130名前:職業訓練指導員(アラバマ州):2007/04/29(日) 10:17:56.39 ID:ICWOW1Xb0
 【ゴールデンウィークは予約済み】

  空はかなり浮かれていた。普段クールな彼女には珍しく、鼻歌まで歌っている。
  それも無理も無かった。彼女の想い人、春香と二人きりで鈍行列車に揺られている最中なのだ。車両が貸しきり状態なのも気分がいい。
  二人とも女の子同士ではあるのだけれど、空はそんなことは気にしていなかった。春香の心を射止めるには若干不利かな、と思うくらい。
  自分の想いに気が付いてからすでに半月ほどになる。しかし空はいまだ告白できずにいた。
  とはいえそれは彼女の羞恥心や決断力の無さによるものではない。計算の結果だった。
  以前、春香のこんな科白を聞いてしまったのだ。
 「好きだ好きだと、あまり直接的に迫られるとひいちゃうよね」
 「あはは、そうだねー、嬉しいかもしれないけれど、ちょっと困るかもねー」
  ちなみに後者が春香のものである。

  まさにこれから告白しようという矢先の、この有力情報。
  空は春香と恋仲になるための作戦を検討し、以下の結論を導き出していた。
 『告白は間接的に行う』
 『もしくは、相手に自分を好きだと言わせる』
  恋愛事に疎い空にとっては、なかなかに高いハードルだ。

  客観的にはともかく、空の内面ではすでに何度も告白を終えていた。『間接的な告白』というやつだ。
 「春香のために毎日お弁当を作ってきてあげるね」という科白も告白だったし、「毎日一緒に帰ろう」というのもそうだった。
 「一緒にお風呂にはいろう」、「一生春香の晩ごはんをつくりたいな」「春香と一緒に暮らしたい」など、いろいろなバリエーションも駆使してはいるが、まだ成功には至っていない。
  その他、一緒に映画やショッピング、夕食を作りにいく、手は恋人つなぎ、思いつく限りの行動も試してはいるのだが、いずれも二人きりにはなれない状況であり、効果のほどは不明である。

  そして今日、ゴールデンウィーク初日、二人きりでお出かけなのだ。浮かれるのはあたりまえだ。
  今回のゴールデンウィーク、七日間のうち三日間について、二人きりで過ごす約束を空は春香に取り付けていた。
  七分の三、四割以上の確率だ。イチロー以上の高打率に空は気をよくしていた。チャンス到来である。

  幸い、この車両には二人きり。
  まずは軽く、恋愛方向の会話に持っていこう。そう空は考えた。


 131名前:職業訓練指導員(アラバマ州):2007/04/29(日) 10:19:08.77 ID:ICWOW1Xb0

 「時に春香」
 「なに、空ちゃん」
 「今日のように、私とふたりきりで出かけることを、貴女はどう思っているのかしら」
 「うーん、仲良しさん?」
 「そうね。仲良しよね」
 「うん、空ちゃんと一緒なら、あたしそれだけで嬉しーよ」
 「そう、ありがとう。私も嬉しい。――ところで、春香は好きな人っているのかしらね?」
  やはり焦りがあるのだろう、会話の流れもなにもない突然の直球である。
 「もちろん、空ちゃん大好きー」
 「えっ」
  空は頬を熱くした。まさかダイレクトに打ち返されるとは思わなかった。
  私も春香のことがーー、と返そうと、そう空は思ったのだが。
 「あとねあとね、お父さんもお母さんも大好き。それからうちのコロ太郎も好きー。コロ太郎ね、あたし以外の足音聞いただけで逃げちゃうんだよ、おっかしーの」
  コロ太郎は多分犬で「好きな人」では無いだろう。
  これはうわさに聞く『天然』というものか、それとも、自分の心を惑わせる高度なテクニックなのか。
  空は悩んだ。おそらく前者なのだろうが確証は持てない。

  よかろう。
  春香が『天然』という必殺技を繰り出してくるのだとしても、まだ時間はたっぷりとあるのだ。隙を見つけ反撃しようじゃないか。
 「空ちゃん、どしたの?」
 「あ、ごめんね。ぼうっとしてたわ。何だっけ」
 「うん、うちのコロ太郎。あのねあのね、」

  二人を乗せた電車は、田舎の線路をゆっくりと走っていく。
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 以上ですよ。

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最終更新:2007年05月04日 17:38