「契約が!馬鹿な!」
はじまりは陶器がひび割れるような音。
男が事態を察した時、身を守るはずの鎧はその力を急速に弱めていた。
恐怖と絶望、一欠片の生への執着が喚起した窒息感の中、唸り声に顔を向ければそこには人間一人容易く切断する死の刃。
もつれる足で離れようとした彼を、万力のような力で抱きとめるものがある。
それは狼狽える彼をもう覚えてはいないらしい。
震えるほど冷たい衝撃が首に突き刺さる。
鎧はもはや影すら消えつつある。身を捩っても、叫んでも、助けがよこされることはない。
咀嚼――咀嚼――何を?
ゆっくりと肉体を侵略する圧潰の痛みと引き換えに、感覚がどこか計り知れない場所へ散っていく。
身を切る叫びが空に溶けて消える。
肉―咀嚼音。骨―砕く。金。咀嚼。スリル。痛い。超常の力が失われた手では、捕食者を引き離すことなどできない。
小さくなっていく男の細い指が、銅色の殻を空しく引っ掻く。
クライマックスが近づき、破砕音は水気を伴って一際大きくなる。
そして彼を構成していた記憶が消え、本能に近くなった思考の残滓が消え、……最後には延々と伝達され続けていた感覚すら消えた。男が確かに存在した事を示す痕跡は、頭髪一本残っていない。
★
須藤雅史は、かつて超人だった。
使い魔を従え、恐るべき力をもたらす鎧を身に纏えば、鏡の中の世界を行き来できる。
それゆえ見知らぬ街に放り込まれ、聖杯戦争なる催しに巻き込まれても、すぐに順応できた。
この冬木市についても、鏡の世界――ミラーワールドと同様のものなのだろう、とすぐに呑み込んだ。
――力の源、カードデッキは手元にない。
あの瞬間は自らの運命を呪ったが、所詮彼らは害獣。
契約が解けたミラーモンスターなどあんなものだろう。
それと比較するとサーヴァントというのは好い。
同等の知性を持っている相手というのは、些か以上に安心感があった。
しかし、雅史は慢心しない。
契約したアサシンともども、自分達は神秘に縁がない。
サーヴァントが如何に強力であろうと、魔術師ならぬ自分では満足な戦闘はさせられない。
影に徹し、他陣営が減っていくのを待つのだ。
昼間、ヴィネガー・ドッピオは1人のマスターを補足した。
くたびれた雰囲気を漂わせる、スーツ姿の日本人。
掃いて捨てるほどいる、歯車の一つ。望んで参加したのでないのは、明らかだった。
「とぉるるるる」
ボスから電話だ。
地図を持っていないほうの手を懐に突っ込む。
取り出した手には、携帯電話が握られている。
「もしもし」
『ドッピオ…進捗を聞こう』
懐かしい声。
生前は力及ばず、途中で別れる事になったが、再び巡り合うことができた。
やはり自分はボスいてこそなのだ。
ドッピオは理屈ではなく、皮膚感覚でそれを悟る。
「職場のビルから出てきました。…徒歩です。近くで昼食をとるらしいですね、いえ、食事処に入りました。このまま殺りますか?」
『既に店にいるのか?』
「はい。席について、注文を告げています」
『なら、今はいい。街の探索に戻れ』
恭しく電話を切ると、ドッピオは観光者のふりに戻った。
今日はこのまま夕方まで深山町をぶらついた後、マスターの自宅に帰る予定だ。
標的の監視と並行して、街の探索を進めなければならない。
人の多い場所、外国人の多い場所――ボスが出て行っても問題のない場所を見繕っておくのだ。
ボスは暗殺者のクラス。ギャングスターには相応しい選定だが、真っ向勝負に向かないことを考えると恨めしい。
マスターに対しても、ドッピオは正直不満がある。
魂喰いや暗殺に抵抗が全くなく、あれこれと口うるさくないのは高得点だが、魔力に乏しい。
しかしボスの手前、部下の自分が愚痴を垂れる事はできない。
【クラス】アサシン
【真名】ディアボロ
【出典作品】ジョジョの奇妙な冒険 Part5 黄金の風
【性別】男
【ステータス】筋力D 耐久D 敏捷D 魔力A 幸運C 宝具A
ドッピオ 筋力E 耐久E 敏捷E 魔力B 幸運C 宝具A
【属性】
混沌・悪
【クラススキル】
気配遮断:EX(C)
サーヴァントとしての気配を絶つ。
後述宝具によって自身の存在を完全に隠蔽する事が出来る。
ドッピオは攻撃態勢に移った後も、NPC並みの気配しか発しない。
ディアボロが表に出ている間はCランク。
【保有スキル】
怯懦:C~E
他人に怯え、過去に怯え、運命に怯える男であること。臆病さ。
劣勢に回ると低確率で恐慌に陥り、行動判定にマイナス修正がかかる。
ドッピオはこのスキルをCランクで保有しており、ディアボロが表に出る程、ランクが落ちていく。
情報抹消:C
対戦終了の瞬間に目撃者と対戦相手の記憶・記録からアサシンの能力、真名、外見的特徴などの情報が消失する。
ただし機械的な記録に対しては効果が及ばず、自力で削除する必要がある。
心眼(偽):B
視覚妨害による補正への耐性。第六感、虫の報せとも言われる天性の才能による危険予知。
正体秘匿:A-
マスター以外の人間からパーソナルデータを閲覧される事を防ぐ。
ただし「ディアボロ=ドッピオ」と知る者、Aランク以上の真名看破スキルの持ち主に対しては、効果を発揮しない。
【宝具】
『首領と僕(マイネーム・イズ・ドッピオ)』
ランク:B 種別:対人宝具 レンジ:1 最大捕捉:1人(自身)
第二の人格、ヴィネガー・ドッピオ。
ディアボロは通常、彼の内側に隠れており、ディアボロ側の働きかけでのみ人格の交代が行われ、容姿もそれに応じて変化する。
ドッピオ時はステータスが専用のものになり、怯懦スキルがCランクまで上昇。
魔力消費が大幅に低下するが、宝具に制限がかかるために戦闘力が低下する。
ドッピオは規格外の気配遮断スキルによってずば抜けた隠密性を発揮。余程の相手でなければ正体を看破されることは無い。
ドッピオ本人は自分をディアボロの部下と思いこんでいるが、実際は同一人物であるため「キング・クリムゾンの両腕」と『碑に刻まれた名は(エピタフ)』を自由に行使できる。
また二人のやり取りは「電話」を介して行われる。宝具発動中はドッピオとのみ、念話が可能。
ちなみにこの宝具が失われた場合、正体秘匿スキルそのものが消滅し、幸運値が永続的にEランクまで下降する。
『孤独な王の宮殿(キング・クリムゾン)』
ランク:A 種別:対人宝具(対界宝具) レンジ:1~5(時飛ばし:全世界) 最大捕捉:1人(時飛ばし:上限無し)
ディアボロが保有するスタンド。
簡単な説明をすると最大で十数秒先の、未来の時間に飛ぶことが出来る。
能力を発動する事で、指定した時間をスキップする。時間そのものは消費される為、整合性が崩れることはない。
「時飛ばし」に気付くには精神判定に成功する必要があり、失敗すれば何事もなかったと認識する。
仮に気づいても、消し飛んだ時の中で起こった変化はディアボロにしかわからない。
時が飛んでいる間、物体はディアボロに対して一切干渉することが出来ず、ディアボロから干渉する事もできない。
スタンド共通の
ルールとして、宝具へのダメージはディアボロ自身にも反映される。
生前とは異なり能力の発動には魔力が消費され、指定した時間に応じて消費量は上がる。
一瞬消すだけなら消費は少なく、最大の十数秒全て消すなら消費は相当に重くなる。
スタンド体はサーヴァントに換算して、ステータスは筋力:A 耐久:D 敏捷:Cに相当。
『碑に刻まれた名は(エピタフ)』
ランク:A 種別:対人宝具、対界宝具 レンジ:- 最大捕捉:1人(自身)
ディアボロが保有するスタンド。
キング・クリムゾンの補助能力だが、単体でも使用可能なことから、一個の宝具に昇華された。
十数秒後までの未来を「到達率100%」に書き換えたうえで、映像として投射する。
上述宝具と併用することでディアボロは絶対的な回避能力を発揮できるが、サーヴァント化した現在はそれぞれの使用に魔力消費が課せられる。
生前同様にスタンドを操るのは、潤沢な魔力供給を受けていない限り難しい。
【weapon】
「電話」
ディアボロとドッピオの交信手段。
生前は耳に当てられるものを「電話」と誤認させていたが、サーヴァント化した現在はドッピオがベル音を口走った直後、彼の手の中に携帯電話が出現するようになった。
「レクイエム」
自分を倒した少年に与えられた呪い。
本来なら永遠に「死に続ける」運命にあるディアボロだが、サーヴァントとなったことで一時的に除去されている。
【人物背景】
ギャング組織「パッショーネ」のボス。本名不詳の二重人格者。
自分の正体を知られることは暗殺に繋がるとして、あらゆる自分に関する情報を全て抹消してきたし、過去を探ろうとする者は皆殺しにしてきた。
よって彼の人物像を知る者は組織の内外含めて、一人もいない。
【聖杯にかける願い】
完全な状態で復活する。
【マスター名】須藤雅史
【出典】仮面ライダー龍騎
【性別】男
【Weapon】
なし。
【能力・技能】
「悪徳警官」
立場を隠れ蓑にして犯罪行為に耽る。
犯した罪は原作において、殺人、拉致、脅迫などが確認されている。
「死の記憶」
須藤は今回の戦いに類似したバトルロイヤルに参戦していた。
聖杯戦争に招かれたのは「契約していたミラーモンスターに食い殺された」須藤雅史である。
マスター資格を得てから、死んだ瞬間の記憶に苛まれ続けている。
【ロール】
刑事。
【人物背景】
連続失踪事件を追っていた刑事。
実は悪事を働いており、裏の仕事仲間を報酬で揉めた末にカッとなって殺害。その死体を埋めていた時にライダーバトルへの参戦資格を得た。
参戦後はライダーの頂点を目指し、契約モンスター「ボルキャンサー」に一般人を襲わせていた。
死亡後から参戦。
【聖杯にかける願い】
完全な状態で復活する。
【把握媒体】
アサシン(ディアボロ):
原作コミックス。
須藤雅史:
テレビシリーズ全50話。須藤自身は第6話で退場。
DVD、Blu-ray、ニコニコチャンネルなどで視聴可能。
最終更新:2017年03月11日 19:40