☆ 白金警備隊 - 2
「なぁラン、いいかげん機嫌直せよ・・」
ノイが呆れたような声でそう言ってくるけど、私は振り返らずにずんずんと街のはずれにある寮までの道を歩いていく。
「悪かったって、黙ってて。でも言ったらお前、“なんであんたがあたしよりクレイ様とお近付きになるのよーッ!!”って言ってスネるだろ~・・?」
はぁ、バッカじゃないの?黙ってる方がスネるに決まってんじゃん!!それにこれはスネてるとゆーか何とゆーか、同期で何でも話せた仲だったのに、いきなり裏切られた気分とゆーか・・とにかくなんかムカつくのッ!!絶対2日間は口利いてやんないんだからっ!!
「おぃラン・・・ラン、聞けよッ!!」
ドンッ!!
レンガ造りの壁に手荒く押しつけられて、無理矢理ノイの方に顔を向けさせられた。
びっくりして目の前のノイを見ると、怒ったように眉をひそめてやけに真剣な顔をしている。
な・・なに?返事しなかっただけで、普通そんなに怒る??
「俺は──」
「ぁ、ちょっ待っ・・・」
そんな真面目な顔で口を開かれるとなんだか恥ずかしくて、思わずノイの口を両手でバッと塞いでしまった。何してんだあたし。
するとノイもそこで少し冷静さを取り戻したのか、この姿勢がかなり恥ずかしいことに気付いて、バッと手をのけてそっぽを向いた。
「・・・ごめん」
それから少したって、かすれた謝罪の言葉が聞こえた。それで今ケンカしていて、自分が怒っていたことを思い出したけど・・なんかもう、どうでもよくなった。
「ぁ、いや、うん、私も。・・でも今度からは、ちゃんと言ってよね・・・」
「わかった」
今度はかすれずにハッキリと、すぐに返事があったので今日のところは許してやることにした。うん、あたしってば優しい!
「よし、ノイ!帰る前にどっかでお昼ごはん食べていこうよっ!」
返事を聞くため明後日の方向を向いたノイの正面にまわって顔を見ると、なぜかかなり赤かった。いや、何ソレ。ちょっ・・こっちまで照れるんですけど!!
「いやぁ、若いね~」
「ぅわッ!!?」「ひゃぁっ!!?」
あたしとノイの背中をバシバシ叩いて、ニマッと煙草をくわえた口を歪める。
この声は・・昔同じ極東支部に勤務していて、ついこの前 北西支部に転勤して行ったばかりの・・・
「ビアン!?わぁ、久しぶりぃ~っ!!」
「はっはっはっ、相変らず元気あり余ってるなぁ、フラン。ちょぃとわけてほしいぐらいだよ」
そう言ってガシガシと頭を撫でられる。
「ビアンさんも白金警備隊になったんですね」
「おぅ、そうなんさ。迷惑掛けるがよろしくな、警備隊長」
それから大口を開けてがははは、と笑う。まったく、これで24歳の女だと言うんだから不思議でしょうがない。やっぱり歳も性別も偽ってるんじゃないか・・・?
そんなことを思っていると、ビアンはガシッとノイエルを掴んで端っこの方まで寄って行き、
「んで、さっきの様子だとまさか進展したんかー?」
といかにも楽しそうな顔で耳打ちしてきた。
「・・・そう見えますか」
「いや、見えん」
ブスッとした顔で逆に聞き返すノイエルに、ビアンはスパッと即答する。図星だ。
「んーまぁ頑張りなされ少年。大志を抱け!ってなぁ。ん?ちょぃと違うか」
「ちょっとー?そこ、ナニ2人でこそこそ話してんのよ!私もいーれーてーっ」
がはははっと楽しそうに笑うビアンを見て、フランが不貞腐れたような顔で声をかけてくる。
「んぁーごめんごめん、ちょぃと近況報告をな!んで、これから飯食べに行くんだろ?あたしも一緒に行っていいかぃ?」
「え、いいの!?大歓迎だよぉ!どこ行くどこ行くーっ?」
フランがぱぁっと顔を輝かせてビアンとあれこれ相談し始める。「やっぱナポリタン」とか「西洋料理」とか「クレープ食べ歩き」とかいろいろ、女2人で楽しそうに話しているのについて行けずにボーッと2人を眺めていると、ビアンがいきなり振り返ってべーッと舌を出してきた。
……なるほど?つまり、2人で食事になんか行かせてあげませんよー、というアレか。アレなのか。
まったく・・この人は相変わらず俺を応援しているのか邪魔したいのかよくわからない。
北西支部には変わったが、この変な性格も昔と変わらず、元気にやっているようだ。
ノイエルははしゃぐフランを見ながら、口元を緩めてふぅっと溜め息をついた。
最終更新:2009年04月14日 01:27