最高裁判例
平成18(許)19 証拠調べ共助事件における証人の証言拒絶についての決定に対する抗告棄却決定に対する許可抗告事件
平成18年10月03日 最高裁判所第三小法廷 決定 棄却 東京高等裁判所
事件番号 平成18(許)19
事件名 証拠調べ共助事件における証人の証言拒絶についての決定に対する抗告棄却決定に対する許可抗告事件
裁判年月日 平成18年10月03日
法廷名 最高裁判所第三小法廷
裁判種別 決定
結果 棄却
判例集巻・号・頁 第60巻8号2647頁
原審裁判所名 東京高等裁判所
原審事件番号 平成17(ラ)1722
原審裁判年月日 平成18年03月17日
判示事項
1 民事事件において証人となった報道関係者が民訴法197条1項3号に基づいて取材源に係る証言を拒絶することができるかどうかを判断する基準
2 民事事件において証人となった報道関係者が民訴法197条1項3号に基づいて取材源に係る証言を拒絶することができる場合
裁判要旨
1 民事事件において証人となった報道関係者が民訴法197条1項3号に基づいて取材源に係る証言を拒絶することができるかどうかは,当該報道の内容,性質,その持つ社会的な意義・価値,当該取材の態様,将来における同種の取材活動が妨げられることによって生ずる不利益の内容,程度等と,当該民事事件の内容,性質,その持つ社会的な意義・価値,当該民事事件において当該証言を必要とする程度,代替証拠の有無等の諸事情を比較衡量して決すべきである。
2 民事事件において証人となった報道関係者は,当該報道が公共の利益に関するものであって,その取材の手段,方法が一般の刑罰法令に触れるとか,取材源となった者が取材源の秘密の開示を承諾しているなどの事情がなく,しかも,当該民事事件が社会的意義や影響のある重大な民事事件であるため,当該取材源の秘密の社会的価値を考慮してもなお公正な裁判を実現すべき必要性が高く,そのために当該証言を得ることが必要不可欠であるといった事情が認められない場合には,民訴法197条1項3号に基づき,原則として,当該取材源に係る証言を拒絶することができる。
参照法条 (1,2につき)民訴法197条1項3号,憲法21条
3
民訴法は,公正な民事裁判の実現を目的として,何人も,証人として証言をすべき義務を負い(同法190条),一定の事由がある場合に限って例外的に証言を拒絶することができる旨定めている(同法196条,197条)。そして,同法197条1項3号は,「職業の秘密に関する事項について尋問を受ける場合」には,証人は,証言を拒むことができると規定している。ここにいう「職業の秘密」とは,その事項が公開されると,当該職業に深刻な影響を与え以後その遂行が困難になるものをいうと解される(最高裁平成11年(許)第20号同12年3月10日第一小法廷決定・民集54巻3号1073頁参照)。もっとも,ある秘密が上記の意味での職業の秘密に当たる場合においても,そのことから直ちに証言拒絶が認められるものではなく,そのうち保護に値する秘密についてのみ証言拒絶が認められると解すべきである。そして,保護に値する秘密であるかどうかは,秘密の公表によって生ずる不利益と証言の拒絶によって犠牲になる真実発見及び裁判の公正との比較衡量により決せられるというべきである。
報道関係者の取材源は,一般に,それがみだりに開示されると,報道関係者と取材源となる者との間の信頼関係が損なわれ,将来にわたる自由で円滑な取材活動が妨げられることとなり,報道機関の業務に深刻な影響を与え以後その遂行が困難になると解されるので,取材源の秘密は職業の秘密に当たるというべきである。そして,当該取材源の秘密が保護に値する秘密であるかどうかは,当該報道の内容,性質,その持つ社会的な意義・価値,当該取材の態様,将来における同種の取材活動が妨げられることによって生ずる不利益の内容,程度等と,当該民事事件の内容,性質,その持つ社会的な意義・価値,当該民事事件において当該証言を必要とする程度,代替証拠の有無等の諸事情を比較衡量して決すべきことになる。
そして,この比較衡量にあたっては,次のような点が考慮されなければならない。
すなわち,報道機関の報道は,民主主義社会において,国民が国政に関与するにつき,重要な判断の資料を提供し,国民の知る権利に奉仕するものである。したがって,思想の表明の自由と並んで,事実報道の自由は,表現の自由を規定した憲法21条の保障の下にあることはいうまでもない。また,このような報道機関の報道が正しい内容を持つためには,報道の自由とともに,報道のための取材の自由も,憲法21条の精神に照らし,十分尊重に値するものといわなければならない(最高裁昭和44年(し)第68号同年11月26日大法廷決定・刑集23巻11号1490頁参照)。取材の自由の持つ上記のような意義に照らして考えれば,取材源の秘密は,取材の自由を確保するために必要なものとして,重要な社会的価値を有するというべきである。そうすると,当該報道が公共の利益に関するものであって,その取材の手段,方法が一般の刑罰法令に触れるとか,取材源となった者が取材源の秘密の開示を承諾しているなどの事情がなく,しかも,当該民事事件が社会的意義や影響のある重大な民事事件であるため,当該取材源の秘密の社会的価値を考慮してもなお公正な裁判を実現すべき必要性が高く,そのために当該証言を得ることが必要不可欠であるといった事情が認められない場合には,当該取材源の秘密は保護に値すると解すべきであり,証人は,原則として,当該取材源に係る証言を拒絶することができると解するのが相当である。
4
これを本件についてみるに,本件NHK報道は,公共の利害に関する報道であることは明らかであり,その取材の手段,方法が一般の刑罰法令に触れるようなものであるとか,取材源となった者が取材源の秘密の開示を承諾しているなどの事情はうかがわれず,一方,本件基本事件は,株価の下落,配当の減少等による損害の賠償を求めているものであり,社会的意義や影響のある重大な民事事件であるかどうかは明らかでなく,また,本件基本事件はその手続がいまだ開示(ディスカバリー)の段階にあり,公正な裁判を実現するために当該取材源に係る証言を得ることが必要不可欠であるといった事情も認めることはできない。
したがって,相手方は,民訴法197条1項3号に基づき,本件の取材源に係る事項についての証言を拒むことができるというべきであり,本件証言拒絶には正当な理由がある。
以上によれば,所論の点に関する原審の判断は,正当として是認することができる。論旨は採用することができない。
よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官上田豊三裁判官藤田宙靖裁判官堀籠幸男裁判官
那須弘平)
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最高裁判例
平成16(受)930 損害賠償請求事件
平成17年07月14日 最高裁判所第一小法廷 判決 東京高等裁判所
事件番号 平成16(受)930
事件名 損害賠償請求事件
裁判年月日 平成17年07月14日
法廷名 最高裁判所第一小法廷
裁判種別 判決
結果
判例集巻・号・頁 第59巻6号1569頁
原審裁判所名 東京高等裁判所
原審事件番号 平成15(ネ)5110
原審裁判年月日 平成16年03月03日
判示事項
公立図書館の職員が図書の廃棄について不公正な取扱いをすることと当該図書の著作者の人格的利益の侵害による国家賠償法上の違法
裁判要旨
公立図書館の職員である公務員が,閲覧に供されている図書の廃棄について,著作者又は著作物に対する独断的な評価や個人的な好みによって不公正な取扱いをすることは,当該図書の著作者の人格的利益を侵害するものとして国家賠償法上違法となる。
参照法条 国家賠償法1条1項,図書館法2条,図書館法3条,憲法13条,憲法19条,憲法21条1項
主 文
原判決のうち被上告人に関する部分を破棄する。
前項の部分につき,本件を東京高等裁判所に差し戻す。
理 由
上告代理人内田智ほかの上告受理申立て理由について
1 原審の確定した事実関係の概要等は,次のとおりである。
(1) 上告人A会(以下「上告人A会」という。)は,平成9年1月30日開催の設立総会を経て設立された権利能力なき社団であり,「新しい歴史・公民教科書およびその他の教科書の作成を企画・提案し,それらを児童・生徒の手に渡すことを目的とする」団体である。その余の上告人らは,上告人A会の役員又は賛同者である(ただし,上告人Bは,上告人A会の理事であった第1審原告Cの訴訟承継人である。以下,「上告人ら」というときは,上告人Bを除き,第1審原告Cを含むことがある。)。
(2) 被上告人は,船橋市図書館条例(昭和56年船橋市条例第22号)に基づき,船橋市中央図書館,船橋市東図書館,船橋市西図書館及び船橋市北図書館を設置し,その図書館資料の除籍基準として,船橋市図書館資料除籍基準(以下「本件除籍基準」という。)を定めていた。
本件除籍基準には,「除籍対象資料」として,「(1) 蔵書点検の結果,所在が不明となったもので,3年経過してもなお不明のもの。(2) 貸出資料のうち督促等の努力にもかかわらず,3年以上回収不能のもの。(3) 利用者が汚損・破損・紛失した資料で弁償の対象となったもの。(4) 不可抗力の災害・事故により失われたもの。(5) 汚損・破損が著しく,補修が不可能なもの。(6) 内容が古くなり,資料的価値のなくなったもの。(7) 利用が低下し,今後も利用される見込みがなく,資料的価値のなくなったもの。(8) 新版・改訂版の出版によ
り,代替が必要なもの。(9) 雑誌は,図書館の定めた保存年限を経過したものも除籍の対象とする。」と定められていた。
(3) 平成13年8月10日から同月26日にかけて,当時船橋市西図書館に司書として勤務していた職員(以下「本件司書」という。)が,上告人A会やこれに賛同する者等及びその著書に対する否定的評価と反感から,その独断で,同図書館の蔵書のうち上告人らの執筆又は編集に係る書籍を含む合計107冊(この中には上告人A会の賛同者以外の著書も含まれている。)を,他の職員に指示して手元に集めた上,本件除籍基準に定められた「除籍対象資料」に該当しないにもかかわらず,コンピューターの蔵書リストから除籍する処理をして廃棄した(以下,これを「本件廃棄」という。)。
本件廃棄に係る図書の編著者別の冊数は,第1審判決別紙2「関連図書蔵書・除籍数一覧表」のとおりであり,このうち上告人らの執筆又は編集に係る書籍の内訳は,第1審判決別紙1「除籍図書目録」(ただし,番号20,21,24,26を除く。)のとおりである。
(4) 本件廃棄から約8か月後の平成14年4月12日付け産経新聞(全国版)において,平成13年8月ころ,船橋市西図書館に収蔵されていたDの著書44冊のうち43冊,Eの著書58冊のうち25冊が廃棄処分されていたなどと報道され,これをきっかけとして本件廃棄が発覚した。
(5) 本件司書は,平成14年5月10日,船橋市教育委員会委員長にあてて,本件廃棄は自分がした旨の上申書を提出し,同委員会は,同月29日,本件司書に対し6か月間減給10分の1とする懲戒処分を行った。
(6) 本件廃棄の対象となった図書のうち103冊は,同年7月4日までに本件司書を含む船橋市教育委員会生涯学習部の職員5名からの寄付という形で再び船橋市西図書館に収蔵された。残り4冊については,入手困難であったため,上記5名が,同一著者の執筆した書籍を代替図書として寄付し,同図書館に収蔵された。
2 本件は,上告人らが,本件廃棄によって著作者としての人格的利益等を侵害されて精神的苦痛を受けた旨主張し,被上告人に対し,国家賠償法1条1項又は民法715条に基づき,慰謝料の支払を求めるものである。
3 原審は,上記事実関係の下で,次のとおり判断し,上告人らの請求を棄却すべきものとした。
著作者は,自らの著作物を図書館が購入することを法的に請求することができる地位にあるとは解されないし,その著作物が図書館に購入された場合でも,当該図書館に対し,これを閲覧に供する方法について,著作権又は著作者人格権等の侵害を伴う場合は格別,それ以外には,法律上何らかの具体的な請求ができる地位に立つまでの関係には至らないと解される。したがって,被上告人の図書館に収蔵され閲覧に供されている書籍の著作者は,被上告人に対し,その著作物が図書館に収蔵され閲覧に供されることにつき,何ら法的な権利利益を有するものではない。そうすると,本件廃棄によって上告人らの権利利益が侵害されたことを前提とする上告人らの主張は,採用することができない。
4 しかしながら,原審の上記判断は是認することができない。その理由は,次のとおりである。
(1) 図書館は,「図書,記録その他必要な資料を収集し,整理し,保存して,一般公衆の利用に供し,その教養,調査研究,レクリエーション等に資することを目的とする施設」であり(図書館法2条1項),「社会教育のための機関」であって(社会教育法9条1項),国及び地方公共団体が国民の文化的教養を高め得るような環境を醸成するための施設として位置付けられている(同法3条1項,教育基本法7条2項参照)。公立図書館は,この目的を達成するために地方公共団体が設置した公の施設である(図書館法2条2項,地方自治法244条,地方教育行政の組織及び運営に関する法律30条)。そして,図書館は,図書館奉仕(図書館サービス)のため,①図書館資料を収集して一般公衆の利用に供すること,②図書館資料の分類排列を適切にし,その目録を整備することなどに努めなければならないものとされ(図書館法3条),特に,公立図書館については,その設置及び運営上の望ましい基準が文部科学大臣によって定められ,教育委員会に提示するとともに一般公衆に対して示すものとされており(同法18条),平成13年7月18日に文部科学大臣によって告示された「公立図書館の設置及び運営上の望ましい基準」(文部科学省告示第132号)は,公立図書館の設置者に対し,同基準に基づき,図書館奉仕(図書館サービス)の実施に努めなければならないものとしている。同基準によれば,公立図書館は,図書館資料の収集,提供等につき,①住民の学習活動等を適切に援助するため,住民の高度化・多様化する要求に十分に配慮すること,②広く住民の利用に供するため,情報処理機能の向上を図り,有効かつ迅速なサービスを行うことができる体制を整えるよう努めること,③住民の要求に応えるため,新刊図書及び雑誌の迅速な確保並びに他の図書館との連携・協力により図書館の機能を十分発揮できる種類及び量の資料の整備に努めることなどとされている。
公立図書館の上記のような役割,機能等に照らせば,公立図書館は,住民に対して思想,意見その他の種々の情報を含む図書館資料を提供してその教養を高めること等を目的とする公的な場ということができる。そして,公立図書館の図書館職員は,公立図書館が上記のような役割を果たせるように,独断的な評価や個人的な好みにとらわれることなく,公正に図書館資料を取り扱うべき職務上の義務を負うものというべきであり,閲覧に供されている図書について,独断的な評価や個人的な好みによってこれを廃棄することは,図書館職員としての基本的な職務上の義務に反するものといわなければならない。
(2) 他方,公立図書館が,上記のとおり,住民に図書館資料を提供するための公的な場であるということは,そこで閲覧に供された図書の著作者にとって,その思想,意見等を公衆に伝達する公的な場でもあるということができる。したがって,公立図書館の図書館職員が閲覧に供されている図書を著作者の思想や信条を理由とするなど不公正な取扱いによって廃棄することは,当該著作者が著作物によってその思想,意見等を公衆に伝達する利益を不当に損なうものといわなければならない。そして,著作者の思想の自由,表現の自由が憲法により保障された基本的人権であることにもかんがみると,公立図書館において,その著作物が閲覧に供されている著作者が有する上記利益は,法的保護に値する人格的利益であると解するのが相当であり,【要旨】[<u>]公立図書館の図書館職員である公務員が,図書の廃棄について,基本的な職務上の義務に反し,著作者又は著作物に対する独断的な評価や個人的な好みによって不公正な取扱いをしたときは,当該図書の著作者の上記人格的利益を侵害するものとして国家賠償法上違法となるというべきである。[</u>]
(3) 前記事実関係によれば,本件廃棄は,公立図書館である船橋市西図書館の本件司書が,上告人A会やその賛同者等及びその著書に対する否定的評価と反感から行ったものというのであるから,上告人らは,本件廃棄により,上記人格的利益を違法に侵害されたものというべきである。
5 したがって,これと異なる見解に立って,上告人らの被上告人に対する請求を棄却すべきものとした原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨は,上記の趣旨をいうものとして理由があり,原判決のうち被上告人に関する部分は破棄を免れない。そして,本件については,更に審理を尽くさせる必要があるから,上記部分につき本件を原審に差し戻すこととする。
よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 横尾和子 裁判官 甲斐中辰夫 裁判官 泉 德治 裁判官 島田仁郎 裁判官 才口千晴)
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最高裁判例
平成15(あ)520 ストーカー行為等の規制等に関する法律違反被告事件
平成15年12月11日 最高裁判所第一小法廷 判決 棄却 大阪高等裁判所
事件番号 平成15(あ)520
事件名 ストーカー行為等の規制等に関する法律違反被告事件
裁判年月日 平成15年12月11日
法廷名 最高裁判所第一小法廷
裁判種別 判決
結果 棄却
判例集巻・号・頁 第57巻11号1147頁
原審裁判所名 大阪高等裁判所
原審事件番号 平成14(う)1465
原審裁判年月日 平成15年02月20日
判示事項
ストーカー行為等の規制等に関する法律2条,13条1項と憲法13条,21条1項
裁判要旨
ストーカー行為等の規制等に関する法律2条,13条1項は,憲法13条,21条1項に違反しない。
参照法条
憲法13条,憲法21条1項,ストーカー行為等の規制等に関する法律2条,ストーカー行為等の規制等に関する法律13条1項
主 文
本件上告を棄却する。
理 由
1 弁護人福島昭宏の上告趣意のうち,規制の内容に関し憲法13条,21条1項違反をいう点について
所論は,ストーカー行為等の規制等に関する法律(以下「ストーカー規制法」という。)2条1項,2項,13条1項は,規制の範囲が広きに過ぎ,かつ,規制の手段も相当ではないから,憲法13条,21条1項に違反する旨主張する。
ストーカー規制法は,ストーカー行為を処罰する等ストーカー行為等について必要な規制を行うとともに,その相手方に対する援助の措置等を定めることにより,個人の身体,自由及び名誉に対する危害の発生を防止し,あわせて国民の生活の安全と平穏に資することを目的としており,この目的は,もとより正当であると
いうべきである。そして,ストーカー規制法は,上記目的を達成するため,恋愛感情その他好意の感情等を表明するなどの行為のうち,相手方の身体の安全,住居等の平穏若しくは名誉が害され,又は行動の自由が著しく害される不安を覚えさせるような方法により行われる社会的に逸脱したつきまとい等の行為を規制の対象とした上で,その中でも相手方に対する法益侵害が重大で,刑罰による抑制が必要な場合に限って,相手方の処罰意思に基づき刑罰を科すこととしたものであり,しかも,これに違反した者に対する法定刑は,刑法,軽犯罪法等の関係法令と比較しても特に過酷ではないから,ストーカー規制法による規制の内容は,合理的で相当なものであると認められる。
【要旨】以上のようなストーカー規制法の目的の正当性,規制の内容の合理性,相当性にかんがみれば,同法2条1項,2項,13条1項は,憲法13条,21条1項に違反しないと解するのが相当である。このように解すべきことは,当裁判所の判例(最高裁昭和57年(行ツ)第156号同59年12月12日大法廷判決・民集38巻12号308頁,最高裁昭和57年(あ)第621号同60年10月23日大法廷判決・刑集39巻6号413頁)の趣旨に徴して明らかである。
2 同弁護人のその余の上告趣意について
所論は,ストーカー規制法2条2項の「反復して」の文言は不明確であるから憲法13条,21条1項,31条に違反する旨主張する。しかしながら,ストーカー規制法2条2項にいう「反復して」の文言は,つきまとい等を行った期間,回数等に照らし,おのずから明らかとなるものであり,不明確であるとはいえないから,所論は前提を欠くものである。
その余は,事実誤認,量刑不当の主張であって,刑訴法405条の上告理由に当たらない。
よって,刑訴法408条,181条1項ただし書により,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 甲斐中辰夫 裁判官 深澤武久 裁判官 横尾和子 裁判官 泉 德治 裁判官 島田仁郎)
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最高裁判例
平成9(あ)636 覚せい剤取締法違反、詐欺、同未遂被告事件
平成11年12月16日 最高裁判所第三小法廷 決定 棄却 札幌高等裁判所
事件番号 平成9(あ)636
事件名 覚せい剤取締法違反、詐欺、同未遂被告事件
裁判年月日 平成11年12月16日
法廷名 最高裁判所第三小法廷
裁判種別 決定
結果 棄却
判例集巻・号・頁 第53巻9号1327頁
原審裁判所名 札幌高等裁判所
原審事件番号
原審裁判年月日 平成9年05月15日
判示事項
平成一一年法律第一三八号による刑訴法二二二条の二の追加前において検証許可状により電話傍受を行うことの適否
裁判要旨
平成一一年法律第一三八号による刑訴法二二二条の二の追加前において、捜査機関が電話の通話内容を通話当事者の同意を得ずに傍受することは、重大な犯罪に係る被疑事件について、罪を犯したと疑うに足りる十分な理由があり、かつ、当該電話により被疑事実に関連する通話の行われる蓋然性があるとともに、他の方法によってはその罪に関する重要かつ必要な証拠を得ることが著しく困難であるなどの事情が存し、犯罪の捜査上真にやむを得ないと認められる場合に、対象の特定に資する適切な記載がある検証許可状によって実施することが許されていた。
(反対意見がある。)
参照法条
憲法13条,憲法21条2項,憲法31条,憲法35条,刑訴法128条,刑訴法129条,刑訴法197条1項,刑訴法218条1項,刑訴法218条3項,刑訴法218条5項,刑訴法219条1項,刑訴法222条1項,刑訴法222条の2
主 文
本件上告を棄却する。
当審における未決勾留日数中八〇〇日を第一審判決の懲役刑に算入する。
理 由
一 弁護人佐藤義雄外三名の上告趣意のうち、憲法違反をいう点について
1 所論は、電話の通話内容を通話当事者双方の同意を得ずに傍受すること(以下「電話傍受」という。)は、本件当時、捜査の手段として法律に定められていない強制処分であるから、それを許可する令状の発付
及びこれに基づく電話傍受は、刑訴法一九七条一項ただし書に規定する強制処分法定主義に反し違法であるのみならず、憲法三一条、三五条に違反し、ひいては、憲法一三条、二一条二項に違反すると主張する。
2 電話傍受は、通信の秘密を侵害し、ひいては、個人のプライバシーを侵害する強制処分であるが、一定の要件の下では、捜査の手段として憲法上全く許されないものではないと解すべきであって、このことは所論も認めるところである。そして、【要旨】重大な犯罪に係る被疑事件について、被疑者が罪を犯したと疑うに足りる十分な理由があり、かつ、当該電話により被疑事実に関連する通話の行われる蓋然性があるとともに、
電話傍受以外の方法によってはその罪に関する重要かつ必要な証拠を得ることが著しく困難であるなどの事情が存する場合において、電話傍受により侵害される利益の内容、程度を慎重に考慮した上で、なお電話傍受を行うことが犯罪の捜査上真にやむを得ないと認められるときには、法律の定める手続に従ってこれを行うことも憲法上許されると解するのが相当である。
3 そこで、本件当時、電話傍受が法律に定められた強制処分の令状により可能であったか否かについて検討すると、電話傍受を直接の目的とした令状は存していなかったけれども、次のような点にかんがみると、前記の一定の要件を満たす場合に、対象の特定に資する適切な記載がある検証許可状により電話傍受を実施することは、本件当時においても法律上許されていたものと解するのが相当である。
(一) 電話傍受は、通話内容を聴覚により認識し、それを記録するという点で、五官の作用によって対象の存否、性質、状態、内容等を認識、保全する検証としての性質をも有するということができる。
(二) 裁判官は、捜査機関から提出される資料により、当該電話傍受が前記の要件を満たすか否かを事前に審査することが可能である。
(三) 検証許可状の「検証すべき場所若しくは物」(刑訴法二一九条一項)の記載に当たり、傍受すべき通話、傍受の対象となる電話回線、傍受実施の方法及び場所、傍受ができる期間をできる限り限定することにより、傍受対象の特定という要請を相当程度満たすことができる。
(四) 身体検査令状に関する同法二一八条五項は、その規定する条件の付加が強制処分の範囲、程度を減縮させる方向に作用する点において、身体検査令状以外の検証許可状にもその準用を肯定し得ると解されるから、裁判官は、電話傍受の実施に関し適当と認める条件、例えば、捜査機関以外の第三者を立ち会わせて、対象外と思料される通話内容の傍受を速やかに遮断する措置を採らせなければならない旨を検証の条件として付することができる。
(五) なお、捜査機関において、電話傍受の実施中、傍受すべき通話に該当するかどうかが明らかでない通話について、その判断に必要な限度で、当該通話の傍受をすることは、同法一二九条所定の「必要な処分」に含まれると解し得る。
もっとも、検証許可状による場合、法律や規則上、通話当事者に対する事後通知の措置や通話当事者からの不服申立ては規定されておらず、その点に問題があることは否定し難いが、電話傍受は、これを行うことが犯罪の捜査上真にやむを得ないと認められる場合に限り、かつ、前述のような手続に従うことによって初めて実施され得ることなどを考慮すると、右の点を理由に検証許可状による電話傍受が許されなかったとま
で解するのは相当でない。
4 これを本件についてみると、原判決及びその是認する第一審判決の認定によれば、本件電話傍受の経緯は、次のとおりである。
(一) 北海道警察旭川方面本部の警察官は、旭川簡易裁判所の裁判官に対し、氏名不詳の被疑者らに対する覚せい剤取締法違反被疑事件について、電話傍受を検証として行うことを許可する旨の検証許可状を請求した。警察官の提出した資料によれば、以下の事情が明らかであった。すなわち、犯罪事実は、営利目的による覚せい剤の譲渡しであり、その嫌疑は明白であった。同犯罪は、暴力団による組織的、継続的な覚せい剤密売の一環として行われたものであって、密売の態様は、暴力団組事務所のあるマンションの居室に設置された電話で客から覚せい剤買受けの注文を受け、その客に一定の場所に赴くよう指示した上、右場所で覚せい剤の譲渡しに及ぶというものであったが、電話受付担当者と譲渡し担当者は別人であり、それらの担当者や両者の具体的連絡方法などを特定するに足りる証拠を収集することができなかった。右居室には二台の電話機が設置されており、一台は覚せい剤買受けの注文を受け付けるための専用電話である可能性が極めて高く、もう一台は受付担当者と譲渡し担当者との間の覚せい剤密売に関する連絡用電話である可能性があった。そのため、右二台に関する電話傍受により得られる証拠は、覚せい剤密売の実態を解明し被疑者らを特定するために重要かつ必要なものであり、他の手段を用いて右目的を達成することは著し
く困難であった。
(二) 裁判官は、検証すべき場所及び物を「日本電信電話株式会社旭川支店一一三サービス担当試験室及び同支店保守管理にかかる同室内の機器」、検証すべき内容を「(前記二台の電話)に発着信される通話内容及び同室内の機器の状況(ただし、覚せい剤取引に関する通話内容に限定する)」、検証の期間を「平成六年七月二二日から同月二三日までの間(ただし、各日とも午後五時〇〇分から午後一一時〇〇分までの間に限る)」、検証の方法を「地方公務員二名を立ち会わせて通話内容を分配器のスピーカーで拡声して聴取するとともに録音する。その際、対象外と思料される通話内容については、スピーカーの音声遮断及び録音中止のため、立会人をして直ちに分配器の電源スイッチを切断させる。」と記載した検証許可状を発付した。
(三) 警察官は、右検証許可状に基づき、右記載の各制限を遵守して、電話傍受を実施した。
右の経緯に照らすと、本件電話傍受は、前記の一定の要件を満たす場合において、対象をできる限り限定し、かつ、適切な条件を付した検証許可状により行われたものと認めることができる。
5 以上のとおり、電話傍受は本件当時捜査の手段として法律上認められていなかったということはできず、また、本件検証許可状による電話傍受は法律の定める手続に従って行われたものと認められる。所論は、右と異なる解釈の下に違憲をいうものであって、その前提を欠くものといわなければならない。
二 弁護人佐藤義雄外三名の上告趣意のうち、その余の点は、単なる法令違反の主張であり、被告人本人の上告趣意は、単なる法令違反、量刑不当の主張であって、いずれも刑訴法四〇五条の上告理由に当たらない。
よって、刑訴法四一四条、三八六条一項三号、平成七年法律第九一号による改正前の刑法二一条によ
り、主文のとおり決定する。この決定は、裁判官元原利文の反対意見があるほか、裁判官全員一致の意見
によるものである。
裁判官元原利文の反対意見は、次のとおりである。
私は、電話傍受が本件当時捜査の手段として法律上認められていなかった強制処分であり、本件電話傍受により得られた証拠の証拠能力は否定されるべきであるから、これを肯定した原判決は破棄すべきものと考える。以下にその理由を述べる。
一 電話傍受は、憲法二一条二項が保障する通信の秘密や、憲法一三条に由来するプライバシーの権利に対する重大な制約となる行為であるから、よしんばこれを行うとしても、憲法三五条が定める令状主義の規制に服するとともに、憲法三一条が求める適正な手続が保障されなければならない。電話傍受は、多数意見のいうとおり、検証としての性質をも有することは否めないところであるが、傍受の対象に犯罪と無関係な
通話が混入する可能性は、程度の差はあっても否定することができず、傍受の実施中、傍受すべき通話に該当するか否かを判断するために選別的な聴取を行うことは避けられないものである。多数意見は、そのような選別的な聴取は、刑訴法一二九条所定の「必要な処分」に含まれると解し得るというが、犯罪に関係のある通話についてのみ検証が許されるとしながら、前段階の付随的な処分にすぎない「必要な処分」に無関
係通話の傍受を含めることは、不合理というべきである。電話傍受に不可避的に伴う選別的な聴取は、検証のための「必要な処分」の範囲を超えるものであり、この点で、電話傍受を刑訴法上の検証として行うことには無理があるといわなければならない。
二 電話傍受にあっては、その性質上令状の事前呈示の要件(刑訴法二二二条一項、一一〇条)を満たすことができないのはやむを得ないところであるが、適正手続の保障の見地から、少なくとも傍受終了後合理的な期間内に処分対象者に対し処分の内容について告知をすることが必要であるというべきである。また、電話傍受は、情報の押収という側面を有するから、違法な傍受が行われたときは、処分対象者に対し原状
回復のための不服申立ての途が保障されていなければならない。ところが、検証については、郵便物等の押収に関する処分対象者への事後通知(同法一〇〇条三項)のような規定はなく、また、「押収に関する裁判又は処分」として準抗告の対象とすること(同法四二九条一項、四三〇条一項、二項)も認められていない。
このように事後の告知及び不服申立ての各規定を欠く点で、電話傍受を刑訴法上の検証として行うことは、許されないというべきである。多数意見は、右の点を理由に検証許可状により電話傍受を行うことが許されなかったとまで解するのは相当でないというが、適正手続の保障への配慮が不十分であり、賛同することができない。
三 以上の二点において、電話傍受を刑訴法上の検証として行うことはできないと解され、他に本件当時電話傍受を捜査の手段として許容する法律上の根拠が存したと認めることもできない。そうすると、電話傍受は本件当時捜査の手段として法律上認められていなかったものであり、検証許可状により行われた本件電話傍受は違法であるといわざるを得ない。そして、右違法は、法律上許容されない令状に基づき強制処分を行ったという点において、令状主義の精神を没却するような重大な違法に当たることが明らかであるから、本件電話傍受により得られた検証調書等の証拠能力は否定されるべきである(最高裁昭和五一年(あ)第八六五号同五三年九月七日第一小法廷判決・刑集三二巻六号一六七二頁参照)。よって、右証拠の証拠能力を肯定した原判決は法令に違反し、その違法は判決に影響を及ぼし、原判決を破棄しなければ著しく正義に反するものと認められる。
(裁判長裁判官 金谷利廣 裁判官 千種秀夫 裁判官 元原利文 裁判官 奥田昌道)
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最高裁判例
平成10(分ク)1 裁判官分限事件の決定に対する即時抗告事件
平成10年12月01日 最高裁判所大法廷 決定 棄却 仙台高等裁判所
最高裁判例
平成8(行ツ)193 当選無効及び立候補禁止
平成9年03月13日 最高裁判所第一小法廷 判決 棄却 仙台高等裁判所
事件番号 平成8(行ツ)193
事件名 当選無効及び立候補禁止
裁判年月日 平成9年03月13日
法廷名 最高裁判所第一小法廷
裁判種別 判決
結果 棄却
判例集巻・号・頁 第51巻3号1453頁
原審裁判所名 仙台高等裁判所
原審事件番号
原審裁判年月日 平成8年07月08日
判示事項
一 公職選挙法二五一条の三と憲法前文、一条、一五条、二一条、三一条
二 公職の候補者を当選させる目的で会社の指揮命令系統を利用して選挙運動を行った右会社の代表取締役等が公職選挙法二五一条の三第一項に規定する組織的選挙運動管理者等に当たるとされた事例
裁判要旨
一 公職選挙法二五一条の三の規定は、憲法前文、一条、一五条、二一条、三一条に違反しない。
二 会社の代表取締役Aが、公職の候補者甲を当選させる目的の選挙運動を会社を挙げて行おうと企図し、従業員の朝礼及び下請業者との会食において甲にあいさつをさせ、投票及び投票の取りまとめを依頼するなどの選挙運動をする計画を会社の幹部らに表明した上、これを了承した右幹部らのうちB及びCに各人の役割等の概括的な指示をし、B及びCは、他の幹部や関係従業員に指示するなどして、朝礼及び会食の手配と設営後援者名簿用紙の配布等の個々の選挙運動を実行させ、要請に応じた甲の出席した朝礼及び会食の席上、Aが会社として甲を応援する趣旨のあいさつをし、甲自らも同社の従業員又は下請業者らの応援を求める旨のあいさつをしたなど判示の事実関係の下においては、A、B及びCは、公職選挙法二五一条の三第一項に規定する組織的選挙運動管理者等に当たる。
参照法条 公職選挙法251条の3,憲法前文,憲法1条,憲法15条,憲法21条,憲法31条
主 文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人の負担とする。
理 由
上告代理人石田恒久、同牧義行、同佐野洋二、同妹尾佳明、同石川一成の上告理由第三点について
公職選挙法(以下「法」という。)二五一条の三第一項は、同項所定の組織的選挙運動管理者等が、買収等の所定の選挙犯罪を犯し禁錮以上の刑に処せられた場合に、当該候補者等であった者の当選を無効とし、かつ、これらの者が法二五一条の五に定める時から五年間当該選挙に係る選挙区(選挙区がないときは、選挙の行われる区域)において行われる当該公職に係る選挙に立候補することを禁止する旨を定めて
いる。右規定は、いわゆる連座の対象者を選挙運動の総括主宰者等重要な地位の者に限っていた従来の連座制ではその効果が乏しく選挙犯罪を十分抑制することができなかったという我が国における選挙の実態にかんがみ、公明かつ適正な公職選挙を実現するため、公職の候補者等に組織的選挙運動管理者等が選挙犯罪を犯すことを防止するための選挙浄化の義務を課し、公職の候補者等がこれを防止するための注意を尽くさず選挙浄化の努力を怠ったときは、当該候補者等個人を制裁し、選挙の公明、適正を回復するという趣旨で設けられたものと解するのが相当である。法二五一条の三の規定は、このように、民主主義の根幹をなす公職選挙の公明、適正を厳粛に保持するという極めて重要な法益を実現するために定められたものであって、その立法目的は合理的である。また、右規定は、組織的選挙運動管理者等が買収等の悪質な選挙犯罪を犯し禁錮以上の刑に処せられたときに限って連座の効果を生じさせることとして、連座制の適用範囲に相応の限定を加え、立候補禁止の期間及びその対象となる選挙の範囲も前記のとおり限定し、さらに、選挙犯罪がいわゆるおとり行為又は寝返り行為によってされた場合には免責することとしているほか、当該候補者等が選挙犯罪行為の発生を防止するため相当の注意を尽くすことにより連座を免れることのできるみちも新たに設けているのである。そうすると、このような規制は、これを全体としてみれば、前記立法目的を達成するための手段として必要かつ合理的なものというべきである。したがって、法二五一条の三の規定は、憲法前文、一条、一五条、二一条及び三一条に違反するものではない。以上のように解すべきことは、最高裁昭和三六年(オ)第一〇二七号同三七年三月一四日大法廷判決・民集一六巻三号五三〇頁、最高裁昭和三六年(オ)策一一〇六号同三七年三月一四日大法廷判決・民集一六巻三号五三七頁及び最高裁昭和二九年(あ)第四三九号同三〇年二月九日大法廷判決・刑集九巻二号二一七頁の趣旨に徴して明らかである。右と同旨の原審の判断は正当として是認することができる。
そして、法二五一条の三第一項所定の組織的選挙運動管理者等の概念は、同項に定義されたところに照らせば、不明確で漠然としているということはできず、この点に関する所論違憲の主張は、その前提を欠くものといわざるを得ない(最高裁平成八年(行ツ)第一七四号同年一一月二六日第三小法廷判決参照)。その余の論旨は、違憲をいうが、その実質は、原審の裁量に属する審理上の措置又は原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実の認定を非難するものにすぎない。論旨は採用することができない。
同第一点及び第二点について
所論の点に関する原審の事実認定は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない。右の事実を含め原審の適法に確定した事実関係によれば、(1) 株式会社ミサワホーム青森(以下「本件会社」という。)の代表取締役であったAは、上告人を当選させる目的の選挙運動を本件会社を挙げて行おうと企図し、従業員の朝礼及び下請業者の慰労会に名を借りた会食の席に上告人を招いて同人に立候補のあいさつをさせ、従業員や下請業者等に対して投票及び投票の取りまとめを依頼するなどの選挙運動をすることを計画して、これを本件会社の幹部らに表明し、その結果、少なくともB建設部長、C開発部次長、D総務部長、E建設部次長及びF同部課長らがこれを了承した、(2) 右計画の下、Aは、B及びCに対し、選挙運動の方法や各人の役割等の概括的な指示をした、(3) これを受けて、B及びCは、朝礼及び慰労会の手配と設営、総決起大会への出席、後援者名簿用紙、ポスター等の配布と回収などの個々の選挙運動について、D、E、Fや、各営業所のチームリーダー、その他関係従業員に指示するなどして、これらを実行させ、また、自らも慰労会の招待状の起案や上告人の都合の確認に当たるなどした、(4) 上告人は、右要請に応じて、朝礼及び慰労会に出席した、(5) その席上、Aは、上告人を会社として応援する趣旨のあいさつをし、上告人自らも、本件会社の従業員又は下請業者らの応援を求める旨のあいさつをしたというのである。
右事実によれば、Aを総括者とする前記六人の者及び同人らの指示に従った関係従業員らは、上告人を当選させる目的の下、役割を分担し、協力し合い、本件会社の指揮命令系統を利用して、選挙運動を行ったものであって、これは、法二五一条の三第一項に規定する組織による選挙運動に当たるということができる
(原審は、少なくとも前記六人において「組織」を形成していたとするが、右と同旨をいうものと解される。)。
そして、Aが同項所定の「当該選挙運動の計画の立案若しくは調整」を行う者に、B及びCが「選挙運動に従事する者の指揮若しくは監督」を行う者に各該当し、これらの者が「組織的選挙運動管理者等」に当たることも明らかであり、上告人が、選挙運動が組織により行われることについて、Aとの間で、相互に明示又は黙示に了解し合っていたことも明白であるから、上告人が、右選挙運動につき、組織の総括者的立場にあった
者との間に意思を通じたものというべきである。所論は、同項所定の「組織」とは、規模がある程度大きく、かつ一定の継続性を有するものに限られ、「組織的選挙運動管理者等」も、総括主宰者及び出納責任者に準ずる一定の重要な立場にあって、選挙運動全体の管理に携わる者に限られるというが、前記立法の趣旨及び同条の文言に徴し、所論のように限定的に解すべき理由はなく、また、「意思を通じ」についても、所論のように、組織の具体的な構成、指揮命令系統、その組織により行われる選挙運動の内容等についてまで、認識、了解することを要するものとは解されない。
以上と同旨の原審の判断は、正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない。論旨は、右と異なる見解に基づいて原判決を論難するか、又は原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実の認定を非難するものにすぎず、採用することができない。
よって、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
最高裁判所第一小法廷
裁判長裁判官 遠 藤 光 男
裁判官 小 野 幹 雄
裁判官 高 橋 久 子
裁判官 井 嶋 一 友
裁判官 藤 井 正 雄
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最高裁判例
平成5(オ)1285 国家賠償
平成8年03月15日 最高裁判所第二小法廷 判決 破棄差戻し 東京高等裁判所
事件番号 平成5(オ)1285
事件名 国家賠償
裁判年月日 平成8年03月15日
法廷名 最高裁判所第二小法廷
裁判種別 判決
結果 破棄差戻し
判例集巻・号・頁 第50巻3号549頁
原審裁判所名 東京高等裁判所
原審事件番号
原審裁判年月日 平成5年03月30日
判示事項
何者かに殺害された労働組合幹部の合同葬に使用するためにされた市福祉会館の使用許可申請に対する不許可処分が違法とされた事例
裁判要旨
何者かに殺害されたJR関係労働組合の連合体の総務部長の合同葬に使用するためにされた市福祉会館の使用許可申請に対し、上尾市福祉会館設置及び管理条例
(昭和四六年上尾市条例第二七号)六条一項一号が使用を許可しない事由として定める「会館の管理上支障があると認められるとき」に当たるとしてされた不許可処分は、右殺害事件についていわゆる内ゲバ事件ではないかとみて捜査が進められている旨の新聞報道があったとしても、右合同葬の際にまでその主催者と対立する者らの妨害による混乱が生ずるおそれがあるとは考え難い状況にあった上、警察の警備等によってもなお混乱を防止することができない特別な事情があったとはいえず、右会館の施設の物的構造等に照らせば、右会館を合同葬に使用することがその設置目的やその確立した運営方針に反するとはいえないなど判示の事情の下においては、「会館の管理上支障がある」との事態が生ずることが客観的な事実に照らして具体的に明らかに予測されたものということはできず、違法というべきである。
参照法条 地方自治法244条,上尾市福祉会館設置及び管理条例(昭和46年上尾市条例第27号)6条1項,憲法21条1項
主 文
原判決を破棄する。
本件を東京高等裁判所に差し戻す。
理 由
上告代理人水嶋晃、同奥川貴弥、同寺崎昭義、同町田正男の上告理由第一点及び第三点について
一 原審の適法に確定した事実関係等の概要は、次のとおりである。
1 上尾市福祉会館(以下「本件会館」という。)は、被上告人が市民の文化的向上と福祉の増進を図るために設けた施設であり、一階には、大ホール(客席一一六八席)のほか、展示場、食堂、ラウンジ及び会館事務室が、二階及び三階には、四つの披露宴室(会議室兼用)と結婚式場、写真室、着付室、結婚控室等の結婚式関係の施設が、四階には、談話室、料理教室等公民館関係の施設が、五階には、小ホール(客席一六六席)と四つの会議室が設けられており、右大ホールと二階以上の各施設とは出入口を異にしている。なお、本件会館には、斎場として利用するための特別の施設はない。
2 本件会館の設置及び管理については、上尾市福祉会館設置及び管理条例(昭和四六年上尾市条例第二七号。以下「本件条例」という。)が定められており、本件条例五条によれば、本件会館を使用するについてはあらかじめ市長の許可を受けるべきものとされ、その許可要件を定める六条一項によれば、(1) 会館の管理上支障があると認められるとき(一号)、(2) 公共の福祉を阻害するおそれがあると認められるとき(二号)、(3) その他会館の設置目的に反すると認められるとき(三号)のいずれか一つに該当する場合は、市長は、会館の使用を許可しないものとされている。
3 被上告人は、本件条例に基づいて、本件会館の各施設を上尾市の住民に限らず、広く一般の利用に供していた。結婚式関係の施設については、年間約三〇〇組の利用客があった。被上告人は、本件会館の運営に当たり、基本的には葬儀のための利用には消極的であり、過去に特に功績のあった元市長の市民葬と県公園緑地協会副理事長の準市民葬に用いられたことがあったのを除き、本件会館は従来一般の葬儀の
ために使用されたことはなかった。
4 上告人は、いわゆるJR関係の労働者で組織する東日本旅客鉄道労働組合等の単位組合の連合体であるが、平成元年一二月二日に上告人の総務部長a(以下「a部長」という。)が帰宅途中に何者かに殺害される事件が発生したため、同人を追悼する合同葬(以下「本件合同葬」という。)を計画し、同月一六日、上尾市長に対し、本件合同葬の会場に使用する目的で、本件会館大ホールについて、平成二年二月一日、二日の両日(ただし、一日は準備のため)の使用許可の申請(以下「本件申請」という。)をした。
5 本件申請に対し、その許否の専決権者である本件会館の館長b(以下「b館長」という。)は、本件合同葬のための本件会館の使用が、本件条例六条一項一号に規定する「会館の管理上支障があると認められるとき」に該当すると判断し、最終的には平成元年一二月二六日、本件申請を不許可とする処分(以下「本件不許可処分」という。)をしたが、その経緯は、次のとおりである。
(一) 上告人の総務財政局長c(以下「c局長」という。)は、平成元年一二月一六日に本件申請を行った際、b館長が不在のため応対にでた本件会館の職員に対し、本件合同葬が故人を追悼するための集会であるなどその内容を説明するとともに、a部長の殺害事件に関し、捜査当局が対立するセクトによるいわゆる内ゲバ事件ではないかとみて捜査を進めている旨報じている新聞記事があることを伝えた。
(二) b館長は、平成元年一二月一九日、c局長らに対し、「新聞に出ているような事柄での葬儀を執り行うことについては、本件会館を貸せない。」「合同葬は会館の使用にそぐわない。」などと述べて、本件会館の使用が本件条例六条一項一号に該当することを理由に、本件申請を許可することができない旨回答した。これに対し、c局長らは、納得せず、文書による回答を求めた。
(三) b館長は、平成元年一二月二二日、c局長らに対し、本件申請については、本件条例六条一項一号に該当するから許可することができない旨を記載した文書を手交した。これに対し、c局長らは、過去に主催した同様の合同葬において混乱が生じたことはなく、本件合同葬においてもそのような兆候はない上、自主警備や警察による警備によって混乱を予防排除することが可能であるなどと反論し、再検討を強く要請したため、b館長は、これを約束した。
(四) b館長は、平成元年一二月二五日、被上告人の助役らと協議した結果、本件合同葬のため本件会館の使用を許可した場合には、上告人に反対する者らが本件合同葬を妨害するなどして混乱が生ずることが懸念され、同会館内の結婚式場その他の施設の利用にも支障が生ずるとの結論に達し、市長の了解を得た上、翌二六日、c局長らに対し、右の理由を説明して、本件申請を不許可とする旨の最終的な判断を示した。
6 本件申請当時、平成二年二月一日及び二日の結婚式場等の使用申込みはなく、その後も申込みはなかった。また、本件合同葬は、同年一月二七日、日比谷公会堂に会場を移し各政党の国会議員も参列して行われたが、何らの妨害行為もなく終了した。
二 原審は、右の事実関係に基づき、次のように説示して、本件不許可処分が適法であると判断した。(1) 本件申請当時、前記のような記事が新聞各紙に報じられていたのであるから、被上告人側において、本件合同葬の際にもa部長を殺害した者らによる妨害が行われて混乱が生ずるかもしれないと危ぐすることが根拠のないものであったとはいえない。(2) 本件合同葬を大ホールで行う場合には、そのための案内や多数の
葬儀参加者の出入りが他の利用客の目に触れることは避けられないから、本件会館で同時期に結婚式等を行うことは事実上困離である。(3) 本件合同葬について警備が行われる場合には、その他の施設の利用客に多少の不安が生ずることも否めない。(4) 被上告人は、本件会館の運営に当たり、基本的には葬儀のための利用には消極的であり、前記の元市長の市民葬等を除き、本件会館が従来一般の葬儀のために使用
されたことはなく、本件会館には、斎場として利用するための特別の施設もない。(5) 以上の各事実を合わせ考えれば、本件会館内の施設のそれぞれについて設置目的に従った有効な利用を確保すべき責務のあるb館長が、本件合同葬のために大ホールを使用することが本件会館の管理に支障を生ずると認めたことには、相当の理由がある。
三 しかしながら、原審の右判断は是認することができない。その理由は、次のとおりである。
1 本件会館は、地方自治法二四四条にいう公の施設に当たるから、被上告人は、正当な理由がない限り、これを利用することを拒んではならず(同条二項)、また、その利用について不当な差別的取扱いをしてはならない(同条三項)。本件条例は、同法二四四条の二第一項に基づき、公の施設である本件会館の設置及び管理について定めるものであり、本件条例六条一項各号は、その利用を拒否するために必要とされる右の正当な理由を具体化したものであると解される。
そして、同法二四四条に定める普通地方公共団体の公の施設として、本件会館のような集会の用に供する施設が設けられている場合、住民等は、その施設の設置目的に反しない限りその利用を原則的に認められることになるので、管理者が正当な理由もないのにその利用を拒否するときは、憲法の保障する集会の自由の不当な制限につながるおそれがある。したがって、集会の用に供される公の施設の管理者は、当該公の施設の種類に応じ、また、その規模、構造、設備等を勘案し、公の施設としての使命を十分達成せしめるよう適正にその管理権を行使すべきである。
以上のような観点からすると、本件条例六条一項一号は、「会館の管理上支障があると認められるとき」を本件会館の使用を許可しない事由として規定しているが、右規定は、会館の管理上支障が生ずるとの事態が、許可権者の主観により予測されるだけでなく、客観的な事実に照らして具体的に明らかに予測される場合に初めて、本件会館の使用を許可しないことができることを定めたものと解すべきである。
2 以上を前提として、本件不許可処分の適否について判断する。
(一) 本件不許可処分は、本件会館を本件合同葬のために利用させた場合には、上告人に反対する者らがこれを妨害するなどして混乱が生ずると懸念されることを一つの理由としてされたものであるというのである。しかしながら、前記の事実関係によれば、b館長が前記の新聞報道によりa部長の殺害事件がいわゆる内ゲバにより引き起こされた可能性が高いと考えることにはやむを得ない面があったとしても、そのこと以上に本件合同葬の際にまで上告人に反対する者らがこれを妨害するなどして混乱が生ずるおそれがあるとは考え難い状況にあったものといわざるを得ない。また、主催者が集会を平穏に行おうとしているのに、その集会の目的や主催者の思想、信条等に反対する者らが、これを実力で阻止し、妨害しようとして紛争を起こすおそれがあることを理由に公の施設の利用を拒むことができるのは、前示のような公の施設の利用関係の性質に照らせば、警察の警備等によってもなお混乱を防止することができないなど特別な事情がある場合に限られるものというべきである。ところが、前記の事実関係によっては、右のような特別な事情があるということはできない。なお、警察の警備等によりその他の施設の利用客に多少の不安が生ずることが会館の管理上支障が生ずるとの事態に当たるものでないことはいうまでもない。
(二) 次に、本件不許可処分は、本件会館を本件合同葬のために利用させた場合には、同時期に結婚式を行うことが困難となり、結婚式場等の施設利用に支障が生ずることを一つの理由としてされたものであるというのである。ところで、本件会館のような公の施設の供用に当たって、当該施設の設置目的を専ら結婚式等の祝儀のための利用に限るとか、結婚式等の祝儀のための利用を葬儀等の不祝儀を含むその他の利用に
優先して認めるといった運営方針を定めることは、それ自体必ずしも不合理なものとはいえないものというべきところ、被上告人は、本件会館の運営に当たり、基本的には葬儀のための利用には消極的であり、一部の例を除き、本件会館は従来一般の葬儀のために使用されたことはなかったというのである。しかし、本件会館には、斎場として利用するための特別の施設は設けられていないものの、結婚式関係の施設のほか、多目的に利用が可能な大小ホールを始めとする各種の施設が設けられている上、一階の大ホールと二階以上にあるその他の施設は出入口を異にしていること、葬儀と結婚式が同日に行われるのでなければ、施設が葬儀の用にも供されることを結婚式等の利用者が嫌悪するとは必ずしも思われないこと(現に、市民葬及び準市民葬が行われたことがある。)をも併せ考えれば、故人を追悼するための集会である本件合同葬については、それを行うために本件会館を使用することがその設置目的に反するとまでいうことはできない。そして、前記の事実関係によっても、本件会館について、結婚式等の祝儀のための利用を葬儀等の不祝儀を含むその他のための利用に優先して認めるといった確固たる運営方針が確立され、そのために、利用予定日の直前まで不祝儀等のための利用の許否を決しないなどの運用がなされていたとのことはうかがえない上、上告人らの利用予定日の一箇月余り前である本件不許可処分の時点では、結婚式のための使用申込みはなく、現にその後もなかったというのである。
以上によれば、本件事実関係の下においては、本件不許可処分時において、本件合同葬のための本件会館の使用によって、本件条例六条一項一号に定める「会館の管理上支障がある」との事態が生ずることが、客観的な事実に照らして具体的に明らかに予測されたものということはできないから、本件不許可処分は、本件条例の解釈適用を誤った違法なものというべきである。
四 そうすると、以上に判示したところと異なる見解に立って、本件不許可処分が適法であるとした原審の判断には、法令の解釈適用を誤った違法があるといわざるを得ず、その違法は判決の結論に影響を及ぼすことが明らかであるから、論旨は理由があり、その余の論旨について判断するまでもなく、原判決はこの点において破棄を免れない。そして、本件については、上告人の主張する本件不許可処分に基づく損害の有無、その額等について更に審理を尽くさせるため、原審に差し戻すのが相当である。
よって、民訴法四〇七条一項に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
最高裁判所第二小法廷
裁判長裁判官 根 岸 重 治
裁判官 大 西 勝 也
裁判官 河 合 伸 一
裁判官 福 田 博
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最高裁判例
平成1(オ)762 損害賠償
平成7年03月07日 最高裁判所第三小法廷 判決 棄却 大阪高等裁判所
事件番号 平成1(オ)762
事件名 損害賠償
裁判年月日 平成7年03月07日
法廷名 最高裁判所第三小法廷
裁判種別 判決
結果 棄却
判例集巻・号・頁 第49巻3号687頁
原審裁判所名 大阪高等裁判所
原審事件番号
原審裁判年月日 平成1年01月25日
判示事項
一 公の施設である市民会館の使用を許可してはならない事由として市立泉佐野市民会館条例(昭和三八年泉佐野市条例第二七号)七条一号の定める「公の秩序をみだすおそれがある場合」の意義と憲法二一条、地方自治法二四四条
二 「関西新空港反対全国総決起集会」開催のための市民会館の使用許可の申請に対し市立泉佐野市民会館条例(昭和三八年泉佐野市条例第二七号)七条一号が使用を許可してはならない事由として定める「公の秩序をみだすおそれがある場合」に当たるとして不許可とした処分が憲法二一条、地方自治法二四四条に違反しないとされた事例
裁判要旨
一 公の施設である市民会館の使用を許可してはならない事由として市立泉佐野市民会館条例(昭和三久年泉佐野市条例第二七号)七条一号の定める「公の秩序をみだすおそれがある場合」とは、右会館における集会の自由を保障することの重要性よりも、右会館で集会が開かれることによって、人の生命、身体又は財産が侵害され、公共の安全が損なわれる危険を回避し、防止することの必要性が優越する場合をいうものと限定して解すべきであり、その危険性の程度としては、単に危険な事態を生ずる蓋然性があるというだけでは足りず、明らかな差し迫った危険の発生が具体的に予見されることが必要であり、そう解する限り、このような規制は、憲法二一条地方自治法二四四条に違反しない。
二 「全関西実行委員会」による「関西新空港反対全国総決起集会」開催のための市民会館の使用許可の申請に対し、市立泉佐野市民会館条例(昭和三八年泉佐野市条例第二七号)七条一号が使用を許可してはならない事由として定める「公の秩序をみだすおそれがある場合」に当たるとして不許可とした処分は、当時、右集会の実質上の主催者と目されるグループが、関西新空港の建設に反対して違法な実力行使を繰り返し、対立する他のグループと暴力による抗争を続けてきており、右集会が右会館で開かれたならば、右会館内又はその付近の路上等においてグループ間で暴力の行使を伴う衝突が起こるなどの事態が生じ、その結果、右会館の職員、通行人、付近住民等の生命、身体又は財産が侵害される事態を生ずることが客観的事実によって具体的に明らかに予見されたという判示の事情の下においては、憲法二一条、地方自治法二四四条に違反しない。
参照法条
憲法21条,地方自治法244条,市立泉佐野市民会館条例(昭粕38年泉佐野市条例第27号)7条
主 文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人らの負担とする。
理 由
上告代理人大野康平、同北本修二、同大石一二、同佐々木哲蔵、同仲田隆明、同浦功、同大野町子、同後藤貞人、同石川寛俊、同三上陸、同竹岡富美男、同横井貞夫、同中道武美、同梶谷哲夫、同黒田建一、同信岡登紫子、同永嶋靖久、同泉裕二郎、同森博行、同池田直樹、同福森亮二、同小田幸児の上告理由について
一 原審の適法に確定した事実関係等の概要は、次のとおりである。
1 上告人らは、昭和五九年六月三日に市立泉佐野市民会館(以下「本件会館」という。)ホールで「関西新空港反対全国総決起集会」(以下「本件集会」という。)を開催することを企画し、同年四月二日、上告人Aが、泉佐野市長に対し、市立泉佐野市民会館条例(昭和三八年泉佐野市条例第二七号。以下「本件条例」という。)六条に基づき、使用団体名を「全関西実行委員会」として、右ホールの使用許可の申請をした(以下「本件申請」という。)。
2 本件会館は、被上告人が泉佐野市民の文化、教養の向上を図り、併せて集会等の用に供する目的で設置したものであり、南海電鉄泉佐野駅前ターミナルの一角にあって、付近は、道路を隔てて約二五〇店舗の商店街があり、市内最大の繁華街を形成している。本件会館ホールの定員は、八一六名(補助席を含めて一〇二八名)である。
3 本件申請の許否の専決権者である泉佐野市総務部長は、左記の理由により、本件集会のための本件会館の使用が、本件会館の使用を許可してはならない事由を定める本件条例七条のうち一号の「公の秩序をみだすおそれがある場合」及び三号の「その他会館の管理上支障があると認められる場合」に該当すると判断し、昭和五九年四月二三日、泉佐野市長の名で、本件申請を不許可とする処分(以下「本件不許可処分」という。)をした。
(一) 本件集会は、全開西実行委員会の名義で行うものとされているが、その実体はいわゆる中核派(全学連反戦青年委員会)が主催するものであり、中核派は、本件申請の直後である四月四日に後記の連続爆破事件を起こすなどした過激な活動組織であり、泉佐野商業連合会等の各種団体からいわゆる極左暴力集団に対しては本件会館を使用させないようにされたい旨の嘆願書や要望書も提出されていた。このような組織に本件会館を使用させることは、本件集会及びその前後のデモ行進などを通じて不測の事態を生ずることが憂慮され、かつ、その結果、本件会館周辺の住民の平穏な生活が脅かされるおそれがあって、公共の福祉に反する。
(二) 本件申請は、集会参加予定人員を三〇〇名としているが、本件集会は全国規模の集会であって右予定人員の信用性は疑わしく、本件会館ホールの定員との関係で問題がある。
(三) 本件申請をした上告人Aは、後記のとおり昭和五六年に関西新空港の説明会で混乱を引き起こしており、また、中核派は、従来から他の団体と対立抗争中で、昭和五八年には他の団体の主催する集会に乱入する事件を起こしているという状況からみて、本件集会にも対立団体が介入するなどして、本件会館のみならずその付近一帯が大混乱に陥るおそれがある。
4 本件集会に関連して、上告人らないし中核派については、次のような事実があった。
(一)(1) 本件集会の名義人である「全関西実行委員会」を構成する六団体は、関西新空港の建設に反対し、昭和五七年、五八年にも全国的規模の反対集会を大阪市内の扇町公園で平穏に開催するなどしてきた。
(2) 右六団体の一つで上告人Aが運営委員である「泉佐野・新空港に反対する会」は、本件会館小会譲室で過去に何度も講演等を開催してきた。
(3) 上告人Bが代表者である「全関西実行委員会」は、反対集会を昭和五二年ころから大阪市内の中之島中央公会堂等で平穏に開催してきた。
(二)(1) ところが、昭和五九年に至り、関西新空港につきいよいよ新会社が発足し、同年中にも工事に着手するような情勢になってくると、「全関西実行委員会」と密接な関係があり、本件集会について重要な地位を占める中核派は、関西新空港の建設を実力で阻止する闘争方針を打ち出し、デモ行進、集会等の合法的活動をするにとどまらず、例えば、「1」 昭和五九年三月一日、東京の新東京国際空港公団本部ビルに対し、付近の高速道路から火炎放射器様のもので火を噴き付け、「2」 同年四月四日、大阪市内の大阪科学技術センター(関西新空港対策室が所在)及び大阪府庁(企業局空港対策部が所在)に対し、時限発火装置による連続爆破や放火をして九人の負傷者を出すといった違法な実力行使について、自ら犯行声明を出すに至った。中核派は、特に右「2」の事件について、その機関紙『前進』において、「この戦闘は一五年余のたたかいをひきつぐ関西新空港粉砕闘争の本格的第一弾である。同時に三・一公団本社火炎攻撃、三・二五三里塚闘争の大高揚をひきつぎ、五・二〇―今秋二期決戦を切り開く巨弾である。」とした上、「四・四戦闘につづき五・二〇へ、そして、六・三関西新空港粉砕全国総決起へ進撃しよう。」と記載し、さらに、「肉迫攻撃を敵中枢に敢行したわが革命軍は、必要ならば百回でも二百回でもゲリラ攻撃を敢行し、新空港建設計画をズタズタにするであろう。」との決意を表明して、本件集会がこれらの事件の延長線上にある旨を強調している。
(2) 中核派は、本件不許可処分の日の前日である昭和五九年四月二二日、関西新空港反対闘争の一環として、泉佐野市臨海緑地から泉佐野駅前へのデモ行進を行ったが、「四・四ゲリラ闘争万才! 関西新空港実力阻止闘争 中核派」などと記載し、更に本件集会について「六・三大阪現地全国闘争へ!」と記載した横断幕を掲げるなどして、本件集会が右一連の闘争の大きな山場であることを明示し、参加者のほぼ全員がヘルメットにマスクという姿であり、その前後を警察官が警備するという状況であったため、これに不安を感じてシャッターを閉じる商店もあった。
(3) 上告人Aは、中核派と活動を共にする活動家であり、昭和五六年八月に岸和田市市民会館で関西新空港の説明会が開催された際、壇上を占拠するなどして混乱を引き起こし、威力業務妨害罪により罰金刑に処せられたことがあった。また、右(2)のデモ行進の許可申請者兼責任者であり、自身もデモに参加してビラの配布活動等も行った。
(三) 中核派は、従来からいわゆる革マル派と内ゲバ殺人事件を起こすなど左翼運動の主導権をめぐって他のグループと対立抗争を続けてきたが、本件不許可処分のされた当時、次のように、他のグループとの対立抗争の緊張を高めていた。
(1) 昭和五八年七月一日、大阪市内の中之島中央公会堂でいわゆる第四インターの主催する三里塚闘争関西集会が開催された際、中核派が会場に乱入し、多数の負傷者や逮捕者を出した。
(2) 中核派は、同月一八日付けの機関紙『前進』において、「すべての第四インター分子は断罪と報復の対象である。絶対に等価以上の報復をたたきつけてやらなくてはならない。」と記述し、さらに、昭和五九年四月二日付けの同紙において、一〇年前に法政大学で中核派の同志が虐殺された事件の犯人が革マル派の者であることを報じて「革命的武装闘争」の中で「反革命カクマルをせん滅・一掃せよ!」と記述し、同月二三日付けの同紙において、「四・四戦闘の勝利は同時に、四―六月の三里塚二期、関西新空港闘争の大爆発の巨大な条件となっている。」とした上、「間断なき戦闘と戦略的エスカレーションの原則にのっとり革命的武装闘争をさらに発展させよ。この全過程を同時に脱落派、第四インター、日向派など、メンシェビキ、解党主義的腐敗分子、反革命との戦いで断固として主導権を堅持して戦い抜かなければならない。」と記述している。
5 上告人らは、本件会館の使用が許可されなかったため、会場を泉佐野市野出町の海浜に変更して本件集会を開催したところ、中核派の機関紙によれば二六〇〇名が結集したと報じられ、少なくとも約一〇〇〇名の参加があった。
二 原審は、右一の事実関係に基づき、次のように説示して、本件不許可処分が適法であるとした。(1) 中核派は、単に本件集会の一参加団体ないし支援団体というにとどまらず、本件集会の主体を成すか、そうでないとしても、本件集会の動向を左右し得る有力な団体として重要な地位を占めるものであった。(2) 本件集会が開催された場合、中核派と対立する団体がこれに介入するなどして、本件会館の内外に混乱が生ずることも多分に考えられる状況であった。(3) このような状況の下において、泉佐野市総務部長が、本件集会が開催されたならば、少なからぬ混乱が生じ、その結果、一般市民の生命、身体、財産に対する安全を侵害するおそれがある、すなわち公共の安全に対する明白かつ現在の危険があると判断し、本件条例七条一号の「公の秩序をみだすおそれがある場合」に当たるとしたことに責めるべき点はない。(4) また、本件集会の参加人員は、本件会館の定員をはるかに超える可能性が高かったから、本件条例七条三号の「その他会館の管理上支障があると認められる場合」にも当たる。
三 所論は、本件条例七条一号及び三号は、憲法二一条一項に違反し、無効であり、また、本件不許可処分は、同項の保障する集会の自由を侵害し、同条二項前段の禁止する検閲に当たり、地方自治法二四四条に違反すると主張するので、以下この点について判断する。
1 被上告人の設置した本件会館は、地方自治法二四四条にいう公の施設に当たるから、被上告人は、正当な理由がない限り、住民がこれを利用することを拒んではならず(同条二項)、また、住民の利用について不当な差別的取扱いをしてはならない(同条三項)。本件条例は、同法二四四条の二第一項に基づき、公の施設である本件会館の設置及び管理について定めるものであり、本件条例七条の各号は、その利用を拒否するために必要とされる右の正当な理由を具体化したものであると解される。
そして、地方自治法二四四条にいう普通地方公共団体の公の施設として、本件会館のように集会の用に供する施設が設けられている場合、住民は、その施設の設置目的に反しない限りその利用を原則的に認められることになるので、管理者が正当な理由なくその利用を拒否するときは、憲法の保障する集会の自由の不当な制限につながるおそれが生ずることになる。したがって、本件条例七条一号及び三号を解釈適用するに当たっては、本件会館の使用を拒否することによって憲法の保障する集会の自由を実質的に否定することにならないかどうかを検討すべきである。
2 このような観点からすると、集会の用に供される公共施設の管理者は、当該公共施設の種類に応じ、また、その規模、構造、設備等を勘案し、公共施設としての使命を十分達成せしめるよう適正にその管理権を行使すべきであって、これらの点からみて利用を不相当とする事由が認められないにもかかわらずその利用を拒否し得るのは、利用の希望が競合する場合のほかは、施設をその集会のために利用させることによって、他の基本的人権が侵害され、公共の福祉が損なわれる危険がある場合に限られるものというべきであり、このような場合には、その危険を回避し、防止するために、その施設における集会の開催が必要かつ合理的な範囲で制限を受けることがあるといわなければならない。そして、右の制限が必要かつ合理的なものとして肯認されるかどうかは、基本的には、基本的人権としての集会の自由の重要性と、当該集会が開かれることによって侵害されることのある他の基本的人権の内容や侵害の発生の危険性の程度等を較量して決せられるべきものである。本件条例七条による本件会館の使用の規制は、このような較量によって必要かつ合理的なものとして肯認される限りは、集会の自由を不当に侵害するものではなく、また、検閲に当たるものではなく、したがって、憲法二一条に違反するものではない。
以上のように解すべきことは、当裁判所大法廷判決(最高裁昭和二七年(オ)一一五〇号同二八年一二月二三日判決・民集七巻一三号一五六一頁、最高裁昭和五七年(行ツ)第一五六号同五九年一二月一二日判決・民集三八巻一二号一三〇八頁、最高裁昭和五六年(オ)第六〇九号同六一年六月一一日判決・民集四〇巻四号八七二頁、最高裁昭和六一年(行ツ)第一一号平成四年七月一日判決・民業四六巻五号四三七頁)の趣旨に徴して明らかである。
そして、このような較量をするに当たっては、集会の自由の制約は、基本的人権のうち精神的自由を制約するものであるから、経済的自由の制約における以上に厳格な基準の下にされなければならない(最高裁昭和四三年(行ツ)第一二〇号同五〇年四月三〇日大法廷判決・民集二九巻四号五七二頁参照)。
3 本件条例七条一号は、「公の秩序をみだすおそれがある場合」を本件会館の使用を許可してはならない事由として規定しているが、同号は、広義の表現を採っているとはいえ、右のような趣旨からして、本件会館における集会の自由を保障することの重要性よりも、本件会館で集会が開かれることによって、人の生命、身体又は財産が侵害され、公共の安全が損なわれる危険を回避し、防止することの必要性が優越する場合をいうものと限定して解すべきであり、その危険性の程度としては、前記各大法廷判決の趣旨によれば、単に危険な事態を生ずる蓋然性があるというだけでは足りず、明らかな差し迫った危険の発生が具体的に予見されることが必要であると解するのが相当である(最高裁昭和二六年(あ)第三一八八号同二九年一一月二四日大法廷判決・刑集八巻一一号一八六六頁参照)。そう解する限り、このような規制は、他の基本的人権に対する侵害を回避し、防止するために必要かつ合理的なものとして、憲法二一条に違反するものではなく、また、地方自治法二四四条に違反するものでもないというべきである。
そして、右事由の存在を肯認することができるのは、そのような事態の発生が許可権者の主観により予測されるだけではなく、客観的な事実に照らして具体的に明らかに予測される場合でなければならないことはいうまでもない。
なお、右の理由で本件条例七条一号に該当する事由があるとされる場合には、当然に同条三号の「その他会館の管理上支障があると認められる場合」にも該当するものと解するのが相当である。
四 以上を前提として、本件不許可処分の適否を検討する。
1 前記一の4の事実によれば、本件不許可処分のあった昭和五九年四月二三日の時点においては、本件集会の実質上の主催者と目される中核派は、関西新空港建設工事の着手を控えて、これを激しい実力行使によって阻止する闘争方針を採っており、現に同年三月、四月には、東京、大阪において、空港関係機関に対して爆破事件を起こして負傷者を出すなどし、六月三日に予定される本件集会をこれらの事件に引き続く関西新空港建設反対運動の山場としていたものであって、さらに、対立する他のグループとの対立緊張も一層増大していた。このような状況の下においては、それ以前において前記一の4(一)のように上告人らによる関西新空港建設反対のための集会が平穏に行われたこともあったことを考慮しても、右時点において本件集会が本件会館で開かれたならば、対立する他のグループがこれを阻止し、妨害するために本件会館に押しかけ、本件集会の主催者側も自らこれに積極的に対抗することにより、本件会館内又はその付近の路上等においてグループ間で暴力の行使を伴う衝突が起こるなどの事態が生じ、その結果、グループの構成員だけでなく、本件会館の職員、通行人、付近住民等の生命、身体又は財産が侵害されるという事態を生ずることが、客観的事実によって具体的に明らかに予見されたということができる。
2 もとより、普通地方公共団体が公の施設の使用の許否を決するに当たり、集会の目的や集会を主催する団体の性格そのものを理由として、使用を許可せず、あるいは不当に差別的に取り扱うことは許されない。
しかしながら、本件において被上告人が上告人らに本件会館の使用を許可しなかったのが、上告人らの唱道する関西新空港建設反対という集会目的のためであると認める余地のないことは、前記一の4(一)(2)のとおり、被上告人が、過去に何度も、上告人Aが運営委員である「泉佐野・新空港に反対する会」に対し、講演等のために本件会館小会議室を使用することを許可してきたことからも明らかである。また、本件集会が開かれることによって前示のような暴力の行使を伴う衝突が起こるなどの事態が生ずる明らかな差し迫った危険が予見される以上、本件会館の管理責任を負う被上告人がそのような事態を回避し、防止するための措置を探ることはやむを得ないところであって、本件不許可処分が本件会館の利用について上告人らを不当に差別的に取り扱ったものであるということはできない。それは、上告人らの言論の内容や団体の性格そのものによる差別ではなく、本件集会の実質上の主催者と目される中核派が当時激しい実力行使を繰り返し、対立する他のグループと抗争していたことから、その山場であるとされる本件集会には右の危険が伴うと認められることによる必要かつ合理的な制限であるということができる。
3 また、主催者が集会を平穏に行おうとしているのに、その集会の目的や主催者の思想、信条に反対する他のグループ等がこれを実力で阻止し、妨害しようとして紛争を起こすおそれがあることを理由に公の施設の利用を拒むことは、憲法二一条の趣旨に反するところである。しかしながら、本件集会の実質上の主催者と目される中核派は、関西新空港建設反対運動の主導権をめぐって他のグループと過激な対立抗争を続けており、他のグループの集会を攻撃して妨害し、更には人身に危害を加える事件も引き起こしていたのであって、これに対し他のグループから報復、襲撃を受ける危険があったことは前示のとおりであり、これを被上告人が警察に依頼するなどしてあるかじめ防止することは不可能に近かったといわなければならず、平穏な集会を行おうとしている者に対して一方的に実力による妨害がされる場合と同一に論ずることはできないのである。
4 このように、本件不許可処分は、本件集会の目的やその実質上の主催者と目される中核派という団体の性格そのものを理由とするものではなく、また、被上告人の主観的な判断による蓋然的な危険発生のおそれを理由とするものでもなく、中核派が、本件不許可処分のあった当時、関西新空港の建設に反対して違法な実力行使を繰り返し、対立する他のグループと暴力による抗争を続けてきたという客観的事実からみて、本件集会が本件会館で開かれたならば、本件会館内又はその付近の路上等においてグループ間で暴力の行使を伴う衝突が起こるなどの事態が生じ、その結果、グループの構成員だけでなく、本件会館の職員、通行人、付近住民等の生命、身体又は財産が侵害されるという事態を生ずることが、具体的に明らかに予見されることを理由とするものと認められる。
したがって、本件不許可処分が憲法二一条、地方自治法二四四条に違反するということはできない。
五 以上のとおりであるから、原審の判断は正当として是認することができ、その余の点を含め論旨はいずれも採用することができない。
よって、民訴法四〇一条、九五条、八九条、九三条に従い、裁判官園部逸夫の補足意見があるほか、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
裁判官園部逸夫の補足意見は、次のとおりである。
一 一般に、公の施設は、本来住民の福祉を増進する目的をもってその利用に供するための施設(地方自治法二四四条一項)であるから、住民による利用は原則として自由に行われるべきものであり、「正当な理由」がない限り利用を拒むことはできない(同条二項)。右の規定は、いずれも、住民の利用に関するものであるが、公の施設は、多くの場合、当該地方公共団体の住民に限らず広く一般の利用にも開放されているという実情があり、右の規定の趣旨は、一般の利用者にも適用されるものと解される。他方、公の施設は、地方公共団体の住民の公共用財産であるから、右財産の管理権者である地方公共団体の行政庁は、公の施設の使用について、住民・滞在者の利益(公益)を維持する必要があるか、あるいは、施設の保全上支障があると判断される場合には、公物管理の見地から、施設使用の条件につき十分な調整を図るとともに、最終的には、使用の不承認、承認の取消し、使用の停止を含む施設管理権の適正な行使に努めるべきである。
右の見地に立って本件をみると、会館の管理権者である市長(本件の場合、専決機関としての総務部長)が、本件不許可処分に当たって、「その他会館の管理上支障があると認められる場合」という要件を定めた本件条例七条三号を適用したことについては、法廷意見の挙示する原審の確定した事実関係の下では、総務部長の判断が不適切であったとはいえず、また、本件会館の使用に関する調整を行うことが期待できる状況でなかったことも認められる以上、右判断に裁量権の行使を誤った違法はないというべきである。
二 ところで、公の施設の利用を拒否できる「正当な理由」は、さきに述べた公の施設の一般的な性格から見て、専ら施設管理の観点から定めるべきものであることはいうまでもない。しかし、本件会館のような集会の用に供することを主な目的とする施設の管理規程については、その他の施設と異なり、単なる施設管理権の枠内では処理することができない問題が生ずる。
本件条例は、会館が自ら実施する各種事業のほか、所定の集会に会館を供すること(同五条各号)、会館の使用については、市長の許可を要すること(同六条)、使用を不許可としなければならない要件(同七条各号)を定めている。右の要件の一つとして、七条一号(以下「本件規定」という。)に「公の秩序をみだすおそれがある場合」という要件があるが、これは、いわゆる行政法上の不確定な法概念であるから、平等原則、比例原則等解釈上適用すべき条理があるとはいえ、総務部長に対し、右要件の解釈適用についてかなり広範な行政裁量を認めるものといわなければならない。しかも、右の要件を適用して会館の便用の不許可処分をすることが、会館における集会を事実上禁止することになる場合は、たとい施設管理権の行使に由来するものであっても、実質的には、公の秩序維持を理由とする集会の禁止(いわゆる警察上の命令)と同じ効果をもたらす可能性がある。この種の会館の使用が、集会の自由ひいては表現の自由の保障に密接にかかわる可能性のある状況の下において、右要件により、広範な要件裁量の余地が認められ、かつ、本件条例のように右要件に当たると判断した場合は不許可処分をすることが義務付けられている場合は、条例の運用が、右の諸自由に対する公権力による恣意的な規制に至るおそれがないとはいえない。したがって、右要件の設定あるいは右要件の解釈については、憲法の定める集会の自由ひいては表現の自由の保障にかんがみ、特に周到な配慮が必要とされるのである。
本件条例は、公物管理条例であって、会館に関する公物管理権の行使について定めるのを本来の目的とするものであるから、公の施設の管理に関連するものであっても、地方公共の秩序の維持及び住民・滞在者の安全の保持のための規制に及ぶ場合は(地方自治法二条三項一号)、公物警察権行使のための組織・権限及び手続に関する法令(条例を含む。)に基づく適正な規制によるべきである。右の観点からすれば、本件条例七条一号は、「正当な理由」による公の施設利用拒否を規定する地方自治法二四四条二項の委任の範囲を超える疑いがないとはいえない(注)。
(注) 現に、自治省は、公の施設及び管理に関するモデル条例の中に置くことのできる規定として、「公益の維持管理上の必要及び施設保全に支障があると認められるときは、使用を承認しないことができる。」という例を示しており、本件規定のような明らかに警察許可に類する規制は認めていない。
三 私の見解は、以上のようなものであるところ、法廷意見の三は、本件規定について、極めて限定的な解釈を施している。私はのような限定解釈により、本件規定を適用する局面が今後厳重に制限されることになるものと理解した上で、法廷意見の判断に与するものである。
最高裁判所第三小法廷
裁判長裁判官 大 野 正 男
裁判官 園 部 逸 夫
裁判官 可 部 恒 雄
裁判官 千 種 秀 夫
裁判官 尾 崎 行 信
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