48 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2006/09/11(月) 07:20:51.78 ID:R+SCyDD1O
「クーは、缶コーヒーに似ているね」
以前、私の彼がそう言った事がある。理由を尋ねたけれど、笑って答えてくれなかった。
それ以来、街で自販機を見る度に想う。私のどこが缶コーヒーに似ているのだろう?
秋が来て、暑さもゆっくりと消えていく。東京に吹く秋風は、街路樹の落ち葉の香りと車の排気ガスとを同時に運
ぶ。
彼と並んで歩く下校時。私は、東京の秋の香りと彼の優しさに包まれる。手を握って欲しい、と言ったら、照れな
がらも握ってくれる。
少し、公園のベンチで休んで行こう、と彼が言う。私に異論などある訳もなく、小さく頷く。
彼が買ってきてくれたのは、2本のホット缶コーヒー。夏の間は冷たい缶コーヒーしか飲んでいなかったので、少し
懐かしい。
公園のベンチに腰掛け、小学校の低学年だろうか、男の子達が無邪気に遊ぶ姿を眺める。子供は嫌いじゃないけど
、でも・・・。
「この前、お母さんに進路の事を相談したの。お母さん、すごく親身になってこたえてくれた。
その時、想ったんだ。私は将来の自分の子供に、母が私を愛してくれたのと同じくらいの愛情を注げるのだろうか
って」
私の言葉に少しとまどった後、彼はいつもの様に誠実に答える。
「大丈夫だよ。クーは人の何倍も愛情を持って生まれた女の子だから」
「そうかな。私は、人からよくクールだって言われる。クールって、感情が薄いって事でしょ」
「それは、違うな・・・。ねぇ、自販機で買う缶コーヒーが、どうして凄く熱いのとキンキンに冷えたのと、その2
種類しかないのか知ってる?」
「えっ?」
「缶コーヒーには、沢山の砂糖が使われている。常温だと、甘過ぎて飲めないくらいに。
だから、自販機の缶コーヒーは、熱いのも冷たいのも極端な温度なんだ」
「・・・」
「クーもそうさ。普通にしていると、自分の愛情の多さに耐えられないんだ。
だから、冷めたふりをして愛情を冷やすか、僕の手を強く握ったように、愛を沸騰させるしかない、不器用な娘な
んだよ」
いつしか、私の目から涙がこぼれていた。彼は黙って私の肩を抱き寄せた。
彼が買ってきてくれた缶コーヒーに口をつける。甘く、そしてほのかに苦い。
月並みな表現かもしれないけど・・・恋に似ていた。
最終更新:2006年09月12日 23:20