あーあー 朝です♪ 朝♪ 朝♪ あーさーで~~すっ
今日も、どこで買って来たのか物凄く気になる目覚まし時計の電子音(?)が鳴り響く。
「・・あ・・れ?華美月、達は・・」
僕は、眠い目を擦りながら・・目に映っている黄ばんだ天井が、嘘であってほしいと願った。しかし、それは
現実逃避と言うものだ。僕は数十秒ほど粘ったが、それで諦めて、枕元に置いてある茶フレームの眼鏡を掛け、身を起こした。
端に置いた大きな本棚が目立つ──と言うかそれ以外に目に着く様な物が殆ど無い──中1男子の平凡な部屋だ。ちなみにベッドではなく布団。僕は学ランのボタンを一つずつ止めながら、その部屋を見回して、溜め息を吐いた。
別に、物が無くて悲しいからではない。あの、あんなに現実的だった華美月達が・・僕の夢だった事が、悲しいからだ。しかし、どんなに願っても夢は夢だったのだからしょうが無い。せめて今日の夢でも華美月達に会えます様に、と願う他無いだろう。僕に取れる、選択肢なんて・・。
僕は、学校の物より少し急な階段をトン、トン、トン・・と規則的に降り、リビングへと向かった。
ふむ・・今日の朝食は妥当にトーストと言ったところか。確か、昨日は食パンが在ったはずだから・・弟達が食べていなければ、まだあるだろう。
リビングで今日の天気予報を見ながらトーストを焼いていると、リビングの戸が開いて下の弟の洋介が入って来た。
洋介は僕がオーブンからトーストを取り出したのを見ると、「僕も~」と言いながら、毛布に包った。・・ふむ、確かに今日は肌寒い。天気予報のお姉さんも、上に一枚はおって出掛けましょうと言っている。
僕は、今焼いたところのトーストを皿に乗せてテーブルに置くと、上の弟の敬一の事も考えて2枚の食パンにジャムを塗り始めた。
僕がトーストを食べ終わる頃になると、ようやく上でバタバタと言う騒がしい音がして、間も無くしてリビングに勢いよく敬一が入って来た。
「っはよー。」
敬一は短くそう挨拶すると、僕がテーブルに置いていたトーストを食べだした。
そして、ジェスチャーで「ミルク」と言うので、僕は冷蔵庫から牛乳を取り出して、2個分注いでやった。一つは敬一に分捕られ、もう一つを洋介に手渡して、さて片付けるかと3枚の皿と2個のコップを台所へ持って行った。
「そう言えば今日さ、ジュニアカップで優勝する夢見てさー。へへっ、俺がゴール入れたんだぜ!」
敬一はサッカーチームに入っている。腕前はそこそこらしくて、レギュラーに選ばれているそうだ。兄としては、誇らしい限りだ。
「でも、夢でしょ?ケイ兄、今年のチームはヤバいって言ってたじゃん。ケイ兄は今年で6年、最後なんだし、頑張ってよ?」
と言う洋介は、男のくせに吹奏楽である。まぁ、本人が好きなんだし、4年生にして多種多様な楽器を使いこなせているらしいので、別に良いのだが。
「夢は願望の表れだって言うしさ、夢で見たんだから現実でも大丈夫だって!」
「それはただの願望であって、本当に現実になるとは限らな・・」
ガシャンッ───
2人のいつもの言い争いは、突然リビングに鳴り響いたそんな音によって、中断された。
・・それは、僕が洗っていた平面皿を落として、割った音。
「っ、ジュン兄、大丈夫っ!?怪我したり、手ぇ切ったりとかしてない!?」
それから真っ先に動いたのは洋介で、僕の傍に来てそう声を掛けてくれた。
敬一も、洋介には遅れたがすぐにハッと我に返り、隣の部屋から箒と塵取りを持って来てくれた。
そして、僕はと言うと・・──全身がガタガタと震え、喋ろうとしても、思う様に声が出せない。それでも、「大丈夫」と何とか2人に伝えようとして顔を上げ、テレビに映った自分が、酷い顔をしている事に気付いた。何かに怯えている様で・・顔中が真っ青だ。
「ジュン兄・・まさか、病気の・・!?薬、部屋だよね?取って来るっ!」
洋介がそう言って、リビングを出て行こうとしたので
「待っ・・よう、介・・僕は、大丈夫、だから・・」
と、僕は精一杯に声を出して、引き止めた。
──そんなんじゃ、ないんだ。これは、病気の所為じゃない。これは・・僕の、所為だ。だから、そんなに心配をしてくれなくて良い。これは僕の、自業自得なんだから・・。
僕は、そう自分の中で繰り返して、割れた皿を片付けていた敬一から、少し強引に箒を受け取った。
「え・・ジュン兄っ!?」
敬一は、自分がやるのに、と少し不満そうな声で溢したが、これは僕がやらなければいけない事だ。それに・・
「学校、遅れるから・・」
と、僕は壁に掛かっている時計を指差しながら、2人を促した。
2人はそれで、渋々と言った感じではあるが、分かってくれた様だ。洋介などは最後まで僕の方を振り返って眉根を寄せてくれていたが、カバンを取りに、2階にある自分の部屋へと向かって行った。
僕は、2人がリビングを後にすると同時に、蹲って頭を抱えた。
「う・・ぁあ・・・っ」
──夢は、願望の表れだ。
僕の見た夢は・・『倉橋家』が、無くなる夢。
此の世界が、滅亡する夢。
──僕は、そうなって欲しいと、願っていたんだ──・・。
最終更新:2008年08月16日 11:51