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 リン、リンリンリン・・・
 そういや、今は秋だったか・・近くの草むらから、そんな虫の声がした。
 『倉橋家』の近くには、そんな虫や・・季節感のある物は無かったから、何だか新鮮だ。これは「すずむし」とか言ったっけ・・昔、授業で、そんな歌を歌った記憶がある。
「っとと・・早く帰らないと。」
 しばしその歌声に耳を傾けていた僕は、テントで華美月とアイリが待って居る事を思い出して、早く水を飲んで帰ろうと思った。・・あまり、心配をさせたくない。それも、僕なんかの為に・・。
 僕は、クロ-クが魔法で出したテントから数十メートル離れた場所に在る、細いながらも流れる小川の傍まで来た。そして、その水を飲もうとして掬ったところで・・

ドォ──ンッ・・

と言う小さな、しかし近くで聞いたら十分な音量の爆音がした。
何の音だろうか・・。妥当な所は、クロ-クの魔法か?しかし、何の為に。クロ-クは話をする僕達を無視して、とっくに眠りに就いていたはずだが。それとも、アイリが灯りの為に起こして、低血圧か何かで乱心?
考えれば考えるほど可能性は浮くが、何時までも頭の中で仮想をしていても、仕方がない。僕は真実を確かめる為に、音のした方に近付いて行った。
音がしたのは、僕が居た小川の傍よりまだ、数十メートル離れた位の場所からだ。あの場所からあの音だと、アイリ達に聞こえて居るかどうかは、少し怪しいか。
野獣・・では、ないと思うが。と言うか、この場合逆に野獣の方が人より恐ろしいのだが。あんな音を出すような獣・・居ない、よなあ・・?
僕はそんな事を考えながら、何にも見えないので、前に右手を出して、そろりそろりと前進して行った。『倉橋家』の在った所なら、夜だって街灯のおかげで出歩けるが・・治安は、悪い。だから、僕は極力、7時以降は出歩かない様にしていた。まあ其れ以前に、元々あまり外になんて出なかったが・・と言うかそうだ、ここは「少し前の此の場所なら」なのか。ここは、『倉橋家』の在った場所なんだから・・。
と・・、自分でも気付かない内に何時の間にか伏せられていた僕の目は、暗がりに慣れてきていた。だから、急に光がともったのには、目が耐えられなくて、一瞬視界が白く染まった。
いきなり、光が灯った事と、いきなり、視界が利かなくなった事に僕は驚いた。そして、段々その光りにも目が慣れてきて・・しばらくして利くようになった視界に、白い髪の女の子が映っている事に驚いた。
「え、な、光が・・え、てか・・君は、誰?」
 クロ-ク達に会って、今日は、色んな事に驚いたからだろうか・・もう僕は、こんな事では──まぁ少しは驚いたが──あまり驚かず、相手の名前も聞く事が出来た。
「・・貴方は、『倉橋 純』さんですか?」
 少女は小首を傾げながら、逆に僕にそう聞いてきた。
「・・そう、だけど・・?」
 一応それには頷いて返したが、何故、僕の名前を知っているのか?そう言えば、クロ-ク達も知っていたし。でもまぁクロ-ク達は「ラナ様」に聞いたとして、もしかしたらこの少女も「ラナ様」の部下なのか。
「あ、良かった。私はノースと言う者です。よろしくです!」
 僕が「倉橋 純」である、と言う事に了承した──詰り頷いた瞬間、少女は硬く引き締めていた表情をパッと明るくして、そう自己紹介した。
 僕は、名前を教えてもらった事で少し警戒心が解けたのか、その少女の姿を改めて観察してみた。
 髪は、基本的に白だが、少し端の方に水色が混ざっている。それを肩の所で揃えているが、両耳の横の髪だけ異様に長く、胸の辺りまで伸びていた。服は、やはり白で・・見た事は無かったが、中国人が着るチャイナドレスの様な形状をしていた。
「うん、よろしく」
 その、髪と服の少し異様な組み合わせが妙におかしくて、僕の少女に対しての警戒心は完全に解けた。と、すると少女は行き成り後ろを振り返って、頭の上で大きく手を振った。
「おーい、こっち、来てー。純さんなんだってー。」
 そして大きくそう叫んだ。・・その言動からすると、少なくとも1人は仲間が居るのだろう。華美月達みたいに。
「ノース、ちゃんと自己紹介したか?」
 そして間も無くして、僕の思った通りに、僕と同じ背丈ぐらいの少年が走り寄って来た。
「したもん。馬鹿にするな~っ!」
 ノースはその少年の子供扱いにカチンときたのか、頬を膨らませてそう反論した。・・そんな風にいちいち返すところが、子供っぽくて、子供扱いされる原因だと思うのだが。
「あーはいはい。あ、俺はレオね。よろしくなー。」
 そして、レオが僕にそう言った。・・レオは一言で言えば、ゲームとかに出て来る剣士の様な格好をしている。何と言えば良いのか・・まぁとにかく、動きやすそうな服装だ。
「あと、後ろに居るのがセラフィア。ちょっと無口だけど良い奴だから嫌わないでくれな。」
 レオが後ろの方を指差して、今はまだ見えない仲間の紹介をした。・・無口と言われると、クロ-クを連想してしまって良い印象が無い。でも、会う前から嫌っていては、話にならないだろう。僕は変な反応をしない様に、と自分に言い聞かせた。
 そしてしばらくして、こちらに来たセラフィアに会った時・・外見では似ている所も無いのに、僕はやはり、何故かクロ-クを連想してしまった。
 腰ほどまである、淡い青色の、ストレートの髪。限りなく白に近い水色の、ロングスカート。手に持って居る、先端に飾りの付いた細長い杖。そして・・青色の、虚ろな瞳。やはり、特徴的に似ている所は無い。クロ-クは傍に居ると威圧感を感じたが・・そんな事も無い。逆に、どちらかと言うと、傍に居てもすぐに、存在を忘れてしまいそうな・・消えそうな、感じがした。
「レオさんが説明してくれたけれど・・セラフィアです。光と水の、魔法使い。よろしくお願いします・・。」
 セラフィアは、右手に持って居た杖を両手に持って、ペコリとお辞儀をした。
 そしてよく見れば、今この暗いはずの草原を照らしているのは・・セラフィアの持つ杖から発せられている、強い光のおかげだった。
「・・魔法は、見るの初めてなのですよね。今は、『ライト』の魔法で辺りを照らしています。」
 僕が杖を見ているのに気付いたのか、セラフィアがそう説明してくれた。
「いや・・初めてじゃないよ。つい前に、何回か見た・・」
 クロ-クが昼間造作も無く使った魔法を思い返しながら、僕はそう呟いた。
「?もしかして、此の世界にも魔法を使える人が、いたの?」
「や、そう言う訳じゃなくて・・」
 僕が、ノースの間違いを訂正しようと口を開いた時、後ろから誰かの声がした。
「下道、覚悟──!」
最終更新:2008年07月17日 22:50