10名前:イベント企画(石川県):2007/04/27(金) 23:41:28.29 ID:shJsZY9D0
    『遊園地にて』

  遊園地――楽しそうな数々の乗り物、賑やかな雰囲気、カップルや子供連れの親。
  そして、一人で遊び回る俺。
  散々遊び回ってから気付いたが、確実に俺、浮いてるな。
  いくら暇でも遊園地だけは来るべきでは無かったな。
  うん、学習した。
  俺は辺りを見回す。
  風船を持った子供が「ママ見て! あの人、一人で来てるよ」と言っている気がする。
  一瞬、目の端に場違いな光景が見えた。そちらを向き凝視する。
  長い黒髪を携えた女性が静かに立っている。場所も場所だけに凄く怖い……ん?
  あれはクーさんじゃないか。
  ――よし、学校ではあまり話した事無いが、ここは話し掛けてみよう。
  このまま一人でいると子供が「ママ! あの希少生物と一緒に写真撮っていい?」
 と言いかねない。
  俺は彼女に近付く。
  何やらぼーっとしているようだ。
  彼女の視線の先を見る。これに入りたいのだろうか?
  俺は、とりあえず話し掛ける。
 「クーさん、こんにちは」
  彼女はこちらを振り向く。
 「驚いた、君か」
 「一人で遊びに来たの?」
 「いや違う、友達と来たんだが、ヒーローショー見ると言っててな」
  午前の部で見た。あのショーは必見だな。
 「私は子供向けの物を見るのは忍びない」
  ……。
 「なので別行動を取っている」

 11名前:イベント企画(石川県):2007/04/27(金) 23:41:58.67 ID:shJsZY9D0
  彼女は観察するような目で俺を見る。
 「君は、一人で来たのか?」
 「い、いや、友達と来たよ、うん」
 「そうか……」
  間が出来る。
  彼女は何か考えているように見える。
  しばらくして彼女はゆっくりと口を開く。
 「こんな所で君と逢えるとは運命かもしれない」
  彼女は、その透き通るような目で見つめてくる。
 「私と付き合って欲しい」
  とても魅力的な台詞だ。
  彼女の言葉の意味を考える。いや、考えなくても一つの意味しか無いはずだ。
  そうなると俺の返事も決まる。

 「ごめん、無理」

 「……そうか」
  彼女の声に元気が無い。
  そこまで落ち込まなくてもいいのに。
 「私では君に不釣合いだな、済まなかった、忘れてくれ」
 「え? いや、クーさんとなら誰でも嬉しいと思うよ」
  正直、俺も出来れば付き合いたい。
 「でも君は断っただろ」
 「それは、俺に問題があって……」
 「そうか、分かったぞ」
  何がだ?

 12名前:イベント企画(石川県):2007/04/27(金) 23:42:50.33 ID:shJsZY9D0
 「君は友達と来たと言っていたな、あれは嘘だな」
 「な、ほ、本当に友達と――」
 「あの時、君の目が泳いでいた、今もな」
  ひぃ、俺が一人で来た事をネタに脅し、無理矢理でも付き合わせるつもりじゃ。
 「本当は恋人と来たんだろ」
  うん、違う。
 「いや、恋人と来てないよ」
 「む、目が泳がないな」
  出来れば泳ぐようになりたい。
  ふと、思い出す。
 「そうだクーさん、友達と来たって言ってたね、その人に付き合って貰ったら?」
 「友達は……女だぞ」
 「別に女同士でも良いと思うけど」
  彼女は少し怒ったように睨む。
 「私に、そういう趣味は無い」
  俺、悪い事言った?
  彼女の眼光が元に戻る。
 「それに誰でも良いわけでは無い」
 「何で?」
 「半年前、君の優しさに触れ、それ以来ずっと想い続けていたんだ、
 それに今日だって君の事を考えていた」
  そんな前から……、ここはしっかり断った方が良いな。
 「クーさん、俺と一緒にいても良い事無いよ」
  恥ずかしいが言うしか無い。
 「クーさんが怖い目にあっても俺は何も出来ない、むしろ逃げるかもしれないよ」
 「それでも構わない」

 13名前:イベント企画(石川県):2007/04/27(金) 23:43:14.79 ID:shJsZY9D0
  彼女は真剣な表情で話す。
 「私は一緒にいるだけで幸せだ、何かあっても君の事は私が守って見せる」
  う、ここまで言われたら断りづらい。
  ……よし、俺も男だ付き合ってやろうじゃないか。
 「わかったよ、付き合うよ」
 「本当か! 嬉しいぞ」
  彼女は俺に近付く。
  すると、彼女の両手が俺の頬を左右から挟むように触る。
  何だ?
  いきなり目の前に彼女の顔。
  そして唇に柔らかな感触が――。

  しばらくして、彼女が離れる。
 「よろしく頼むぞ」
  彼女の顔は少し紅潮していた。
 「……女の子がそう簡単にキスしない方が良いと思うよ」
 「ふむ、君は真面目だな」
 「いや、普通だと思うけどな」
  彼女が、はっとした表情を見せる。
 「そうだ、観覧車に乗ってお互いの事を話そうじゃないか」
 「え?」
  彼女は観覧車に向かって、いそいそと歩き始めた。
  俺は仕方なくついて行く。
  俺は振り返り、彼女が入りたそうに見ていた建物を見る。
  お化け屋敷には付き合わなくても良いのだろうか?

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最終更新:2007年05月04日 17:25