧いてるのか」
呟く視線の先にはちょっとしたビルほどもある奇妙な石の板、
廃棄された採石場の奥に屹立するそれを眺めていたネロを、その時不気味な地鳴りが襲う。
震源は……目前の崖上にそびえ立つ、巨大な石版。
その表面にぽつぽつと朱に輝く光がともった。見守るうちに光点はその数を増し、光同士がじわじわと繋がる。
光はその内部に生じた熱によるもの、恐らく只の石ではあるまい、
その石版の表面をふつふつと、辺りの空気が歪むほどに焼き溶かし……次の瞬間噴出した爆炎とともに
馬鹿でかい何かが飛び出して、放置され、廃墟となった飯場の真ん中で地響きを立てた。
竜に似た四足獣の下半身に獣人の上半身をくっつけたバケモノが一つ雄叫びを上げただけで、
周囲に熱風が走り、かつて作業員達の宿舎だった物だろうか、立ち並んだ空き家が次々と火を吹き、燃え上がった。
廃坑を抜けると岩だらけの山道には横殴りの雪が吹き付けていた。
白く染まった道を抜ける頃には雪は小降りになり、満月の下、天を突く巨城の威容がネロを迎える。
崖にかかった巨大な橋を渡りかけたその時、つんざくような叫びがネロの耳を打ち、城壁の上から何かが飛び出してきた。一瞬でブルーローズを取り出し、ぴたりと狙いをつけたネロはしかし、「……あん?」怪訝そうな唸りとともに首をかしげて銃口を上げる。
レースのついたスリットのドアップ&下着がチラ見える色っぽいドロップキックをぶちかました背後で
エモノを振りかぶった敵に気付いた美女は、すかさず片足を前に残したまま後ろ蹴りを放ったが、
二匹の悪魔の間に長い足で橋をかけた彼女に向かって悪魔の群れが一斉に飛び掛った。
しかし美女はあらあら、とでも言うような低い声を漏らしただけで、
次の瞬間には風車のように回転する両足が宙に浮いた敵たちを一匹残らずなぎ払っていた。
一匹を足蹴に、もう一匹に踵落としを見舞いつつ地上に降りた所に柳腰を両断するかのような横薙ぎの一撃、
けれども彼女はハスキーな笑い声さえ上げながら仰向けに反り返り、その鼻先を通り過ぎる刃は
大きく開いた白い教団服の襟元から覗く豊かな胸を魅力的に揺らしはしても傷一つさえつけることなく、
銀のボブヘアには一筋の乱れさえない。
美女がゆっくりと姿勢を起こす。
視線の向こうでは薄い白煙を上げるブルーローズを掲げ、ネロがかすかに唇を歪めている。
けれどその暗い笑みは向き直った美女の「ありがとう」という声を受けるとたちまちの内になりを潜めた。
銃を持ったままの左手で鼻先をこすり、
モデルのように腰をくねらせる蠱惑的な足取りで歩み寄ってくる彼女に胡乱げな目を投げる。
「見ない顔だな。教団の人間か?」
「新入りなの。グロリアよ」
美女は言って腕を差し出し、ウインクしたが勿論ネロがその手を愛想よく握るなんて事はなく、
彼は無言のままふいっ、と顔を背けてしまった。
「調査は任せるよ。俺は別任務だから」
言って歩き出したネロに「私は他の場所に援護に行くの」
そう返し、どういうつもりかグロリアは彼の背中をじっと見たまましゃなりしゃなりと後ずさっていった。
そうして何気ないしぐさでひょいと足を振りあげ、振り下ろす。
再び動き出そうとしていた悪魔が無慈悲に踏みにじるヒールの下でびくりともがき、断末魔代わりの黒い息を吐き出した。
「貴方に神のご加護を」
そうしてしなを作るようにして笑うと、グロリアは橋の向こうに去っていく。
首だけ振り向けてそれを見ていたネロは白い息とともに皮肉な呟きを吐き捨てた。
「"神"だとさ……」
壁一面に書架が並んだ図書室。
机の上ばかりか手すりの上にまで棚から取り出された本が積み上げられ、溢れた何冊かが床の上に散乱している。
「殺人犯がお勉強か……?」
銃の筒先でページを捲りつつひとりごちていたネロは、背後の気配に険しい顔で素早く銃口を振り向けたが、
予想に違い、そこに居たのは教団員だろうか、白い鎧を纏った騎士だった。
「危うく撃つところだ」
銃を携帯している人間の背後に無言で立つという、うかつな行動に厳しい声を投げたものの、
相手は答えず、ただ何かを窺うようなしぐさを見せた。
兜の奥の視線から異形の右腕を隠し、銃をしまって彼に背を向けたネロは気付かない。
「悪魔どもを追ってきたのか?」
その質問に答えるかのように相手がバイザーの上にしるされた紋章の上に無機質な緑光を瞬かせたのを。
槍を取り落とし、崩れ落ちた鎧の頭部から兜が外れて転がっていく。
爪先にぶつかって止まったそれにしゃがみこみ、ネロは騎士の「死体」に目を向けた。
「空っぽ、か……」
呟くや、無数の光がその内部から飛び出して、鎧ごと跡形も無く消え去った。
掴んだ兜に目を落とすとこれもまた白光の粒子を残して無に変わる。
「……鎧が取り憑かれた?」
手を払って立ち上がり、ネロは低く溜息をついた。
「嫌な予感がする……」
フォルトゥナ城の中庭は奔流のような猛吹雪に包まれていた。
温暖だった街中の様子からするとかなり異様だが、それにも増して異様な光景が目の前で繰り広げられていた。
紫の光を割れ目から漏らす巨大な石の板が鎮座した大荒れの雪舞台、
その上を淫猥な笑みを響かせながらふわりふわりと宙に舞うのは二人の乙女。
燐光を放つ裸身を絡ませてはこちらに向かって手招きを繰り返していた。
「吹雪は奴らのせいか……」
けれども呟いたネロの目に惑わされた様子はこれっぽっちもない。
吹っ飛ばされたバエルが、最後の力か飛ばしてきた触角をネロががっちりと掴み取る。
背負うようにして投げつけるとバエルは吊り上げられて半円を描き、反対側の地面に叩きつけられた。
そのまま雄叫びも荒々しくぐるんぐるんと振り回している途中で音を立てて触角が千切れ、
仰向けのままバエルは地面の上を滑っていった。
足首を掴まれた「女」が光になって右手に吸い込まれるのを眺めているネロに
未練がましくバエルが呪詛の言葉を投げる。
「こんなガキに……クソッ!畜生!勝ったと思って……」「思っちゃ悪いかよ」
光を残した右手を握り締め、ネロはひっくりかえったバエルを睨みつけた。
「オレの兄弟たちがカタキを……」
皆まで言わせず、ネロが宙へと飛び上がる。
悪魔の右腕が巨大なオーラの影を引いてバエルの眉間を殴りつけ、
バカでかいカエルはぎゅるぎゅると回転しながら再度ブッ飛ばされて壁にぶつかり、
雪煙を巻き上げて地面に落ちると動かなくなった。
城の大広間、シャンデリアの上。
壁にかかった教皇の肖像画を見ていたネロはにやりと唇の端を吊り上げる。
次の瞬間、背中の大剣を抜き放って吊り具を一刀両断、補助の鎖だけになったシャンデリアは
絵姿に向かって振り子のように落ちかかり、壁を壊して絵の教皇を引き裂いた。
不信心者の罰当たりな行動は結果として彼に活路を開くこととなる。
絵の裏側には隠された道があり、そこには今までとがらりと雰囲気を変えた工場然とした施設が広がっていたのである。
王侯貴族のそれにも似た、豪奢な調度に囲まれた薄暗い部屋、その中央。
石の天蓋の下の石造りの祭壇……医療用のベッドのように枕の部分が斜めに高くなっているそこに、
教皇の死体が横たえられている。
クレドはその脇に立って無言で首を垂れているが、何故か先刻見せていた悲嘆と狼狽の色はまるでない。
あたかも何かを待っているかのような……と、「それ」は突然やってきた。死体の目がかっとばかりに開かれる。
漆黒の中に炯炯と光る赤い瞳孔、びくりと一つ大きく身体を跳ねさせたのを皮切りに、死体はびくびくともがき始めた。
歯を噛み鳴らし、首を振り、寝台をかきむしる。
「……教皇様!これはご機嫌うるわしく……」
クリップボードに止められた書類になにやら書き込みながら近づいてきた片眼鏡の男は、
老人の「目覚め」に気付くと恭しげに言いつつ寝台の脇に立とうとしたが、
それをクレドに肩で押しとめられて、厚い唇をひん曲げた。
「ネロとかいう小僧の件だが……」
筋肉質なガタイの癖に背を丸めた歩き方で枕元の方に回り込もうとするのを、
さり気なくクレドが更に妨げて寝台の上に手を置き
「何か問題でも?」
にこりともせずに尋ねるので
「馬鹿が!私の研究施設を、み、み―――み、見られたらどうする気だ!」
激した男はどもりながら喚き散らした。
「最優先はダンテの捕縛だ」
返すクレドは男の方を殆ど見もしない。
「貴様は、こ、こ、こ……!」「クレド」
なおも喚こうとした男の言葉を教皇が遮り
「なんなりと」クレドは即座にそれに応じた。
完全に両者に蔑ろにされた形だが、男は口を噤むしかない。
「皆を集めてくれ。安心させてやらねばなるまい」「御意」
一礼してクレドが身を翻す。
「城の中」にしては奇妙な部屋にネロは足を踏み入れていた。
円周を描く壁の一面にはガラス窓があるが、それ以外は
床の中心に設えられたジェネレーターらしきものを中心にした、一つの装置のようだ。
辺りを見回しながら中ほどまで歩を進めたネロの腕が、急にその光を増す。
視線を上げるとガラスの向こうに続きの部屋があり、しゅうしゅうと蒸気を噴き出す設備が居並ぶ中に、
更におかしな物がある……青い光の中に浮かんだ、折れた日本刀。
どういう訳か、この腕はあの刀に反応しているようだった。
「驚いた」低く囁いて部屋中を飛び交う魔物に目を配り、ネロは背中の剣に手をやった。「悪魔とはね」
「恨むならクレドを恨め。貴様にダンテのツ、追跡を、命じた奴が悪いのだ」
「ダンテ?あの男の事か?」
のべつ幕なしに滑空しては切りかかって来る悪魔達を身を屈め、反らし、跳ね避けては弾き返して、
ぶつぶつと呟き続けるアグナスに唸り声を上げ、
「この場所は何だ?」
ネロは刀でぐるりを指したが
「答える必要はない。お前はここで、し、し―――死ぬのだ」
アグナスはいかつい顔にいやらしい笑みを浮かべてまた何やら書き付けている。
「死ぬかよ……!」
ネロは吐き捨て、鼻の先をこすって顎を反らした。
ガラスが砕かれ、アグナスが無様に床を転がる。
「ソ、ソ、ソレは悪魔の力!どうして!?」
レッドクイーンを肩にずかずかと近づいてくるネロから尻餅をついたまま必死で後ずさったが、
ようやく立ち上がった鼻先に剣を突きつけられて悲鳴を上げる。
「お互い様だろ?答えろ。ここで何をしてる」
しかし、ごくりと唾を呑んだ後、
「スバラシイ……!」
彼は恍惚と呟いた。
言われてつい自分の右手を見下ろしたネロが視線も戻さぬうちに
「サイコーだ!」
目玉を貼り付けるような中腰でさかさか擦り寄られて思わずずざっと飛びのく。
「人の話を聞けよ!」
横殴りにした刀身を小指を立てた両手で挟み取り
「知りたいなら―――教えてあげよう」
相手が引っぺがそうとしているのにびくともさせぬままでアグナスは早口に囁いた。
彼はぱっとすぐに手を放したけれど、
「数年前から私は悪魔を研究中だ」
ネロはなおも数歩を後ずさり、しつこく付いてくる彼から右腕を隠すように半身立ちになってその目の前に剣をつきたて、
それでようやくアグナスは足を止めた。
眉を寄せたネロが振り向いたが、遅かった。
宙を駆けてきた悪魔……図書室に現れた白い騎士に串刺しにされ、
つい数時間前の因果応報の如く壁に縫いとめられてしまう。
槍は直ぐに抜かれたが、地面に落ちるいとまさえ許されず津波のように他の二体が押し寄せた。
語り甲斐のない聴衆にアグナスは歯を剥いたが、笑み交じりの息を漏らし、手を伸ばす。
無言の下知に答え、即座に先の鳥型の悪魔が滑るように空を飛んできて、一振りの剣に姿を変えると彼の手の中に納まった。
「ゆっくりと眠りたまえ」
一度貫かれた腹をもう一度深々と突き刺され、ネロは激痛に大きく跳ねて喉を逆流してきた血を吐き出した。
「私の次の研究材料は君に決めた。入念に調べるとしよう。特にその腕をね」
待ちきれないように指をわきわきさせながら告げたマッドサイエンティストそのものの台詞を
わざわざ顔を上げて小さく笑ってから、「断る」ネロは口の中の血を相手の顔に吐きかけた。
その行為は当然の報復を誘い、アグナスは剣が刺さったままのネロの腹に殊更にその切っ先を捻り込んでから引っこ抜き、
「ツ、ツ、ツ―――連れて行け……!」
逆上の証左であるかのような声色で一語一語区切りながら命令を投げる。
視界一杯に迫ってくる白騎士たちの姿を最後に、ネロの意識は闇に落ちた。
ブラックアウトした世界の中で、叫び声が響いている。
逃げろと叫ぶ、彼の声。キリエの悲鳴は彼の名を呼んでいる。彼もまたキリエの名を叫んでいた。
喉が裂けそうな絶叫。それなのに、耳の奥底では鼓動の音が妙にゆっくり脈打っているのだった。
見開いた彼の目は真紅に染まっていた。
沸き起こる力の波動が地鳴りを起こし、右腕の光は全身を覆って噴き出して、
その源泉たる掌は眩いほどに輝きを増している。
弱弱しく浅かった呼吸は、手負いの獣のように荒く、激しい物に変わり、
それに呼応するように固定装置の光の中に浮き上がった刀が勝手に動き始めていた。
炯炯と目を輝かせた彼と、炎に縁取られた天井の大穴と。
元アグナス……アンジェロアグナスはおたおたと見比べていたが、やがて
「あり得ない事だ……! アリエナイッ!」
喚くや、背中の甲羅?から甲虫じみた四枚羽を引き出して、大穴の向こうに飛び去っていった。
低い笑いはしかし直ぐに消え、唸り声にも似た溜息に変わる。
「本部に戻るか……アグナスの話―――クレドも知ってるはずだ」
まだバランスが危うい感じでゆっくりと立ち上がり、
激闘の余韻が色濃いかすかに割れた声でネロは押し出すように一人ごちた。
フォルトゥナ城の裏手にかかる機械仕掛けの巨大な橋、滝をせき止めることで姿を現すそれを渡り、滝の中の洞窟を抜けたときには夜が明けていた。
「森か……」
落ちる木漏れ日を浴び、響き渡る鳥の声を聞きながら歩みを進めたネロは、
崖の上から眼下の光景を見下ろす。そこに広がる緑は山一つ越えてきたというだけでは説明できない
異様さを持っていた。
「なんだこりゃ?」
それを代弁するかのような溜息交じりの呆れ声を耳にして、ネロは腰に手をやりつつ
慌てて後ろを振り向いた。けれど照星の先には風に揺れる草木があるばかり、
その更に背後で芝居がかった仕草で肩を竦める人影がある。
「“門”の影響か……」
相変わらず気配をつかませない、赤いコートの男は向けられた銃口にもやはりそ知らぬ顔で
一面の大森林を眺めやって鼻を鳴らした。
男の言葉通り、鬱蒼と茂る木々は中緯度地域のものではない。
ヤシやソテツのような、熱帯特有の植物だ。
「悪いな、後で遊んでやるよ」
くるりとネロを振り返り、片手を広げてそう言うと、男はトンと地を蹴った。
その背を受け止めるものは吹き上げる谷風以外何もないというのに、
心地よさげにさえしながら空に大の字になり、赤いコートをはためかせて小石のように落ちていく。
「何が目的だ……」
それでも崖っぷちに駆け寄って銃を向けたがやがて諦め、武器を腰に収めて低く呟いたネロもまた、
「迷いの森」へと足を踏み入れた。
「なぜ教えなかった!」
教皇への状況報告を終えて円卓の一隅に腰を下ろしたクレドを、
ずかずかと入室してきたアグナスが鼻息荒く問い詰める。
教皇の前である事をたしなめられても、その勢いは止まらない。何せ……
「あの小僧は、あ、あ―――悪魔だぞ!」
それを馬鹿な、とあっさり切って捨てるクレド。
「知らぬフリか?貴様の部下だ!」
さりげなく逸らした視線の先に回り込まれ、クレドの眉間のシワがいつにも増して深くなる。
「閻魔刀を復活させた!貴様の!貴様の責任だぞ!こ、こ、この……!」「クレド」
片眼鏡の鎖を跳ね上げて尚も言い募ろうとしたアグナスを静かな声がさえぎった。
「何なりと」即座に背筋を伸ばして向き直ったクレドと対照的に、アグナスがおたおたと彼と教皇を結ぶ線上から身を引く。
「その小僧を捕らえよ」
人差し指を軽く立て、向けられた下知に「お望みならば」忠実な騎士は従うかと見えたが、
忠実とは言いがたいが部下であり、そして家族とも言える青年の身柄を差しだす事に
或いは逡巡があったのかも知れない。
「しかしダンテが……」「ダンテは、私が」
珍しく言い訳めいた事を口にした彼の言葉尻を肉感的な声がせき止める。
「頼まれてくれるか?」
「喜んで」
わざとのように豊かな胸を見せ付ける前屈みの姿勢で座っていた椅子から立ち上がったグロリアは
数歩進んだ所でこちらを振り返ると、「ご息災で何よりですわ」優雅な一礼をよこし、歩み去っていった。
「よろしいので?」クレドが尋ねると穏やかに教皇は応える。
「あの女が魔剣をもたらし―――神の完成に貢献したのは事実」
しかしそれでもクレドは懸念が晴れない様子だ。
その通り、円柱の影では彼曰くの「得体の知れぬ女」がいまだ彼らの様子を窺っていたが、
やがて立ち聞きをしていたにしては大胆な足取りでその場を立ち去った。
「問題があっても対処できる。素性の予想もついておるからな」
それを知ってか知らずか、薄い笑いを浮かべてそう談じた教皇は、円卓の上に置かれたクレドの手に自らの手を被せ、軽く叩いた。
「では……クレドよ。ネロと閻魔刀はお前に任せる」
「仰せのままに……」
ひと時の間、物思わしげに俯いたが直ぐにクレドは顔を上げると命令を実行するべく
大股に部屋を出て行った。
クレドが立ち去るが早いか、その背を睨みつけていたアグナスがゆっくりと教皇の耳元に顔を近づける。
「ネロはクレドの妹と親しいようです。うわ言で何度も名前を……」
ひそやかな囁きを受け、教皇は無言で片眉を跳ね上げた。
森の中、谷の上にかけられた橋を渡るネロに、巨大な蛇とも龍とも付かぬ生き物が襲い掛かる。
宙を泳ぐ大蛇は鉄板の橋を軽々と破壊しながら逃げるネロの背中に迫ったが、
すんでの所で橋を渡り終えた彼が渓谷へと続く細道に飛び込むと、天高く舞い上がって何処へともなく姿を消した。
密林の再奥部は苔むした奇妙な石柱に囲まれた広場になっており、入り口の丁度対面には割れ目から緑の光が覗く巨大な石版が聳え立っている。
放つ光の色こそ違えど、その機能は恐らく依然見たものと同じだろう。
石版を睨みつけながら広場の中ほどまで足を進めたネロの背後で、唐突に土煙と、木々のさんざめきが沸き起こり、密生した木立を割ってあの巨大な蛇が襲い掛かってくる。
咄嗟に身を避けたネロが椰子の木にも似た蛇の鱗を掴むと、大蛇は天に向けて跳ね上がった後急降下して、身をくねらせつつ猛烈な速さで樹間を縫って泳ぎだした。
振り落とそうとしてか時折茂みの中にまともに突っ込むのに耐えながら蛇の体を殴りつけるが,
一向に効果がない。通り過ぎる木の幹に顔を殴られ、あわや落下するかという刹那、
猫さながらに身を捻って蛇鱗を掴みなおし、危機を免れたネロは息をつく間もなく蛇の背に沿って
駆け出した。最初こそ少しふらついたものの、直ぐに体勢を立て直し、ハイスピードで迫ってくる枝々を次々飛び越え、文字通り蛇行しながら宙を行く蛇体をぐんぐん駆け上っていく。
急カーブを切ろうとした蛇が身を捩じらせて、丁度頭の前に来たその背に飛び移ると、ネロは大ジャンプして鎌首をもたげた横顔を殴りつけようとしたが、宙を飛来した「何か」が彼にぶつかり、叩き落とした。
「わらわの子を受け入れよ!」
女の声が叫んで、落下していく彼に向かい、更に数発が蛇の鱗の間からマシンガンの弾のように飛び出し、追いすがる。
落ちながら、それでもネロがブルーローズを掲げ、殺到する「わらわの子」
……巨大なホオズキのような朱色の木の実……を撃ち割ると、地面を削って着地した彼の頭上で絶叫が響き、蛇の頭がばっくりと四つに割れた。
グロテスクな花にも見える赤い切り口の中央から雌しべのようにその身を生やしているのは、
長い触角を持った爬虫類めいた容貌の女だ。
「わらわの子を!貴様!」
叫ぶや、一直線に突っ込んできた女大蛇をかわし、ネロはツタに覆われた石の門柱の上に飛び乗った。
「ハタ迷惑な子造りだな」
勢い余って地面に大穴を開ける衝撃もなんのその、怒り心頭の様子で長い尾を打ち振る女怪……エキドナを更に激高させる言葉を投げる。
「侮辱する気か、小僧め!八つ裂きにしてくれる!」
当然の如く更に怒り狂ったエキドナはわめきたててネロをひと呑みにするべく飛び掛かり、彼は彼女を迎い撃つべく、木の葉を散らして門柱から飛び降りた。
緑光を放つ石版を背に、ネロは無言で腕を組み、荒れ果てた遺跡に立つ土埃を眺めている。
彼に敗れた女怪がその中から飛び出して脱兎の勢いで脇をすり抜け、石版の中に逃げ込もうとしたが、
「逃げる気かよ!」やおら閃いた悪魔の腕が蛇身の尾をがっちりと捕まえてそれを阻んだ。
「人間如きに……なんたる恥辱!」
金切り声で歯噛みして、エキドナはぎゅりぎゅりと身をよじり、たまらずネロは手を放してしまう。
燐光の飛沫を放って女悪魔は石版の中に消え、「逃げるなら出てくるなよ」ぼやいたネロは
地面に落ちた彼女の置き土産……彼女の「子」である赤い木の実を拾い上げる。
「おまけにポイ捨てか?」
石版に向かって突きつけた魔の腕がまたしても勝手にそれを取り込んで、ネロは低く溜息をついて身を翻した。
ジャングルを抜けると同時に魔力の影響も抜けたのか、騎士団の本拠地である海上に突き立った白亜の塔に続く道を行くネロに向かって吹き降ろす風には、黒ずんだ枯葉が踊っている。
白い柱が見下ろす長い階段を上りきり、円状の広場に差し掛かったところでふと足を止める。
奥の入り口からこちらに向かってクレドが大股に歩を進めていた。
いつもどおりの苦い顔。なのにネロはなぜだか我知らず拳を握り締めている。
「……怒ってるのか?」
右手を隠すように体勢を変えて、冗談めかして笑いかけてみる。
相手は無言のまま、返事もしない。目の前までやってきたところで小さく息を吐き、笑みを引っ込めたネロは強い口調で問いかける。
「教えてくれよ。教団の目的は?ダンテの正体は?」
返ってきたのは「お前が知る必要はない!」それにも増して激しい声と―――叩きつけられた抜き身の剣だった。
視線は完全に逸れていたが、鞘鳴りの音が彼に危機を知らせた。
だが相手は騎士団長を名乗るほどの男である。
兜割りに振り下ろされた一撃目は反射で避けられても、飛びのいた無防備な姿勢では即座に刃を寝かせた横薙ぎの二激目は躱せない。そして、次の瞬間。
血しぶきの代わりに火花が走り、肉が裂ける音の代わりに甲高く硬い音が響く。
剣を弾き返されてよろめき、「悪魔に憑かれたか……」憎憎しげに唸るクレドを睨み返しながら、
それでもネロは彼の前から異形の右腕をコートの背に隠した。
「あんたを傷付けたくない。キリエが悲しむ」
その名を口にするときだけ僅かに目を伏せるネロの、張り詰めた囁きに
「“傷付ける”?甘く見られたものだな」
息だけで笑ったクレドは向けていた剣を下ろす。
目を閉じて腕を開き、雄叫びと共に大きく一つ身じろぎをするとその体から金色の光が湧き出して
「あんたも……」ネロは愕然と呟いた。
赤く光る目、猛禽のような鈎爪をそなえた足。頭上に不完全な輪を描く一対の角。
宙に浮かんだクレドは片翼の羽根を広げ、盾と化したもう片翼をかざして誇らしげに叫ぶ。
「神に選ばれし者のみが―――人を超え、生まれ変わるのだ。天使としてな!」
「違う……それは、悪魔だ」
見上げるネロが一歩二歩と踏み出して、低い声を震わせた。
「騎士長として―――貴様を捕らえる。教皇の御為に!」
家族同然に暮らした者の声も最早届かないのか、一方的にそう断じて剣を突きつけてくる「悪魔」……アンジェロクレドを見つめるネロの顔が一瞬だけ悲しげに曇った。
最後の力を振り絞り、盾の片翼をかざして突っ込んできたクレドをネロは悪魔の腕で受け止める。
裂帛の気合と共に渾身の力をこめて振り払うと、吹き飛ばされたクレドが石畳の上に転がった。
悪魔の右腕がまた眩い光を放っている。
それを確かめようと腕をもたげかけたネロの耳朶を「まだだ!」荒い息の下から叫ぶ声が打って、彼ははっとしてそちらに目をやった。
肩を波打たせて這いつくばっていたクレドが立ち上がろうとしていた。
が、白い羽と鱗に覆われていたその体は人間の物に戻っている。
先刻の右腕の輝きは、クレドが宿した「帰天」の力を吸い取ったものだったらしい。
「まだ終わっていない!」
叫ぶやクレドは剣を振り上げ、駆け出すと、ネロに向かって振り下ろした。
しかし、しょせんは人間の力、しかも先刻までの戦いで疲れきった体である。
あっさりと受け止められてクレドは再び吹き飛ばされ、地面に大の字になった。
陰鬱な表情で右手を眺め、小さく首を振ってネロはゆっくりとクレドの元に歩み寄る。
「強い……」力尽きたクレドには上がった息を弾ませながら肘だけで後ずさることしか出来ない。
あぎとのように開かれた異形の腕、それをなすすべも無く睨むだけのクレドとネロの距離がしだいに縮まり、そして……唐突に、悲鳴が響いた。
弾かれたようにネロは背後を振り返る。
どうあってもここにいるはずのない人間。誰よりも、何よりもこの場にいて欲しくない人間がそこにいた。
「キリエ……」
キリエの視線が落ちる。驚きと悲しみに満ちた目が悪魔の右手を見つめている。
慌ててネロはそれを背中に隠した。
キリエの視線がネロの背後に移る。咎めるような視線を追って振り向くと、彼女の兄が立ち上がることさえできず満身創痍で呻いている。
「これは……違うんだ……」
息を詰まらせながらする言い訳は、何一つ効をなさないようだった。
「なぜ、こんな事を……」
胸の前に組んだ両手を握り締め、キリエは何度も首を振りながらネロから後ずさっていく。
まるで……まるで、彼が悪魔にでも変わったみたいに。
握り締めた彼女の両手は、彼があげたばかりのペンダントを包んでいるのに。
思い余って駈け寄ろうとしたとき、誰かが擦り寄るようにしてキリエの脇に寄り添った。
「私が言ったとおりだろう?」
アグナスは鼻で笑うと、射殺しそうな目で睨むネロを悪魔が変じた剣で指し、
「ネロは悪魔だ」キリエの耳元に顔を寄せて囁いた。
「クソ―――」
逆鱗に触れる真似をしたのは誰なのか。
悟った彼は声を荒げて掴みかかろうとしたが、アグナスは彼に剣を突きつけたままキリエの背中に隠れ、
「ネロ……」泣き出しそうなキリエの声が文字通り彼に対する盾になる。
「安心しろ。殺しはしない」
相変わらずその耳元で囁きつつキリエの肩に小指を立てた手を置いて「……今はな」アグナスはネロに向けていた剣を手元にひきつけた。
突然向けられた刃に息を呑むキリエを見て、ネロは奥歯を噛み締める。
ありありと殺気立った様子にアグナスが今更ながらの疑問を投げた。
「それにしても―――そんなにこの女が大事か?」
「彼女は関係ない!放せ!」「アグナス!」
「この女が大事」なのはネロだけではない。
やっとの事で立ち上がったクレドが足を引きずりながらやって来て
「何のつもりだ!これは私が賜った任務、下がれ」
当然の抗議を投げたが、アグナスは今までの溜飲を晴らすつもりか錦の御旗とばかりその言葉尻に
「これは教皇の御命令なのだ。貴様の妹を利用せよ、とね」
とおっかぶせた。
クレドが唖然として目を見開き、ネロは怒りに体を震わせる。
「何!?」
駆け寄ろうとしたクレドの腕をとっさにネロが掴んで止めたが、遅かった。
眩い光と衝撃波が放たれ、弾き飛ばされたクレドは床を滑り、
何とか耐えたネロが覆った腕を顔の前からのけた時、そこにアグナスはいなかった。
羽音に振り仰ぐと既に悪魔に身を変じたアンジェロアグナスが気を失ったキリエの襟首を掴んで中天に浮かんでいる。
「女を助けたいなら追って来い。急がねば命の保障はせんよ」
そう言い捨てて高笑いすると、アグナスは毒々しい燐粉を振りまいて飛び去った。
「教皇が―――キリエを……?」
ぼんやりと呟く声を背後に聞いてネロはコートの裾を翻して振り返った。
「奴はどこへ……本部か!?」
愕然と座り込んでいるクレドを引っ掴んで引きずり起し、噛みつかんばかりにして問いかける。
「たぶんな」
よろよろと起き上がり、クレドはふらつきながら後ずさる。
「ネロ。勝負は預ける。真相を確かめねば」
弱弱しい光が明滅して、クレドもまた悪魔に変わり、白い羽根を散らして飛んでいく。
その行先を見上げるネロの右の拳は、いつしか硬く握り締められていた。