人物
あらすじ
六芒均衡の三 カスラの依頼でグリトニルへと赴いたマグナ。
そこで出会った少女錆月との一連のお話。
グリトニルにて
-A.P.241/10/31 14:00-
「特に目立った異常はないな。復興も着々と進んでいるし完全に復旧するまでそう遠くはあるまい」
『…分かりました。突然の任務を引き受けていただき、感謝しています。マグナさん』
「そう言うのであればもう少し、こちらに情報を渡して欲しいものだな。今でこそシャオがいるお陰でなんとかなっているものの、相も変わらない情報部の秘匿主義にシエラが爆発してしまいそうだぞ?」
『以前にもお話した通り、憶測混じりの発言で皆さんに混乱を招いてしまってはと思っての』
「それは何度も聞いた。…これ以上のやり取りは不毛だな」
『賢明な判断ですね』
「貴様相手にこんなことを続けても無駄なことくらい何年か前に悟った。それで、今回の任務はこれだけか?」
『えぇ、今回マグナさんに依頼したのはグリトニルの復興調査ですから、その報告を私が受け取った時点で任務は終了です。お疲れ様でした。後の行動はそちらに一任することとなりますので、観光を楽しんでくるのも一興ですよ?』
「何か引っかかるな…表向きでは言えない事でもあるのか?そもそもこの程度の任務を六芒均衡直々に依頼してくるなど怪しさしかないがな」
『お気付きになられましたか。貴方にグリトニルの調査を依頼したのは、そこが見た目以上に遥かに危険な可能性があるためです』
「…ネームレスか?それとも別の」
『詳しいことは情報部でも掴みきれていないので私から言えることは少ないのですが、グリトニルは居住性を重視して建造されている反面で防衛機能に乏しく警備も配属されたアークスのみということで、そういう奴らが隠れ潜むにはもってこいな環境なのですよ。だから私としても信用におけるアークスとして貴方に依頼したということです。最も、これから捜索しろと言うわけでは無いことを理解してください。あくまでも注意してくださいというだけです』
「そう言われると見つけ出して殲滅しろと言われている様な気がするのだが…」
『出来れば後の為に情報となり得るものは欲しいところですが』
「それが本音か…まぁいい。それではしばらく『観光』でもするとしよう」
かつて、ダーカーの襲撃で深い傷跡を残したアークスシップ85番艦「グリトニル」。しかし、復興を願う人々の尽力もありその艦は以前の姿を取り戻しつつあった。
その状況を視察、報告したマグナはカスラの言った通りに艦内を『観光』する。自らの背後に迫る影があることも知らずに…
-A.P.241/10/31/ 15:00-
「フフーフ…」
「!」
薄暗い路地に差し掛かった頃己の背後に気配を感じたマグナは、いつでも交戦出来るよう神経を張りながら振り返る。
が、そこにあったのはジャックランタン。ハロウィンを象徴するカボチャである。
「…何故こんなものが?それに今の気配は紛れもなく人のものだったはず」
「フフーフ。お兄さんお兄さん、今日が何の日か知ってる?お菓子くれなきゃ、いたずらしちゃうぞ!」
「カボチャが喋った…だと…!?」
「…わざとやってるのかなキミ?」
そう言うと影からひょっこりと顔を出した人物がいた。それは金色に緑のグラデーションがかかった小柄な少女だった。
「子供か。悪いが今持ち合わせていないんだ。代わりに店の割引券でもやろう」
「それハロウィン的にどうなのかな?全くノリが悪いなぁキミは。それと、私子供じゃないよ!」
子供と思われて少々ムッとしたのか少女は、名前と自身が子供で無いこと、アークスであることも告げる。
彼女の名前はサビーナ。皆からはサビーと呼ばれ親しまれているらしい。
「子供でないのなら付き合う理由もない。それに、アークスであるのならやるべきこともあるだろう」
「それとこれとは別!確かに普段は皆を守るために戦ってるけど今日は非番だからね!」
「そうか、俺は任務中だ。お前に構っている暇はない」
「ここで任務?それはそれで気になるね!ねぇねぇ何の任務?」
あしらおうとするマグナをよそにぐいぐい会話を引っ張るサビーナ。
いい加減うんざりしたマグナは
「観光」
と呟く。
「…え?」
予期していなかった回答にサビーナの動きが止まる。当然の反応ではあるが、任務で観光とは流石に馬鹿な事を言ってしまったとマグナ自身も頭を抱えるのであった。
-A.P.241/10/31 16:00-
「ふーん、グリトニルがどれだけ復旧したのか調査して報告する任務だったんだ」
「そういうことだ」
「まぁ見ての通りだね!一時期ものすごく荒れてたけど、復興が進んできて元通りになりつつあるよ!」
「報告済みだ」
「ちぇー」
結局サビーナを振り切れなかったマグナは、近場のカフェで休憩がてら彼女に本来の任務内容を打ち明けていた。
だが警戒からか今現在の目的、すなわち敵性組織に関する事は言い出せず、それがマグナにもやもやとした感情をもたらしていた。
「キミ、何か隠し事してるでしょ?うーん、嘘は言っていない。けど本当の事も言っていない。そんな感じがするよ」
「…お見通しというわけか。全く、お前みたいなタイプは苦手だ」
「おー図星だった!ちょっと適当言っただけなんだけど、キミちょろいね!」
「…」
「それでそれで?隠し事は何かなー?」
見事にサビーナの手の内で遊ばれていたマグナの顔には半ば諦めの色が浮かんでいた。
「あまり言いたくはないが、こうなればお前にも協力してもらうしかあるまい。このシップで、何か不審な動きを見せている人間、組織はないか?」
「色々あるけど全部把握している訳ではないね。この間も違法薬物がどうこうでしょっ引かれてる人いたしね」
「この艦、だいぶ治安が悪いな?」
「そうだねー。ダーカーの襲撃があってからというもの、治安の悪化は著しかったよ。今は少しまともに戻ってきてるけど」
「カスラの言う通りだったということか…」
「ん?カスラ?キミは情報部のアークス?」
カスラの名前を聞くやサビーナの様子が変わったように見えた。なんでも情報部に知った顔がいるらしく、その人の周辺人物なのでは?という期待もあったのだろう。
「いや、俺はどこの部署にも属していないフリーランスだ」
「でも六芒均衡から依頼されるって普通のアークスとは思えないんだけど」
「少し六芒と顔を合わせることがあるってだけだ。それ以外に特別なことはない」
情報部とは関係ないというマグナの発言に対して疑いを持っていたサビーナだったが、途中からどうでも良くなったのか次第に軟化していくのであった。
-A.P.241/10/31 20:30-
次第に夜が更け静寂に包まれたグリトニルの居住区域。そこから少し離れた人気のない場所では激しい銃撃戦が行われていた。
「…くっ」
「どうしました?この程度の実力ではないでしょう守護輝士マグナ=L=アルトルム!」
カフェを出てサビーナと別れ、再びひとりとなったマグナは直後、キャスト率いる部隊に襲撃されたのだ。
犯罪組織「イズマイール」
自らを絶対正義と謳い、従わないアークスを襲う究極の自治厨の成れの果てであるそれは、他の組織同様警備の薄さを突いてグリトニルに潜伏していた。
今交戦しているのは仮面のキャスト「エナトス」率いる1部隊に過ぎないのだが、ヒューマンよりも身体の頑丈なキャストを主に編成されているためにマグナ一人では分が悪く、苦戦を強いられていたのだ。
「貴方を消せば、貴方を慕う多くのアークスも我々イズマイールの偉大さに気付くでしょう。我々が犯罪者?それは後の世が決めること!我らの正義の前にここで死ねマグナ=L=アストルムゥ!」
「ここまで…なのか…?」
激しい波状攻撃に一瞬の隙きを突かれたマグナに巨大な剣が振り下ろされる。
しかし、その剣がマグナに届くことはなかった。
「フフーフ、間に合ったねキミ!」
「なっ!?貴様は…」
そこにはマグナへと振り下ろされた剣を腕で受け止める少女の姿があった。
そしてその少女を、マグナは知っている。何を隠そう、先程まで一緒にいたサビーナその人なのだから。
「サビーナ…?何故ここに?」
「いやぁ、なんとなく嫌な予感がしたものだから勘を頼りに来てみたら、ビンゴだったってわけ!立てる?」
剣を、敵を弾き飛ばしたサビーナはマグナへ手を差し伸べ、マグナもまたそのサビーナの手を取り立ち直す。
「…そうか、貴様アルターズの!」
サビーナの身体を硬化させる能力と本来の人間にはあり得ない猫耳を見たエナトスは、即座に彼女が改造人間【アルターズ】であることを理解する。
虚空機関解体に伴い明るみに出たそれは俗に言う『バケモノ』として認知されていた。
「フフーフ、今気付いたってもう遅いよ仮面のおじさん?このグリトニルを守るために、戦うのは私の役目!」
「おのれ…バケモノ風情が…我らに…!そうだ、ここはひとつ休戦して共にこのバケモノを倒そうじゃないかマグナ=L=アス…!?」
サビーナとまともにやりあってはただでは済まないことを悟ったエナトスは、マグナに休戦を持ち出そうとするが、その瞬間エナトスの顔をかするように銃弾が飛び背後の兵に直撃する。
「悪いが、俺の敵はお前だけだ!」
「な…何故だ!何故そのバケモノに肩入れする!?そいつらアルターズは我々人間とは違う存在なのだぞ!守護輝士である貴様がそのバケモノを助けるなど!」
「バケモノなものか!例えサビーナが肉体を改造された存在であろうと、その瞳の中に明日が映る限り、心の底にある昨日(ぜつぼう)に負けない限り、それはたったひとりの立派な人間だ!そして、人を助けるのに理由はいらん」
「あ、熱いねぇ…でも、そういうの嫌いじゃあないんだなこれが!」
サビーナをバケモノ呼ばわりするエナトスを切って捨て、マグナとサビーナはそれぞれ武器を構える。
しかしサビーナに恐れを抱いた時点で、最早勝負は決まっていた。
戦意を無くした兵士たちを押さえるのにさしたる時間は必要なく、エナトスもサビーナの一撃を受け昇天。呆気ない程あっさりとグリトニルでの戦闘は幕を閉じた。
-A.P.241/11/4 15:00-
一連の出来事の処理が済み再びグリトニルを訪れたマグナは、教えてもらった通りにサビーナの住居へ向かう。
呼び鈴を鳴らしたマグナを出迎えたのはサビーナではなくアイと呼ばれる少女であったが、サビーナの事を伝えると素直に彼女を呼んでくれた。
「先日は迷惑をかけたな…」
「フフーフ、気にしなくてもいいよ!みんなを守る。それが私の役目だからね!」
「それと、これは助けてもらった礼だ。こんな大所帯だとは思わなくてこれしか持ってきていないのだが、今日はこれで許してほしい」
そういうとマグナはひとつの箱を渡す。
「これは?」
「腕によりをかけて作ったケーキだ。せっかくだからみんなで食べてくれ」
「キミが作ったの?意外だねぇ」
「よく言われるが、これでも店持ってる身なんでね。味の方は保証付きだぞ?」
「それは期待出来るね!ありがと!」
「あぁ。…ここで長々と立ち話もなんだろう。俺はそろそろ行くよ」
「うん!またね!」
「またな」
サビーナと別れるや否や喧騒が聞こえてくる彼女たちの住まいを見たマグナの口元には僅かながら笑みが浮かんでいた。
-A.P.241/11/4 15:10-
「今のヤツ誰だ?お前のアークス仲間?」
マグナが去ったあと、アイはサビーナに問いかける。彼を警戒していたヤミもアイの影から顔を覗かせる
「ちょっと色々とあってね。一緒に戦場を駆け抜けた間柄ってヤツ?」
「はぁ…?まぁどうでもいいけどよ」
「それよりサビー…いい匂いがする…」
「そうそう、今の人からケーキ貰ったんだ!ヤミも一緒に食べよ!」
「あっ、ずるいぞ!アタシの分もあるんだよな?」
「…俺にも…くれるよな?」
『――私も――欲しい』
サビーナとアイのやり取りを聞きつけてイテ、モヤもやってくる。
「大丈夫!みんなの分ちゃんとあるから!みんなで食べよ!」
そう言ったサビーナの笑顔は普段より輝いていた。
最終更新:2017年11月07日 00:53