いるよー
はるか昔にスレに書き込もうと思ったやつがあるんだ。
問題なんだが、書き込んだのか書き込んでないのかはっきりしない。
wikiは探ったところなさそうな感じだったんだが、書き込んで見てもいいものかな?
どんとこい
じゃあはじめてみる。
長いのでよろしく。
大学の入学式の日。
講堂から出た瞬間にいろんなサークルの勧誘員に取り囲まれた。
大学に入ればサークルに入るものだ、そんなことを三年生に言われて強引に入れられた英会話サークル。
英会話サークルなんてのは名前だけで、実際は部室でごろごろしたり各々好き勝手なことを楽しむサークルのようだった。
親元から離れて新しい土地で一人暮らしをした俺に一日二日で友達なんて出来ているはずもなく、ただ肩身狭げに部室にいるだけだった。
何人かは俺と同じように連行されてきた新入生のようだが、それでも2、3人同士で固まっている。
完全に一人なのは俺だけだった。
正直いって気が重い。
「はーーーーい! 十人目の新入部員ゲットしてきたよー! どうよアタシ。褒めてくれて構わないぜっ」
がたーん、と大きな音を立てて立て付けの悪いドアが開いた。
いえーい、とVサインを出しながら女の人が大股で部屋に入ってくる。
栗色の腰くらいまでの髪、大きめの赤いヘアバンドが目を引く。
あまり化粧っ気のない人だったが、はっきりした目鼻立ちとすらっとしたスタイルが衆人離れしている。
ありていに言ってしまえば美人だ。
「おおお! やったね姐さん! これで三年連続勧誘ノルマ達成じゃん」
「おうよ! 勧誘の天才のアタシからすればこのくらいは当然さねっ!
……んで。ノルマもクリアしたことだし、そろそろみんな自己紹介してみよーか。
アタシは法学部三年の仁和 仁美(にんな ひとみ)。 姐さんと呼んでくれぃっ!
ま、他の二年三年は有象無象だから割愛するね」
うえー、と言う声が有象無象呼ばわりされた先輩方から上がる。
当然といえば当然の抗議を仁和さんは片手で制し、
「大事なのは新入生。 んじゃ…まずはそこのジャケットの君、いってみよ!」
「大事なのは新入生。 んじゃ…まずはそこのジャケットの君、いってみよ!」
びし、っと俺を指差した。
……う。
一瞬のタイムラグ。
「文学部一年の森 慎矢です。 出身はF県。四月から一人暮らしをはじめました。 よろしくお願いします」
何も考えずに言葉を発する。
俺の長所なのか短所なのかは判然としないが、不測の事態に陥ると頭が真っ白になる代わりに当たり障りのない返答を返すことができるのだ。
「へええ、F県かあ。遠いとこからよく来たね、お姉さんはうれしいよー」
うんうん、なんて泣真似をしながら仁和さんがうなずく。
「OK,じゃあ次だっ。 そこの赤いスカートのかわいい子、いってみよっ」
新入生の挨拶がくるくると回っていく。
それに関して仁和さんがコメントをしたり、回りの先輩が冷やかしたりする感じで自己紹介は進んでいった。
「うっし! じゃあ最後の十人目、アタシが自らスカウトした期待の新人! いってみよー!」
ずびしっ、っと今までより勢いよく指差された女の子。
がたり、と立ち上がる。
「怜崎 素直(れいさき すなお)。 文学部一年、趣味は読書と散歩」
黒い髪。
染めていないというだけではなく、まさに漆黒。 一本一本絹みたいにさらさらしている。
髪の色に合わせたかのような真っ黒な服装に、あまりに白い肌が映える。
小柄な体格であり、相当な華奢さ。
おそらくどこにも余分な脂肪などはついていないのだろう。
顔立ちも整っている、どころの騒ぎではなく相当な美人なのだが――表情がない。
大きめの眼鏡のせいで印象が伝わりにくいのかもしれないが、それにしても無表情だ。
素っ気無くそれだけを告げると、怜崎は椅子に腰を下ろそうと――
「よ、かわいいー。処女ー?」
先輩から冷やかしが飛ぶ。
赤くなってうろたえたりするのだろうか。
そんな期待で部室中のみんなが怜崎を見る。(仁和さんは冷やかした先輩にチョークスリーパーを加えていたが)
「性交渉の経験はない。処女だ」
こともなげにさらりとそう言った。
全員が凍りつく中、さらに怜崎は続けた。
「だが、愛した男ならばどんな要求にも応える用意はある」
聞いてもいないのに付け加えられたダイナマイトに一同は愕然とする。
そのままかたん、と椅子に座る怜崎。
圧倒されつくした部室の中、仁和さんだけが気を取り直したように言葉を発した。
「は、はいー。クール・ビューティーだねー。アタシにそっくりだ、うん。
それじゃあお待ちかね、新入生と在学生入り乱れてのフリートークターイム! これが終わったらみんなで飲みに繰り出すからね。各自仲良くなっておくことー!」
頭が真っ白になる。
となると俺は自分の行動をコントロールできないのだ。
「よう」
気がついたときには怜崎の横に座って声をかけていた。
心臓は破裂しそうだ。
「………」
つ、とこちらに視線を向け、首を軽く傾げる。
「あー、いや、ほらさ。俺、今年から一人暮らし始めたから。 友達いなくて話す人いなかったんで、一人っぽいお前に話しかけてみた」
「……それは私に友達がいないように見えるということか」
「……え、違うって。 友達になってくれたらな、って思っただけだよ。 自分を卑下するのはよくないぞ」
「………ふむ」
沈黙。
時間にして三十秒くらいの間だっただろうが、話しかけなきゃよかった、と三千回は思った後のことだった。
「すまなかった。私もがらにもなく緊張していたようだ、謝罪する」
予想外の言葉に驚く。
「よければ私の友達になってくれ。 強がってはみたが、私にも友達と言えるほどの人間は存在しない」
二段階の驚き。
そして燃料タンク切り離し、ブースターがフルスロットルで成層圏へ――
何でそんなにぶっ飛んでるのかって?
それは――怜崎のやたらと暖かい手が、ひざ上の俺の手のひらと重なったからだ。
とりあえず以上で。
書き込んだような気もしてきた……w
ちょwwwそこで終わりかよwww
続きあるならうp、無いなら作って下さい。
気になってしょうがないwww
>>709
読んだことの無い人が居る限り、お前には投下義務があるんだぜ?
読んだことあるようなないような・・・・
そこで終わりだと……ドラマが尻切れトンボっていうか、何やら蛇の生殺しっぽいぜ。
続きを書いてくれたまい。
去年、読んだ気がするー! 続いてくれ!
ぬあ。ではでは続きを投下しますね……って言っても、残りはそんなに量がないのだが。
お待たせして申し訳ない。
「はいはいはーーい! フリータイムしゅーーーりょーーーう!
まだまだ話し足りないみんなのためにこのアタシがセッティングを済ませてきたよー!」
再び立て付けの悪いドアを勢いよく開けた仁和さんが入ってくる。
いつか壊れますよ、そのドア。
「よっし。みんなそこそこ仲良くなってるねー?
今から場所を移して飲み会やるわけだけど、都合が悪かったりする人は帰っていいからね。無理して出ても楽しくなーい。
でもでもアタシ的には出て欲しいとこだけどね、なはははー」
そういうと仁和さんは先輩たちとなにやら打ち合わせに入ったのだった。
周りでは新入生の女の子たちがちらほらと帰り支度を始めている。
入学式の初日から酔っ払って帰っては親御さんも驚くだろう。
「怜崎。お前はどうするんだ?」
隣でちゅーちゅーとストローでジュースを飲んでいた怜崎に声をかけてみる。
十中八九「そんなことにかけている時間はない」とか言われそうな感じだったんだが――
「そう…だな。君はどうするんだ?」
「え、俺? 正直どっちか決めかねてる」
「そうか……君が行くのなら、行こう。 君がいかないのなら、帰り道をご同道願いたい」
「え……うーん」
正直迷った。
俺も怜崎の行動に合わせようと思ったのだが、怜崎が俺の行動に合わせるつもりならそういうわけにもいかない。
「やっほう、クールビューティー。 仲良くなってるじゃなーい」
――と、唐突に仁和さんが目の前に現れた。
今後ろのほうにいたはずだぞ、この人。 どんな動きしたんだ。
「ああ。彼はいい人だ」
「……っ!」
「あはははは、そうかそうか! いい人らしいね、森くん。 アタシもそう思うから間違いないね、こりゃ」
ばんばんと背中を叩かれる。
「それで、君らはもちろん飲み会出るよね?」
「あー……どうしようかな、って思っt……」
瞬間、何かふかふかしたもので鼻と口が塞がれた。
「……む……がっ…!?」
それが仁和さんのチョークスリーパーのよるもので。
鼻と口を塞いでいるのが仁和さんの豊富なバストだと気づくのに、俺は五秒の時間を要した。
つーかこれチョークスリーパーか……!?
「ほらほら! 苦しかったら行くと誓うことだねっ!」
「むー! むー!」
行くどころかギブともいえない。
意思表明のためにぱんぱんと仁和さんの腕を叩く。
ばっ、と離れてくれる。
「OKOK。 で、いくよね?」
くいくいとチョークスリーパーの構えを見せながら笑う仁和さん。
「い、行きます……! 行けばいいんでしょういけば……!」
「よーし! それでこそウチの新入部員だっ! 女の子は帰ってもいいけど野郎はダメだかんねー!」
うおっしゃー、なんて言いながら腕をぐるぐる廻して立ち去っていく仁和さん。
熊にも勝てそう。
と、さっきから無言の怜崎に目線をやる。
目が合った。
そのまま怜崎は自分の――けしてお世辞にも厚いとはいえない――胸板に視線を落とし、もう一度こちらを見やって、
「………大きいほうがいいか?」
なんて質問を真顔で繰り出したのだった。
仁和さんの先導(ご丁寧にバスガイド風の手旗を持って)で到着した居酒屋。
焼き鳥なんかを出すチェーン店で、大きな座敷が宴会用として設けられていた。
「よおーーーっし、がんがんいくよぉ! 夜は長いからねー!」
ジョッキ片手に音頭を取る仁和さん。
夜は長い、ということに異論はないがまだ午後四時だ。
この時間帯を普通夜とは言うまい。
「森」
目線を前方に固定したまま怜崎が俺の名を呟いた。
「お酒というのは美味なのか」
「…え、お前飲んだことないのか?」
「……ない。別に怖かったりしたわけではないので誤解しないでほしい。ただ必要に迫られなかっただけの話だ」
まあ、酒を飲む必要に迫られることは殆どないと思うが。
「うーん……苦い、かな? 俺もスキだってわけじゃない。 怜崎は無理して飲まなくていいんだぞ」
「だが、君は飲むのだろう?」
「俺は……まあ一応な。飲み会だし」
「ならば私も飲もう。君が飲むのなら」
淡々と話す怜崎。
だが、俺はなんとなく最初の鉄面皮な印象とは違うものを感じはじめていた。
梅サワーを二つ注文する。
がやがやと周りが騒がしくなっていく中、俺と怜崎は二人で話しこんでいた。
「……へえ、怜崎もひとり暮らしなんだ。 出身は?」
「この県内だ。母親が心配性なのでそう遠くの大学には進学できなかった」
「ふーん……残念だったな」
「……いや、そうでもない。私はそれなりに運がよいようだ」
「うん?」
「聞き流してくれ。 料理と酒が来たようだぞ」
と、顔を上げればそこには二人分の料理と梅サワー。
焼き鳥、から揚げ、刺身。 酒の肴のオンパレードである。
「……ん、うまい」
もぐもぐと食べる。 朝から何も食べていないので腹が減っているのだ。
視線を感じる。
怜崎がこちらをじっと見ていた。
「……どうした?」
「いや、その。 まだ酒は飲まないのか」
「ああ、……じゃ、飲むよ」
くい、とコップを傾ける。
このくらいのサワーならば酒の味など殆どしない。
じーっ、と俺が酒を飲む様子を見ている怜崎が気にはなったが。
とん、とコップを置く。
「……酔ったか?」
「酔うか。そんなに即効性の酒じゃないぞ」
「そ、そうか。 では私も飲むぞ」
「おう、飲め飲め」
「言われずとも飲む。……の、飲むとも」
がしっ、と両手でコップを掴み、一気にごくごくと流し込む――かと思えば、途中で減速し、ちびりと一口。
「どうだ?」
「……これが酒か? ジュースと大して変わらないように思えるが」
「ああ、まあサワーだしな。っていっても酒は酒だからあんまり飲みすぎるなよ」
「ふふ、見くびるな。これしきの酒に飲まれる私ではない」
口角がゼロコンマ何ミリの単位で上がったように見える。
笑っているのだろうか。
「ならいいけどな……」
......................
................................................
............................................................................と、六時間後。
がたん、と立ち上がった仁和さんが朗々と声を張り上げた。
「よーしみんな、そろそろお開きだよー。
酔っ払っちゃった人はこのときのためにお酒を飲まなかった先輩軍団が引率するからね、感謝することっ!」
うぇーい、と声が上がる。
夜十時、怒涛のごとく過ぎ去った飲み会なのだが――
「おやおや森くん? 早速やるじゃないのさ」
にまにまと笑顔を浮かべながら仁和さんが寄ってきた。
「え……え、と。ははは、あははははは」
汗をだらだらと流して笑うしかない。
俺の膝の上では、酔いつぶれた怜崎がぐっすりと眠っていたのだった。
「……もり……」
ごにょごにょと、怜崎が寝言で俺の名前を呼んでいた。
「……あは。なんだなんだキミ、結構スミにおけない人?」
「いえいえ、そんな……」
「ふぅーん……」
目を細め、じろじろと俺と怜崎を見比べる。
「ふふふふふふ。楽しくなりそうだねぇ、森くん?」
にっこりと不敵な笑顔でそう言った仁和さん。
仁和さんのその予言は、もうこれ以上ないってくらいの形で成就していくことになるのだが――それはまた、別のお話だ。
以上です。
よければ感想とかいただきたいー。御目汚し失礼しました。
('A`)b グッ!!
「別のお話」が読みたいっ
おお、なんか全面的にほめていただいてる……とうけとっていいのか。
今続きを書いてるには書いてるが投下はいつの日になることやら不明。
長くなりそうなのでカタチを変えるかもしれないですね……
いつまでも待つので自分のペースでヨロ
気長に待ってますよ~。
でも今度からは、タイトルをいれていただけるとありがたい。
>>724氏以外のSSにも言えることなんだけど、登場人物に名前を付けると感情移入しにくいと思うんだ。
人それぞれだから自分がズレてるだけかもしれんが…
男、クーだけだと味気なくね?
>>724
ほとばしるほどにGJ!
続き楽しみにしてます。
素直クール限定でだが長編はともかく
短編で名前があるとなえる俺みたいな奴もいる。
仁和さんが鶴屋さんにしか見えないんだが
書き手の脳内素直クールを垣間見せてもらう以上
名前ありかなしかは書き手に任せるべきだと思うよ
それに名前があればあったでそれも味になると思う
この流れには見覚えがあるぜ
かつてVIPのスレを荒廃させた流れだ
>>741
だが流れにあえて乗る俺のターン。
逆に名前があったほうが良いと思う。
まあ、無くても面白いけどね。
読み手も書き手も好みは様々なんだし、
あんま書き手がやる気無くしちゃうような注文はやめてくれ。
>>738
作者の俺ですら否定でき得ない事実
んで、こっからスレの流れにつきまして愚考をひとつ。
あれだよみんな、何か名前のどうこうとかで殺伐とするのはやめようぜ!
名前あり→小説風味
名前なし→清く正しい新ジャンル形式
とかそんな感じかと俺は思って書いてたんだけど……。
書き手が何人もいる以上、当然スタンスとかの違いはある、よね?
だからどちらかがどちらかに合わせて自分のやり方を変えないといけない、っていうのはスレの本意ではないと思う。
もちろん感情移入できない人、できる人、色々いると思うけど、書き手が色々いるからこそソレを満たせて、っていうのがこういうスレのいいところだ。
みんな、もっとほのぼのしようぜー。
モナ王かじりながらこの眺めてる俺に一言
ほのぼのと修正
モナ王かじりながらこの流れを眺めてる俺に一言
>>747
残念ながらこのモナ王は俺の嫁
一欠けらたりとも譲れんさ
廚くさい名前でなきゃいいよ。
ほの板の空気は自由にする、というのが個人的な希望
ちなみに私は名前無しでやっているけど
それぞれ書き手のスタンスがあるわけだし
名前有り無しは書き手に任せるのが良いと思う
ということで、ちょっと甘い物見つけに食料棚あさってくる
ごめんsage忘れた
名前が無いと感情移入しにくい(例:数多の新ジャンルスレ
名前を勝手に決められると余計感情移入し難い(例:ツンデry
そんな俺はちょっと長いの書くときは名前をつけてキャラを大切にします
最近の新ジャンルは男、女、だけどクーは愛称みたいなもんだと思って短い文では抵抗無く使っている
男、女しか使わない俺は真性のカタブツ
名前有りが好きという奴は登場人物に名前が無いSSの場合(男、女orクー)、自分の好きな名前に脳内変換すればいい
名前無しが好きという奴は登場人物に名前が在るSSの場合、名前を男、女orクーに脳内変換すればいい
何が言いたいか分り辛いと思うが、これじゃいかんのか?
素直クーラーはくだらない議論で我を通さずにはいられないってことか
ここをつぶしたら次はどこに行こうか?
>>752
長編で名前無きゃキャラを大切にしてませんか、そうですか
名前があろうと無かろうと素直クールへの愛は
ここにある全作品から見えるぜ
まあ、仲良くやろうよ
結論がほぼ出たっぽいしここで一言。
続きは避難所で。
てか論議したいもしくはなりそうな話題は、
なるべく避難所でして欲しい。
作品の感動が萎える。
わがままかな?www
議論は避難所、建設的意見にござる。
仕事さぼってVipの本スレ用にSS打ってたらスレが落ちやがった……orz
なのでココに投下させて貰う。以下5スレほど頂くぜ。
オレは愕然としていた。
夕刻。西日が最後の残照を投げかけてくる生徒会室。部屋の全てが紅く染まった黄昏の
中で、何ごとにも動じない鋼の自制心を持ち、己の欲望を満たす為には手段を選ばず、常
に冷静に悪魔的頭脳でコトを進める白面鬼、地獄の生徒会長と全校生徒に恐れられている
あのクーが……その目に大粒の涙を浮かべていたのだ……。
「く、クー……ど、どうしたんだ、何があったんだ?!」
オレの声は自然と荒くなった。なぜなら……クーは制服を半ば脱ぎかけているような格
好――ブラウスのボタンが外れ胸元が大きく開いて下着が見えており、スカートに至って
は脱ぎ捨てられたように床の上に広がっていた――をしていたからだ。その上で彼女は声
もなく泣いていた。
生徒会室にはクーしか居なかった。生徒会の仕事も終わった頃だろうと思い、部活を終
えていつものように迎えに行ったオレを待っていたのは、そんな光景。
クーが……襲われた!? 誰に? 生徒会の面々? いや、それとも教師、か……!?
オレの脳裏には様々な憶測がいくつも飛び交い、混乱、怒り、悲しみ……それらの感情
が複雑に混じり合い、今にも叫び出して……爆発してしまいそうだった。
「……男、クン……み、見ないでくれ……い、今の私の顔を……見ないで……!」
クーが……生徒総会の質疑応答でも一度たりとも言いつかえたことのないクーが……ど
もった? 付き合い出して2年にもなるが、こんなにも混乱して……苦しそうなクーは見
たことがなかった。
クーの両目から涙が溢れ頬を伝うのが見えたが、彼女はそれをオレに見せまいとその細
い身体ごと顔を背けた。
オレの心の中で、いいようのない怒り、クーを傷つけた者に対する激しい憎悪――それ
はほとんど殺意に近かった――が燃え上がった。
……よくも……オレのクーを……クーを傷つけ、泣かしたな……!!
だが、オレは内なる怒りと必死で戦った。誰よりも辛いのはクー自身なのだ。普段どれ
だけ冷静であろうと、やはりクーは女の子なのだ。どんな時でも人を真直ぐに見つめ、ま
た自分も相手からの視線を正面から受け止めるあのクーが「今の自分の顔を見ないで」と
言った。その一言が、彼女が心に負った傷がどれだけ深いかを物語っている。傷付いたク
ーの苦痛を少しでも和らげ、受け止めてやれるのはオレの役目だ。それが出来るとしたら
オレしか居ない。それは恋人であるオレの義務であり、権利なのだ。卑劣な襲撃者に復讐
し、恨みを晴らすよりも先にやらねばならないことがある。
「クー……その、守ってやれなくて……ゴメン。でも、オレが何とかする。二度とこんな
目には遭わせない、約束する。今は……今は辛いかも知れないけど……いや、辛いに決
まってるよな。でもオレが……オレは、クーの全部、受け止められるから! 今のクー
が全部、す、好きだ! それにその……クーは泣いていたって綺麗だよ? だから……」
オレは今のクーにどんな言葉をかけてやれば良いのか判らなかったが、ただひたすらに
心の痛みを和らげてやりたくて必死だった。
だが、オレのつたない言葉でもクーには届いたらしい。彼女はハッとした表情で振り返
り、泣き濡れた顔をオレの方へ向けてくれた。オレはハンカチで優しく涙をぬぐってやる。
「……男クン……どうして今? いや、そんなコトはどうでもいい。男クンが自分から私
を好きだと言ってくれたのは初めてだ……とても……嬉しい……」
「どうして、って……そりゃ……少しでもクーの痛みを癒してあげたいから……」
「本当に? ……こんな幸せな気分になれるなら、痛いを思いをするのも悪くはないな」
涙を拭いてやったクーは、次第にいつもの調子を取り戻して来たかに見えた。だが彼女
はどんな時でも常に冷静に振る舞おうとするものだから、一見しただけでは心の内に気付
いてやることは難しい。しかし、今のこれは強がりだ。
「ば、馬鹿言うな! もう、二度とこんな辛い目には遭わせない! オレが守ってやる!」
「今日はいつになく頼もしくて更に素敵だ……改めて惚れ直してしまったぞ、男クン……。
なぁ、このまま……抱き締めてくれと言ったら……迷惑か?」
「め、迷惑なものか! オレはクーの彼氏なんだからな!」
普段ならこんな風に言われてもやんわりと拒絶している。時も場所もわきまえず好意を
ストレートに表現し、それを相手にも強要してくるクーにまともに付き合っていたら、こ
ちらの身がもたない。しかし今はクーの心のケアが最優先だ。オレの照れや倫理なんて!
オレはクーを抱き締め、滑らかな黒髪を指ですくようにそっと頭を撫でてやった。クー
はそれで多少落ち着いたのか、オレの胸に頭をもたせかけたまま、じっと静かにしていた。
夕焼けの中、重なった二人の影は床に長く延びていたが、次第に周囲の景色から色彩が
失われていき、生徒会室には沈黙と共に夜の帳が降りた。
そしてオレは……自分たちの置かれた状況に気付き、このままだと甚だ不味いことにな
りかねないと内心であたふたとし始めた。
「……男クン? ……お腹に熱くて硬いモノが……当たってる……」
……そうオレは……クーがついさっき何者かに酷い目に遭わされたばかりだと言うのに、
クーの艶やかな髪から立ちのぼる甘い香りと、自分の胸に押し付けられた柔らかな彼女の
それ――しかもブラウスがはだけて下着が露出、下半身に至っては下着丸出し!――に反
応してしまっていたのだ。
ヤバい……節操の無い自らの肉体に「おさまれおさまれ」と何度も念じ、元素記号を心
の中で唱えたり素数を数えたりしていたが、欲望を抑えようとすればする程、クーの身体
のなまめかしい感触を意識してしまう……。
「い、いや、これはその……け、健全な男子としてはその……ご、ゴメン!」
「どうしてあやまる? 君が望むのなら、今この場で押し倒してくれても私は構わない。
あ、でも出来れば優しくして欲しい。私も初めてだから」
「いや、それは……って……初めてって……」
「何だ? まさか疑っているのではなかろうな? 君に嘘などつかないぞ」
「え? で、でもクーは……さっき誰かにその……」
「誰かに? 誰かに何だ? 私が浮気して君以外の誰かに抱かれたとでも言うのか?」
「……ちょ、ちょっと待て……クー、おまえ誰かに……乱暴……されたんじゃ?」
「私が? 私の合気道の技前は君も知っていように。誰が私に乱暴なんてできる?」
……そういえばクーの爺さんは道場を開いていたし、彼女は黒帯で師範代クラスだった。
では、だとするとクーは一体……? 何故……半裸で泣いていたんだ……?
混乱したオレが疑問を口にすると、クーは珍しく驚いたように目を丸くし、次の瞬間、
オレの背にまわしていた腕の力を強め……胸に顔を埋めたまま震え出した。また泣き出し
たのではないかと思わず心配したが……どうやら笑いを堪えているらしい……。
なんで!? 一体何がどうなって……?
「フフフ……私は君が部活動を終えて迎えに来てくれる前に汗を拭き、下着を替えようと
していただけだ。汗臭いままの姿で君のそばに立ちたくなかったからな」
「え……? で、でもさっきクーは泣いてたじゃないか!?」
「アレは着替え中に資料入れの箪笥の角に足の小指をぶつけただけだ。あんまり痛いので
思わず涙をうかべてしまったが……そこに君が現れたんだよ」
「……だ、だって……い、今の顔を見ないで、なんて言うから……オレはてっきり……」
「私だって女だ。薄くても化粧くらいする。涙でメイクが崩れた顔など好きな人には見せ
たくない、という乙女心だ」
クーに対する愛情と保護欲と、ほんのちょっぴりの(?)肉欲、そして実際には存在し
ていなかった襲撃者に対する怒りが入り交じった複雑な思いが一瞬で空中分解し、オレは
脱力しきって床の上にへたりこみそうになった。
「それにしても……君の普段のそっけない態度の裏側に、私に対する愛と情熱が隠されて
いたことが判って嬉しいよ……って、あ……なんで抱擁を解くんだ? 今がイイ所だと
いうのに。夜は長いんだ、まだいいじゃないか男クン。さぁ続きをしよう」
「ば、馬鹿なこと言ってないで服を着ろ!」
「あぁ……夕焼けの生徒会室で愛の告白、そして熱い抱擁……そしてこのまま愛と官能に
押し流され晴れて二人が身も心も一つに結ばれれば、今日の出来事は私の人生の中でも
最も輝かしく、最良の思い出として完成……って待て男クン、何処へ行く?!」
オレはうっとりとした表情で演説しているクーを残し、生徒会室から退散したのだった。
以上、「涙の理由」はこれでおしまい。
ホントは本スレの「箪笥の角に小指をぶつけた」というお題用だった。
オチまでがちょっと冗長すぎたかなーと思わないでもないが、あえて気にしないことにする。
>>768
ちくしょー!
おれも「何があってもクーは綺麗だ!」って叫んじまったじゃねーか
GJ!!
「男クン」が鮮明に音声で再生されたぜ!
>>768
クーもすごくかわいいけど
男がかっこ良すぎるよ
GJ!
☆
ログ持ってないけど
確かVIPの月曜スレの最後に
【別の女にデレデレする男】
というお題があったような気がする
で、それで考えていたらいつの間にか
【別の女"が"デレデレする男】
になっていた
5レスほど借りるよ
ク「男よ。一緒に昼食を食べよう」
男「あ、クー。よくここにいるって分かったね」
ク「うむ。君のゼミの者に聞いてみたら実習で幼稚園に行っていると
言っていたでな。付属幼稚園まで来てみた」
男「今からお昼だから、子供達と一緒に食べようよ」
ク「本当は二人きりが良かったのだが…。君の提案を受け入れよう」
男「ごめんね。お昼を子供達と一緒に食べるのも勉強だからね」
------------------
ク「男よ。今日の料理はどうかね?」
男「最高だよ。やっぱりクーは料理うまいね」
ク「ふふ。嬉しい事を言ってくれる。所で、男よ。口をあけたまえ。
食べさせてあげよう」
男「ここでそれはちょっと…」
女の子「せんせー。玉子焼き大好きだよね?」
ク「…む?」
男「うん。僕は玉子焼き好きだよ」
女の子「あたしね。せんせーのためにお母さんに玉子焼きの作り方を
教えてもらって作ったんだ。食べてほしいな」
男「ありがとう。どれどれ…うん。すごくおいしいよ」
女の子「喜んでもらえてうれしいな。今度はお口あけて。食べさせて
あげる」
男「ちょっと恥ずかしいな…。あーん…」
ク「!」
男の子「あーっ!お前、せんせーのこと好きなんだろ」
女の子「あたし、せんせーのこと大好きだもん。せんせー。あたし、
せんせーのお嫁さんになってもいい?」
男「うれしいな。大人になってまだそう思えるようだったらおいでね」
ク「…。男よ。少し急用を思い出した。すまない。失礼する」
男「クー。一緒に帰ろうよ」
ク「…」
男「クー。黙っちゃってどうしたの?具合悪いの?」
ク「自分の胸に手を当ててみたらよかろう」
男「クー。僕は心当たりが全然無いけど、何か悪いことをしちゃったの
なら謝るよ」
ク「男よ。私はクールだと人に言われているがたとえ冗談でも好きな人
が他の女と結婚の約束をして傷つかないわけがないぞ」
男「もしかして…。お昼ごはんの時の…」
ク「そうだ。それ以外にあるまい。その上、私が口をあけろと言った時
は拒否したのに…あの子には…」
男「あのさ、クー。あれは幼稚園児で…」
ク「しかし、恋人の目前で言う台詞や行動ではない」
男「うーん。クーなら分かってもらえると思ったんだけどなぁ…。とり
あえずクーを傷つけたのは謝るよ。だけど、話を聞いてよ」
ク「…分かった」
男「ありがとう。ところで、聞くけど。クーって幼稚園のときサンタさん
は信じていた?」
ク「いや。幼稚園のときに肯定派と大論争になって、イブの日に赤外
線カメラを自宅に仕掛けた。結果、正体が父親だと分かった。ただ、
テープは母親に没収されてしまった」
男「…えーっと、困ったな。このままじゃ話が続かなく…」
ク「構わん。続けてくれ」
男「じゃあ、話すね。少なくとも、幼稚園児の大半はサンタさんの存在
を信じていると思うんだ。実際にはいないんだけどね」
ク「それが一体、この事と何の関係があるのかね?」
男「最後まで聞いてよ。つまり、あの子達は夢を見ているんだ。今回の
こともそれと一緒だよ」
ク「しかし、いつか現実を知るだろう。それが今でも論理をもって話せ
ば、たとえ幼稚園児でも納得してくれるのではないか」
男「確かにいつかは現実を見なくちゃいけないけど…」
ク「そうすれば良かったではないか。恋人がいると一言、言えば良い」
男「ただね。このタイミングで現実を突きつけたら、あの子の位の年に
はショックが大きすぎるよ。もしかしたら、夢を見ることに意味を見
出さなくなっちゃうかもしれない」
ク「しかし、私はあのサンタ事件後も様々な夢を持てた」
男「皆がクーみたいに強くは無いと思うよ。人間は夢を見なくちゃいけ
ない生き物だと僕は思うんだ。夢を見て、少しでも実現させようと
人間は進歩すると僕は思うよ。特にクーは理系だから分かると思う
けど…」
ク「うむ。その点に関しては私は否定しないし、現実として事例はいくら
でもある。それに私は今でも科学上の大発見をして、そして君と結婚
するという夢がある。それなのに…」
男「僕が仕事としようとしている事は子供達を少しでもいい方向に育てる
ことなんだ。だから、夢を壊さないためには、ああ言うしかなかったん
だ。もしかしたら、もっといい言い方があったかもしれないけど、僕に
は思いつかなかったよ…」
ク「男…」
男「ごめんね。クーの気持ちも考えなかった上にこんな言い訳なんかし
ちゃって。僕って最低だよ…」
ク「謝るのは私だ。私は自らの狭量さを恥じている…」
男「クー。悪いのはデリカシーの無い僕だよ。顔を上げて」
ク「いいや。君のその深い考えに気付かないばかりか、私が身勝手なこ
とばかり言って君を不快にさせてしまった…」
男「クー。お願いだから。顔を上げてよ」
ク「男よ。良く考えたが私は君にふさわしくないかもしれない」
男「…!そんなこと無いよ。僕のほうこそクーにふさわしくないよ」
ク「お世辞はやめてくれ、私は君を傷つけてしまった…。非常に悲しい
ことだが私は君の恋人の資格が無いかもしれない…」
男「違うよ!僕が…」
(ギュッ)
ク「男よ…」
男「僕が一番傷つくのはクーがいなくなっちゃうことなんだ!クーだっ
て僕と離れ離れになるのが嬉しいの?」
ク「すまない…ありがとう…。やはり、私は幸せ者だ。君という素晴ら
しい男にこんなに愛されている…」
男「クー…。ごめんね…。クーに心配かけて…」
ク「悪いのは私だ…。男よ。愛しているぞ…」
(チュッ)
男「やっぱりキスされると恥ずかしいな…///」
ク「ふふ。自分から抱きつくのは恥ずかしくなくて、キスされると恥ず
かしいのかね?」
男「やっぱり、クーのこの笑顔が素敵だよ。クー…好きだよ…///」
ク「ああ。私もだ。ずっと一緒だぞ」
男「ところで、クー。実習なんだけど、園長先生がおこづかいくれたん
だ。ケーキおごるから、一緒に食べに行かない?」
ク「うむ。食べに行こう。しかし、あんなことをしたのに君におごって
もらうのは気が引けるな…」
男「今日くらい僕におごらせてよ」
ク「すまない。じゃあお言葉に甘えるとしよう」
男「…あのね。怒らないで聞いてくれる?」
ク「うむ。何でも答えよう」
男「確かに僕の言い方も悪かったけど、何で、幼稚園児に嫉妬したの?」
ク「それはだな、君が幼児体型が好きだと前に言わなかったか?」
男「えっ…!確かにそう言ったけど、それはクーが幼児体け…」
ク「そういうことを言っている以上、心配になってしまってな」
男「クー。僕はロリコンじゃないよ…。第一、ロリコンが幼稚園の教員にな
ったら大変なことになるよ…」
ク「ただ、あの中で最も大人の女の体型は私だったからな」
男「だけど、身長を除けばあんまり変わらなかったような…」
ク「そういう状況で突如不安にかられてな。君から愛を失うのではないか
と思ってしまった。無論、今思えば、取り越し苦労なのだが」
男「僕はロリコンじゃ…」
ク「男よ。これから、何かを感じたら私に言ってくれ。君の望むこと私に出
来ることであれば何でもしよう」
男「だから、僕はロリコンじゃないから。信じてよ…。…でも、嫉妬される
ってのは愛されている証拠だからなぁ…。ちょっとうれしいよ….///」
ということで【別の女がデレデレする男】は終了
>>768に触発されてかっこいい男を目指してみたんだけど
書いているうちにかっこいいから離れていったような気がしてならない
後、最後になったけど
>>775の名前欄に1ページ入れ忘れたのと
sage忘れをいくつかしてしまった
すまない
GJ!
>>いや。幼稚園のときに肯定派と大論争になって、イブの日に赤外線カメラを自宅に仕掛けた
の下りに爆笑してしまった。GJ! ガキの頃から冷徹な視線。らしいというかなんというか……w
ふと思ったけど、多くのクーは無表情でも嫉妬深い乙女なんだよな。
このパターンを崩して一本書いてみたい気もするなぁ。
>>780
GJ!
いつもながらほのぼのしていいですねー
4ページ目で終わっていればスゴクいい話なのに、
5ページ目のオチがロリで笑ったw
VIPに投下するとどうしてもエラーになっちゃうんで
こちらに投下してみます。
百合ネタ。
【手紙】
近ごろ、妙な手紙をもらうようになった。ラブレター、の、ようなもの。
親しくなりたい、恋人になりたい、などの文句は一切無い。ただただわたしのどんなところが好きか、どんなふうに好きかだけがたんたんと綴られている目的不明の手紙で、読んでいるだけでかなりくすぐったくなる。
二週間ほど前から毎日わたしの靴箱に差し込まれるようになった。差出人の名前は無くて、宛名は間違いなくわたし。心当たりなんてあるはずもない。
どうしたものかなあ。
ほんの少し嬉しくて、ほんの少し戸惑う。わたしにはずっと前から好きな人がいるから。
放課後、美術部の部室。
もう十通以上にもなる手紙の束をためつすがめつしていると、誰かが勢いよく扉を開けて部屋に入ってきた。わたしは慌てて後ろ手に手紙を隠す。
入ってきたのは二年の空先輩だった。ぴくん、と、心臓が跳ね上がる。だって空先輩こそは、わたしの。
「碧、早いんだな」
「えと、はい」
彼女はいつも男口調で会話するちょっと変な人だ。だけどそれがクールで格好いい、と、男女問わずみんなに人気がある。長く真っ直ぐな黒髪も、すらりとした長身も、みんなの憧れ。
普通の人が使うと野暮ったくなりそうな黒縁の眼鏡だって、空先輩がかけると知的さと可憐さの象徴になってしまう。
ご多分にもれず、わたしも空先輩のことが好きだった。内緒だけど同性同士だけど、恋の相手として彼女のことが大好き。空先輩に憧れて、空先輩と話がしたくて、美術部に入部してしまったくらいに。
「碧、今なにか隠したね」
「え、いえ別に何も」
わたしはふるふると首を振ったけど、空先輩は強引だ。椅子の後ろに回していたわたしの手首をぐいっとつかみ、無理やり自分のほうに引き寄せてしまう。
「あ」
ぱらぱらぱらと、落ち葉みたいに手紙の束が零れ落ちる。
「なんだ碧、手紙じゃないか。これは」
何か言われる前に、と、わたしは先輩の言葉を遮ってあたふたといいわけめいたことを口にした。
「あ、えとあの、差出人不明のラブレターみたいなの、最近ずっともらってるんです。迷惑ですよね、こんないたずら。誰のしわざかなあ」
あはははは、と頭をかきつつ笑って見せたら、空先輩は言いかけた言葉さえも飲み込んで押し黙ってしまった。
……なんだか、とても気まずい。
「先輩? 空先輩?」
「……迷惑だったのか。すまない、それは申し訳ない事をしたね」
「え。やだなあ、どうして先輩が謝るんですか。冗談はやめてくださいよう」
「冗談などではないよ。その手紙を出したのは、私だから」
「は?」
私は空先輩の顔をぽかんと見つめた。しばらく見つめ続けてしまった、気がする。
「なっ、……なんで、ですか」
「碧。私は君のことが好きなんだ。残念だけれど、迷惑なら仕方が無い。なるべく顔もあわせないようにするが、君を想うことだけは許してくれないか。自分でもこの気持ち、止めようがないんだ」
それじゃあね、と言い残して先輩は部室から立ち去ろうとする。
「ま、待って待って、待ってください空先輩っ」
私は先輩の袖にぎゅっとしがみつき、必死で引き止める。本当に無我夢中で、必死に。
「違うんです違うんです誤解です、空先輩が迷惑なわけありません!!
だってわたし、空先輩のこと好きなんですからっ。前から恋しているんですからっ!!」
勢いあまって大声で叫んだその後で、わたしは自分の発言内容に気がついた。かーっと頬が熱くなる。……どうしようどうしよう。なにを言っているのだわたしってば。
わたしはそれ以上何も言葉にできず、自然と俯いてしまった。視界に入るのは薄汚れた部室の床だけ。空先輩に目をあわせることなんてとてもできない。
「ありがとう」
固まっている私を、空先輩はぎゅっと抱きしめてくれた。うわーっ。空先輩の、ふわりとやさしく甘い香りがして、わたしはくずれ落ちそうになる。
「あのあの、わたし、迷惑じゃ、ないですか」
わたしはおずおずと先輩を見上げた。いつもクールな先輩の表情は、こんなに近くてもやっぱりちっとも読めなくて、困る。
「どうして。こんなに嬉しいことはない。踊りだしたいくらいにね。これで私たちは両思いということじゃないか。それに、先にあの手紙を出したのは私だよ」
「手紙、いたずらとかじゃないんですか? 差出人の名前もなかったし」
「え、ラブレターってそういうものじゃないのか? 私が女の子からもらう手紙にはたいてい差出人の名前は無いけれど」
……空先輩、それはラブレターじゃなくてファンレターとかそういったものでは。空先輩宛の手紙じゃあ、同性からは恥ずかしくて名前を書けなかったりするのかもしれないし、生徒会とかに検閲されてるかもしれないし、。
「えっとでも。差出人が誰かわからなかったら、その先はどうするんですか。空先輩、何が目的で手紙を?」
「え? 碧、その先ってなんだい。ラブレターに『想いを伝える』以外の目的なんてないよね」
わたしは今度こそその場にくずれ落ちた。
◆◇◆
いまだに毎日、空先輩はわたしにラブレターをくれる。あれからは必ず、空先輩の名前つきの手紙を。嬉しいよ。嬉しいけどでも。
「空先輩、毎朝わざわざクラスメイトたちの前で『ラブレターだ』と告げながら手渡しすること無いじゃないですかっ。照れちゃいます恥ずかしいです。どうしてそんなことするんです」
「虫除け」
「虫ってなんなんですかーっ」
以上ですよ。
GJ
維持
米
維持
ここってこんなに過疎だったのか……
糸冬
まだ終わらせはしないさ
本スレまだ?
いまVIPはバルス祭でえらいことになってるからね
維持
素直クールって発祥は虹裏だっけ?
最終更新:2007年09月23日 03:53