「今日のご飯はなぁにーっ?」
アイリがすごく幸せそうな顔で、そう聞いた。
「白米の『カレェ』と言う物だ。」
華美月は、さっきクロークに教えてもらったばかりの料理名を口にした。
「おぉ──っ!!・・・で、何それ?美味しい?」
アイリはとりあえず喜んだあと、不思議そうな顔で聞き返した。
「えっと・・この世界でよく食べられる、少し辛い食べ物、かな。」
華美月がさっきクロークに聞いていたのは料理名だけだったので、アイリの質問には僕がそう返しておいた。
「ぇ、か・・辛いっ・・・?」
するとアイリの顔は面白いようにサッと曇り、段々と眉がよっていった。
「あれ・・辛いの嫌い?」
僕がそう聞き返すと、アイリはコクコクと何度も頷いた。・・相当嫌いなのだろう、このようすでは食べられそうにない。
「・・アト、苦イ物モ食ベナイナ。」
僕がどうしようか、と悩んでいるとローがそう付けたしてくれた。
「甘いのと、美味しいのがいぃー・・」
アイリは口に指をあてて、そう呟いた。
その言い分はまるで子供のようで、僕は思わず苦笑してしまった。アイリはそれを見逃さず、「笑うなーっ!」と言って頬をふくらませた。・・やはり子供っぽい。そういや、子供っぽいと言えば、ノースだ。ノースも反応とか喋り方とかが幼く思えて、レオにからかわれていた。僕が思うに、この2人はきっと気が合うだろう。
・・それなのに2人は敵同士で、闘っているなんて、悲しい事だなぁ・・と、改めて思う。
「・・ととっ、早く戻らないと本当に日が暮れる・・」
僕は、考え事をするとき、稀に空をあおいでみる事がある。それで全ての悩みが解決する訳ではもちろんないが、空を見ていると気が晴れて、早く問題が解決出来るような気になるのだ。それで今回も空をあおぎ見て、川を探し始めた時より大分太陽が沈みかかっている事に気が付いた。
ちなみに、一番最初に川を見つけたのは華美月だった。たぶん川を探す事にあまり興味はなかったのだろう。が、やらなければやらないで、後でアイリに怒られるので、適当に近場を回っていたらしい。川は僕らが思っていたより近く──アイリと僕が探しに行った方向とは反対側にあったので、華美月は最初に見つけられたのだ。
それで、今は、夕飯を作るのに必要な水をくみに来ているところだった。ちなみに言うと、料理は全てクロークがやってくれる。料理・・と言っても街で買ったり持って来たりした食料を、パパーッと焼いて、並べるだけがほとんどだ。そんなに手のこんだ物は作らない・・しかし、それだとレパートリーがだいぶ狭まって、そのうち飽きてくるだろうと言う事で、さっき言った通り「カレー」等の簡単な物を作る時も、ある・・・らしい。
……とまぁ説明はおいておいて、今はとにかくクロークの待つ場所へ、水を運ばなければいけない。きっとこれ以上遅くなれば、帰った時クロークが文句を言うだろう。僕はそう考えをめぐらせ終えると、いつの間にか段々かけ足になっている自分に気が付いた。
「・・遅い。何分たったと思っている」
そして戻った時には、すでに時間オーバーだったらしい。僕達の姿を見たクロークの第一声は、そんな言葉だった。
でも確かに見ると、クロークのいる、この森の中でもわりあい木がなく、少し開けたスペースには、シートと火と、カレーを作るために最低限必要な調理器具が全て並べ終えられていた。そして、さも時間があまっていましたとでも言うように、その横にはすでにテントまで張られていた。
「すまない。以後気を付ける。」
華美月は落ちこむ事もなくサラッとそう返すと、くんで来た湧き水を、クロークのそばにおろした。
「んと、じゃぁ私のは飲み水ねー」
アイリはそう言って、自分が持っていた水を、クロークが並べていたコップに注ぎ出した。
「えっと・・僕のは・・?」
僕は、僕の運んで来た水の用途が分からなくて、誰にともなくそう聞いた。
「火消シ用ダ。ソコ二置イテオケバ、問題ハナイダロウ。」
アイリの肩でしばらく羽を休めていたローは、再び飛び立ち、僕の上で旋廻しながら、そう返してくれた。
「う、うん・・っ」
「と、わっ!!あっちゃぁ~・・やっちゃった・・。」
僕がうなずいて肩に担いだ桶を下ろそうとした時、アイリがそんな声を上げた。
何だろう・・と振り返った僕の目に、アイリの足元に転がる桶が映った。僕は、それで、何がおこったのか理解出来た。
後ろで、クロークが溜め息をつく音が、聞こえた。
最終更新:2009年05月01日 00:42