257 :長編~秋の夜空~:2006/09/12(火) 15:52:11.47 ID:zT70AZPCO
「……君は…」
「ごめん」
「急に別れようなんて言われてはいそうですかなんて言うとでも思ったか?」
男の顔がどんどん曇っていく…これは何か隠している顔だ
「………ごめん」
「何があった?」
急にモジモジしだす彼
「………僕は嘘つけない人間みたいだ。本当は話したくなかったんだけど…」
「…………」
胸を締め付ける不安といやに冴える女のカン
「その……さ、もう長くないみたいなんだよ。」
「……君が、か?」
「ごめん」
やはりな。いやな予感は的中した…しかも最悪の結果で
「君は本当に馬鹿な男だ。」
「………ごめん」
「しかし、私は君のそんな所に惚れたのかもな……」
「えっ?」
「君の事だ。冷たくあしらって自分を忘れさせて少しでも早く違う彼氏でも見つけて欲しかったんだろう? 違うか?」
「………クーさんには隠し事はできないね」
「はぁ……まさか君とこんなに早く別れる事になるとはな……」
「ごめんね」
申し訳なさそうになんべんも謝ってくる
「さっきから謝ってばかりだな。君は」
「はは……」
「全く。君はひどい男だよ」
「……ごめん」
「私はこうしている間にもどんどん君が好きになっていく。」
あれ?何故だろう。涙が溢れて止まらない。泣くのなんて何年ぶりだろう
258 :長編~秋の夜空~:2006/09/12(火) 15:52:57.23 ID:zT70AZPCO
「クー……さん? 大丈夫?」
「大丈夫な訳ないだろう。愛している人が離れていってしまう……とてもつらい」
「…………」
「だが、人間はいつか死ぬ。それが早いか遅いかの違いだけだ。君が早く去っていってしまうなら、私は君と残された時間で一生分愛し合えばいい。 違うか?」
精一杯笑ってみせる。ココロの涙に気付かれないためにも
「……僕、さクーさんに会えた事感謝してる。世界中捜しても、クーさんみたいないい人には会えないと思う。」
「………」
「本当にありがとう。僕と出会ってくれて。好きになってくれて。感謝してもしきれないよ」
ああ…それ以上言わないでくれ。君のせいで私のダムは決壊寸前だ。せっかく作った笑顔も…もう歪んできてしまっている
「だから、わがままかもしれないけど、クーさんが僕と最後までいてくれるなら…僕は嬉しい」
「そんなの……決まってるじゃないか」
男に抱き付き顔をうずめる。歪んだ顔を見てほしくないから。頬をつたうしずくを見てほしくないから。君にこれ以上責任を感じてほしくないから。
259 :長編~秋の夜空~:2006/09/12(火) 15:53:47.04 ID:zT70AZPCO
「落ち着いた?」
「……あぁ。大分な」
なぜ男はこんなに優しいのだろう。自分はあとどれほど生きられるかわからない命なのに…どうして私を心配してくれるのだろう…
「君は…怖くないのか?」
「何が?」
「その……死がだ」
「うーん…怖いよ。でも、怖がってても死は諦めてくれない。なら、その死がやってくるその日まで、悔いのないように精一杯生きたいんだ」
「ふふふ。君らしいな」
「ははは。そりゃどーも」
「君は、医者には詳しくはなんといわれているんだ?」
「……元々弱かった心臓がもっとひどくなってね。もって一年。早ければ…」
「なら、君は三年は生きる」
「え?」
「私の愛があれば寿命くらい延びる。最新の医術より信用できるぞ?」
「……うん!ありがとうクーさん」
男の満面の笑み。君と出会えてよかった。私も心から本当にそう思うよ。
そして私達は結婚した。
結婚といっても式はあげずに籍をいれただけ。
彼は嫌がったが、(私が未亡人になるかららしいが)頼みこんだらクーさんがいいならと了承してくれた。
これはそんな彼と私の短く、しかしギューーーっと詰まった愛しい日々の物語り。
最終更新:2006年09月12日 23:30