Sherlock Holmes: The Awakened

Sherlock Holmes: The Awakened

part73-519~524


519Sherlock Holmes The Awakened2022/05/14(土) 13:56:05.80ID:ZjlhKOm30
毎晩のように見る、忘れたいのに忘れられない悪夢……
その発端は二年前に溯った、私ワトソンと友人ホームズの信じられないような体験にある。

その日は私が朝五時から新聞も読めずに患者を診ていて朝食もやっと摂れたというのに、あのホームズときたら……
「退屈なんだよ、ワトソン君。生活はいつも通り、どうやら犯罪の世界から冒険的な事件は消え去ったようだ…」
「ホームズ、僕はもう行かないと。ステンウィック大佐と会う約束があるんだ。彼は今の所、召使に関するいくつかの問題で不浄脈
に近い状態なんだ。外に出て元気よく歩いたらどうだい?本屋のバーンズを覚えてるよね?彼は特定分野の新しい本を仕入れたよ」
ホームズが読んでいた新聞記事はもうすぐ惑星が一列に並ぶ現象が起こることやどこかの灯台守が死んでインド帰りの甥が後を継ぐこと、
それとスカンジナビア女王の護衛が行方不明になったことは彼の興味をそそったようだったな。
何にせよ私が大佐の家に着くとホームズの懸念はすぐに晴れて、海賊とその財宝の本を買って帰る彼を僕は直接呼び止めたんだ。

「私の召使が夜中にいなくなったんだ。忌々しい恩知らずめ!あんなに私がよくしてやってきたのに。奴は全く英語が話せんのだ。
私達は五ヶ月以上前にオーストラリアから戻ってきたんだ。しかし、奴はこれまで一度もこの家を離れなかったよ。この街を恐れてい
たんだ。
奴は全く金を持っとらん。私は奴の賃金をわざわざ私の金庫の中に保存してやってる。奴は金が必要になるような事はないからな。
私と取引する人達は誰でも、バオウパが私の召使と知っている。奴の人付き合いについては、家に食料品を配達してた人ぐらいさ」
「最近似たような事件がいくつか報告されているのです。概要は殆ど似ています。貧しい国からの移民が居なくなったと、その家族から
報告されているのです。我々は、下層階級のいくつかのいかがわしい施設が地元の異国人達を誘っているのではないかと推測しています」
大佐とルーフル巡査に話を聞き、僕らは大佐の家の裏とそこにあるマオリ人の召使の小屋を捜査した。

小屋には怪しい丸薬、それに裏の塀の辺りには魚の鱗を付けた何者かが外から侵入して来た形跡があった。
「ステンウィックさん。私は消えた召使がより誠実な雇い主を求めて去っただけの事件とお伝えしたかったのですが、
残念ながら違います。あなたの召使は昨日二人組の男達に目をつけられました。一人は中背でがっしりとした成年です。
もう一人は若いインド人で背が高く最近英国に来たばかりです。数々の証拠は彼が誘拐された事を示しています。これまでの所、この悪行の
理由は分かりません。しかしその真実もいずれ判明するでしょう。大佐、これで失礼します。行こうワトソン君。事態は急を要するよ」
ベイカー街に戻ったホームズは私に行方不明事件の情報収集なんかをさせながら、手に入れた物で黙々と実験を始めていた。
「僕らが探している男はテムズ川埠頭の平底荷船の船員だ。より正確には、男は運送と様々な船によって持ち込まれた魚を
取り扱うために雇われている。僕らが次にする事は明らかだ。馬車を捕まえて倉庫群の近くのテムズ川へ急ぐんだ」
私達は一路、夜の波止場へと向かった。

まずはいつものように、僕らはとりあえず一杯やることができて情報の集まる場所―酒場―に入った。
「僕達は波止場の漁船で働いている男を捜しているんだ。がっしりとした体格で、このぐらいのサイズの鉄製靴底の靴を履いている」
「大まか過ぎて、私の店の客の半分が当てはまります。どうやら、私ではお役に立てないようです!ハーパーと言う名の男を探して下さい」
ハーパーの家の近くに住むネパール人の婦人に話を聞いてみると、なんとこの家の息子も行方不明になっているらしい!
「こちらのご婦人は、家族を亡くしたそうだ。この祭壇は彼女の16歳の息子のもので一週間前にいなくなってしまったそうだよ!
ここら辺で男を見かけたと言っている。彼女の息子や家族について調べていたそうだ。男は埠頭で働いていて、銀の目をしているそうだ」
もう一度酒場で聞いてみると、その隻眼の男は卑劣なサマーズというらしい。
「昨夜ここへ来て、何人かの男達を雇おうと探してました。金を払い、カーテンの後ろの特別テーブルを確保しましたよ。ここにいる間に、
色々な人が雇ってもらおうとやってきました。でもやっこさん、神経質で怯えてるようでした」
奴らの根城は12番倉庫らしく、いざそこに忍び込んでみたのだが……
 
520Sherlock Holmes The Awakened2022/05/14(土) 13:57:34.09ID:ZjlhKOm30
事件を別の側面から捜査するというホームズとはリヨンで別れ、私は『黒いエーデルワイス協会』なる精神病院を医者として直接訪ねた。
「おはようございます、ワトソン先生。私はあなたの手紙に驚き、また誇りに思いましたよ。貴方は我々の治療法について知りイギリスで
使われている治療法と比較なさりたいんですね?しかし、この専門的相談は文通によりもっと効率的で楽に出来たはずです。あなたも、
それは承知でしょう。どうぞ教えて下さい、何が貴方を『黒きエーデルワイス』へ赴かせたのでしょうか、ドクター・ワトソン?」
協会を代表するガイジャックス医師と話しているその時、なんと死んだはずのコルビー探偵を名乗る男が堂々と協会にやって来た!
「この男は明らかに偽者です!本物のコルビーは数日前に死亡しロンドンで埋葬されました。僕は、貴方の所のスタッフの一人がここの
協会と英国の仲間との間で危険な取引を行っている問題で来たのです。さらに、その行為は危険な教団と結びついていて…」
だが私は話もそこそこに、えらく慌てたガイジャックス医師と明日もう一度会う約束だけをさせられて追い出されてしまった。

仕方なくホームズに紹介されていた警察官を伴って、次の日もう一度協会を訪ねてみると……病院は上を下への大騒ぎ!
ちょうど奥から逃げるように飛び出してきたあの偽コルビーを捕まえたんだが、その正体は……
「ホームズ!で、でも君はここで何をしているんだい?君の計画を私に話すべきだったんだよ、ホームズ!」
「そういう訳にはいかんよ、ワトソン君。君は不自然な態度をとるだろうし、万事僕の行動をやめさせようとするだろう」
捕えられたホームズの潜入調査によると、この精神病院では明らかに正常な外国人の患者ばかりが定期的に集められては惨酷な脳手術に
よりオウムのように同じ言葉を繰り返すようになってから英国に輸送されていたらしい。
その一連の犯罪の首謀者と思われるAなる者が仲間とニューオーリンズで宝石を売却した金が、計画の資金となっているようだ。
さらに地下の最深部にはかつて港の地下で見た祭壇と、邪教のインド人僧侶の姿があったそうだ。
「お前の調査は無駄だ。お前は偉大なる主にとって何でもない。あの方はすぐ我々の呼びかけに応えてくださる。あの『巨人たち』が
王の目覚めのために再び集う時、眠れる主は必ずこの地上を歩むであろう。いかにしてお前の命が偉大なる主と師を侮辱したかを学ぶ時、
お前とお前の種族は己が肉をひきさく。お前は「奈落」に嘆願するだろう。彼らの劣った肉を我らの「主」に与えるものたちは、その復活の
ために涙する。お前もそうするだろう!彼は空腹で、静かに彼に従う者の悲願を夢見ておる。畏敬の念におののき、見よ!偉大なる主は復活するのだ!」
こうして私とホームズは、一味の活動拠点であるアメリカ大陸ルイジアナ州ニューオーリンズへと船で向かった。

我々は新大陸へとやってきたが、さすが『アメリカでは全てに値段がついてる』と言うだけあったね。
シャンパンなる地元の老ボート屋に袖の下を渡して、やっとためになりそうな話を聞くことができた。
「一週間だか多分二週間前の事だけんど、金持ちん所で働く召使頭が個人所有の宝石の売買をしただよ!商売は素早く静かに行われたようだな。
その人は、アーネソンという名前で知られてんだ。まともでない考えを持ってたんだ。やつらは、みんな彼と同じところから来たに違いねぇ」
「間違い無くそうでしょう。もう一つお聞きしたいのですが、ここ数日間で何か不自然な船の動きはありませんでしたか?」
「5日前に船が一艘、夜中に出帆したんだ。他のボートで運ばれてきた人々が乗り込んだすぐ後に、出航したんだ。あいつらは、
みんな沼地から来たぜ。密輸品だな。ともかく、船は確かに旧大陸に向けて出航したんだ。もうこれ以上は関わらない方が良い、
としか言えねぇだ。むやみに鼻を突っ込むヤツは、ここらのワニのエサになるど」
しかし私達は情報を得た直後に華人に鞄を盗まれた挙句、待ち構えていた悪徳保安官(一味のグル!)に退去を命じられてしまった!
「彼らは、僕らの到着の警告を受けていて待っていたようだね。アーネソンの家を見つけよう!行こう、ワトソン君。時間が無いよ」
 
521Sherlock Holmes The Awakened2022/05/14(土) 13:58:32.96ID:ZjlhKOm30
富裕層街でアーネソンの家を見付けたが、そこには訪問を迷っているらしいある女中がいた。
「あたいの弟のディビーのことです。弟はアーネソンさんに仕えていますが、もう5日も連絡が無いんです。あたいは道路の反対側にある
ギャラガーさんの家に仕えています。もしアーネソンさん達が去ったなら、あたいは見る筈だもの。何か悪いことが起こったんですよ。
弟は、ある意味ではとても賢いのですが一言も言葉が話せないのです。それに毎晩のようにあたいたちは馬小屋のドアの所で会っている
のですが、弟が最後に来た時からもう5日も経っています。何かが、弟の身に起こったんです。あたいには、分かります!」
鍵をこじ開けて敷地に入ると、女中の言う通り明らかに家は何日も放置され……庭には何者かを引き摺った血の跡まであった。
引き摺られていった者の生死は不明だが……家の中に放置されmすでに腐敗していた召使の生死は明らかだった!
さらに屋敷の一室に立て籠もる何者かを察知し説得しようとした矢先、馬小屋の傍で待たせていた女中の叫び声が!
調査打ち切りの警告とともに首を吊られた女中を私が間一髪で助けている間、ホームズはさらに調べを進めていた。

どうやらアーネソンこそが探偵コルビーに調査を依頼したようで、彼の婚約者についても娼船で見覚えがあった。
また彼の使用人アシュマットが、保安官ともグルになって数多の外国人を雇っては盗難された宝石を売買していたらしい。
アシュマットは沼地で何かを企んでいるのをアーネソンに知られてしまったようだが、奴こそがこの事件の首謀者Aなのだろうか?
とにかくそこまでわかったホームズと私は、未だ部屋に立て籠もるディビーを女中に説得させた。
「ディビー、5日前の夜に君は台所からの物音に目が覚めた。最初に君は庭師の声を聞き、それから床を叩きつける音を聞いた。
それから君は起き上がり、火の灯されたロウソクを取って台所へ行ったんだ。台所へ向かう途中で君は床に何か紙切れを見つけ、拾い上げた。
その後、君は台所のドアへ行き庭師コリンの死体が血の海の中にあるのを見たんだ。またもう一人の使用人アシュマットが、死んでいるように
見えるアーネソン氏をドアの方まで引きずっているのも見たんだ。アシュマットは君を見て、ナイフを振り上げ唯一の目撃者を消そうとした。
だが、何かが彼の手を止まらせた。彼はその紙切れをひったくろうとして止まり君に逃げて部屋にバリケードを築く余裕を与えたんだ」
女中は最初ホームズがその場に居たのかとすら思っていたが……違うと知ると、今度は彼がブードゥーの呪術師なのかと驚いていたよ!
重要な紙切れはすでに奪われていたが、幸いディビーの素晴らしい記憶力でその紙切れの数字だらけの奇妙な内容を知る事はできた。

アーネソン氏が引き摺られていった跡を辿ると、彼は船着場の傍で最後の抵抗をしたせいで惨酷にも腕を切り落とされていたのがわかった。
切り落とされた方の腕とともに発見した大金でボートを借りて沼地へと行くと、その奥には見るにおぞましい死体だらけの祭壇と狂信者の姿が!
「卑しき盲目の愚者達よ!『偉大なる唯一者』の到着を感じぬのか?今この時も、彼の者のしもべは王国を超え来たり。導かれし者達は、
己が身体を彼の者に譲らん。全ては、彼の者の目覚めのために存在せり!「呼び声」に逆らうでない!ハハハ!
すぐに彼の者は夢から目覚めお前の世界は丸ごと飲み込まれるのだ!屈服し感謝せよ!お前達は彼の者の新世界の糧なのだ!ハハハ!」
襲い掛かってきた狂信者は止む無く撃ち殺してしまったが、この狂信者がアシュマットだったのだろうか?
なんにせよ我々はまだ息があったアーネソン氏をボートに乗せ、祭壇であまりにも不気味な―発音することも出来ない題の―本を手に入れた。
そしてアーネソン氏のことは彼の婚約者エイミー嬢にまかせつつ、保安官らの追手を逃れるためにも急いでロンドン行きの船に乗ったんだ。
まあホームズときたら私には暗号を任せたまま放っておいて、航海中ずっと部屋に閉じこもっては奇妙な新しい玩具と格闘していたんだがね!
 
522Sherlock Holmes The Awakened2022/05/14(土) 13:59:26.36ID:ZjlhKOm30
ロンドンへ戻ると、ホームズの兄マイクロフトからの調査結果が届いていた。
それによると精神病院はスイス警察の捜査を受けて壊滅したが、ガイジャックス医師は自害してしまいインド人僧侶も見付からないという。
さらに残されていた書類を調べると、ガイジャックスが取引していた宝石はかつてのロンドンの億万長者ロチェスター卿のものだった。
ロチェスター卿の子息であるアーチボルド氏が、卿の所有していた莫大なインドの鉱山から宝石を輸送しようとした際に嵐に遭って沈んだらしい。
さらにこの悲劇に打ちひしがれたロチェスター卿は病を発して亡くなり、その妻も先日亡くなってしまっていた。
アーチボルド氏本人もろとも海に沈んだはずの宝石をアシュマット達はどうやって手に入れ、それで一体何をしようとしているのだろうか?
「金はしばしば人の活動の動機となる。だが今回の事件では違うんだ。奴らは何か他の邪悪な目的に従っているんだ。とても気違いじみていて、
犠牲や大きなリスクを正当化するような目的にね」
数字の羅列は解けたが何を意味するのかまでは判らず、奇妙な本に至ってはホームズの手にすら余り古書店のバーンズに預けてみるしかなかった。

「ホームズさん、一体どこでこの本を見つけたんですか!この本は博物館に展示される程の価値がありますよ!」
一番よく読まれている箇所だけの解読をバーンズに任せて新聞を見ると、スコットランド沖で大嵐が起き幾艘もの船が沈んでいることがわかった。
これはもしやと思い海図に数字の羅列を当て嵌めてみると、そこにあったのはスコットランドのアードナマーカムという場所だった。
「その海岸線にある灯台です。言い伝えがありましてね、その地は海賊の隠れ家の上に作られたんだそうです。その場所は今、
嵐の真っ只中にあり船がたくさん沈んでいるんですよ。ずいぶんと風変わりな建物なんですよ。入り口をエジプト風のオベリスクや羽の
生えた犬といった外国のシンボル達で飾ってあるんです。灯台にしては、奇妙な飾りじゃないですかね?」
海図を貸してくれた酒場の主人は思いのほか詳しくて助かったが、解読を終えてくれていたバーンズは信じられないという風だった。
「この本は大変古いものです。内容は奇妙な存在達を信仰する非常に恐ろしい異端派について述べるもので、記述は曖昧ですが聖書に記述
されている海の怪物リヴァイアサンから派生したのであろう神話について読み取ることが出来ます。この怪物は、海の底にある奇妙な都市で
眠り夢を見続けていると言われています。ホームズさんが翻訳して欲しいと言っていたページはこの『奇妙な存在』に対して、祈る人や
これに関わる儀式について記述されているものでした。恐ろしく不快で病的で残忍な言葉です。この本は何百年何千年もの昔に星が
特定の一列に並んだ動きをした時、神官がこの儀式を行いリヴァイアサンへ祈ったと述べています。神官は『彼の者』の名を詠唱し、
信奉者達が『彼の者』に当然与えられるべき物を与えるためこの地への帰還を呼びかけました。その後、神官は地球上の各国を代表する人々に
対し祈りを朗唱し海に囲まれた巨大な石の塔から彼ら自身を海の中へ生贄として差し出す事を求めました。儀式は外部の神から遣わされた
使者の偶像において行われなければならず、彼らの使者は顔が無く真黒な色のエジプトのスフィンクスに近い形をしているようです。
この使者に似せた偶像は儀式の間存在しなくてはならないのです。でも想像なんて出来ますか?塔の最上階でいわゆる神官と世界中から
集まった人々が一致団結して、石造りの顔の無い羽付きライオンの前で歌っている所なんてね!」
「君は人々がその崇める神に対し当然与えられるべき物を与えるため海へ身を投げるといったよね?だが、彼らの『神』は何を求めているんだ?」
「そこの所が一番馬鹿げていて、この本の内容が伝説と空想で出来ている事を証明する点なんですよ。議論しようにも、儀式は決して
行う事が出来なかったんです。このような古代の頃は、世界中の国々から代表者達を一箇所に集める事は不可能だったでしょうし……」
「分かるよ、バーンズ君。最後の質問に答えて貰いたいんだが、このリヴァイアサンは我々から何を望んでいるんだい?」
「僕らはこの怪物から『世界』を借りているんだそうですよ。この本によれば儀式を完全に遂行し生贄達を捧げる事により、悪魔を
呼び覚まし目覚めた悪魔は地を飲み込むんだそうです。彼らは、この世の滅亡を望んでいたんですよ。何て、馬鹿げた考えでしょうかね!」
惑星が一列に並ぶ儀式の日の前にアードナマーカムに行かねば……もはや一国の猶予もない!
 
523Sherlock Holmes The Awakened2022/05/14(土) 14:02:07.30ID:ZjlhKOm30
アードナマーカムの灯台に着くと船が沈む原因となった灯が消えており、さらにはすでに儀式は行われ頂上から人々が身を投げ始めていた。
そこで海賊の財宝伝説に従いホームズと地下を通り(そこでついでに財宝も発見したらしい)、灯台になんとか侵入することができた。
だが一階で行われていた見ているだけでも狂気に陥るようなその儀式のおぞましさときたら、かつて港の地下で見たそれの比ではなかった!
「ハハハ!何と利口な奴だ!ホームズ!ワトソン!お前は我らの跡を発見し間抜けなアーネソンを見つけたな。あぁ、親愛なるアーネソン!
奴の手の調子はどうだったかい?我はアシュマット。真に『旧き者』を信仰するものだ!さあ、震えるがいい。愚かな者達よ!ハハハハハァー!!!」
あのアシュマットが狂気を纏ってとうとう姿を現し、灯台を上らんとする私達に襲ってきた!
「彼の信仰が力ならば、多分それが弱さにもなるだろう。『旧き者』の印を血で書く場所を見つけなくては」
ホームズがエルダーサインなる血文字を見せもはや発音不可能な呪文を唱えると、アシュマットの狂気は達して絶命してしまった。
だがまだ儀式は灯台の頂上で行われている以上、そこにいる者こそ本物の首謀者『A』に違いない。

アシュマット同様に私達を阻む隻眼のサマーズが窓から落ちて僕らが頂上に着く頃には、『A』の正体もすでに判明していた。
「ホームズよ!ついに、ここまで来たのだな!情報提供者が言った事は嘘では無かったか。おまえは、最も機知に富み最も悪賢い男だよ。
褒美をやる。彼の者の帰還を待つ一等席に座らせよう。彼の者は近づいている。聞こえぬか?彼の者の息を感じぬか?ゆだねよ!」
ひたすら歌を謡い続けながら灯台から身投げしていく患者達を操っていたのは、死んだと思われていたあのアーチボルド・ロチェスター卿!
「この狂気を止める時だ!ロチェスター卿よ。この人達は皆、何の意味も無く犠牲になってるのだよ!お母さんを思い出してくれ。
君のお母さんは、あきらめなかったんだよ。ずっと君を愛していたんだ、いつも君を探していたんだよ」
「塵程の価値も無き、柔らかき肉の者よ。我の真実の母は、我が師の待つ深き青の深淵に居るのだ。我が師は「深淵の光」に加える為、
我を召還した。我らに加われ、ホームズよ。そして『夢』の一部となるのだ。我と共に謡え!謡うのだ!」
僕がなんとか患者達を食い止めている内にホームズが灯台の光を灯し直すと、彼は苦しみ出しようやく患者達の動きも止まった。
「お前には分からないのだ、ホームズよ!彼の者はここに居る。彼の者は来たのだ!私は呼び、あなたは来た!連れて行って下さい、
私はあなたの味方です!世界はあなたの物です!あぁ偉大なる…アァ!アァァァァァァ!!」
狂気から醒めることのなかったロチェスター卿は、ホームズが止めるのも聞かず嵐の海に身を投げてしまった。
こうして、悪夢は終わったのだ。

「君のうめき声で僕は寝てられなかったよ、ワトソン君。君はまた、悪夢を見たんだろうね」
「その通りだよ、ホームズ。今回は、恐ろしい冒険の記憶がとても生々しく真に迫っていたんだ。全てが思い出されてきたよ」
「良いぞ、ワトソン君!最善の治療法は、このテーマについて書き表す事だろう。だが僕らが見、堪え抜いた事については明かしてはいけないよ」
「だけど、僕らが失敗させたあれを君は信じるのかい?もし僕らが時間通りに到着しなかったら?もし奇妙な儀式が最後まで遂行されていたら?」
「君は過去の事を言うが、僕がもっと悩んでいるのは未来の事なんだ。僕らは社会への大きな脅威を取り除いた。だがそうする中で、
僕らは他の脅威を蘇らせたんだ。奴は嫌悪と復讐心で一杯の隠れた危険だ。そしてそれは、僕らがあまりにも良く知った顔をしているのだ」


私は自分でも信じられないこの体験を、ホームズの忠告に従い今日この匿名の場にのみ書き記すことにした。
それにしても、最近の科学の発展ときたらすごいもので……このような私とホームズの物語を追体験することまで、“蒸気”で可能なのだそうだ!
 
524ゲーム好き名無しさん2022/05/14(土) 14:07:25.43ID:ZjlhKOm30
未解決にあるSherlock Holmes The Awakened(目覚めし者)でした
シャーロックホームズ対クトゥルフ神話といった所ですが、公式の日本語版はないので主に有志の翻訳と自分の耳目で書いています
舞台設定としては有名なドラマ版『シャーロック・ホームズの冒険』を借りているようです
 
526Sherlock Holmes The Awakened2022/05/18(水) 17:37:58.33ID:NhAiiZcH0
すいません
>>519>>520の間に以下があるんですけど書き落としてました
wikiにも追記をお願いします

倉庫の地下には秘密の部屋がありそこには大量のアヘンと悪魔の像と祭壇と……そしてそれに捧げられた、なんとも惨たらしい死体があった!
死体の身元はアメリカから来たコルビーという探偵らしく、その指は死の間際に長方形の中の十字の絵を書き残していた。
「この不幸な男は、誘拐者が犠牲者達を移動している時に邪魔に入ったんだ。誘拐された人達は何日間かここに閉じ込められていた。相当な人数だったからか、麻薬で従順にさせられたんだな。それから卑劣なサマーズによって雇われたクズ野郎達は、被害者達を倉庫の
箱の中に積み込んだんだ。昨晩、その人々は船に積み込まれた。彼らの目的地は、今の所まだわからないが……」
アヘンの出所を調べるために関税に行ってみたが一足遅く、『黒いエーデルワイス協会』なるラベルだけが残されていた。
「僕は閃いたぞ。エーデルワイスと、記号の書かれた長方形は何を意味すると思うかい?スイスだ!ワトソン君。僕らは仕事を分けよう」
最終更新:2022年05月19日 12:55