239名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/04/30(月) 17:32:35.77 ID:ZuHqCmbp0
『4月の初め』
騒々しい電子音が聞こえる。
俺はその音源を手探りで探り当て、目覚し時計を止める。
……眠い。
昨日、夜遅くまで起きてた事を後悔する。
まだ寝たいが、二度寝しては会社に遅刻してしまう。
気合を入れて上半身を起こし、目を開ける。
隣にクーの姿が無い、先に起きて朝食を作ってくれてるのだろう。
俺はベットから出ると、リビングに向かった。
リビングに入るための戸を開ける。
いつも通りテーブルの上に朝食が並べられている。
クーの事だ栄養バランスも完璧だろう。
しかし、いつもと違う光景が一つ。
俺の正面の床にクーが正座している事だ。
彼女の両手は太股の上で固く握られている。
「お、おはよう!」
「……おはよう」
彼女の声が少し裏返っているように感じる。
しかし眠たいな、このまま目をつぶれば直立したまま寝られそうだ。
「よく聞いて欲しい」
「……何?」
「男、私達別れよう」
240名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/04/30(月) 17:33:16.34 ID:ZuHqCmbp0
彼女は視線を逸らしている。
どんな時も彼女は相手をしっかり見据えて話すはずだ。
ふと、壁に掛けられているカレンダーを見て全てを悟る。
「ああ、そうか」
今日は4月1日――エープリルフールか。
さて、何て言って返そうか……眠い、考えがまとまらない。
おもむろにテーブルを見て気付く。
いつもあるはずの新聞がテーブルの上に無い。
クーは取りに行き忘れたのだろうか。
確か新聞は外のポストに入れて貰っているはず。
これは眠気覚ましにちょうど良いな。
「外、行ってくるよ」
「え?」
彼女は驚きの表情を見せる。
たまには俺が取りに行くべきだろう。
そう思いながら玄関に向かう。
歩き始めてすぐに進めなくなる。
俺の胴には後ろから手が回されている。
どうやら後ろからクーが抱き付いているようだ。
「男、出て行かないでくれ」
彼女の声が聞こえる。
「先程のは男にショックを受けて貰うための嘘なんだ、
去年君に『今日1日ずっと抱き付いてて良い』と言われ、
それが嘘だったと分かった時のショックを君にも感じて欲しかったんだ、
それに今日は――」
「ああ、分かってるよ、エープリルフールだな」
「な、分かっていたのか!」
彼女の締め付けが徐々に強くなる。
背中に当たる胸の感触が堪らない。
241名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/04/30(月) 17:33:47.34 ID:ZuHqCmbp0
「分かってたけど出て行くのか……、私の嘘は君の心を傷付けたんだな、
済まない行かないでくれ、愛する男とこんな形で別れたくない」
彼女の締め付けが徐々に――く、苦しい、肺が圧迫され呼吸がしにくい。
「く、クー、ちょっと離して……」
「嫌だ! 離したら男はそのまま出て行ってしまうだろ」
このままでは、俺は天国に行く事になる。
「いや、新聞を取りに行こうとしただけなんだ」
「……そんな嘘には騙されないぞ、新聞は椅子の上に置いてある」
そうか、今日は椅子の上にあったのか……ぐはっ。
彼女は万力のような力で俺を締め付ける。
彼女の体の何処にこんな力が……って死ぬ!
「私の愛に嘘偽りは無い、もうあんな事は言わないから許してくれ」
「く、苦しい、誰か助けて……」
クーのおかげで眠気は吹っ飛んだ。
しかし彼女を説得するのに3時間かかった。
もちろん会社には遅刻した。
最終更新:2007年05月04日 17:43