夢を、見たんだ。
懐かしい・・・思い出したくなかった夢。
──昔々の幼い頃。
その日は何故か寝れなくて、水を飲もうとしたんだ。
でも、リビングの扉を開けようとして、中から光がもれてる事に気付いて。
見てみたら、お父さんと──知らない、男の人がいて・・・
小さな小さな声で、話してたの。
よく覚えてない・・・・いや、きっと聞いてから絶望して、忘れようとしたんだ・・と思う。だからよく覚えてない・・・・・けれど。
「じゃぁな、ガイア。・・短い付き合いだったな」
知らない男の人はそう言って、ガタッと座っていたイスから立ち上がった。
「うるせーな、まだ死ぬって決まったわけじゃねーだろ」
「ははっそうか・・じゃぁせいぜい、死に物狂いで頑張れよ。“紅剣”」
「なんだ、そんな昔の名前・・」
その人はお父さんを「紅剣」と懐かしむような顔で呼んだ後、さっきまでの苦笑した顔からは想像も出来ないほど冷たい顔になった。
「──取引は四日後だ。その間、あの小娘に一生分の愛情でも注いどくんだな」
そう言い置いてその人は立ち去ろうとして、思い出したように振り返った。
そして机の上にあったワイングラスを掲げ、またあの困ったように苦笑した顔で お父さんの前にあるワイングラスを鳴らして・・・
「…Das Schwert des Landsmannes greift es zu Ihnen an; und ein Segen.」
──確か最後にそんなことを言っていた。
その頃の私に(まぁ今でも分からないけど)そんな英語かどうかも分からない言葉の意味なんて分からなかったけど、ただ──
あの、初対面の男の人の・・まるで一生の別れみたいな顔だけが、なぜか忘れられなかった。
懐かしい、なぜか思い出すたびに大きな喪失感を覚えるから・・大嫌いな夢。
目を開けた時、意外に涙も何も流れてなくて驚いた。
ボーっとする頭で横を見てみればシャルが幸せそうな顔で寝ていて、アリーナは今まで自分が被っていた布団を掛けてあげた。
床に置いてあったスリッパに足を通して立ってみると案外ふらつく事もなく、あぁ、大丈夫なんだなとか勝手に思いながら部屋を出た。
はおのさんの部屋を出ると真ん中に大きなテーブルの置いてあるロビーに出た。下に降りる階段を遠目からでも発見したので そうかここは2階なんだ などと思いながら1階へと下りて行った
つもりだったが階段の下にあったのは1階と2階の間にある中層で、そこから1階にいるファリエルや千鶴達を見留めたので、みんなの所へ行こうと思いスタスタと階段を下りて行った。
そうして1階に下りて来たアリーナを1番最初に発見したのはファリエルで、
「アリーナさん?まだ熱があるんじゃ・・・」
と言ってこっちまで駆け寄ってきた。
「へ?ありふぃな?」
1階でチャーハンを食べていたらしいケイトが驚いたという顔で振り向いて、残りのチャーハンを一気にかき込んでからファリエルと同じようにこっちへ来た。
「はお姉が薬探してんじゃなかったっけ?」
「そのはずだけど・・アリーナ、熱測って来たか?」
ケイトが自分とアリーナの額に手を当てて温度を比べながら心配そうに聞いて来たので、アリーナは素直に首を振った。
「あ・・体温計、取ってきましょうか・・・?」
「ばかファル、もし熱があるんだったらまだはお姉の部屋に寝かしとかなきゃいけないんだから、アリーナちゃんごと部屋に戻した方がいいでしょ」
「ば、バカは余計ですばかは!」
「ウソは言ってないけど?」
ファリエルが涙目になって反論しているのを見てケイトが呆れていると、アリーナの上から声がした。
「だが何にしろ、熱は測らないとな」
「え・・・・」
聞キ覚エノ アル声
サッキ聞イテタ声・・・?
アリーナはびくっと強張りながらも瞬時に振り返り
そこにアリーナより頭1つ半分高い位置から自分を覗きこむレオン・アレオスの顔を見た。
確かにレオンの顔なのに。
それは、さっき見た夢に出て来た・・あの男の人と、よく似て・・・・
「いや・・、同じ・・・・っ」
「?アリーナ、何が・・・」
──じゃぁせいぜい、死に物狂いで頑張れよ。
──取引は四日後だ。その間、あの小娘に…
レオンと、あの男の顔がピッタリ重なる。
誰?あなたは・・イヤダ、思い出したくない・・・だって、こいつは・・・・
「・・お、父さん・・・ッ!」
そうだ、こいつはお父さんを殺───
頭に猛烈な痛みを感じたアリーナは、近くにいた人の裾に 倒れないようにとしがみついて・・・そこで意識を失った。
目覚めたらまた、はおのの部屋だった。
すると瞼を開けた瞬間、ガシッと誰かに肩を掴まれた。
「ちちち、違うと思うぞアリーナッ!!ガイアさんは、もっとこう・・・ホラ、老けてたって!!」
慌てた口調でそんな意味わからない事を言ったのはケイトだった。
「とりあえず、熱もちょっと下がってたしこれ飲んで下行くぞ!」
「?・・・う、うん」
矢継ぎ早にそう告げてケイトが差し出した、はおのさんが持って来てくれたのだろう解熱剤を飲みこんで、アリーナもケイトに続いて部屋を出た。
部屋を出ると、いきなり横にシャルトスが立っていた。
そしてまたケイトと同じようにガシッと肩を掴んで
「・・・・・・・それでも、私は好きですわっ!!」
「は!?」
とかいきなり宣言して、ではっとか言いながら窓から外へ飛び出していった。ここ2階なのに。
アリーナはえ~・・・とか思いながらしばらく呆然と立ち尽くしていたが、
「とりあえず、下に、行こう」
とケイトに言われたので、とりあえずそれに従うことにした。
中階には誰もいなくて、そのまま1階に降りると
『・・・・・・・・・・。』
丸いテーブルを囲んで座ったレオン、ファリエル、千鶴、はおの(+シュリエ)の間に、みょ~に重い沈黙が漂っていた。
──うぇぇなんで!?なんで私が寝てる間にこん修羅場になってるの─――っ!?
アリーナが言葉も出ず心の中で焦っていると、ケイトが自分の横の席に手招きしたので、素直にその席に座った。
するとそれが合図だったとでも言うように、
「なんで・・・・・・」
と言って、ファリエルが顔を覆って・・・泣きだした。
『えぇええ~~!?なぜにいきなりファリエルが泣くのぉ!?』
そしてそれを見たケイトが、キッと眉をつって糾弾する。
「─――やっぱ、直接本人に聞く!!レオン、マジなのか!?」
するとレオンの、珍しい顔が見れた。
いつも強気なレオンが・・・苦笑したような、あの、夢のあいつがしていた顔をしたのだ。
『やっぱり、レオンって・・・・・・』
そしてアリーナがそう思っている間にも、話し合い?は続く。
『レオン・・・私にだって、そんな事一言も言わなかったじゃない・・』
シュリエが少ししょげたような、それでいてすねたような口調で言った。
「つーかレオン!あんた、何歳なんだよ?その外見から言ってこの歳の子がいたら、それってケッコー犯罪まがいなんじゃ・・」
・・は?な、何の話・・ってゆーかこの話し合いの論点って・・・・?
「私もそう思いますよ。この国では結婚は14歳からなのですから、あなたの歳では・・・」
はおのも千鶴に続いて、少し強めの口調で諭すように言う。
そうして、この場にいるアリーナ以外の人(と幽霊)達全員から責められたレオンは、やっとその重い口を開いた。
「・・・なぁ」
ゆっくり、そして少し気まずそうに・・
「今更なんだが・・・・・・・一体、何の話をしてるんだ?」
『・・・・・・・・。』
──そして、その場にまた、あの重ーい沈黙がおりた。
「・・~~あんたっ、ねぇ・・・・ッ!」
それから一番最初にその沈黙を破ったのは、千鶴だった。
「さっきあんただって一番近くで聞いただろ!?アリーナちゃんが、あんたを・・」
そしてそこで一回息をついて、言い直した。
「レオンが、アリーナちゃんの父さんなのかって話だろ!?」
「はぁっ!?」
その初めて知った議題に、一番驚いて声を上げたのはアリーナだった。
「な、なにそれ!?なにがどーなったらそんな話になってるのっ!?」
「だってアリーナ、さっき自分がレオンにしがみ付いて『お父さん』って言ったんじゃねーか!」
「・・ち、違うん、ですか・・・・?アリーナさん・・っ」
さっきまであまりのショックに顔を覆っていたファリエルが顔を上げ、涙をためた目ですがるようにアリーナに聞いてきた。
「違うって!レオンがガイア父さんなわけないじゃん!!むしろ、レオンは・・・・っ」
アリーナはそこで、ハッと言葉を飲み込んだ。
これは、ここで・・・ファリエルとかの前で、言うべきことではないから。
「・・・何でも、ない」
「・・・・まぁ、何にしろ誤解が解けてよかったわ。と言う訳で、アリーナちゃん」
アリーナがワケあって言葉をきったことを読みとって、はおのがパッと話題を切り替えてくれた。
そして、ポケットから取り出した物を、パクッとアリーナに咥えさせ・・しばらくして、それがピ──ッという電子音を発したのではおのが取り出して
「・・36.7。よかった、下がったわね」
やわらかい笑顔でそう告げた。
ま、そんなこんなで夕方には万屋「ちづるん」を後にした。
去り際にファリエルが今回訪ねた目的である「アリーナの冬服を注文する」事を思い出してなんとか無駄骨にはならずに済んだので、まぁ充実した1日だった・・と思っておこう。
レオンのこととか、いろいろあって疲れけど・・・
それより気になる事を思い出した。
・・あ、そういえば あの火の球って結局何だったんだろう・・・・。
最終更新:2010年06月05日 23:41