「サムトって、こんなでかいんだ・・・」
アリーナは虫の生態進化に驚いた。
ちなみにサムトは、13歳女子平均値の身長のアリーナを少し越えるぐらいの高さだ。
そしてなんと、二足歩行だった。
そう、前回足が多いから音が大きいと言っていたのは間違いで、本当はただ単に数が多かっただけなのだ。「だけ」で片付けられるようなことではないが。
それはもう、蟻の行列のように。甘いものなんて持ってないのに・・・。
「ええぃくそっ、射っても射っても数が減らねぇよ!」
ケイトはもう面倒くさくなってきたのか、一気に三本ずつぐらい矢を放っている。そしてその矢がすべて例外なくサムトに当たっているのは、ケイトの弓の腕がすごいのではなくただ単にサムトがそこらじゅうにいるからであろう。
ファリエルはさっきから杖を握り締めて動かない。気を集中させているとか何とかで、今は何が起こっても動じないと人は言うがファリエルの場合は耳元で「レオンが・・・」と言えば反応してくれるに違いない。今はそんな邪魔して戦局を不利なほうへと導くことなんてしないが、今度余裕がある時に試してみよう。
そしてレオンはというと戦場の最前列へ出て敵を押し返していた。少なくともこれまでは1匹たりともサムトがこっちへ逃れてきたことはない。
ハッキリ言って、桁が違った。
この前1人で魔空洞へ行ったときも苦戦なんてしていなかったと言うし・・。
まぁそんなこんなでアリーナは戦前へ出て敵を薙倒したい気分なのだがギルド長にファリエルの護衛を頼まれているので手当たり次第にケイト側のサムトを乱射していくことしかできなかった。
「でもホントに撃っても撃っても出てくるねぇ・・・。」
アリーナは溜息をついた。
レオンにはアリーナが無理をしていることもばれちゃってるし。
実は、やっぱりまだ右膝が本調子ではないのだ。
さっき走っているときに少し左足で庇っていたのを見抜かれた。その証拠に、一番楽なファリエルの護衛の仕事を任せるときにアリーナの右膝をチラッと見ていた。
ほんとにお人好しなんだから。こっちの調子が狂って困る。
そう思った時、お人好しさん2号が呪文の詠唱をはじめた。
この呪文は、アリーナのように魔法を知らない者には聞きとれない。協力を要請する火や風の精霊に語り掛けるための特別な言葉なのだ。
やがて呪文の詠唱も終わり、レオンとケイトがサムトから素早く離れてきた。仲間の魔法にやられたんじゃ元も子もない。
やがてファリエルが閉じていた目を開き、呟いた。
「水流氷」
と。
ファリエルの杖の先端から光が溢れ出した。それに見入っていると、いつの間にか見渡す限りアリーナたちの周辺以外の全ての天井と床に青く光る魔方陣が現れた。そして次の瞬間には視界が透き通る青に染まった。
魔方陣の間に、うねる水と光る氷が現れたのだ。
シャアアアアァアァアアァァ・・
サムト達の大音量の悲鳴が洞窟内に木霊したが、被害を受けたのはサムトだけではなかった。
ただでさえ古かった洞窟の天井が、ファリエルの魔法によって崩れ出した。
アリーナはすぐに飛び出して行ったレオンを横目で見ながら、集中力がきれたのか倒れ込んでしまったファリエルを右手で支えた。
そしてこの状況では役に立たない銃をキャノンストックに素早く仕舞い込み、左手に握っている大剣を頭上にかざした。
「はああぁぁっ」
アリーナはそう言って自分に気合を入れ、体に当たっても致命傷にはならない程度の大きさにまで上から落ちてくる天井だった磐を切り刻んでいった。
どれ位そうしていただろうか。いきなり、上の方からレオンの声が降ってきた。
「アリーナ、そこだろう?剣を盾にしろ、引き上げるから・・」
アリーナは言われたとおりに剣の裏面を上に突き出した。
するとその腕をグッと掴まれ、アリーナは軽々と引き上げられた。
太陽の光が見えた気がして、アリーナは破片が入らない様に瞑っていた目を開けた。
引き上げられたそこは、ずっと手がつけられていない荒地のようだった。でも、沢山の見たこともないような花が咲いていた。あんなジメジメした洞窟の上にこんな所が在るなんて、意外だ。
アリーナは真横に開いた穴から少し離れ、抱き庇っていたファリエルを地面に降ろした。
「ファリエルが、動かないんだけど・・・」
アリーナがそう言うと、先に上ってきていたケイトが近寄ってきて、手首に手を当てた。
「・・大丈夫、脈はあるしまだ気力が戻らないだけだろう。あんなに沢山いたサムトをほとんど片付ける規模の魔法を使ったんだ、無理もない。」
「そう、か・・よかった・・。一応全部防いだはずだけど磐が当たってたらどうしようかと思った・・・。」
アリーナは息を吐いた。
「おまえ・・、ファリエルも庇ってたのか?」
レオンが驚いたように聞いてきたので、アリーナは胡乱気な顔を向けた。
「ギルド長がファリエル守れって言ったんじゃん。もしかして忘れてたの!?」
「いや・・まさか本当に護るとはな。やっぱり初心者とは思えん。」
あー・・、そういえばそんなこともあったなぁ・・とアリーナは思った。と、その時
「サムトのヤロー・・マジで頭いい!?」
とケイトが言った。
ケイトはさっきアリーナが引き上げられた穴から下を覗いていた。
近寄って見てみると、確かにサムトの頭の良さがよくわかった。というか、アリーナより良いと思う。
サムトはピラミッドを作って、こっちに登って来ようとしていた。
「って、のんびり見てないで迎撃しろよ!」
アリーナがケイトに突っ込んだ。しかしケイトは
「そぉ言われてもなぁ・・。さっきので弓矢全部使っちゃってさぁ~・・。」
と頭をかいた。
「ケイトのバカッ!!」
アリーナはそう言ってから太もものキャノンストックから銃を取り出し、中の弾丸をもう片方の太ももに付けてあるホルダーから出した弾丸と入れ替えた。
そしてサムトピラミッドの一番下にいるサムトを狙って撃った。
するとサムトピラミッドは崩れたは崩れたが、上から2段目のサムト等が1番上のサムト等をこちらへ投げ込んできた。
「悪足掻きって言うんだぞ、それ!!」
アリーナはそう言いながら空中を舞う無防備なサムトを正確に射撃していった。
「アリーナすげー・・」
ケイトはアリーナの銃の腕前に感嘆した。
「伊達に銃剣士は名乗ってない!!って言うか多分アレンがなかなか名乗ることを許してくれなかった!」
アリーナは今さっきフラッシュバックした記憶のことを、ケイトに話した。
─「銃剣士の心得―。つーか入職の条件だな。こんなクソめんどくせえこと一回しか言わねーから死ぬ気で聞け。」
幼きアリーナはアレンの前で正座をさせられながら聞いた。
「銃、準二級以上の腕前であることー。剣、二級以上の腕前であることー。あと入職試験の時は師匠のハンコいるからなー、勝手に受けさせては・・やらないぜ?」
アレンは不敵な笑みを浮かべた。
アリーナは頷きながら聴いており、アレンの言葉が終わると同時に手を挙げた。
「師匠、質問です。」
「あー?何だよ?」
アレンはめんどくさそうにしながらも一応聞いてくれた。
「その試験には───筆記試験がありますか?」
アリーナ・フォース 今、6歳である。精神年齢は多分10ぐらいだけど。
「フ、フフフ・・ハア──ハッハッハ!」
アレンはその質問に、えんりょなく笑い続けた。
「そぉか!おまえは頭が問題だな!腕前の方はなんたって俺様が師匠なんだから問題ねぇよな!」
アリーナはそれに頷くことはしなかったが、否定もしなかった。
「・・ところで、どうなんですか?」
「あぁ・・ハ、ハハ・・ま、筆記試験は当然あるな。フ、フハハハ・・・」
アレンは腹を抱えて笑いながら答えた。
「でも心配するこたねぇぜ。プハハ、何てったって、お前が入職試験を受けんのは、まだまだ何年も先の事だからなフ、フフフフ・・・」
アレンはその後もまだ、笑い続けた。
「あー・・くそっ、私も何でアレンなんかにあんな事言ったんだろ・・」
アリーナは頭を抱えた。というかもう、「アレン」と呼び捨てである。
「つーかアリーナ、マジで6歳か?すっげー疑わしいんだけど・・・。」
ケイトは呆然としていた。
「やっぱり、アリーナさん・・精神年齢高いですね・・・」
その時突如後ろでファリエルの声がしたので、驚いてこけそうになった。
「うわあっ・・・、ファリエル気がついたんだ。気分どぉ?」
アリーナはファリエルに笑いかけた。
「あ、はい、アリーナさんのおかげで・・ってアリーナさん、後ろ───・・っ!!」
するとファリエルがアリーナの後ろを見てそう言ったので、急いで振り返った。
すると間近にサムトが迫っていて。
「───っつぅ・・」
アリーナはすぐさま後ろに飛び退こうとしたが、突然の行動にまだ完全でない右膝が言うことを聞いてくれなかった。
ケイトはアリーナが右膝を抑えたのを見て、すぐさま自分のせいだと思った。
「アリーナ伏せろっ!」
そしてケイトはそう言って腰に吊ってある斧を抜き、横投げした。
その斧は見事サムトの頭にヒットしたが、そのまま向こうの穴に落ちてしまった。
「ケイトありがと・・でも斧が・・・っ」
アリーナは右足を何でもない様に見せながら立ち上がってケイトに申し訳なさそうに言った。
ケイトはなんで?と思った。
アリーナが避けれなかったのはケイトのせいで、ケイトはその償いにアリーナを助けただけなのに。
なんで、アリーナが謝るのだろう。
アリーナは、優しい・・・。
「──って!?アリーナ何してるんだよっ!?」
ケイトは穴に片足掛けてサムト達の所へと降りようとしていたアリーナに静止の声をかけた。
「え?それはもちろん斧を回収しに・・」
あぁ、アリーナ・・・その優しさは時として仇になる・・。
つーか優しいとかじゃなくて、チョトツモウシン?
「とにかくやめとけよ!サムトの餌になりたいのか?」
「んなわけないじゃんっ!ただ・・・」
そしてアリーナは顔を伏せて言葉をにごした。
え?ナニ!?もしかして俺の所持品だからとか!?ケイト・フェラード14歳にもついに春が来た!?(古っ!)
しかし予想に反して顔を上げたアリーナが拳を握り締めて力説したことは。
「斧だってお金でしょ!?お金は大切にしなきゃ、いつかは無くなっちゃうんだよ!?」
そんな事だった。
「おいアリーナ、その辺にしとけ。」
そう言ったのはケイトの肩に手を置いたレオン。そしてファリエルは微苦笑しながら、
「た、確かにお金は大切だと思いますけど・・・」
「思うけど、何?・・って、ケイトどうしたの!?わ、私何かしたぁっ!?」
アリーナはいつの間にか膝を抱えてうずくまっているケイトを見て、きっとまた私が何かしちゃったんだろーなー・・と心の中の妙に冷めている部分で思った。
しかしケイトに駆け寄ろうとしたアリーナが立っていた所は大きく開いた穴の淵で・・・
「ぅあっ・・!?」
急いで動いた振動で、あっけなく崩れてしまった。
そして、まだまだ冒険初心者のアリーナは1人でアリンコの洞窟へと落ちていった。
最終更新:2008年09月01日 19:04