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ストラテスSS



ベルの音が鳴り響く。
どうやら召集がかかったようだ。
狭苦しい仮眠室で熟睡していたオレは、
その突然の呼び出しに、やや混乱をしていた。
夢の世界では、オレは魔法使いだった。
よくあるファンタジックRPGの世界観だったのだが、
魔法の残弾数などを気にしながら戦っていたのは
我ながら職業病とも言える、笑えない話だ。
しかも仲間は大半が女性という情けなさだ。
生活の中に女っ気が無さ過ぎるのも考え物だな。
さて、夢から醒めていないのだろうか、どうにも妙な気持ちだ。
改めて確認する。オレは、戦闘機のパイロットだ。
由し。

ブリーフィングルームに駆け足で向かう。
その間、ボヤッと昔の事を思い出していた。
そもそもオレが航空自衛隊に入隊したのは、映画がきっかけだった。
古い怪獣映画で、宇宙から来た虫のような生物と
地球で生まれた巨大な空飛ぶカメが戦うという
ムチャクチャなストーリーだった。
ただ、この映画の中で好きなシーンがあった。
虫との戦闘に向かう航空機のパイロットに向かって、
かつて戦争で街を焼かれた老齢のメカニックがこう話しかける。
「今度は守ろうや」と。
単純なものだ。オレはこの「守る」という言葉に熱をあげ、
ついに戦闘機乗りになっちまったってワケだ。
それにしても皮肉なものだ。
『ヤツら』は宇宙から来たが、この世界には地球を救うカメなどいない。
オレ達自身が、戦わなきゃならないんだ。

ヤツら・・・俗に『石版』と呼ばれる、敵性珪素生命体。
宇宙の彼方から突如飛来したヤツらに対して、
意思疎通もままならず人類は蹂躙され、世界は恐慌状態に陥った。
この列島だって例外じゃなかった。
飛来より数ヵ月、成層圏を占拠した『石版』に対して、
世界中の空軍パイロット達が決死の抵抗を行なった。
が、ヤツらの侵略は止まらない。
特にヤバいのは『ストレンジレット』だ。
突然空から降ってきて地面に刺さり、周囲の空気を吸引し始める。
地表に巨大な真空が発生するってワケだ。
そして、恐るべき吸引速度により気圧が異常低下し、
直径3千kmを超える巨大で猛烈な勢力の台風が生じる。
西側は、これで壊滅的打撃を受けた。
今でも復旧してないし、これからも無理だろう。
だから、あれだけは落としちゃいけないんだ。

ブリーフィングルームには、数十人の戦闘機乗りが集まっていた。
というよりも、もう列島にはこの程度の人数の戦闘機乗りしか残っていない。
『ヤツら』の侵略を阻止仕切れなかったから。
第二次突入阻止作戦に失敗して、『隣の国』に落ちるのを防ぎきれなかったから。
列島の西半分はあらかた吹き飛ばされてしまったからだ。
千歳の連中は、火事場泥棒・・・人類同士の戦争に狩り出されている。
結局、オレ達が飛ぶしかないんだ。畜生。
「諸君、静粛に」
基地司令官が静かに話し始めた。
「環太平洋決戦連合から情報が入った。
 あと20分後に『ストレンジレット』が降着する。
 場所はアジアのどこか、だそうだ。
 が、当方の観測によれば、そんなどころの話ではない。
 落着予測地点は、東京湾だ。
 我らはこれを全力で阻止する。
 二度とあのような悲劇を繰り返すわけにはいかん。
 絶対に、勝て」

ハンガーには、集められるだけ集めた航空勢力がひしめき合っていた。
ついこないだまでだったら考えられないような機種すらある。
どんな手段を用いてでも、勝つ。そういう事だ。
オレは真っ直ぐ愛機の方へと足を運ぶ。
愛機の傍らには、色黒で小柄なメカニックの姿が見えた。
オレはすぐにそれが誰だか思い出した。
つい昨日見かけた、新入りの女性整備士だ。
赤茶の髪をひっつめにして、眼鏡をかけた色気の無い娘だった。
それでも気になったのは、あの笑顔だ。
彼女は人類が滅ぶかもしれない戦いの中で、まだ笑顔を忘れてなかった。

「よぉ」
「あ、アンタかいな。
 ホンマにパイロットやったんやねぇ」
「そんなウソついてどうすんだよ・・・
 それにしても偶然だな。
 まさか君がオレの愛機の整備をしてるなんてさ」
「ちょっと珍しい機体やからね。
 それより、この『FLOWER』のペイント、塗りなおしてもええ?」
「そんな時間は無ぇよ。
 もう出撃だって事くらいわかってンだろ」
「アンタのパーソナルマークなんやろ?
 3分で終わらすから、後生や」
「しょうがねぇな。まかせたぞ」

コックピットにもぐりこみながら、オレは彼女の方を見た。
本当に3分で塗り終えたらしく、笑顔をオレに向ける。
「でも、何で塗りなおしなんかするんだ?」
「ウチと同じ名前やから。
 ウチ、華って名前なんやよ」
「ハナねぇ・・・どっちのほうで?」
「クサカンムリに・・・こういうの」
「ああ、ハデな方のな」
「ハデって・・・まあええわ。
 整備は万全。何も問題なしやよ。
 安心して飛んで行きや」
「ああ、そうだな。
 立派に飛んで、立派に死ぬさ」
「ちょい待ち!
 今の言葉は取り消して行き。
 ウチの仕事はメカニックや。
 アンタが帰って来ぃへんかったら、
 ウチは失業してまうんやよ。
 そんな事、絶対に許さへん!
 絶対に帰って来るんやよ?」
「あ・・・ああ、わかった」
「あのな・・・
 ウチの地元、アイツらに吹き飛ばされたんや。
 親兄弟どころか、友達もほとんど死んでしもうたんよ。
 ウチは・・・それが悔しゅうて・・・
 今度は!今度は絶対に守り抜こうな!」

守る・・・か。

「ちょっといいか?」
「何?」
「ずっと前に、どこかで会った事、ないかな?」
「昨日会ったばっかりやん」
「いや・・・ま、いいか。
 それじゃあ、行って来る。
 風呂とメシの準備、よろしくな」
「絶対に、絶対に死んだらアカンよ」
「大丈夫だ。生きる理由が一つ増えたから」

キャノピーハッチが閉じられる。
そこから先は、轟音だけの世界。
戦いの空への世界。
目の前のディスプレイに、様々な情報が飛び交う。
視線を遠くに向けると、茜色の夕焼け空が見える。
小さく輝く光は、今まさに戦いが繰り広げられている証拠だ。
あの光の一つ一つが、『石版』の、あるいは人類の命なのだ。
離陸の許可が管制から出て、次々に航空機が死地へと飛び立つ。
F-3、F-4EJ改ex、F-15J2・・・
そういった通常航空機があらかた離陸体制に入ると、
自分の機体の番が来た。
あの娘には帰ると言った。
だが、帰れる保障など何ひとつ無い。
「どうせ帰れないんだったら、
 生きて戻れたら抱かせてくれ、くらいは言うべきだったかな」
誰に聞かせるでもなく、小声で呟く。
『ブレイブワン、離陸せよ』
管制塔から指令が下った。いよいよ出撃だ。
「ブレイブワン、ロジャー。
 ブレイブ小隊は全機、作戦空域へと向かう」
エンジンに火が入る。
さあ、行こうか。我が愛機。
F-23J・・・愛しの毒婦よ。
「GO!」
目指すは成層圏。
オレ達が取り戻すべき、空。

全力で一気に空を駆け上がる。
エンジンがビリビリと震えて、悲鳴をあげている。
オレの小隊の2機は、遅れずについてきてくれているようだ。
周囲の空を見渡せば、オレの基地から飛び立ったものはもとより、
他の国から飛び立った航空機も数多く見える。
数分後、空に真っ黒くカビた連中が見えてきた。
『石版』だ。
だが、以前に戦った連中とは形状が異なるようだ。
この前のは赤黒く光る核を、灰色のカサブタのようなもので覆ったような物だった。
ひび割れた皮膚の下から、肉腫が顔を出したようなグロテスクさがあった。
が、そういった意味では今度の相手の方が酷い。
『隊長・・・見えますか。アレ。
 まるでこっちの戦闘機のように見えますが』
僚機からの通信が入る。
戦闘機・・・?そうだろうか。
「オレにはデッカイちんぽこに見えるがな」
オレはふざけてそう表現した。
おそらくペニス部分にあたるのは巨大なビーム兵器で、
玉袋にあたるのは重力制御装置か、粒子加速器といったところだろう。
我々と『石版』とでは、それほどまでに技術力に差がある。
『ハハッ!なるほ・・・
 ナンテキョコンナン・・・ザザ・・・ザ』
強力な電波干渉が戦場を支配した。
さあ、殺し合いの時間だ。

ギリギリまで『石版』に接近し、射撃ボタンを押す。
機体下部のハッチが開き、ミサイル<アムラーム>が発射され、
『石版』を撃墜すべく飛翔していく。
オレはそれを確認すると、機体の進行方向を少しズラす。
その瞬間、オレのすぐ横を、光の柱が落ちていった。
『石版』による、光学兵器での射撃だろう。
後方で爆発が生じたのを肌で感じた。
確認する気にもなれなかった。
おそらくは僚機だろうから。
また一人死んだ。
前方で爆発が起こった。
オレのミサイルが命中したようだ。
これで『石版』をまた一つ撃墜。
いつまでこんなキルゲームを続ければいいんだろう。
オレの横を無数の光の柱が通り抜けていく。
かすっただけで死ぬ。
頼りになるのは、自分の経験と勘だけだ。

ザコ『石版』・・・ペニスどもの防御網をくぐり抜けた時、それは出現した。
あまりにも巨大な存在。全長10kmにもおよぶ、禍々しい『石版』
『ストレンジレット』だ。
あのザコどもをペニスと呼ぶのならば、
こいつは地球を強姦しようとするペニス以外の何者でもないだろう。
フロイトあたりは泣いて喜ぶだろうさ。
この空域まで来れた航空機は、数えるほどしかないようだ。
既に何機かは、ミサイルをブチあてている。
的がデカいから外しようは無い。
が、どうもコイツには当てるツボがあるようだ。
何発当ててもビクともしないが、そのツボにさえ当てれば崩壊する。
第三次降下阻止作戦の際に言及された事だ。
オレは『ストレンジレット』にギリギリまで接近する事にした。
真っ黒な表面のどこかに、バカデカい本体を崩壊させるツボがある。
オレはそれを探した。
列機もそう考えているようで、皆一気に接近していった。
が、そこで悲劇はおこった。
巨大な何か。今でもそれが何だったかを正確には表現できないでいるが、
巨大な『石版』が『ストレンジレット』を護るように出現し、
その両腕から大出力の光学兵器を撒き散らしたのだ。
列機はその攻撃でことごとく撃墜されていった。
無論、オレも尾翼の一部をもぎ取られ、攻撃作戦の続行は絶望的になった。

その時オレは、特攻する覚悟を決めた。
コントロールを何とか立て直し、進路を『ストレンジレット』に定めた。
どうせ皆死ぬんだ。
ならば少しは役に立って死にたいじゃないか。
が、オレは死ねなかった。
茜色の夕焼け空。
それを切り裂く紅い刃をオレは見た。
空の色に負けないほどに、紅い朱い機体。
中央部の円形石版と、そこから伸びる巨大な複合武装ユニット・・・
『石版』の欠片と人類の叡智より産み落とされし、天を貫く異形の翼・・・
人類逆襲の牙、成層圏の女神・・・

ストラテス―だ。

『ブレイブワンだね?
 頑張ったんだね。
 ありがとう。
 もう大丈夫だよ。
 ワタシタチが来たから。
 ワタシタチは絶対に勝つよ。
 それが役目だから。
 この世界を守るの。
 この星を守るの。
 それがワタシタチの役目。
 ワタシタチは、アキアカネ―』

何者かからのメッセージがオレの機体に届き、
アキアカネを名乗る紅いストラテスから無数の紅い光が放たれて、
茜色の空をなぎ払ったのは覚えている。
紅い光は『ストレンジレット』に吸い込まれて行き、
キラキラと星が瞬くのが見えて・・・
そこからの記憶は無い。

気づいた時には基地のベッドの中だった。
オレの機体は、『アキアカネ』に誘導されたのだと言う。
破片は多数の落着があったが、『ストレンジレット』の破壊は成功したらしい。
こうまで伝聞なのは、全身を包帯で固められた状態でベッドに寝かされたままで、
メカニックのあの娘から散々聞かされたからだ。
結局オレは役立たずだったって事だ。
悔しいが仕方ない。
オレの愛機では、アイツらに勝てなかったのだから。
力が、欲しい。
守るべき力が。
だからオレは今、志願を考えている。
守る力を手に入れるために。
ストラテスの、力を。








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最終更新:2008年04月19日 15:50