生徒総聯大阪支部歴史研究同好会『論烽ロンプウ』会長、イズミ?」
「ひめる。和泉儷蘭記者です、宜しく」
「総聯の広報委員会。。。めっずらしい。その子は?」
「○○記者です。よろっしくお願いします!」
「あはは、元気だね」
「あ、いや、は、は、したっ! しまっす!」
「そんな硬くならないでもええよ」
「は、は…」 私は目を逸らした。
私は緊張している。
私は怖い。
私は戸惑っている。
私は目を離せない。
私は今、
不良どもの巣窟にいるんだ。
それも番長連合の拠点に。
妖精帝國別館、売春施設『憶廓』に。
(迎えが部屋から去る)
「はあ・・・」
つかの間だが、酷く張りつめていた緊張が急に切れて、私はため息をついた。
「凄い格好…あーあ・・・ ねえ先輩、あの子たちすっごい格好ですねえ。実物を見るのは初めてです、『脩の恋人たち』!」
「ああ」
「可愛いな、良いなあ。私なんかもう一か月も制服以外着てませんよ。でもあんまり悪趣味じゃないんですね、もっとゴテゴテのピンク色かと思ってました。先輩に似合いそうですよね!」
「わかったから」
「このソファーもすっごいなあ、私も早く出世してこういう席で自分が座れるようになりたいなあ」
私は護衛も兼ねているため、攻撃に対して何時でも応戦できるように立って控えていなければならない。
「それにしても」
「ん」
「何人殺してるんでしょう、彼女」
「そうだね…」先輩が微笑む。「怒らせないように、しようか」
「あはは、大丈夫ですよ、私がいますから」
「いや」先輩は携帯を取り出し、室内の様子を録画し始める「殺されるよ。是練セネルの腕前知っててよくそんなこと言えるな」
「いやいや、はっはは、命に賭けても守りますよ」
「○○」先輩は振り返り、馬鹿を見る目で私を見据えて言った。「お前の命なんかじゃ足りないものも有るんだよ」
その目に暖かさを探しても見つからなかったので、私はもうすこしだけ笑い、目を伏せた。だって笑うしかないだろ。
「それと彼女じゃない。『彼』だ。是練は男だよ」
「馬鹿な真似は控えておきます。先輩、緊張しませんか?」
「…悪いけど○○、あのさあ・・・」
「…あはは」
息が詰まる。
なんかいやだな。どうして上手くいかないんだろう。
もっとこう・・・
「せん。。。」
口を開こうとした私を、先輩は手の一振りで制し、話はそれきりになった。迎えが来たのだ。
【管理人】脩とその恋人たちのお出ましだった。
「『お久しぶり』です」
『女番長』脩は、校則違反の改造校服を纏い試滅以前の煙草を咥え、発達した犬歯を見せて笑う。
「今日はわざわざ遠いところからお越しいただきごくろうさまです」
是練はニコニコ笑いながら言った。
脩が是練セネルと衿抒エリクと呼んでいる『恋人たち』はソファに腰掛けた脩を間に挟むように、ソファの後ろに佇んでいる - 彼女の手によって美しく着飾られ化粧されて。
是練の細く小さい肢体カラダを包む、清楚な緑の制服風ドレスはフリルとボタンで飾り立てられ、窮屈そうに見えた。長いウェーブのかかった黒髪が特徴的な彼、腰に下げた業物の日本刀の存在感、人殺しの物腰が似つかわしく無い事甚だしい。残酷で爛漫な少女を思わせた。
「…結構なお土産物をどうも」
衿抒はすらりとした長身の美女に見えた。短めにカットされたヘアースタイルと顔面右に施されたくさびのようなアートメイクが素晴らしかった。煽情的な鎖骨とうなじが覗いている。
やはり女装させられており、蒼いシックなブレザー風の上着にホットパンツを身につけ、そしてやはり笑みを浮かべており、そして・・・
…からだのあちこちに巻き付けたレザーベルトに、視認できるだけで十振り以上のナイフが下がっている…
…それにしても二人とも、棒読みだなあ…
しかも。。。
衿抒は二の腕に、是練は手の甲に、そして脩は右の眼球メダマに、『妓』の一文字と壊れた人形を意匠した憶春廓イルハクルワの細印ワンポイントを刺れている。
脩はそれに加えて砕けた岩をあしらった『帝國章』のをうなじに。
脩は恋人である二人の美しい少年を女装させ、護衛も兼ねさせ引き連れて、妖精帝國をのし歩くという。
大阪支部の上級幹部陣であるという彼女たちの目は。
目は、全く笑っていなかった。
彼らを軟弱だと嘲笑うものは災いだ。この二人の美少年と決闘し確実に勝利できる猛者が果して大阪支部に何人もいるだろうか。
ひめると脩は学生証と連合構成員鑑を提示し合う。脩は興味深げに、ひめるはどうでも好さそうに、相手の身分証明書をしげしげと見つめ、相手に返し、そして。
「それでは」
儷蘭先輩は怖いもの等無いと言った様子で、とんとんと資料の角を机に打ちつけて整えて言った。
「インタビューを、始めましょうか」
早く終わらして、帰りたい。私は切実に、そう思った。
最終更新:2011年06月18日 17:07