カンッ カンッ カンッ───
「・・何の音?」
白亜の集会所のリビングでアリーナは隣でクッキーを頬張っていたファリエルに聞いた。
「ふえっと、ケヒトふぁんかウェオンほかははを・・」
「いや、何言ってるか全ッッ然わかんないから。食べてから喋りなよ。」
「ふぁ、ふぁいっ!」
ファリエルは顔を赤くしながら急いで口を動かした。
「ふぅっ、あ、あのえっとぉ、ケイトさんがレオンの刀を打ち直してるそうですよ。蟻妖王と・・私の魔法をレジストした時に、傷んでしまったそうで・・。」
少し顔を伏せたファリエルに、アリーナはワザと気付いていない風にへぇ・・と返した。
「ケイトって、そんな事出来たんだ・・・。」
「トゥール村は、鍛冶職人の村ですから・・。・・あ、アリーナさんも、何か出来るんじゃないですか?」
ファリエルはそう言ってガタッと椅子から立ち上がった。
「いや、そう言われても、何にも憶えてないし・・」
少し渋るアリーナの手を、ファリエルが強く引っ張った。
「やってみたら、何か思い出すかもしれませんよ?実戦あるのみです!」
そう言ってアリーナはほぼ強引に連行された。
「あれ、アリーナ?」
刀の柄を鉄でできた道具で持って火の燃え盛る釜に差し込んでいたケイトは、部屋に入って来たアリーナとファリエルに気付いて振り返った。
なんか本格的・・というかその前にっ!!
「住宅地に建ってる一般人の家に、何でそんな釜があるワケ!?」
いや、ホントに。間違えたらいけません、ここはさっきアリーナ達がいたリビングのすぐ下の部屋です。
「レオンが、どこからか買って来てしまって・・・一応、私の家なのですけど・・。」
ファリエルはアハハ、と苦笑しながら言った。
「在り得ない・・」
アリーナは頭を抱えた。
「おいケイト、そんなに熱してたら刃の根元が弱ってすぐ折れる様になるぞ。」
そんな在り得ない人はテキパキとケイトに指示を出していた。
「お、おう。つーか詳しいな・・。」
ケイトは釜から刀を出して隣に用意してある冷水にさっと通した。
「後は刀を打ったら終わりだ。もう釜は使わないから、アリーナもやってみれば?」
ケイトはアリーナがここへ来た目的を察してそう言ってくれた。
「え、でも何作れば・・」
アリーナがおどおどしているのを見て、ケイトは付け足した。
「アリーナのお父さんは剣職人で、お母さんは銃職人で、アリーナの使ってる武器は手作りのものだけど」
「・・・そっか。でも打ち直して壊れちゃっても嫌だしなぁ・・・」
アリーナは愛用の剣と銃をチラッと見てう~んと悩んだ。
「それでは、新しく何か作れば良いではないですか。」
ファリエルが横から何でも無い事の様にそう提案した。
「つ、作るって・・んな簡単に・・」
「あ、そういえばアリーナこの前小型の弾丸が使える銃があればって言ってたじゃん。作ってみれば?」
まぁ確かに、アナ作のB27【中】は安いし威力もあるし、使いやすい。
しかしこの頃販売している店が減ってきていて困っていたのだ。
それにレイカ作のH-D86【小】が結構良いと町でウワサだ。是非一度試してみたいものだ。
まぁ、そんな訳で小型の弾丸が使える銃が欲しいのだが・・
「作れるかなぁ・・」
「だから実戦あるのみですって!原料はありますから、試してみればいいじゃないですか。」
「手順忘れたなら、俺が覚えてるし。」
「銃っていうのは外装を決めれば中の仕組みは殆ど一緒だからな。意外と簡単に作れるものだぞ。」
ケイトとファリエル、それにレオン(こいつは論理攻め。)にそう言われ、アリーナは渋々首を縦に振った。
「でざいんが?」
「そうそう、外装をどんなにするか、まず決めるのに絵を書くんだ。」
ファリエルが紙と鉛筆を渡してくれた。
「でも、そんな急に言われてもパッとは浮かんでこないよ・・」
「・・あ、でしたらギルドマークを入れたらどうですか?」
白亜には役所に登録された制服があって、この前ファリエルが渡してくれた。(ある知り合がデザインしたとかで、すごく良くできてた。)でも前にレオンとファリエルが制服を着て町を歩いてみたら有名ギルドなので行く人行く人に指をさされたらしい。それでファリエルが恥ずかしくてそれから一週間ぐらい家にこもってしまった時期があったので、何か理由がある時とかでないと着なくなったらしい。せっかくあんなに良いのにもったいない。
しかしまぁ、制服があるのだからマークがあったって何もおかしくない。
「で、そのマークってどんなの?」
「えぇっと・・」
ファリエルはそう言って紙にサラサラとギルドマークを描いていった。
「こんなのなんですけど・・・」
「あ、いいじゃん!じゃぁこれをここに彫るとして・・」
「ところでこの銃、どこに着けるんだ?」
ケイトがそこで口を挟んだ。
確かに、このデザイン画からすると太ももには着けられない。
「背中には大剣吊ってるし・・」
「じゃあもういっそ、衣替えしてしまえば・・?」
「あー・・そうだね、もう秋だし・・」
「や、ちょっとまて。なんか事がどんどん大きくなってないか?」
「別に良いのではないですか?本人も許可してますし・・」
「う~ん、この格好身軽さ重視だからねぇ・・けっこー寒いんだよね。」
アリーナは自分の身体を見回しながらそうぼやいた。そして思いついた様に顔を上げた。
「・・・あ、ねぇねぇファリエルさぁ、あの白亜の制服作った知り合と今から連絡つく?」
「へ?あの、まさか・・?」
アリーナは右手の親指をグッと力強く前に出し、軽く左目を閉じた。
─つまり、ウィンクした。
「ギルド『白亜』所属アリーナ・フォースの冬服一着ごちゅーもーんっ!──っつー訳で、ヨロシク!」
「え、えぇえあ、でも、彼女もいろいろいろとい忙しくおそらくそんな、え、でも」
「落ち着け、ファリエル・・・。」
ケイトはパニくって目がグルグルしているファリエルの両肩をガシッと掴んだ。
とゆぅか、何をそんなに慌てているのだろう?
「あぁああ、誠に本当に申し訳ありませんんっ」
アリーナがかなり重症っぽいファリエルを見ながらケイトに囁いてきた。
「・・ねぇ、もしかして私、また何かしちゃってたりする?」
「あー・・そうかも・・。」
ケイトもなぜファリエルがそんなに慌てているのか全くわからなかったので、とりあえずアリーナの所為にしておいたが・・
「別にアリーナは何もしてないぞ。」
と後ろの人に全面否定された。
「あ、そうなんだ。よかったぁ~・・じゃなくてさぁ。いつの間に入って来てたのさ・・。」
アリーナはため息混じりに「じゃあもういっそ、衣替えしてしまえば・・?(ファリエル)」辺りから聞いていたであろうレオンに聞いた。
「それはまぁ、フェリエルが『じゃあもういっそ』と言っていた頃か?」
「あ・・そお。」
アリーナは自分の予想がおもしろい様に当たったので、もう1発ため息をついておいた。
「んで、ファリエルはどぉしたんだよ?」
レオンがいたことに気付いて慌てて机の角に左足の小指を当てて余りの痛さにその場にうずくまって小刻みに震えているファリエルを半ば呆れながら指差して、ケイトが聞いた。
「うむ。白亜の制服を作った俺とファリエルの知り合いというのが万店舗『ちづるん』の店長でな。」
「・・ちづるん・・?」
アリーナは目を三分の一ぐらいまで細めた。
「あぁ、店長の名が千鶴でな、そいつの愛称だ。で、ファリエルはそいつと会うたびに」
ファリエルができる限り振り返ってブンブンと顔を振っている。
しかし悲しいことに、レオンの位置からではファリエルを見る事はできない。
「言い包められるというか、苛められてな。『引っ込み思案』とかと言って。」
「いじめ・・・。」
アリーナの目は六分の一ぐらいまで細まっている。
「うむ。それでファリエルは毎回千鶴と会うのを極端に嫌がるのだ。」
「・・・。」
アリーナはもう目を閉じて、こめかみを抑えていた。
でもまあ、いつまでもそうしていたって仕方がないので5秒ぐらいで目を開けて、ふとケイトはどうしてるかな、と思って振り返ってみた。
するとケイトが聞いていたのは、アリーナと違う所だったようだ。
「レオンが・・ち、『ちづるん』・・」
ケイトはそう呟きながら、ファリエルと同じように肩を小刻みに震わせていた。
「・・・。」
アリーナは無言でケイトの脇腹に突きを見舞っておいた。
「で?今から千鶴に会いに行くのか?」
「あ、うん、会えるんだったら。冬服は早めに欲しいし・・・」
「じゃ、行くぞ。」
レオンはそう言ってまだウジウジしているファリエルを肩に担いだ。
それでファリエルが一瞬で大人しくなったのは愛の力ってヤツ?
アリーナはそう思いながら床にうずくまっているケイトを起き上がらせた。
それでもケイトが動かないのはアリーナの突きが上手いこと決まったからだ。
最終更新:2008年12月19日 23:50