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──どうして、こんな事になったのだろう。
「おぉりゃぁっ!」
 レオは手に持った細長い棍を、華美月の額目掛けて振り下ろした。
「・・・っ」
華美月はそれを寸前で避けた後両手で取り、小脇に抱えて引き抜こうとした。レオは引っ張られる棍を無理に引き抜こうとせず、逆に押し出して得物を奪われるのを阻止した。
「はぁあぁ──っ」
 また其の傍では、ノースが高く跳躍してアイリの背中に踵落としを喰らわせようとしたのを、
「ロー君右、上、咥えて!」
 アイリはローに指示を出し邪魔をさせ、バランスを崩した所を難無く避けた。
「水よ流れよ、包め後圧縮」
 激しい体術技で争う4人から少し離れた場所では、セラフィアが魔法詠唱をしていた。
「思念、妨害。」
 そしてセラフィアが魔法を放とうとした瞬間、クロ-クが短くそう唱えて発動を阻止した。
 そして純はと言えば、4人と2人のちょうど真ん中位の、被害が来ない場所で、その6人の戦闘の様を見ていた。出来るなら争ってほしくなんかないので、割って入って止めたい所だが、非力な自分にそんな事が出来るとは思っていない。なので、仕方なく観戦をしていた。
 何故、こんな事になったのか。
 僕は、こうなってしまった原因が分からなくて、ついさっきあった出来事を思い返してみる事にした──

「下道、覚悟──!」
 後ろからいきなり声がしたので、僕は最初それが誰の物か分からなかった。でも・・すぐにテントに居るはずの華美月の物だと分かって、振り返った。
 すると、そこには華美月とアイリとクロ-クが、険しい表情をして立って居た。その中で華美月は手に細長い紙を持っていて、掲げながら何か呟いている。
何だろう、何をしているのだろうか・・と考えていると、アイリが「こっちにおいで」と手招きをしている事に気が付いた。僕は断る理由も無かったので、素直にそっちに行こうとしたが・・
「純さん、ダメ──ッ!」
 と、ノースに止められてしまった。
「え、何で・・?別にアイリ、悪い人じゃないよ?」
 僕は不思議そうな顔でそう返したが、ノースは尚も頭を振って否定した。
「アイリさんは・・分からないけど、アイリさんが慕ってるラナって言う人は、悪い人だもん!」
「黙れ」
 ノースがそう言った瞬間、クロ-クが凄味の在る声でそう言った。・・いつも冷静なクロ-クがそんな声を出すなんて、少し意外だった。しかも、すごく怒っている様だ。
「何にも知らないのに、ラナ様を悪く言うな──っ!華、やっちゃえ!」
 アイリも怒った様な声で、華美月にそう言った。華美月は前を見据えたまま頷いて返し、持って居る紙をより一層高く掲げた。
「・・影縫い」
 そして小さくそう呟くと、レオが驚いたような声を出した。
「く、札の・・動けな・・っ」
 見ると確かに、両手は忙しく動かしているが、足が全く地面から離れていなかった。・・華美月がやったのか。と、するともしかして華美月も魔法使いか?
「華は、札使いって言って・・特別な力が込められたお札を使って、魔法みたいな現象を起こす事が出来るの。今のは『影縫い』って言って、相手を動けなくする技で・・すごいよねぇ。」
 僕が思った事が分かったのか、アイリがそう説明してくれた。
 札使い・・魔法使いと言うのにも驚いたが、こっちも充分すごい。アイリ達の世界には、色んなおもしろい人が居るもんだ。
「・・水、彼等を包め。」
 と、セラフィアが小さな声でそう唱えた。成程・・確かに魔法なら、動けなくても攻撃する事が出来る。
 と、感心している内に上から大量の水が迫ってきたが・・魔法なら、動かずに攻撃する事も、防御する事も出来るようだ。
「風障壁」
 とクロ-クが唱えて、僕等の上に風が巻き起こり、水は全て飛ばされた。
「よぅし、反撃開始だよぉ──っ!じゃ、まず蜂さんっ」
 アイリはそう言いながら、胸元をゴソゴソと探り、小さな赤い何かを取り出した。そして息を吸ってからそれを口に銜えて・・

ピィ────────────────ッ

 と言う、いつか聞いた音をかもし出した。・・その音は、この小さな赤い笛の音だった様だ。
 そしてそう思っている間に、ブゥン・・と言う音がして・・段々それは大きくなって行き、しばらくして蜂の大群の羽音だと理解した。何たって、その「蜂の大群」の姿が見えたのだから。・・正直、あれは滅茶苦茶怖い。だって、蜂は蜂の中でもスズメバチだし。
「・・光れ、退かん。」
 セラフィアは危険を察知したのか、短くそう呟いた。すると鋭い閃光が閃き・・
「我等の身に掛かる災難を除け。」
 と、続け様に唱えられたその魔法により、セラフィアとノースとレオは自由に動ける様になった。
 レオは影縫いが効力を失うと同時に駆け出し、光によって動きを止めたスズメバチ達を、いつの間にか出して手に握っていた棍で薙ぎ払って行った。
 そしてノースはレオとは反対側に駆け出し、同じく光の所為で目をやられて動きを止めていたアイリを、もう何か呼ばれては堪らないと突っ込んで正拳突きをかました。

 ・・と、そんなこんなで今の乱戦にもつれ込んだ訳だが・・正直まだ、この6人が何故争っているのか分からない。何を理由に戦っているのか・・
「『鍵』を渡せ!」
「それは・・あの、フィリックの命令か。」
「敵に教える事など無い!」
 これはレオと華美月の言葉だ。しかし・・華美月の言う「フィリック」とは誰だ?
僕は疑問に思ったその事を、勇気を出して、聞いてみる事にした。ちなみに勇気を出してと言うのは、戦っている所に割って入って聞く、という行為をするには勇気がいるからその勇気を出す、と言う事だ。誰だって、喧嘩をしている人に「今日の夕飯は何ですか」と聞くのには勇気がいるだろう。まあこの場合「フィリックとは誰ですか」と言う質問にはまだ関連性があるので、聞きやすいと言えば聞きやすいのだが。
「・・ごめん、一つ聞きたいんだけど・・フィリックって、誰の事?」
 僕が思い切ってレオと華美月に聞くと、2人はピタリと激しく繰り広げていた攻防を止めた。
──そして、華美月が短く、簡潔に答えてくれた。
「・・敵だ。」
最終更新:2008年07月17日 22:51